観客席では、五十鈴の母親百合と新三郎がモニター越しから試合の行く末を見守っていた。
「完全に囲まれてるんですけど!?お嬢、無事なんでしょうか?」
「落ち着きなさい、新三郎」
大洗の劣勢に慌てふためく新三郎を宥める百合、そして、観客席の丘陵地からダージリンとオレンジペコが観戦していた。
「どうして、プラウダは攻撃しないでしょう?」
「プラウダの隊長は、楽しんでるのよ。この状況を、彼女は彼是と搾取するのが大好きだもの、プライドをね」
そう言って、ダージリンは紅茶を飲もうとティーカップを口に近づけて紅茶を飲みながら試合を見守る。
(さて・・・・みほさんと日向さんはこの絶望的な状況をどう打開するのかしら?)
一方、別の観客席では西住しほとまほが観戦していた。
「帰るわ、こんな試合見るのは時間の無駄よ」
そう言って立ち上がって帰ろうとするしほ。すると、
「待ってください」
「まほ?」
「まだ試合は終わってません」
とまほが真剣な表情でしほに訴える。しほは、まほの熱意に観念したのか、再びベンチに座って徐にモニターを見る。
一方、その頃場所は、プラウダの野営地。
其処では、移動用として用意されたのであろう軍用スノーモービルRF-8の操縦席に毛布を被せながら座っているカチューシャがボルシチを食べていた。
「ねぇ、降伏する条件に、うちの学校の草むしり三ヶ月と麦踏みとジャガイモ堀りの労働を付けたらどうかしら?」
完全に捕虜扱いと捉えてもおかしくない様な事を言いながら、カチューシャはボルシチを口に運んで行く。意地悪く笑みを浮かべるカチューシャにノンナは、
「それはそうと、口が汚れてますよ」
「知ってるわよ!」
そう言ってノンナはハンカチを取り出して、カチューシャはハンカチを受け取って口を拭く。
「カチューシャ、日向さんをプラウダに転入させてどうしますか?」
とノンナが聞くと、身体をもじもじとさせて、
「そ、そうね。アキーシャには、カチューシャ専用の執事として扱おうかしら?あと頭でも撫でてもらおうかしら、あと肩車も、ふふっ・・・・プラウダに来るのが楽しみね、ノンナ、クラーラ」
「「・・・・」」
「ひっ!ふ、二人共、なんか・・・・怒ってない?」
「いえ、何でもありませんよ。ですよね、クラーラ」
『そうですね、彼がプラウダに来たらいろいろと"やりやすい"ですから』
『ですが、カチューシャが彼を気に入っている以上、下手に彼にやればカチューシャに嫌われる危険があります。それに、彼からはただならぬ雰囲気が感じますから、ここは慎重にやる必要があります』
「だから!ちゃんと日本語で会話してくれないとわからないでしょ!!」
そう怒鳴るとカチューシャは、食事を終える。
「ふう、ご馳走様。食べたら眠くなっちゃったわ」
そう言いながら、カチューシャはRF-8に寝そべり、毛布を布団代わりに被る。
「降伏の時間に猶予を与えたのは、お腹空いて眠かったからですね?」
「違うわ!カチューシャの心が広いからよ!シベリア平原の様にね!」
「広くても寒そうです」
「うるさいわね。おやすみ」
からかう様に言うノンナにそう言い返すと、カチューシャは会話を打ち切って寝てしまう。
『愛しい子よ、お眠りなさい。月もあなたの揺かごを見守っているわ。私とお話しして、私の歌を聞いて、目を閉じて、お眠りなさい』
そんなカチューシャを微笑ましそうに見ながら、ノンナはコサックの子守唄を歌い始めるのであった。
その頃、大洗チームは、各チーム損傷を受けた戦車の修理を行なっていた。
「直りそう?」
「何とか、動くと思うけど・・・」
アヒルさんチームは、八九式はエンジンの調子を見るあけびと妙子。
「よし、これで籠城せずにすみそうだ・・・・」
「文明開化は近いっ!!」
カバさんチームでは、破壊された三突の右側の後輪を左衛門左とおりょうの二人が取り付ける。
一方のウサギさんチームは
「流石にこれは、直さないよね?」
「かわいそう・・・・」
「包帯巻いとく?」
「意味ないから」
流石に破壊された75mm砲はどうにもならなそうだった。
「回りますね」
「えぇ」
「砲塔回ったね」
「修理したからな」
あんこうチームのⅣ号も砲撃によって旋回不能だった砲塔が旋回した。
「問題はこの包囲網をどうやって突破するかだな」
「敵の正確な位置が分かればいいんだけど」
みほと生徒会メンバーは地図を広げて今後の作戦を練る。
「偵察を出しましょう・・・・でも、誰を出すか・・・」
みほが誰を偵察に出すかを考えていると
「西住殿、偵察ならお任せ下さい!!」
だが、秋山は自分からその危険な偵察役を買って出てくれた。
「優花里さん・・・・ありがとう。でも・・・一人じゃ危険かも」
「だったら、私も行こう」
「エルヴィン殿、よろしいのですか?」
「もちろんだ、グデーリアン」
エルヴィンが立候補し、秋山と共にチームで偵察に出る事になった。
「この広さだともう一チーム必要ですね」
とは言え一つのチームだけで吹雪の中を偵察に出るのは厳しい。
「だったらそど子、冷泉ちゃんと行って来なよ」
「私が冷泉さんと!?」
「確か二人共視力が2.0あったし、仲も良いしね」
「仲良くなんてありません!それとそど子って呼ばないで下さい!!」
「文句言っている暇があるなら行くぞ、そど子」
「何よ!あんたなんて冷泉麻子だかられま子の癖に!!」
「はいはい、わかったから行くぞそど子」
「待ちなさいよ!だから、そど子って呼ばないで!!」
そんな冷泉とみどり子のやり取りを見て、やっぱり仲がいいんだなぁ・・・・と西住みほは少し微笑んだ。そして、二組の偵察チームが出て行ってから、少しして教会から出て行く。
「ん?秋人、どこ行くのよ?」
突然、秋人が教会から出て行くのでミーナが呼び止める。
「あぁ、だいぶ冷え込んできたからなティーゲルに積み込んでいるアレをそろそろ持って来ようと思ってな。みんなの士気を上げるにもちょうどいいだろ?」
「確かに、三時間もこの寒さは堪えるわね・・・・それにしても、とうとうアレの登場ね。そう言えば、前にスーパーに行ってみんなで買い込んでたわね、じゃあ、私も行くわ。色々と材料とかあるし一人じゃ大変でしょ」
「じゃあ、お願い」
そう言って、秋人はミーナと教会から出ていき、ティーガー改の置かれている稜線地帯に向かう。