決勝戦も近づく中、戦車格納庫にて戦車道メンバーが集まっていた。
「次は、いよいよ決勝戦だ。相手は黒森峰女学園!」
河嶋が言うと、メンバーの中に緊張が走る。特にみほの表情は今までより引き締まる。
「全校の期待が掛かってるから頑張ってよ〜」
如何にも軽い調子で、角谷が言う。
「本日は全員戦車の整備に当たれ!」
『『『『『『『『『『『はい!』』』』』』』』』』』
そう返事を返し、メンバーは戦車の整備を始めた。
そして生徒会メンバーと隊長であるみほ。そして副隊長補佐である秋人は生徒会室に集まり作戦会議をしていた。机の上に黒森峰側の大まかな構成を書いたみほは赤ペンで丸をつけていく。
「決勝戦は20輌までいいそうですから、おそらく相手戦車の配置は・・・・ティーガー、パンター、ヤークトパンター・・・・」
「更に、ティーガーツヴァイ、ヤークトティーガー、エレファント重駆逐戦車も配置されているだろう」
「これでは、あまりに戦力の差が・・・・」
みほの言葉に皆は困った表情をする。それは俺も同じだ。今の大洗の数と黒森峰の数は圧倒的に黒森峰が多い。しかも練度は間違いなく向こうが上・・・・今のこの戦力でも正直言って厳しい。
「どこかで戦車叩き売りしてませんかね?」
「そんな都合のいい話ないと思うが・・・」
小山が困った顔でそう言うが、アンツィオはその叩き売りの戦車を買って不良品だったからな。だが、もしかしたらうちの自動車部ならその辺、普通になんか出来るかもしれない。
「いろんなクラブが義援金出してくれたんだけど、戦車は無理かもね・・・・」
「その分は今ある戦車の補強、改造に回しますか?」
角谷がそう言い河嶋がそう答える。
「あとは、戦術で限られた戦力を補うしかないな」
「そうですね」
「そう言えば、この間見つかった88mmはまだか?」
河嶋の言う88㎜とは、二回戦の前に武部やミーナと一年達が船底で迷子になりながらも偶然見つけた戦車である。
「散らばってたパーツを自動車部が組み立てら筈ですけど」
「あれさえあれば、この戦局を打破出来るはずだ!!」
自信満々に河嶋がそう言うと…小山さんのポケットから電話が鳴り
「あっ…電話、はい、分かりました」
小山さんはそれを受けとると一言二言会話を交わして静かに電話を切ると笑顔を見せた。
「レストア!終了です!!」
「よしっ!!」
小山が嬉しそうな言葉に河嶋も嬉しそうに言う。そして秋人たちはその戦車のもとへと向かうと
「すごーい!」
「強そう!!」
現場に付くとどこから情報を仕入れたのか、すでに秋山と1年達が居た。1年生からは好評の声が次々と上がるが、生徒会メンバーとみほの表情は微妙なものだった。
「これ!レア戦車なんですよね!!」
1年生以外で嬉しそうにしているのは、秋山だけだった。秋山は嬉しそうにそう言うのだ。確かに彼女の言う通りレストアが完了した戦車はレアというべき珍しい戦車だった。
「あぁ…なんせ10両しか製造されなかったからな」
そう、わずか10両しか生産されていない、レア中のレア戦車。
「その一つがここにあるなんて…、そして動いている所を生で見られるなんて…」
「俺もフェルディナントに改修された奴しか見た事ないが、稼働状態の本物を見るのは初めだ」
秋山と秋人の二人がそう言うその戦車とは・・・・
「ポルシェティーガー………………」
「マニアには堪らない一品です!」
VK4501(P)を見て河嶋が小さく呟く。あの時発見された戦車はかのⅥ号戦車ティーガーⅠの試作車の一つであり、かのスポーツカーメーカーのポルシェ社が開発した戦車だ。
「まあ、地面にめり込んだり、加熱して炎上したりと壊れやすいのが難点ですけど・・・・」
そう言うと、小さな爆発音と共にエンジン部分が火を噴き、遂にはガクリと動きを止めてしまう。
「ヒトラー総統がポルシェ社の案じゃなく、ヘンシェル社の案を採用したのはエンジンの駆動系問題が理由で採用されなかったんだよな」
と秋人がそう言う。このポルシェティーガーは元々はⅥ号重戦車の試作車であり、ヘンシェル社のティーガーⅠが正式に採用されたものである。このポルシェティーガーがボツになった理由は、先程秋山が言ったように故障しやすいからだ。エンジンは当時ハイブリットだった電気モーター式。だがこれが原因でエンジンが故障、思うような性能を出すことができずに不採用になってしまったのだ。
これを設計したフェルディナンド・ポルシェ博士、スポーツカーメーカーとしてその名を残す天才エンジニアの独自設計に拘っており、この戦車の駆動系をガソリン=エルクトリックにしたのだ。
つまり、ガソリンエンジンで発電気を回し、それによる電力でモーターを回すと言う、今で言えばハイブリッド車で使われているような駆動系なのだ。
