秋人やみほ達がねこにゃーに案内されながら戦車があると言う駐車場までやって来た。意外なことに今までの森や山や船の中ではなく、今回は駐車場であった。
「こんな所に三式中戦車が」
「日本戦車か」
「あれ?これ使えるんですか!?」
「ずっと置きっぱなしになってたから、使えないだと思ってました…………」
「おいおい・・・・」
どうやら1年生グループは、最初からこの戦車の存在は知っていたらしいが、使えないと思い、放置していたらしい。そんな彼女等のコメントに、みほは苦笑を浮かべ、秋人はツッコミを入れた。
「例え壊れてても自動車部が直してくれるから、今度からはちゃんと教えるだぞ」
『はい』
終戦には間に合わなかったものの75mm砲搭載の国産戦車である三式中戦車チヌ。三式中戦車は、アメリカのM4シャーマンに対抗する為の四式中戦車チトが完成するまでの繋ぎとして設計され、車体は一式中戦車チヘの車体を流用し、主砲は九〇式野砲を流用した。1944年10月から量産が開始され、主砲の九〇式野砲は38口径75mm砲で1000mの距離から70mの装甲を貫徹する事が出来、装甲は前面で50mmで各国と比較しても平均的だが、被弾開始の傾斜装甲ではなくほぼ垂直だったので、2000mの距離からでもシャーマンの主砲に貫徹される。速度はやく39kmと平均的だった。しかし、その頃には戦況は悪化の一途を辿っており、三式中戦車は本土決戦の為に内地に置かれ一度も実戦に参加する事なく終戦を迎えた。
その後、ポルシェティーガーの整備を一時中断した自動車部のメンバーによって、三式中戦車も格納庫へと運ばれた。
「ポルシェティーガーは、自動車部の皆さんに乗ってもらうとして・・・・」
「まぁ、無難に考えたらむしろ他に選択肢はないけどな」
あの戦車をまともに運用できるのはあの人達くらいだろうし。
「コーナリングは任せて」
「ドリフト!ドリフト!」
ポルシェティーガーは足回りが弱点なんだから、ドリフトなんてことさら出来る訳ない。
「戦車じゃ、無理でしょ」
「してみたいんだけどなぁ〜」
「ミューが低い場所でモーメントを利用すれば出来なくもないけど、雨が降ればなおいいねー」
「アクセルバックはどうかな?」
「ラリーのローカルテクニックだねぇ」
中島たちの話に、秋人とみほは「はははは…」と苦笑いする。そして、猫田を見ると彼女は今ホースで戦車を洗っていた。
「こっちは?」
「はい。もう仲間を呼んでますから、もうじき来るかと………………」
「仲間?」
猫田が指さした先には、2人の生徒。
「「うわぁーっ!カッコいいーっ!」」
ショートヘアーでピンクのカチューシャと桃の眼帯をした少女と、そばかすをしたおさげの少女が戦車を見て感動していた。
「彼女達がそうか?」
「はい。みんなオンラインの戦車ゲームしてる仲間です」
ネットゲームの戦車ゲームでのフレンドらしい。
「あ、僕ねこにゃーです」
「あ、貴女が!?ももがーです!」
「私、ぴよたんです」
ねこにゃーが名乗ると、ももがーと名乗った少女は慌てながら頭を下げ、逆に、ぴよたんは落ち着いた様子で名乗る。
「おおっ!ももがーにぴよたんさん!リアルでは初めまして」
「本物の戦車を動かせるなんて、マジでヤバイー!」
挨拶を交わした3人は、其々の心境を語り合う。余談だがその後、ねこにゃー達にも秋人達の正体を明かすと、最初履修生達と同じ反応をしてそこからは質問攻めにあった。因みに、新しく入ったメンバーのチーム名は、ポルシェティーガーの自動車部は『レオポンさんチーム』ねこにゃー達ネットゲーチームは『アリクイさんチーム』となった。
その後、着々と整備と補強を勧める戦車道履修生一同。最初は動かすのも苦労していたのに、今ではもう一端の戦車乗りである。本当に成長したと感じる。
みんなが補強している中で秋人達も、ティーガー改の補強を行っていた。
「これでいいだろう」
「これなら、なんとか行けそうね」
ティーガー改は、大まかな補強はしていないが、12気筒ディーゼルエンジンを強化し、780馬力/2000rpmから830馬力/2200rpmへとアップさせた。速度も約50km/h程に上がった。そして、一通り補強が終わり秋人はあんこうチームの方に行く、
