五十鈴の生け花の展示会も見終わって連絡船でみんなで大洗の学園艦に帰ろうとしている時だった。
「誰だろう? ……え!?」
どうやらみほに電話がかかってきたようで、相手は意外な人らしい。みほが驚いている。
「あ、秋人さん、どうしよう?」
電話の相手の名前を見てあわあわとしだした。
「どうしようって、相手は誰なんだ?」
「……お姉ちゃんから」
「まほさん?」
なんと、電話の相手はみほの姉で次の黒森峰の隊長からだった。
「とりあえず電話にでたらどうだ?」
「う、うん、そうする……。も、もしもし? お姉ちゃん?」
と電話に出るみほ、そうしてまほと話していると
「え!? どういうことお姉ちゃん!? ……うん、うん、もうこっちに向かってるの? わかったよ」
何やら様子がおかしい、電話の話の最中チラチラと秋人の方を見る。そして、どうやらみほはまほと話が終わったらしく携帯を閉じてしまう。
「なんだって?」
「……うん。話があるから今からに会いに行くって…」
「ん?大洗に」
「うん、それで今、お母さんとお姉ちゃんがヘリでこっちに向かってるって」
なんと、西住親子が大洗の方に向かっていると言うのだ。態々、西住流の家元が一体何しに来ると言うだろうか。
「それでね、秋人さん」
すると、みほがは申し訳なさそうな顔で秋人の方を見てくる。
「お母さんが秋人さんも話があるからって」
「は?」
その言葉を聞いて、キョトンとなってしまった秋人。みほの母親が秋人に一体何のようがあると言うのだ?
その後、みほ達が学園艦に戻って正午を回った頃、秋人とみほ二人だけに話したいと言うことなので、取り敢えず他のみんなを出払って秋人とみほは格納庫前の広場で待機していると上空から『Fa223』が1機がやって来て広場にゆっくりと降下してきた。
「・・・・来たか」
「・・・お母さん、お姉ちゃん」
そして、ヘリから降りて来た、姉の西住まほと黒いレディーススーツの女性西住流の家元にしてまほとみほの母親西住しほだった。凛とした佇まい、ムッとした表情。やはり血の繋がりを感じる、まほさんはこの人に似たのだろう。そっくりだ。
「貴方が日向君ね」
「えぇ、日向秋人です。立ち話も何ですかから、中でお伺いします」
そして、秋人は二人を格納庫二階の良くみほと作戦立案などに使っている部屋へと案内する。そして、ソファーに双方向き合う様に座り、まどろっこしい話は抜きで、単刀直入に行く。
「それで、西住流の家元が一体何の要件はなんです?」
「貴方に、話したい事があったのよ。ドイツ国防軍日向秋人少佐」
「「!?」」
としほから発せられた言葉に秋人もみほも驚いた。何故、その秘密をしほが知っているのか。
「貴方の事は、蝶野から聞いていたわ。最初、聞いた時は信じられなかったわ、貴方の試合を見て確信したわ」
犯人はあの人か!!蝶野は口が堅い方だと思うが、蝶野は西住流の教え子しほとは師弟関係師範に問い詰められたか、若しくは深酔いして緩くなったと確信していた。あの人、今度会ったらゆっくりとお説教をする必要があるな。
「それで、態々そちらから出向いて自分に話というのは?まさか、自分の素性を話しに来たのではないでしょう」
「ええ、貴方は新しい流派、つまりは日向流を作るつもりはあるのかしら?」
「は?それは、どう言う・・・・」
「貴方の戦い方は、継続のコソコソとした物でもなく、アンツィオの博打勝負でもなく、サンダースやプラウダの物量でもなく、堂々とした王者の戦い方だった。まるで西住流の様・・・・」
つまり、俺が日向流なる新しい戦車道の流派を創設する事で、西住流の存在が脅かされるんじゃないかと、しほは危惧しているのだろう。
「俺はそんな事は考えてはいませんし、興味もありません。そもそも俺の戦術と戦法も戦車道と言うスポーツではなくあの独ソ戦で培われたもの、言わば人を殺すための技術であり今後誰かに伝授しようなんて気はありません」
「・・・・・そう。でも日向君、貴方はもう少し自分の立場という物を考えた方が良いわ」
「立場…?」
立場と言われても…タイムトラベラーと言えど俺はただの軍人に過ぎないのだ。何処かの名家の生まれでもなければ、何処かの流派の人間という訳でもない。
「貴方は、史上初の戦車道男性選手として実戦試合で聖グロリアーナ、サンダース、アンツィオ、プラウダと前人未到の戦果と結果を残している。その才覚と美貌を、他の流派や名家が放っておく事はないわ。貴方を狙う流派や名家は多いのよ。それは西住流でも同じ、貴方を手に入れ身内にしたいと考えているわ」
家柄の為、名声の為、そして次に生まれる子に期待する為に、俺が欲しいって事か…。
「それで、あなたはみほとはどこまで関係が進んでいるの?」
「ほぇ?」
「聞く所によると、貴方はみほと非常に仲が良いそうね…」
「お母さん!?」
「みほ、貴女は黙っていなさい。今は、私が話をしているでしょ」
「……はい」
いきなりみほとの関係や進展具合などを聞かれて驚く秋人とみほの二人、みほが声を上げるが、しほが叱りつけ黙らせる。誰がそんな事を・・・・・・まぁ、大方蝶野一尉か菊代さんあたりが話したのだろう。と言うか、何故俺とみほさんの関係をこの人が気にするんだろうか? だってこの人は……みほさんを勘当しようとしている張本人が何故今更そんなことを気にするんだ?
