早朝。未だ太陽が昇ってこないこの時間、此処、北富士演習場の草原地帯に、数台の黄土色のジープとトラックが停車した。
サイドにピザのマークを付けた車………………そう、この車の乗員は、全員アンツィオ高校戦車道チームのメンバーなのである。
「よーし!我々が一番乗りだ!」
ジープから飛び降り、自分達以外は誰も居ない草原を見渡して、アンチョビが言う。
他のメンバーは車から降り、トラックに積み込んでいた荷物を降ろし始める。
その荷物は、殆んどが大洗を応援するための横断幕や旗だった。
「これで、明日の決勝には余裕で間に合うスね」
「でも、まだ早過ぎません?」
「物事を進めるには、慎重なぐらいが丁度いいんだ」
「さっすが姐さん!抜かりないッス!」
カルパッチョに反論したアンチョビを、ペパロニがおだてる。
「メガホンと双眼鏡持ってきた!」
「横断幕だって用意したし、旗だって用意した!」
「当然、大洗はあんこうで有名だから、そのプリントだって忘れちゃいねえ!」
「勿論、日向のダンナのチームの旗だって持ってきた、準備万端だぜ!」
「アタイ達、ホント準備良いよな~!」
荷物を降ろした他のメンバーも、持参した応援グッズを自慢気に掲げながら言った。
「良し!時間もタップリあるし、お前ら宴会だ!湯を沸かせ、釜を焚けぇい!」
『『『『『『『『『『『オオーーーッ!!』』』』』』』』』』』
アンチョビの一言で、その場ではアンツィオ高校の戦車道チームによるドンチャン騒ぎが行われた。
それは日が昇り始めるまで続き、明るくなってきた頃には、全員が騒ぎ疲れて眠っていた。
第63回高校戦車道全国大会決勝戦当日
夜明けと共に大洗戦車道のメンバーは、電車で目的地へと向かう。朝早くから電車に揺られ着いたのは決勝戦の会場である。冷泉は武部の頑張りがあったお陰か、遅刻はせずにすんだようだ。大洗駅から電車に乗ってしばらく、ついにやって来たのは東富士演習場。戦車道の聖地と言われており、全国の戦車道乙女達が目指す場所。そして、大洗学園と黒森峰との、決戦の地。
「こっ、ここで、試合が出来るなんて!」
「そんなにすごい事なんですか?」
「自衛隊も演習をやっている、まさに戦車道の聖地です!!」
試合会場が戦車道の聖地と言う事もあって秋山は感激していた。
「わたしも・・・・今回の決勝会場がまさか東富士だとは思わなかった」
「自分も驚きました!」
そんな、彼女達から少し離れた場所で秋人も決勝戦の会場を見ていた。
「流石、決勝戦ともなると会場も広々とした見晴らしのいい草原だ、機動戦にはもってこいの場所だな」
富士総合演習場は、朝から人で溢れていた。戦車道全国大会の決勝戦を見る為に、全国のファンや戦車道乙女が集う。出店や連盟の戦車が並び、見に来る人を楽しませている。
実際決勝戦の会場はえらい賑わいだ。出店は飲食はもちろん、プラモデル等の戦車グッズがあちこちにあるし、戦車の展示なんかも見える。
「美味そうな出店がたくさんあるな」
「私、甘いものが食べたい」
「僕は、色んな機材とか見てみたいな」
「私も見てみたい戦車グッズが…」
「おい!まずは戦車を格納庫に持って行ってからだ、買い物はその後」
出店の誘惑に釣られそうな良、綾乃、幸也、ミーナに秋人が注意する。戦車を指定された格納庫へと移動させて、砲弾の積み込みや最終確認等をする必要があるからである。
「はい!私は今、決勝戦の会場に来ています!いやーすごい人と熱気ですね!!」
ふと大洗の制服を着たメガネ女子がなんか実況していた。放送部の王 大河、以前彼女からインタビューを受けさせられそうになったが角谷達生徒会が機転をきかせてくれたおかげでなんとか回避した。そして、待機場所の格納庫に案内された大洗女子学園チームでは………………
ワシチームでは、
「自軍の戦車で自軍だった戦車を倒すって、ワクワクするな!久々に大暴れ出来るぜ」
「うん、黒森峰とやるなんて早く試合が始まらないかな」
良と綾乃がそんな事を話しており、近くで聞いていた幸也が相槌を打っている。そんな会話を聞いていたミーナは苦笑いを浮かべながら、
「この時代に来てから、すっかりこっちに染まったわね」
最初の頃は戦車道に対して、反対的な考えを持っていた彼等も戦車道をして行く内にすっかり戦車道の楽しさに取り憑かれていた。そうして、ミーナは自分の愛車ティーガー改に視線を向けそっと手を添える。