「ほぉー、Ⅳ号H型仕様か」
あんこうチームの元にやって来た秋人は、小豆色に塗装され砲塔と車体側面側にシュルツェンを取り付けられたⅣ号戦車を見て言った。
「ええ!マークⅣスペシャルですよ!かっこいいですね!!」
戦車好きの秋山が嬉しそうに言う。
「第二次大戦でH型を撃破したソ連兵達は『ティーガー撃破!』とか言って勘違いして喜んでいたらしいが、その大半はⅣ号H型だったんだよな」
「まぁ、この仕様となったⅣ号は影だけ見ればティーガーにそっくりですからね」
秋人がⅣ号を見ながら呟くと、秋山は苦笑を浮かべながら言う。すると、風呂敷包みを背負った冷泉がやって来た。
「麻子どこ行ってたのよ」
「これ、お婆から差し入れのおはぎ」
「そうか、退院したのかお婆さん」
「退院されたんですか」
と背負っていた風呂敷をおはぎをみんなに差し出す。
「うん、みんなによろしくって」
「よかった」
「決勝戦は観に来るって」
冷泉も心なしか嬉しそうだ。決勝戦も見に来ると言うし、気合が入っているのだろう。
「日向さん」
冷泉が、秋人に話しかける。
「なんだ?冷泉さん」
「今度、お婆が会いに来いって……」
「お婆さんが俺に、何故?」
「前に病院に見舞いに来てくれただろ?お婆がそのお礼を言いたいって……」
「まぁ、それはいいが」
と病院での見舞いの礼をしたいと言うのだ。たった一度の見舞いで礼がしたいって律儀だと思う、冷泉が義理堅いのも祖母の影響だな。すると、五十鈴が何かを思い出した様に、
「あ!みほさん、わたくし今日はこれで失礼させていただいていいですか?」
「あ?うん」
「華、何かあるの?」
いつもより早く切り上げたいと申し出た五十鈴に疑問も持った武部が聞くと、
「実は、土曜日から生け花の展示会が・・・・」
「華さんが生けたお花も展示されるの?」
「はい」
「おー、観に行くよ」
「本当ですか!じゃあ、是非!!」
みほ達が五十鈴の生け花の展覧会に行く事が決まると、五十鈴が秋人の方へとやって来た。
「あの、日向さん」
「どうした?五十鈴さん」
「今度の土曜日は、空いてますか?」
「大丈夫だ。予定は入っていないが?」
「本当ですか!でしたら、展示会に日向さんも来てもらえませんか?」
と土曜日は空いていると答えると、五十鈴は嬉しそうにする。
「俺がか?」
「はい、あの時の約束・・・・自分の華道を見つける事が出来たら日向さんに見ては欲しいと」
「そうか、やっと見つけられたのか自分の華道が・・・・わかった。約束だからな必ず行くよ」
「はい!それと、お母様がその……日向さんを連れてくるようにと」
あの日、五十鈴家での騒動の後学園艦に戻った秋人は、五十鈴から自分の華道が見つかったら秋人に見て欲しいとの約束をしたのを思い出す。そして、何やら五十鈴母が秋人に話があるらしく連れて来るように言われたみたいだ。
そして、土曜日のその日生花の展示会があり、五十鈴さんの作品が出るという事で皆で行くことになった。
「わぁー、素敵」
「お花の香り」
「いつも鉄と油の匂いだからり嗅いでますからね、私達」
「華さんのお花は・・・」
「ん?あ!あれじゃない!?」
五十鈴の作品を探していると武部がそれらしい物に指を指した。色とりどりの生花が並ぶ中、五十鈴の作品は戦車を象った花瓶に生けられていた。
「すご〜い」
「戦車にお花が」
花が好きな母の影響を受け、秋人自身も花好きで、花言葉などに詳しい。生け花と言うのは初めてだが、これが見事な作品だと言うことは俺でも分かる。
「来てくれてありがとう」
「華さん!」
着物姿の五十鈴さんが出迎えてくれた。秋人は五十鈴を見る。生け花の展示会にあわせてだろう、普段は大洗の制服姿かパンツァージャケットくらいしか見たことがなかったから、なんとなく見てしまった。前々から思ってたが本当に和風美人だな思っていたが本当に大和撫子と呼ぶに相応しい。
「あの…日向さん……?」
「ん?あぁ、ちょっと着物姿を見るのは初めてだったんで、不快な気持ちにさせてしまったなら、すまん」
「い、いえ。そうではないのですけど……。その…似合ってるでしょうか?」
「似合ってる、可愛いよ」
