その頃、観客席では形勢逆転に向けて動き出した大洗チームを応援する声が上がっていた。
「みんな、大洗を応援しています」
「判官贔屓と言うことかしら」
オレンジペコとダージリンも、そんな事を言い合っている。
「何やってるのよ、あんな低スペック集団相手に!全車で包囲!!」
『こちらフラッグ車、フラッグ車もっすか?』
「アホか!あんたは冬眠中のヒグマ並みに大人しくしてなさい!」
逃げる大洗とそれを追うプラウダの状況は依然として続く。
「麻子さん、2時が手薄です!一気に振り切ってこの低地を抜け出す事は可能ですか?」
「了解、多少きつめに行くぞ」
みほの質問に、冷泉が即座に答える。
「大丈夫です、やって下さい!沙織さん、他の戦車に伝えて!」
「わ、分かった!」
そう答え、武部は戦車に通信を入れた。
「あんこう2時展開します!フェイント入って難易度高いです、頑張って付いてきて下さい!」
『了解ぜよ』
『大丈夫?』
『大丈夫!』
『マッチポイントには、まだ早い!気ィ引き締めて行くぞ!』
『『『おおーーッ!!』』』
『頑張るのよ、ゴモヨ!』
『分かってるよ、そど子』
武部の指示に、其々のチームメンバーから返事が次々と返され、大洗本隊は急激な方向転換を行う。あんこうチームを先頭に大洗の各チームがきちんとそれに続く、無茶な行軍ではあるが遅れるチームも出て来ない。
「何なの、チマチマ軽戦車みたいに逃げ回って」
その頃、追撃していたプラウダ本隊では、先頭を走るT-34/85のキューポラから様子を見ていたカチューシャが逃げる大洗にイラつきながら呟いた。追いかけるプラウダだが、夜戦という事もあり大洗の戦車を見失う事もある。
「機銃曳光弾!主砲勿体無いから使っちゃダメ!」
インカムに向かってそう叫ぶと、牽制と相手戦車の位置を把握する為、T-34軍団が一斉に曳光弾を撃ちまくる。その瞬間、プラウダの戦車から機銃音が鳴り響いた。大洗の戦車に向かって撃っていないのを見る限り、元から当てるつもりは微塵も無く、あくまでも照明弾としての使用だった。だが、それは大洗にとっても相手の戦車を把握するチャンスでもあった。
「ッ!?」
自分達の遥か上から飛んで行く曳光弾の軌跡を視野に捉えたみほは、直様カモさんチームのみどり子に通信を入れた。
「見えたぞ」
「カモさん、追いかけて来ているのは何輌ですか?」
『えっと・・・・全部で6台です!』
その通信に間を入れず、そど子から返事が返される。
「フラッグ車は、いますか?」
『見当たりません』
その報告を聞いたみほは、すぐに喉元のマイクで指示を送る。
「カバさん、あんこうと一緒に坂を登り終えた直後に敵をやり過ごして下さい。主力が居ないうちに敵のフラッグ車を叩きます」
『心得た!』
みほがカバさんチームに通信を入れると、エルヴィンから返事を返される。このまま逃げていても最後には捕まってしまうだろう。それならば、こちらの数を割いてでも主力を相手のフラッグ車に向けた方が良い。
「ウサギさんとカモさんは、アヒルさんを守りつつ逃げて下さい。この暗さに紛れる為、出来るだけ撃ち返さないで!」
『はい!!』
作戦を伝えると、大洗の戦車は丘を上って行く。Ⅳ号と三突は、その丘を上り終えた直後に曲がって、両サイドの陰に隠れる。残りの3輌は前進して行き、後からプラウダ本隊がやって来ると、両サイドに隠れた2輌に気付く事なく、フラッグ車である八九式を追って行く。
「追え追えーーッ!!」
フラッグ車を追い、撃破する事に躍起に成っているカチューシャがそう叫ぶが、違和感を覚えたノンナが声を掛けた。
「2輌程見当たりませんが?それに・・・・」
「そんな細かい事どうでも良いから!永久凍土の果てまで追い掛けなさい!!」
