「みほお嬢様、宜しければ今日の晩御飯は私が作りましょうか?」
「本当!久しぶりの菊代さんのご飯、楽しみ!」
とみほが嬉しそうにそう言う。菊代さんは、西住家に使用人として使えている事もあって料理もやっている。みほは久しぶりに実家の味って事で、嬉しそうだった。
「秋人さんもどうかな?菊代さんのご飯、とっても美味しいよ」
とみほが秋人を誘って来たが、
「いや、今回は遠慮しておく」
「え?でも・・・・」
「久しぶりに家の人と積もる話もあるだろう。部外者が首を突っ込むのは野暮ってもんだ」
秋人は、そう言ってその誘いを断った。決して、食べたくない訳ではない。みほが大洗に転校して以来の知人との再会を部外者である自分が入って良いわけがない。
「う・・・うん」
みほは、残念そうな顔をすると菊代さんが、
「・・・・・ところで、みほお嬢様は普段自炊をしているんですか?」
「え!?も、勿論だよ、菊代さん」
と菊代さんからの質問にみほは、目を泳がせていた。
「まさか・・・・コンビニのお弁当や冷凍食品、カップ麺で済ませている。なんて事ありませんよね?」
と菊代さんはニコニコとスマイル顔でそう言う。だが、笑顔とは裏腹に纏っているドス黒いオーラがやばい!
「あ!私ちょっと部屋片付けてもいいかな?ごめん、菊代さん、秋人さん、ちょっと待てて!!」
早口で捲し上げて伝えるとみほは慌てて自分の部屋へと向かった。
これは、図星だな。多分、コンビニ弁当やカップ麺のゴミなどを隠しに行ったな。だがこれでは、食べてるって言っている様なものだ。
「・・・・コンビニ好きは続いているですね」
菊代さんは、溜息を吐きながら呆れていた。もはや、バレバレだった。
「みほさん、友達と一緒ではありますが、肉じゃがやイタリア料理などを作りましたよ。俺も食べましたから」
「あら?そうだったの、それでお味の方は?」
「美味しかったですよ、少なくても簡単な物なら大丈夫でしたよ」
「そうですか」
秋人は、さりげなくフォローを入れる。
「それにしても彼女、昔からああなんですか?」
「えぇ、コンビニのお弁当は身体に悪いので控える様にして欲しいと家を出る前に念押ししたんですが・・・・」
どうやら、みほさんのコンビニ好きは筋金入りらしいな、コンビニの商品を何時間でも眺めていられるなんて随分変わった嗜好をしていると感じる。
「さて、日向さん。良い機会なので少し聞きたい事があるんですが?」
「何ですか?」
「では単刀直入に言わせてもらいます。あなたとみほお嬢様の関係について聞かせて下さい」
あれ?デジャヴ、この下り前にも、似た様な事があったぞ。以前、サンダース戦でまほにみほとの関係性を聞かれた時と同じだ。
「みほさんが、戦車道に復帰したのはご存知かと思いますが、俺は以前彼女に助けられたのでその恩返しとして助っ人をしているので、関係はそれくらいですが?」
「それで、二人で腕を組んで一緒の傘で帰ったと言うわけですか?」
「そ、それは、みほさんが今日傘を忘れて風邪を引かせたらまずいから、それで仕方なく」
痛い所を突いてくる。この人、中々の曲者だな。
「それに、人見知りなみほお嬢様は殿方と一緒にいるのも珍しいですよ」
「それは、黒森峰も大洗も女子校だから男と接する機会がなかったからでは?」
「果たしてそうでしょうか?私は、みほお嬢様を小さい頃から見て来ましたが、殿方の友達はおそらくあなたが初めてだと思いますよ。先の日向さんの腕を組んでいる時のみほお嬢様今までにないくらいすごく嬉しそうでしたよ」
少しいたずらっ子みたいに笑う菊代さん、そして降り積もる雪をどこか寂しそうに見つめて、
「みほお嬢様のご活躍拝見しています。今回の大洗でのみほお嬢様の活躍、奥様もご存知です」
(まぁ、戦車道の名家なら大洗や隊長のみほさんの事も既に周知の通りだろう。それに、自身の娘の転校した学校だから当然か)
「みほお嬢様を支えてあげて下さい・・・日向さん」
と菊代さんは、ニコッと笑顔でそう言って来た。
「いいんですか?今日初めて会った男にそんな事を頼んで?」
「ええ、みほお嬢様が友達と言ってた方なので」
「・・・御意、任されました」
