秋人達が、あるものを取りに自分達の戦車へと戻っている頃、大洗陣営では
「戦車が冷えるので素手で触らない様にして下さい」
「手の空いた者は、暖を取れ!」
「スープ配ります」
「こんなに天気が荒れていたら、偵察に出たみんなは・・・・」
みほ、河嶋、小山が各々呼びかける。試合再開までまだまだ時間があり、体が冷える事から戦車の修理を一通り終えたチームから暖をとっていた。そんな中、みほは偵察に出たチームを心配してした。すると、廃教会の出入り口から偵察に出ていた秋山とエルヴィンが『雪の進軍』を歌いながら戻って来た。
「只今帰還しました」
続く様に、もう一つの偵察チーム冷泉とそど子が走って帰って来た。
「こちらも偵察終わりました」
偵察チームが帰って来て、早速みほは偵察チームの情報をもとに地図に敵の配置を記していく。
「凄い・・・あの大雪の中で、こんなに詳細に配置図が出来るなんて・・・・」
「いや〜敵の位置が完全に分かっちゃったね〜」
「皆さん、お疲れ様でした!これで作戦が立てやすくなりました。ありがとうございます!!」
「みんなっ、でかしたぞっ」
と、偵察に行った秋山達をみほはお礼を言い河嶋は褒める。当の偵察チームは、毛布に包まりながらスープを飲んでいた。
「雪の進軍は楽しかったです!普段できない事が出来て新鮮でした!ね⭐︎」
「うむ、なかなか楽しかった」
と秋人とエルヴィンの二人は、普段出来ない雪中偵察を楽しんでいた。
「そ、そう。無事で良かったです。冷泉さん達も・・・・」
みほは、苦笑いを浮かべながらそう言って冷泉とそど子に声を掛ける。
「敵に見つかってあちこち逃げ回ったのが帰って良かったな」
「ッ!何言ってるの!!見つかったのも作戦よ!!」
「はいはい」
「はいは一度!」
どうやら、冷泉とそど子は偵察の道中敵に見つかってあちこち逃げ回っていた様だったが、そど子はそれも作戦だと見栄を張る。
一方、観客席の丘では、モニターを眺めているオレンジペコとダージリン。アナウンスでは、試合を続行するかを協議している事が伝えられる。
『只今、試合を続行するかどうか協議しております。繰り返します・・・』
「ますます、大洗女子に不利ですね。敵に四方を囲まれこの悪天候、きっと戦意も」
「それは、どうかしら?」
とプラウダに包囲され、更にはこの悪天候で大洗の不利をオレンジペコは危惧する一方で、ダージリンはどこか余裕そうな顔をしている。
一方その頃、廃教会は静まり返っていた。まるで戦意喪失したかの様に、いつもの元気な雰囲気などまるで感じられず、大した会話も無いまま、メンバーは思い思いの方向を向いていた。降伏勧告返答期限まであと一時間・・・
「降伏時間まで、後何時間だ?」
「一時間」
「一時間、この状態で待つのか・・・・」
河嶋が聞くと、小山が沈んだ様な声で答える。
「いつまで続くのかな?この吹雪」
「寒いね・・・」
「うん」
「お腹すいた・・・」
ウサギさんチームは六人で一枚の毛布をこたつの様にして入りながら呟く。
「やはり・・・これは八甲田」
「天は・・・我々を見放した」
「隊長、あの木に見覚えがあります」
カバさんチームの歴女四人は、今の状況と『八甲田山雪中行軍遭難事件』を重ね合わせていた。
「良い事考えた、ビーチバレーじゃなくてスノーバレーってどうですかね?」
「良いんじゃない・・・知らないけど」
まさか、あのアヒルさんチームでさえバレーの気力すらない有様だった。
「・・・う、Zz」
「寝ちゃ駄目よ、パゾ美」
カモさんチームも三人で毛布に包まってじっと待っている。
「食料は?」
「こういう事態を予測して無かったので、先配ったスープの他には乾パンしか・・・・」
「何も食べる物無くなったね」
沈んでいるメンバーを見ながら、河嶋と小山はそんな会話を交わして、角谷は他に食べるものが無くなった事を告げる。
「何かみるみる寒くなってない?」
「そ、そうですね・・・・」
「もう、食べられるモノも無くなっちゃいましたね・・・・」
武部と秋山、五十鈴が教会の窓越しに立って外を眺めながらそう呟く、
「先、偵察中プラウダ校は、ボルシチとかロールキャベツ食べてました・・・」
「いいなソレ・・・」
「美味しそうだな・・・・」
「それに、暖かそうです」
「やっぱり、あれだけの戦車を揃えてる学校ですからね・・・」
