まほとの電話の後秋人は、眠りに着いた。そして秋人は、夢を見ていた。
「此処は・・・・」
「・・・・きと・・・秋人」
「ん?ミーナ」
ミーナの呼び掛けで目を覚ました秋人は、辺りを見渡しその光景を見た。そこは、大洗の寮ではなく時を遡る事2年前の1942年6月第二次世界大戦の東部戦線でドイツ軍とソビエト軍が歴史上稀に見る熾烈な戦闘を繰り広げた史上最大の市街戦スターリングラードに突入するⅢ号戦車J型のキューポラの中に乗っていた。階級章を見れば秋人は少佐ではなく、少尉の階級であり、ミーナも中尉ではなく軍曹だった。当時の秋人は、ドイツ軍第6軍の戦車中隊指揮官だった。
「夢だったの・・・・か?」
「どんな夢を見たのよ?」
「俺とミーナ達が未来の日本にタイムスリップして、そこで戦車道って言う戦車のスポーツをする夢だよ」
「何、その夢?」
と秋人は、ミーナに夢の話をするとミーナは呆れた様な顔をした。そして、二人は爆撃で瓦礫の山と化したスターリングラードを眺めていた。
「何か企んでいるな」
「本当に?街は、静かよ」
「静か過ぎる、犬の鳴き声も聞こえん。いいか、ミーナ。露助は悪賢い」
1941年6月22日史上最大の陸上作戦『バルバロッサ作戦』を開始し、ドイツ軍はその兵力を3つの集団に分けた。北方軍集団はロシア革命発端の地であるレニングラード現在のサンクトペテルブルクを占領、中央軍集団はスターリンのいる首都モスクワを占領、南方軍集団はウクライナの首都キエフを占領する。どんなに手間取っても8週間以内に占領出来るだろうとヒトラーは考えていた。しかしソ連侵攻から一年を過ぎてもソ連を陥落する事が出来ず、事態を打開したい必死のヒトラーは新たな作戦ブラウ作戦を展開する。この街が陥落すれば東部戦線でのナチス・ドイツの勝利は決定的になる。この『ブラウ作戦』と名付けられた1942年の夏季攻勢の時、フェドーア・フォン・ボック元帥指揮下の南方軍集団が強化され、これによりソ連に駐留する全ドイツ軍の半数が南部に集結した。招集された巨大な軍団は、その大きさ故に指揮系統を二つに分けられた。A軍団とB軍団である。ヴィルヘルム・リスト元帥率いるA軍団には、南に向かいカフカス山脈を攻撃してドイツ軍にとって喉から手が出る程欲しい貴重な油田を奪取する。B軍団は、マクシミリアン・フォン・ヴァイクス上級大将が指揮し、ドン川とボルガ川の間を進撃し武器の製造と交通の要所である街スターリングラードを攻略する。秋人達は、B軍団の所属である。スターリンの名を冠した都市を占領すると言う任務は、二つの重要な軍隊に掛かっていた第6軍と第4装甲軍である。そして、その周辺部には、ルーマニア、ハンガリー、イタリアの同盟国軍が配置された。
そして、秋人は懐からスキットルを取り出して中のウィスキーを飲む。
「秋人、お酒も程々にしなさいよ。ヒトラー総統だって言ってるじゃない」
「スターリングラードが陥落したらやめるさ」
そう言って、スキットルを懐に入れる。
「賭けてもいいが、俺達が一番乗りだ」
「エンジン始動」
「戦車中隊前進用意!車間25メートル中隊前へ!」
そうして、秋人は、6台の戦車と歩兵隊を従えてスターリングラードへと突入しに行く。
そして、空軍の爆撃で廃墟と成った市街へ突入して行くと、
ピーーーー
ソ連軍の笛が鳴り、開戦の合図だ。
『『『ypaaaaaaa!』』』
と瓦礫に隠れていたソ連兵達が雄叫びを上げて突撃してきた。そして、
「来たぞ、fire!」
ドイツ軍は、歩兵による小銃や機関銃を発砲し、秋人達も戦車砲や車載機関銃で突撃して来るソ連兵を薙ぎ倒して行く。
「撃て!狂信者め、ボルシェビキ共を地獄へ送ってやれ!」
反共産主義者の秋人もキューポラに設置されているMG34でソ連兵達を射殺して行く。
『歯が立たない!退却だ!退却!』
『退却だ!退却しろ!』
『ダメだ!退却!退却!』
ソ連兵達は、ドイツ軍の銃弾に恐れをなして退却して行くが、
『祖国の名に懸けて、一歩ですら退く者は射殺する!』
