いつもの、訓練が終わった放課後、秋人とみほの二人は、誰も居なくなった戦車格納庫の2階の作戦会議や休憩に使われている部屋でで作戦会議をしていた。
「15両vs6両、それにあっちは76に85」
「それにKV-2、IS-2、戦力的に厳しいか」
プラウダの主力戦車はソビエト製のT-34中戦車、重量26t、前面装甲は厚さ45mmの傾斜装甲で守られて41.6口径76.2mm砲を搭載した1943型又54.6口径85mm砲を搭載したT-34/85、そして、製造整備が簡単な上、誰にでも操縦しやすい戦車で、工場から直接戦場に向かった事もあり第二次世界大戦時の最高傑作と言う人もいる。第二次世界大戦だけで5万7千両が造られた。戦後は、共産圏に供与されたり、ライセンス生産され現在でも現役で使われている国もある。
IS-2重戦車、ソ連の史上最悪の独裁者ヨシフ・スターリンのイニシャルから取ったIS-2は、ドイツのティーガーやパンターに対抗するために造られた。重量46t.前面装甲120mm、46.3口径122mm砲を搭載しており、パンターの装甲を700mで貫通させ、1500mで貫通はしなかったものの装甲を叩き割る威力があった。弱点としてIS-2は、砲弾は薬莢と弾頭に分かれており分離装薬式が採用されており、発射した後装填するのに時間がかかる。更に保有出来る砲弾は最大で28発と少ない。
KV-2、重量52t、前面装甲110mm、主砲は20口径152mm榴弾砲を搭載、ソ連軍は、フィンランドとの冬戦争で強固な防衛陣地マンネルハイム戦に苦戦し、前線から陣地突破戦車を要望されそしてKV-1重戦車の車体をベースに、152mm榴弾砲を突貫兵器の為、砲塔内は窮屈で砲弾の装填が困難で砲塔も大きくなるなどの問題があった。独ソ戦では、ドイツ軍の88mm高射砲を10発以上命中しても動き続け、咄嗟に近付いたドイツ兵が貫通した穴から手榴弾を押し込み漸く倒せた。ドイツ兵が内部を見ると10発以上喰らって貫通したのはたったの2発のみだったのだ、このエピソードがKV-2を『街道上の怪物』『ギガント』と呼ばれる由来なのだ。
「特に、警戒しなければならないのがIS-2とKV-2だな、装填速度が遅くても砲の威力はこっちとは桁が違う」
「うん。それに、プラウダは引いてからの反撃が得意だから、挑発に乗らず慎重にいかないと」
「ソ連赤軍と同じ戦法か・・・・となると、短期決戦は諦めるしかないな」
二人は、プラウダ戦の作戦を練っていた。プラウダは、ソビエト製の戦車を用い、尚且つ会場は雪原地帯なのでソ連赤軍が用いた戦術を使ってくる事が考えられる。敵を自軍の有利な位置に誘い込み包囲して殲滅する。となれば、序盤は、攻撃を緩めてこっちを攻めやすくしてくるだろう。
「秋人さん、この作戦でどうかな?」
「うむ、取り敢えずそれでいこう。あとは、ここをこうして」
「・・・・成る程、流石秋人さん」
とみほが、不安そうに作戦内容を見せる。そして、秋人が細かい修正などを加える。そうしていると秋人が、
「なぁみほさんは、戦車道は楽しいか?」
「え?どうして急に?」
「・・・いや、別に深い意味はない。ただ、みほさんだけ最初の頃他のみんなと違って心の底から楽しんでいるって感じがしなかったんだ」
まぁ、川に落ちたⅢ号戦車の乗員を助ける為に、フラッグ車を放棄したが為に敗北したショックから戦車道から逃げる様に戦車道のない大洗女子学園に転校して来たんだ。まだ、自責の念を感じているのか気になった。
「大洗に転校して来て大洗のみんなと出会って、秋人さん達と出会って、おかげで私は、・・・・・自分の戦車道を探す様になれたんだよ」
「俺は、そんな大層な事はしてないさ。全部、みほさんの頑張りだ」
そう言うとみほがクスクスと笑う。俺、おかしな事言ったか?