秋山がそう言うと、あんこうチームのメンバー、火を囲んでボルシチを食べたり、コサックダンスを踊ったりしているプラウダの生徒を窓越しに見ていた。それを見ていた冷泉と五十鈴が、そう呟く。
外は吹雪いて寒く、更に空腹で大洗メンバーのやる気がみるみる無くなって行く、最初の時の元気が、根こそぎ奪われている様だった。相手は、強豪のプラウダ校だ、負ければ大洗女子学園は廃校、秋山や冷泉など学園艦に家がある人は家を失ってしまう。そう言うプレッシャーが益々彼女達の戦意を削って行く。
「何でわたし達、こんな所でこんな目に遭ってるんでしょうね・・・・他の皆は、何も知らないのに・・・・わたし達だけ学校の未来とか背負わされて・・・・学校、無くなっちゃうのかな・・・・・」
「そんなの嫌です・・・・・私はずっとこの学校に居たいです!みんなと一緒に居たいです!」
不意に武部がそう呟くと、秋山が声を張り上げる。
「そんなのわかってるよ。わたしだって・・・・」
「どうして廃校に、成ってしまうんでしょうね・・・・・此処でしか、咲かない花もあるのに・・・・」
「・・・・・」
そんな秋山に武部が返し、五十鈴が呟くと冷泉も複雑な表情を浮かべる。
「皆さん、体調とか大丈夫ですか・・・」
「「「「・・・・・」」」」
「皆、どうしたの?さあ、元気出していきましょう!」
「うん・・・・」
そんな中、みほはチームを励まそうと声を上げたが、帰って来たのは武部からの力無き返事だけだった。
「先、みんなで決めたじゃないですか!降伏しないで最後まで戦うって!」
『『『『『『は〜い・・・・・』』』』』』
「分かってま〜す・・・・・」
何とか元気付けようと激励するみほだが、メンバーから帰って来た返事はこの有様だった。
「おい、もっと士気を高めないと!このままじゃ、戦えんだろ?・・・・・なんとかしろ」
「ええっ!?いきなりそんな事を言われても困ります!」
「この状況を何とか出来るのはお前しか居ないんだ!隊長だろ!」
みほはたじたじとなりながら言い返すものの、河嶋が畳み掛けてくる。
「桃ちゃん、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるか!」
と、そのまま言い争いに発展するのかと誰もが思っていると、突然教会内に美味しそうな匂いが漂って来た。
「あれ?何だろこの匂い?」
「何だか良い匂いがしますね?」
武部と五十鈴が内部に漂う匂いに気づくと他のメンバーも匂いに釣られていると、
「おいおい、どうしたんだ。随分と辛気臭いな」
「秋人さん?」
教会の出入り口から秋人が寸胴鍋を持った状態で現れた。そして、中に入ると秋人は教会内に落ちていた木板を鍋敷の代わりに置き、メンバーの方に向き直る。
そんな秋人の行動に、メンバーの視線が殺到する。
「秋人さん、その鍋は?」
「ああ、この寒さ上に皆空腹だろうと思ってな。それにプラウダがロシアのボルシチで暖まっているなら、こっちはドイツのグラーシュでも食べて暖まろうとな」
そう言って秋人は、寸胴鍋の蓋を開け湯気が立ち込める中で、メンバーは寸胴鍋の中身を見て表情を輝かせた。
「降伏時間まで一時間あるんだ。残りの一時間は俺、特製の牛肉たっぷりのグラーシュでもご馳走しようと思ってな。空腹は、兵士の士気や英気にも影響する。腹が減っては戦はできぬって言うからな」
ミーナがスープレードルで掻き混ぜながらカップに注ぎ配って行く。人数分配り終えると、皆手を合わせて
「では、食べますか!せーのっ!」
『『『『『『『いただきまーーーーす!!』』』』』』』
先程の意気消沈した雰囲気は何処へやら、すっかり元気を取り戻した大洗のメンバーは、グラーシュを堪能する。
「おいしいです」
「ほんとだ、体が温まるね」
みんなグラーシュを食べて笑顔になる。秋人達もグラーシュを食べいる時、秋人がスキットルを取り出して中をウィスキーを飲んで、それをミーナ達で回し飲みをした。戦争中はよくこうして戦友達と一緒に酒を飲んだ。風紀委員の子に未成年飲酒を咎められたが、未成年飲酒?いや、俺達本籍ドイツだから。
「・・・・・ありがとうね、秋人さん」
生徒会メンバーと共に、スプーンで掬い上げた牛肉を口に含みながら、ティーガー改メンバーと雑談している秋人の方を向きながら、みほは小さく呟いた。