『逃亡兵は、射殺する!撃て!』
背後に控えていたNKVD(内務人民委員部)がそれを許さない。退却してくる兵士達に向かって、トカレフTT-33やPPSh-41やPM1910重機関銃で後退してくる兵士達を射殺して行く。その後も、敵を倒しながらも秋人は、街の奥へと進んで行く。
「11時方向、対戦車砲!22と23号車は対戦車砲を無力化しろ!!」
双眼鏡で対戦車砲を確認すると秋人指示して、対戦車を無力化させると、敵戦車からの砲撃があったが、命中はしなかった。
「瓦礫の後ろだ!14と15号車狙え!戦車をいぶり出せ!」
他の戦車が敵戦車が潜んでいる瓦礫に向かって砲撃すると、一両のT-34が姿を現した。
「敵、1時方向!徹甲弾装填!」
「装填完了!」
「撃て!」
そして、T-34に向かって60口径50mm砲弾が放たれる。放たれた砲弾は、戦車の砲塔と車体の間に命中すると、爆発を起こして砲塔が吹っ飛んだ。
「命中、効果あり!」
それから、スターリングラードの野蛮で残忍な戦闘が繰り広げられて行く。スターリングラードは、両軍が絶え間なく放つ重砲や迫撃砲、手榴弾、小銃の銃声、白兵戦の壮絶な音が響き渡る。秋人も時に、戦車から飛び降りて日本刀でソ連兵相手に白兵戦を仕掛ける事もあった。10月の上旬までには、ドイツ軍はスターリングラードの都市を70%以上も制圧していた、10月の終わりまでにはワシーリー・イヴァーノヴィチ・チュイコフ中将の第62軍がボルガ川まで押し戻した。スターリングラードを爆撃して抵抗勢力を壊滅させると言うドイツ軍の目論見は裏目に出る事になった。徹底した爆撃で街は非常に危険な場所になった、破壊された建物の瓦礫の山が戦車の行くてを塞いだり、瓦礫と化した街はソ連の狙撃兵にとって隠れ場所に最適な場所だった。ヴァシリ・ザイツェフなどのソ連軍狙撃兵は油断したドイツ軍に襲い掛かって来たのだ、しかも秋人達を悩ませたのは狙撃兵だけではなかった、それは季節が秋から冬に変わり悪夢の様な状況になって行った。ロシアの冬将軍が到来して来たのだ。ドイツ軍は冬の装備を用意していなかったのだ、それによって凍死する者も出始めた、そこでドイツ軍はソ連兵を殺して着ている衣類を奪う事にした。そんな雪が降るスターリングラードにて、秋人達の部隊はトラクター工場の前に居た。
「ハルデンブルク少佐、これは命令です。師団からの直々の命令です」
「少佐、指揮官達が神経質になっています。敵が迫る中、指示を待っています」
と秋人とミーナは上官のハルデンブルク少佐にトラクター工場への攻撃開始の指示を進言していた。だが、
「女性や子供達が中に避難していると聞いたが・・・・・・」
少佐は中に民間人がいるとして躊躇している。だが、秋人は
「ソ連兵が大勢いる事もわかっています。トラクター工場を抑え、地域を支配している連中です。今動かないと我々は前進出来なくなります。少佐、上の命令です。我々は命令に従うしかない。我々の決断ではないのです」
「そうなのか?」
「指揮官達が待っています」
「少佐!」
少佐は迷っていたが、秋人からの説得を受けて迷った末に攻撃開始の指示を出す。
「命令だ、全戦車に伝えろ。攻撃開始」
少佐からの攻撃開始命令が出た、
「全員、戦車に乗車!戦闘準備!!」
秋人は、乗員に戦車に搭乗して攻撃開始の準備を命令する。ミーナ達や他の部下達も続々と戦車に乗車すると火炎放射戦車が砲身をトラクター工場へと向ける。
『全戦車!一斉放射!!』
「放射!」
合図と共にⅢ号火焔放射戦車による火炎がトラクター工場に放たれ、そこに避難していたであろう民間人はソ連兵共々炎に包まれた。中から炎に焼かれる痛みや恐怖の声が聞こえて来て、秋人達は目を逸らしたくなった。
そして、1942年11月19日、第6軍の運命を決めたこの日、ソ連軍が大攻勢を仕掛けて来たのだ。ソ連軍は、『ウラヌス作戦』と呼ばれる南北からスターリングラードを包囲しに掛かって来たのだ。ソ連軍が街を包囲しようとしていると空軍の偵察機からの報告を聞いた秋人は包囲される前に街から脱出する事を決めた。