ノンナは見失ったⅣ号、三突の他にあの戦車の中に一番警戒するべき秋人のティーガーの姿が見えない事に気づきカチューシャに注意しようとしたが、カチューシャは、完全に頭に血が昇って冷静さを失い、その忠告を意に介さず、ただフラッグ車を追い回せと叫ぶのであった。
その頃、プラウダ本隊をやり過ごした事を確認したⅣ号と三突は丘の陰から出て行く。
「冷泉さん、戦車前進!村へ戻ります」
「了解」
フラッグ車を撃つべく再び廃村へと戻って行く。みほはキューポラの上に立ち、周囲を見渡すと直ぐに車内に戻り、秋山に声を掛けた。
「優花里さん、もう一度偵察に出てくれる」
「はい、喜んでっ!」
そう答えるや否や、砲塔横の装填手のハッチを開けると、走行中のⅣ号から勢い良く飛び降りて着地すると、みほ達に手を振り廃村エリアを見渡した。
「何処か、高い所・・・!?」
その時、少なくても廃村エリア一帯を見渡せそうな建物を視界に捉え、秋山はその建物へ駆け寄り大急ぎで階段を登り始める。
そして、大洗側のフラッグ車を撃つ為の準備は順調だった。だが、プラウダ側もただ追い掛けっ子を続けるはずが無い。
「よくもっ!ポンコツ戦車の分際でこの偉大なカチューシャ戦術をコケにしてくれたわねっ!」
『遅れてすみません、IS-2、只今帰参です!』
作戦が上手くいかない事に、苛立ちを募らせるカチューシャに最高戦力が到着した。そう、現在プラウダ戦車隊では最も高い火力を誇り、猛獣殺しの異名を持つ122mm戦車砲を搭載した重戦車。IS-2こと、スターリン重戦車が本隊に合流したのだ。
「来たぁ!!ノンナ、代わりなさい!」
「はい」
待ち望んでいた味方の到着に、カチューシャは歓喜の声を上げ、ノンナに搭乗車輌への移動を指示する。プラウダの砲手であるノンナと破壊力のあるIS-2、この両者が合わさる事により最強の戦車が誕生するのだ。
そして、廃村エリアを見渡せる高い建物の最上階へと階段で登って来た秋山は、双眼鏡で四方八方とフラッグ車を探した。
「敵のフラッグ車!敵のフラッグ車を!早く見つけないとっ、どこに!・・・・・・・いた!発見しました!」
秋山は、建物からはみ出ているフラッグ車の車体後部を発見した。直ぐにみほに携帯で連絡する。
「ありがとう、優花里さん!」
「カバさんチーム、我々と一緒に急行して下さい!」
『承知したっ!』
秋山から携帯で、フラッグ車の位置を聞いたみほは、カバさんチームを連れて現場に急行する。これで、お互い大手を掛けた。あとは、どちらが先にフラッグ車を仕留めるかの時間勝負だ。
一方その頃、カチューシャの指示通り、IS-2に乗り移ったノンナは砲手の席に座ってスコープを覗くと、直様引き金を引く。
轟音と共に放たれた122mm砲弾は、八九式のすぐ隣りに着弾し、八九式は大きく揺れる。
「「「「「「うわぁぁぁああ!!」」」」」
その大きな振動に、車内は軽く混乱する。
「何なのよ、あれ!反則よ!!校則違反よ!!アヒルさんチームジグザグに逃げましょう!」
『了解!』
IS-2の威力にそど子はそう叫び、アヒルさんチームに命中率を下げる為、ジグザグに走行する様指示する。
「わわわっ!!どうしよう!!」
その振動が伝わったのか、M3操縦手の坂口が悲鳴に近い声を上げる。
「私達はいいから、アヒルさん守ろう!!」
「そうだね、桂利奈ちゃん!頑張って!」
「ッよっしゃーーっ!!」
そんな桂利奈をあゆみと優希が励ますと、桂利奈は力強く答え、八九式を守るよう、自らの車体を盾にするのであった。
そんな追い掛けっ子を続ける彼女達の元へ向かって行く1台の戦車があった。そして、その戦車のキューポラから上半身を乗り出し、その様子を遠くから見ていた。
「さて、始めるか。ロシアの熊狩りを!!」
そう言って、秋人はクラッシュキャップを深く被る。そして、その瞳は獲物を狩るイェーガーの様だった。