「ふふっ、秋人さんらしいね」
「?」
「それで、先の質問だけど、大洗のみんなと戦車道は楽しいよ、続けたい」
「そうか・・・」
作戦会議中、ふっと窓の外を見て、雪が降って来た。北緯50を越え、まぁ、試合会場の場所が場所だけにすっかり雪景色だ。
「作戦会議はこれくらいにしてそろそろ帰るか、雪も降ってきたし」
「そうだね、あっ!!」
「どうした?」
「私、傘持って来るの忘れた・・・」
「前から思ってたが、みほさんって結構ドジな所あるよな」
「む〜そんな事ないもん」
ムッと捲れるみほ。秋人は、ほくそ笑みながら
「だが、以前公園のベンチにカバンを置き忘れたり、カバンの中身をこぼして気付かなかったり、寮の鍵無くしたりしてなかったか?」
「あれは、たまたま良くない日だっただけだよ!!」
とみほは、弁明するがツイてない以前の問題だそれ、
「雪だし、走って帰れば濡れないかな?」
「雨と違って、雪道を走って帰るのは危ないぞ。滑って転んで怪我したら洒落にならない」
部屋を出て、玄関の傘立てに刺してある。自分の傘をみほに差し出す。
「ほら、これ使え」
「え?それだと、秋人さんが・・・」
「俺は、平気だ。これくらいの雪は慣れてる。隊長なんだから風邪ひいたら、困るだろ」
「う・・・・うん、ありがとう。秋人さん」
そう言うとみほは、傘を受けた。みほに傘を貸した事で、秋人は雪を被る覚悟で家に帰ろうとしていると、みほがおずおずとしながら上目遣いで傘を差し出して来た。
「ねぇ・・・・秋人さん、一緒に帰ろ?」
「いや、遠慮しておく」
「駄目だよ、そのままだと秋人さんが風邪引いちゃうかもしれないし、まだ一人分空いてるから。二人で帰れば、二人共濡れないよ?」
「・・・・・」
ーーーーーーー
ーーーー
ーー
「「・・・・・・」」
結局、秋人とみほの二人は、一本の傘を差して所謂相合傘状態で雪の降る中帰宅していた。
何度も遠慮なくしたが、みほは頑として譲らなかった。変なところが頑固だな、と秋人はこの時思った。それで、結局妥協したのだ。そうやって二人が、寮へ歩いていた。すると、みほは、秋人の右肩を見て、
「秋人さん・・・もう少しこっちに寄らないと濡れちゃうよ」
「いや、平気だ」
「強がっちゃ駄目だよ、肩に雪が付いてるよ!」
そう言ってみほは、秋人の腕を引いて寄せてる。その顔は、若干恥ずかしそうに赤く。遠慮する秋人も少し赤くなっていた、女性とのこう言う事に免疫のない秋人は少し恥ずかしかった。
「「・・・・・」」
二人は、無言のまま雪の降る道を歩いていた。何を話しらいいのか分からなかった。正直、場の空気がもたなかった。
「・・・こうしていると、なんだか恋人みたいですね」
「ん〜・・・・そう、改めて言われるとなんだか気恥ずかしいからやめるか」
「ダメです!・・・・もう少しだけ」
「わかったよ」
とみほの頼みを断り切れず、秋人達はそのまま寮へと歩いて行った。
「あれ?」
「みほさん、どうした?」
と不意にみほが立ち止まった。そのせいで少し先に進んでしまい、取り敢えず傘をみほに向けて秋人も戻る。
「ん?」
みほの隣に立ち、みほの視線の先、寮の前で一人の和服の女性が、傘を差して立っていた。見るからに大洗の生徒でないのは一目瞭然だ。
「菊代さん!」
と驚いた顔でみほは、その和服美人に声を掛けた。どうやらみほの知り合いみたいだ。菊代と呼ばれた女性がみほに気付き嬉しそうに近付き、深々と頭を下げた。
「みほお嬢様、お久しぶりです。お部屋に居なかったので心配しました。お元気そうで安心致しました」
「ありがとう、でも菊代さん。どうして大洗に?」
「ふふっ、お休みを頂きました。みほお嬢様をびっくりさせたくて内緒で来ちゃいました」
とニッコリと笑う菊代さん、お嬢様と呼んだことから西住流の関係者と推察した、この和服美人は少し茶目っ気ある人だ。すると、菊代さんは秋人の方を見る。
「それで、みほお嬢様・・・・・そちらの方は?」
ある程度みほと言葉を交わした菊代さんは、秋人の方を見る。みほに向けていた優しい表情とは、違い少し警戒を抱かれているみたいだ。
「この人は日向秋人さん、私の友達だよ」
「そうですか、みほお嬢様のご友人ですか殿方の、ふふっ・・・成る程、二人の仲はそこまで・・・・」
微笑む菊代さん、何が成る程なのか、菊代さんが今見ているのは未だに秋人とみほは腕を組んだ状態だった。みほは、慌てて腕を離して照れた顔をした。
「ご挨拶が遅れました。私、西住家に使える井手上菊代と申します。以後お見知り置きを、日向さん」
「みほさんから紹介がありましたが、改めて日向秋人です」
菊代さんが丁寧に頭を下げて来たので、秋人も頭を下げつつ挨拶をした。こう言う人ほど何か裏があるんじゃないかと思ってしまう。