「・・・・たく、よりにもよって何て、夢だよ」
そして、漸く目が覚めた、秋人は地獄のスターリングラードの夢を見ていた。
あの後、スターリングラードは、ソ連軍に包囲され第6軍の25万人の兵士と司令官フリードリヒ・パウルス元帥が降伏し捕虜に成ったが、秋人は、自分の隊と他の部隊を連れて包囲される前に脱出する事に成功した事を讃えられ騎士鉄十字章を受章し、中尉に昇進した。しかし、それは秋人は決して晴れやかなものではなかった。ある日、電報が届いた。それは、父と母の訃報を知らせるものだった。7月24日の夜、ハンブルクに訪れていた。7月24日の夜に警報が鳴り響き、空襲が始まった。2人は聖ニコライ教会に避難した。そこに爆弾が落ち、2人は炎の中で焼け死んだ。
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そして、遂に迎えた準決勝当日。大洗女子学園とプラウダ高校の試合が行われる。【第63回、戦車道全国大会準決勝】ここは、準決勝の試合会場で、北緯50度を越えた雪の降り積もる夜の雪原地帯だ。
「寒いな、体が慣れん」
「コーヒーは?」
「ありがとう」
白い息を吐きながら秋人はそう言う。ミーナは、水筒と中に入っているコーヒーをステンレスマグカップに入れて秋人に手渡し、秋人は、それを飲む。
「寒ゥッ!?マジ寒いんだけど!」
「北緯50度を越えてますからね・・・・」
「たまに吹く風がちょー寒いんですけどーっ!」
あまりにも会場が寒いから武部は、ガタガタ震えながら言い、五十鈴も若干寒そうにしながら言う。まぁ、いつものパンツァージャケットじゃ寒さを凌げないだろう。
「三突の履帯は、ヴィンターゲッテンにしたし、ラジエーターに不凍液も入れたよね」
「はい」
※ヴィンターゲッテ=氷上滑り止めの付いた冬季用履帯。
みほによる戦車の確認も終わった様だった。大洗の戦車も、自動車部の子達と力を合わせて雪の試合会場に合わせて冬仕様にした。しかし、白い迷彩したのは秋人の戦車だけで他はそのままだ。
「あの!」
とみほは、風紀委員のカモさんチームに声を掛ける。
「いきなり試合で大変だと思いますけど、落ち着いて頑張って下さいね」
みほは、緊張しているみどり子の緊張をほぐす。冷泉もみどり子に
「わからない事があったら無線で連絡してくれ、そど子」
「だから、そど子って呼ばないでよ!!私の名前は、園みどり子!」
「わかった、そど子・・・」
「全然、わかってないじゃないの!」
これで、風紀委員の緊張も解けただろう。風紀委員のみどり子が初めての試合で緊張している一方で、一年生チームは雪合戦をし、歴女達は真田幸村の雪像を作っていた。
「元気だねー」
「皆さん、楽しそうですねー」
(風紀委員の子が緊張しているかと思えば、全く緊張感のないの子もいる・・・)
武部や五十鈴は、微笑ましそうにそう言い、秋人は緊張感のない子達を見て溜め息混じりに内心でそう呟く。そんな時、大洗チームの待機場所に一台の"スターリンのパイプオルガン"と呼ばれた自走多連装ロケット砲『カチューシャ』が近付いて来た。金属音を混ぜたブレーキ音と共にカチューシャが停車すると、両方のドアが開き、そこから二人のプラウダ高校の生徒が降りてくると、そのまま大洗チームの元に歩みを進める。
「え?何、誰?」
「あれは、プラウダ高校の隊長と副隊長・・・・」
「『地吹雪のカチューシャ』と『ブリザードのノンナ』ですね」
近付いてくる二人を見て、武部とみほと秋山がそう言い合う。そんな三人の会話を他所に、カチューシャとノンナは大洗チームの少し前で歩みを止める。そして、カチューシャは大洗の戦車を一通り見渡した。そして、
「ぷっ、あっはっははははは!!」
と、大声で笑い出し
「このカチューシャを笑わせる為に、こんな戦車用意したのね!ねえ!こんなポンコツ戦車でカチューシャ達と戦おうっていうの?正気の沙汰とは思えないわね。ジューリンされに来たようなものね⭐︎」