「関係もなにも、俺とみほさんはただの友達で戦車道の仲間ですよ」
「……ただの……」
と秋人がそう言うとみほが落ち込んでしまった。
「では、好きな人か付き合っている人は?」
何故か、その話を持ち出すしほに秋人は
「いませんけど」
「……そう、なら問題はないわね」
「それは一体どういう――――」
「貴方、西住流の婿養子として来る気はないかしら?」
としほから婿養子と言う単語が出て来た。
「聞き間違いですかね、今婿養子と聞こえたんですが?」
「聞き間違いではないわ」
しほは、表情を変えずそう言ってくる。
「何故、俺を?タイムトラベラーで一軍人に過ぎず、何処の馬の骨ともわからない男を・・・・戦車道の名門西住流の婿養子とかに迎えて?」
蝶野さんから秋人の事について聞いているとは言え普通に考えて何処の馬の骨とも分からない男に、自分の娘をそんな訳のわからない男に差し出すだろうか?
「あなたの性格については、蝶野と菊代からある程度聞いているわ。先程言っていたけど、あなたを一人の軍人に嵌めるには無理があるわ。戦車道に関心を持っていて尚且つ、実力を持っている男性が全国に一体どの程度いるのでしょうね」
「限りなくゼロに近いでしょうね、観戦でなくただ純粋に男性で戦車道に興味があるのは・・・・」
「だから、貴方のように戦車道の全国大会まで出てくる気概の持ち主はそうはいない。戦車道に理解があるなら、色々と相談もしやすくなる。しかも実力が伴っているなら尚更、それに・・・・・先も言ったけど、あなたの本質は島田流より西住流に近い」
そこでライバルの島田流を引き合いに出してくる。西住流に近いと言っても、秋人はただ自身の乗る戦車の火力、防御力、機動力の特徴をただ発揮しただけだろう。
「……なにをもってその結論に?」
「"撃てば必中、守りは硬く、動く姿に乱れなし、鉄の掟、鋼の心それが西住流"、西住流は何よりも勝つことを尊ぶ流派。あなたのこれまでの試合は全て見せてもらったわ。そのなかで、鋼の心と勝利に対する執着心は目を見張るものがあったわ。足りない経験や知識を補い、正道の戦い方を教える。そうすれば、貴方は王者として完成する」
「勝つ事が西住流、でしたね。確かに貴女の言うように勝利への執着心については否定はしません、鋼の心に関しては何故そう思うんですか?」
確かに、俺は勝つためにいろいろとやって来た。だがそれは、大洗が廃校になることを知っていたからだ。自分達に負ける事は許されないからだ。
「小さい頃から軍で、戦車に乗るために訓練と努力している……。形こそ違えどこれだけで十分でしょう」
西住流は他の名家と違って実力主義、拘らないのだ。だが、秋人が訓練を受けていたのは戦争で人を殺す為の技術を学んだので、あって決して戦車道と言うスポーツの為ではない。
「理由はわかりました。それで、俺が婿養子に来るとしてその相手は誰になるんですか?」
「それはもちろん、西住流の次期後継者のまほよ」
俺との婚姻をまほさんが嫌だと言うのだろうか、西住流を守り、西住流であろうとする彼女が、西住流の為になる事を拒否するのだろうか。それで、自分の娘、大事な西住流の後継ぎを差し出しても構わないと…。
「それで、返事を聞かせてもらえるかしら?」
「普通に考えたら、魅力的な誘いですから断る理由はないですね」
「そう、なら・・・」
「あくまでも普通に考えたらでの話です」
「それはどういうこと?まほに何か問題でも?」
「いえ、まほさんに文句なんて無いんですが…」
「そうでしょう、まほは西住流後継者として立派に育っています、どこに出しても恥ずかしくない自慢の娘です」