当時の技術では無理があり、重量の割りには非力なエンジンを搭載する結果となり、足回りが非常に故障しやすいと言う欠陥を抱え、結果的に『失敗作』の烙印を押される事になったのだ。車体は約100輌分製造され、ポルシェティーガーがボツとなったため、車体はエレファント重駆逐戦車へと流用されたと言う。
「あちゃー、またやっちゃった。おーいホシノー、消火器消火器」
キューポラからひょこっと顔を出してエンジンの惨状を見た自動車部のナカジマは特に慌てる様子もなく消火作業を始めた。
「戦車とは呼びたく無い戦車だよね?」
「流石の俺も、こいつに乗って戦場には出たくはないな」
ポルシェティーガーのエンジン事情は知っていたが、改めて見ると悲惨だった。それを見た角谷と秋人は苦笑いしていた。
「で、でも!足回りは弱いですが、88ミリ砲の威力は抜群ですから!最大装甲厚100ミリのれっきとした重戦車ですよ!」
と、秋山が弁護した。そしてそれを見た小山さんも
「もう他に戦車は無いんでしょうか………………」
と本当に困った表情を浮かべていた。散々な言われようであるポルシェティーガーを秋山がフォローしようとするものの、その場には諦めムードが漂っていた。
そど子らは95式小型貨物乗用車に乗り学園中を周りながらメガホンで、
『大洗女子学園の皆様!皆様の風紀を守る、皆様に愛されている、皆様の風紀委員です!!戦車を見かけたら速やかにお知らせ下さい!!』
と少々選挙カーみたいな事をしながら、風紀委員は50人体制で戦車の捜索を行なっていた。
一方の一年生チームは学園裏の駐車場を捜索していた。梓メガホンで、
『戦車を見かけた方はご一報下さい!』
「御不要の戦車回収しまーす」
「違うじょ〜」
「言ってみたくなるじゃない」
「本当バカだな〜あやは〜」
「ひどーい、よりによって優季ちゃんに言われた!」
などと、廃品回収みたいなノリでふざけながら戦車を探していた。すぐ側に未発見の戦車が放置されているのに気づかずに行ってしまった。
その後も着々と決勝戦への準備が進んでいた。戦車格納庫では、38(t)戦車の前にヘッツァー駆逐戦車のキットが置いてある。
「取り敢えず義援金でヘッツァー改造キット買ったから、これを38(t)に取り付けよう!!」
と、角谷さんが自信満々にそう言う、今の38(t)の37mm砲では威力不足なため、駆逐戦車ヘッツァーに改造しようというのだ。まあヘッツァーも元をたどれば38(t)の改造だから問題はないはずなんだが・・・
「結構無理矢理よね・・・・」
と、小山さんが苦笑する。まあ改造キットなんだからそれは仕方のない。しかしこれを取り付けてヘッツァー仕様となれば、38(t)と比べても主砲の威力は格段に上がる。Ⅲ突と同じく固定砲塔ではあるが、黒森峰の戦車に対抗するのならこれくらいの攻撃力は必要だ。
「あとは、Ⅳ号にシュルツェンを取り付けますか?」
「いいねぇ!!」
と、そう話し合う中
「に、西住さん、日向君・・・・」
「え?」
「ん?」
気弱そうな声にみほと秋人が振り向くと、其所には猫耳のカチューシャをつけたロングヘアの金髪を持ち、そうなグルグルのびん底眼鏡を掛けた、若干猫背でありながらも長身である事が窺える少女が立っていた。ねこにゃーこと猫田だった。
「あ、猫田さん」
「おぉ、猫田さんあれから体力はつけたか?」
と秋人がねこにゃーを見て、以前彼女の体型をみて体力を付けてから出直す様に言ったので聞いてみると、ねこにゃーは頷き。
「うん、あれから日向くんに言われた通り毎日筋トレをしたんだ」
「秋人さん、猫田さんと知り合いだったの?」
「あぁ、以前廊下で困った様子だったから声を掛けたんだ。みほさんも彼女と知り合いだったのか?」
「うん。クラスメイトなの」
と秋人がそう言うと、ねこにゃーが早速本題に入る。
「その・・・・僕も今から戦車道取れないかな?」
「え?」
猫田改めねこにゃーの思わぬ発言に、みほが声を上げる。
「是非、協力したいんだけど……………操縦はね、慣れてるから………」
「本当!?ありがとう!」
思わぬ戦力の確保に、みほは嬉しそうに言うが、直ぐにその表情は申し訳なさそうなものと変わった。
「あ、でも………………もう何処を探しても戦車が余ってないの」
「え?あの戦車は使わないの?」
申し訳なさそうにみほは言うが、ねこにゃーはそんな事を言う。
「あの戦車?」
「学園裏の駐車場に放置されてたんだけど………………」
「よし、そこに案内してくれ!」
「うん。此方です………………!」
そう言って、ねこにゃーが先に立って走り出し、一行はその後に続いて戦車があると言う駐車場へと向かった。