明らかに大洗をバカにした発言をするカチューシャに、大洗のメンバーは顔をしかめる。
「やあやあ、カチューシャ。よろしく、大洗の生徒会長の角谷だ」
まるで気にしていない様に、いつも通りの様子で出て来た角谷が自己紹介しながら、若干屈んで握手を求める。
「・・・・・・」
だが、当のカチューシャは、不満げに角谷の手を睨み、暫くすると、
「ノンナ!」
いきなりノンナを呼び付ける。すると、ノンナは、カチューシャが何を求めているのかを悟り、カチューシャを肩車した。
「へっ?」
流石に驚いたのか、角谷は間の抜けた声を出す。
「貴方達はね、全てがカチューシャより下なの!戦車も技術も身長もね!」
ノンナに肩車されたカチューシャは胸の前で腕を組み、見下した様な声を上げた。
「・・・・・・」
「肩車してるじゃないか・・・・・」
その様子に角谷は言葉を失い、河嶋はボソボソとツッコミを入れる。
「聞こえたわよ!よくもカチューシャを侮辱したわね!しょくせいしてやる!」
しょくせい?それを言うなら粛清ね、また噛んだな。
「行くわよ!ノンナ!」
肩車されたカチューシャは、ノンナにそう言ってその場を去ろうとするが、
「で、結局何しに来たんだ、カチューシャ」
「アキーシャ!居るなら早く言いなさいよ!」
と秋人が去る二人を呼び止め、カチューシャはビックリした。
「態々、冷やかしに来たのか?」
「違うわよ、大洗に用があるの隊長は?」
「は、はい」
とみほが、挙手をする。カチューシャの視界にみほを捉えた。
「あら?西住流の・・・・去年はありがとう。貴女のお陰で私達優勝出来たわ。今年はどんなプレゼントがあるのかしら?今年もよろしくね、期待しているわ。家元さん。アキーシャ、あの件考えてくれたかしら?返事期待してるから、じゃあね、ピロシキ」
「ダスヴィダーニャ」
そう言って二人は、去って行った。そして、二人が去った後、
「日向君、カチューシャと知り合いだったの?」
と角谷が聞いて来た。まぁ、知り合いちゃぁ、知り合いだな。
「ああ、以前ダージリンさんと一緒にプラウダ高校でお茶会をした時にな」
「その割には、仲良さそうね。彼女から愛称で呼ばれて」
「それに、あの件って何?」
と質問を、迫られるが秋人は、
「まぁ、その話はこれでお終い、そろそろ試合が始まるぞ」
と言って誤魔化す。
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一方、プラウダ高校の陣営に戻ったカチューシャとノンナは、
「それで、よかったのですか?カチューシャ」
「何がノンナ?」
陣地に戻るとノンナがカチューシャに聞いて来た。
「大洗のチームを挑発すると共に賭けを言い渡さなくて」
「ああ、それね。今は良いわ、大洗はこのカチューシャを侮辱したのよ、大洗を追い詰めて降伏とアキーシャの引き渡しをするから」
「そうですか・・・・」
そんな二人の様子を見ていたクラーラが声を掛けてくる。もちろんロシア語で、
『彼を、やるんですか?』
『えぇ、彼は本能的に危険と、もし彼がカチューシャを汚すなら許さない』
『ところでノンナ、彼は試合に出るのですか?どの戦車に乗るかは?』
『彼は、確か白い迷彩色のティーガーに乗っている筈よ』
とノンナから秋人が乗る戦車の車種を聞くと、クラーラは眉を挟む。
『白い迷彩色のティーガー・・・・ですか・・・』
『どうかしたの、クラーラ?』
『いえ、祖父のフェドトフお爺さんが大祖国戦争に従軍していた時にドイツ軍最強のホワイトタイガーの話を小さい頃良く聞かされていたから、白いティーガーと聞くと祖父の話を思い出すの・・・・ごめんなさい。しかし、こちらには猛獣殺しのJS-2とノンナの腕があります』
『わかっています。必ず仕留めて見せます』
「あなた達!ちゃんと日本語で話しなさい!ノンナ、クラーラは何て言ってたの?」
「いえ、なんでもありません。単なる試合前の確認です。カチューシャ」
「あそっ、それならいいわ」
涼しそうな顔で応えるノンナ、それを聞いてカチューシャは椅子に座る。