「…っあ、あ、ありがとうございます」
と秋人は思った事を素直に五十鈴の着物姿を褒めた。どうやら五十鈴には伝わったらしい。しかし、なんか少し変な空気になってしまった、みほ達はなんか秋人の事を睨んでくる。そして、気を取り直してみほが五十鈴の作品を見て、
「・・・・・この凄く素敵です。力強くてでも、優しい感じがする。まるで、華さんみたいに」
「この花はみなさんが、生けさせてくれたんです」
そう言って五十鈴の母が俺たちに近寄ってくる。
「そうなんですよ!!この子が生ける花は、纏まってはいるけれど個性と新しさに欠ける花でした。こんなに大胆で力強い作品が出来たのは、戦車道のおかげかも知れないわね?それとも・・・」
「!?お母様・・・」
なぜか、一瞬五十鈴母が秋人の方を見てきた?なんか以前も似たようなのがあったな。
「私とは、違う・・・・・・・・貴女の新境地ね…」
「!・・・・はい!」
どうやら親子仲は和解出来たみたいだ。その様子を見ていたみほ達は、よかったと言う感じで笑みを浮かべていた。
「それにしても、あの戦車型の花器には驚いたわ!!」
「特別に頼んで作ってもらったんです」
「まぁ、ふっふっふっ」
そんな雑談をしている中、五十鈴母が現れたので秋人は、五十鈴母から話があら事を思い出し、
「あの、俺に話があるって聞いたんですけど?」
「華さんの作品は見たかしら?」
「はい」
「どうかしら?」
華の作品の感想を聞いて来た。秋人は思った感想を述べた。
「自分は生け花については素人ですが、これだけは言えます。儚く美しく、それでいてまたらなく愛おしく尊いです。五十鈴さんらしさが出ています」
「そう、あなたがそういうのなら間違いないのでしょう」
「え?」
「この作品が出来たのは、貴方のおかげかしら?」
「俺は、大層な事はしていません」
「いえ、あなたにはお礼を言わないといけないわ。もし、あの時貴方が割って入らなかったら、あなたの言う通り華さんを失っていたかもしれませんでした」
と百合が頭を下げてきたので、秋人も頭を下げた。
「謝らないで下さい。俺の方こそ、あの時感情的になってしまったのですからお互い様ってことで」
「・・・・そう。なら、この話はこれで終わりね。・・・・華さん」
「・・・・はい、お母様」
「いつでも家に戻ってらっしゃい。待っているわ」
「!?・・・・はい!!」
その言葉に五十鈴だけでなく、みほ達を喜んだ。
「よかったですね!五十鈴殿!!」
「華!やったね!」
「おめでとう、五十鈴さん」
とみほ達が華をよかったねと喜びの言葉を贈る。
「それと華さん、ちょっと」
「お母様?」
すると華は、百合に連れられてみほ達から少し離れた場所で話を始めた。みほ達は、遠くから眺めていた。
「それで、彼とはどこまでいったの?」
「えっと…なにがでしょう?」
「彼はいつ、五十鈴家に婿入りに来るのかと聞いているのよ?」
と突然五十鈴母はそんなことを言ってきたので、五十鈴は動揺した。
「お、お母様!?私と日向さんはまだそういう関係では…っ!」
「『まだ』ということは、彼とはいずれそういう関係になりたいと?」
「ーーーっ!」
どうしようもなく、五十鈴は顔が赤くなっているのを自覚する。心臓の鼓動は早くなって、少し動悸が激しくなる。
「華さん、隠し事はせずに正直に言って。華さんは、彼の、日向さんことが好きなのよね?」
「……はい」
そんな、娘に秋人の事が好きかどうか確認し、Yesの言葉を聞いて五十鈴母は確信した。
「やっぱりそうなのね」
「あ、あの…その…」
「華さん。あなたには、そろそろお見合い話をと思ってましたが、それも必要はなさそうね」
華も既に16歳、日本の民法での結婚適齢であり、跡取りの為娘に見合い話をと考えていたが華には既に意中の相手が居たようだった。華が好きになった相手なら親として認めてあげるのがいいだろう。
「気立てよし、器量よし、言ってる意味はわかりますね?」
「……はい」
「彼になら、あなたを任せることが出来るわ。だから、華さん。頑張りなさい」
「はい!恋も戦車も一発必中です!!負けるつもりはありません」
と娘にエールを送る母百合。恋のライバルが多い中五十鈴も負ける気はないと強く誓うのだった。