何!?その含みのある笑顔でそう言う。やはり何か裏があるんじゃ。
「き、菊代さん、もう大丈夫だよ」
そんな話をしているとみほが階段からひょこっと顔を出した。どうやら証拠隠滅は終わったみたいだが、もう菊代さんにはバレているけど。
「それじゃ、俺は先に休ませてもらうよ」
「あの・・・秋人さん本当に食べて行かないの?」
「あぁ、久しぶりの再会に首を突っ込むわけには行かないからな」
「うん、・・・またね、秋人さん」
そうして、秋人は寮へ入ろうとしていると
「最後に一つ聞いてもよろしいですか?日向さん」
「何ですか?」
寮に入ろうとしていた所を菊代さんに呼び止められ振り返る。
「みほお嬢様と友達以上の関係になりたいなら、覚悟した方がよろしいですよ」
「ッ!?」
突然の菊代さんの、発言に秋人は思いがけず動揺する。
「えと・・・何の話してたの?」
「ふふ、秘密です」
そして、涼しい顔でみほと階段に登って行く菊代さん、あの人一癖も二癖もある人だわ。その後、秋人も自身の寮の部屋へと入って行った。
それから部屋に戻って暫くして、秋人の携帯が鳴り出した。秋人は、携帯を手に取った。
「ん?こんな時間に誰だ?」
と画面を見て着信主を見るとそこには、『まほ』と表示されていた。彼女とは、サンダース戦で連絡先を交換したので何ら不思議ではなかった。
「もしもし?」
『日向、少し時間あるか?』
「ああ、構わないが」
『そうか、なら君に少し聞きたい事がある』
と秋人の承認を得るとまほは、早速要件を伝える。
『菊代さん、私の家のお手伝いさんが今休暇で大洗にいるらしい、見かけたらよろしく伝えて欲しい』
「それなら、さっき寮の前で会って、今みほさんの部屋でご飯を作っている居るはずだ」
『そうか・・・』
「俺からも少し聞いてもいいか?」
『何だ?』
そして、秋人はまほに質問を投げ掛ける。
「・・・・菊代さんが、大洗に来た理由知らないですか?ただ、みほさんに会いに来たとは思えない。それに、菊代さんみほさんの件西住師範も周知だと寂しそうに言っていた。これは、家の方で何かあっんじゃないか?と思ってな」
秋人からの指摘にまほは、少し沈黙した後重い口も開いて告げる。電話越しとは言え、その雰囲気が伝わってくる。
『・・・・・本来、家族でない君に言うべきではないが、君の言う通りみほの活躍はお母様も知っている。もしも今回の準決勝、みほがプラウダ校に負ければ・・・・みほは西住家から・・・・勘当される』
とまほから準決勝に負けれるとみほが西住から絶縁されると聞いて、秋人の顔は眉を顰めて険しくなる。
「なぜ西住流はみほさんにそこまでする。みほさんが試合を放棄して仲間を助けに行って敗北したから西住流の名を汚す汚点だからか!?それが、西住流のやり方なのか!!」
『・・・ああ、そうだ。私は、西住流そのものだ。『撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れなし、鉄の掟、鋼の心』が西住流のモットーだ・・・・西住流は何があっても前へ進む流派、強き事、勝つ事をたっとむ、犠牲無くして大きな勝利は得る事は出来ない。一時の感情なんてものは余計なんだ』
そうまほは、言うが秋人にはそれが本心とは思えなかった。
「・・・お前は本気でそう思ってんのか!?」
『・・・・そうだ』
「俺は、西住みほを本当の英雄だと思ってる」
『・・・・・!!』
秋人の言葉に、まほは目を見開いた。
「・・・・確かに戦車道の世界で試合を放棄する奴はクズ呼ばわりされるかも知れない。だが、仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ。どうせ同じクズなら俺は後者の方を選ぶ、それが正しくない戦車道だって言うなら・・・・・そんな戦車道、この俺がこの世から消し去ってやる・・・・・悪いが今日はもう休ませてもらう」
『・・・ああ、すまない。時間を取らせた』
そう言った後、二人は携帯の通信を切る。秋人は、ベッドに横になると、部屋の天井を見つめ、
(次の何が何でも負けられない・・・・・絶対に勝たなきゃ!)
と秋人は、そう呟く。そうして大洗とみほの命運を賭けた戦いが始まろうとしていた。