しほからキッと睨まれ、親馬鹿が滲み出ている。それに、苦笑いを浮かべる秋人、
「俺は別に西住流のやり方にあれこれと言うつもりは有りませんし、まほさんの事も嫌いではないですけど。一つだけ、いただけない事が・・・・・逃げることが間違っている。この考えはどうにも解せないですよ、確かに逃げる行為は、軍刑法上に照らし合わせれば敵前逃亡に値します」
「ならーーー」
「しかし、逃げも兵法の一手だと俺は思うんです。嫌な時は、逃げたっていいと」
西住流に辞書に逃げると言う文字は存在しない。敵前逃亡は、単なる職場放棄だけでなく仲間を危険に晒す重大な裏切り行為だ、みほがした事はこれに該当するだろう。逃げたって、また挑めばいいそうやって筋通して生きた方がよっぽどかっこいい。
「……秋人さん」
秋人のことを心配そうに見てくるみほ。
「……あなたの言いたいことはわかったわ。それで?」
西住流を否定されて少しだけ先程より険し表情になるしほ。
「そこで、一つ俺と勝負をしません?」
「勝負?」
「えぇ、明日は戦車道の全国大会決勝戦。もし黒森峰が大洗に勝てたなら俺を婿養子にでもなんでも好きにしてください」
「……こちらが負けたら?」
「みほさんの勘当を取り消してください。これが、条件です」
「あ、秋人さん!?」
みほが、秋人の発言に声を上げる。
「……それは、あなたになんのメリットがあるのかしら」
「そうですね・・・・俺はこの大洗女子学園をトップに上がると考えているので強豪校の黒森峰、そして戦車道の名家たる西住流を破ったとなれば一気に大洗の名が広がり拍がつくっと言ったところですかね。おまけに今年の決勝は両校共西住流、西住流の強さを世に知らしめるのにこれ以上の結果は無いはずです」
世間的にみれば黒森峰だろうが大洗だろうが、どっちが勝っても今年の戦車道全国大会は西住流がワンツーをフィニッシュだ。だが、もちろん大洗が勝たないと意味がない。
「・・・・成る程ね」
「それで、どうしますか。受けてくれるですか?」
「……いいでしょう、まほ!」
「はい、お母様」
しほに呼ばれ、今まで黙っていたまほさんが返事をする。
「西住流の真髄を、容赦など一切しないように」
「……わかりました」
「では、話はこれで終わりね。帰るわよ、まほ」
「はい………」
まほがこちらをじっと見ている。西住流を侮辱する様な発言をしたのだ、当然だろう。
「どうしたの、まほ?」
「いえ…なんでもありません」
しほさんに言われ、まほも後に続く。結局、まほは一言も言葉を交わさなかった。そうして、部屋から出て行く二人の帰りを見送り、ヘリに乗って学園艦から飛び去って行った。。そして、ヘリを見送りながらみほが
「あ、秋人さん・・・・」
「ん? どうした?」
「あんな約束して良かったの? その……お姉ちゃんの婿養子とか……」
「あぁ、構わない」
とみほは、聞いてくる。しかし寧ろこれは、秋人とってはチャンスだ。もし黒森峰に勝てば大洗は廃校を免れるだけでなく、同時にみほの勘当を取り消す千載一遇のチャンスなのだ。
「それより頼むぞ、隊長」
「え?」
「お母さんやお姉ちゃんに認めてもらえるような、勝ち負けに拘らず自分だけの戦車道」
「あっ……」
「俺も出来る限りの事はするつもりだ。あとは、みほさん次第だ。俺がお前に言える一言だ」
「……うん! ありがとう、秋人さん!!」
西住流に宣戦布告の様な事したんだ、何が何でも明日の試合に勝たなければならない。まさに、大洗の荒廃この一戦にありだ。