「この子に乗ってみんなと多くの戦いを潜り抜けて、この時代にやって来てもあなたに乗る事になるなんて思わなかったわ。あなたも早く戦いたいよね。・・・・・・さあ、優勝への最後の戦いよ」
ミーナは、ティーガー改にそう言って良達の輪の中へと行く。
一方の、あんこうチームはみほがミーティングに出ている中、秋山、武部、五十鈴、冷泉はマークⅣスペシャルに乗って待機していた。
「いよいよだね・・・・」
「そうですね」
「はい⭐︎」
いよいよ決勝戦と言う時、戦車道を選んだ彼女達は理由は様々だ、ただ純粋に戦車が好きと言う者、授業や興味本位などで集まった素人集団が強豪校を破り決勝戦まで辿り着いたのだ。
「ただの授業の一環だと思ってたのに・・・・・私達すごい所まで来たもんだね・・・・」
「そうですね、ただ戦車が好きってだけで始めた戦車道なのに・・・・・西住殿と日向殿にこんな所まで連れてきてもらいました」
「ゆかりん、もし今みぽりんがいたらみんなで来たんだよって言うし、日向さんなら俺一人の力じゃないみんなが頑張ったからって言うよ⭐︎」
「そのとおりですね・・・・・」
「でも、みほさんと日向さんがいなければわたし達は今ここにいませんね」
「うん、戦車道がこんなに面白い事や戦車に乗る責任なんて気づく事もなかったかな・・・・・」
みんな、みほと秋人には感謝しても仕切れない程、恩を感じていた。
「みんな戦いが終わったみたいな言い方をして・・・・・」
「冷泉殿の言う通りですね・・・・」
「あ、みほさんと日向さんがミーティングから帰ってきました」
そう話している中、ミーティングを終えたみほと秋人が帰ってきた。チームのみんなと合流してしようとしていた時、
「ごきげんよう、みほさん、秋人さん」
「あ、こんにちは」
「ダージリンさん、オレンジペコさんもご無沙汰です」
「ええ………………フフッ、元気そうで何よりですわ」
「ご無沙汰しております、日向さん」
聖グロリアーナチームの隊長、ダージリンやオレンジペコが訪ねてきていた。みほはダージリンに近寄る。
「まさかあなたがたが決勝戦に進むとは思いませんでしたわ」
「あ、私もです」
ペコの言葉に同意した西住がおかしかったのか、ダージリンさんはクスクスと笑っている。
「そうね。あなた方はここまで毎試合、予想を覆す戦いをしてきた。それに、秋人さんの戦車がカチューシャ達に単身で挑み掛かり、最終的には無傷で壊滅させてしまうとは、恐れ入りました。今度は何を見せてくれるか楽しみにしているわ」
「えっと、頑張ります」
「期待に応えられる様にするよ」
そう話していると、
「ミホ~~!!アッキー!!」
するとダージリンの後ろから、陽気な声が聞こえてくる。
其所には、ジープに乗ったサンダースのケイとアリサ、ナオミの3人が向かってきていた。
「ケイ、相変わらず元気してたか?」
「Of course!私は何時でも元気よ!」
秋人の問いに、ケイは元気一杯な様子で答える。1回戦で当たった時と全く変わらないケイの様子に、秋人は微笑む。
「それにしても、聞いたわよアッキー。あのプラウダの戦車7輌相手に単身で乗り込んだんですって?超アグレッシブね!」
「それ、さっきダージリンさんにも言われたよ」
「またエキサイティングでクレイジーな戦いを期待してるからね?ファイト!」
「ありがとうございます!」
「あ、ありがとう(エキサイティングはまだしも、クレイジーさを求められるのはおかしいから)」
「グッドラック」
颯爽と登場して、颯爽と去っていった。
「ミホーシャ、アキーシャ」
後ろから声をかけられ、みほと秋人はその声の主の方を向く。其所には、ノンナと、彼女に肩車されたカチューシャ、そしてクラーラが居た。
「このカチューシャ様が見に来てあげたわよ。黒森峰なんかバグラチオンなみにボッコボコにしてあげてね」
「あ……はい」
「アキーシャもカチューシャ様が応援に来てあげたんだから、カチューシャをガッカリさせないでよ」
「そう言われると、無様な姿は見せられないな」
そして、クラーラが秋人に近づいて来た。
『決勝戦、頑張ってくださいね………応援してますから』
『ありがとう、必ず優勝する』
とクラーラと秋人がロシア語で言い終える。
「じゃあね、ピロシキ~」
『『До свидания』』
そんな会話を終え、カチューシャ達も戻っていった。
「あなたは不思議な人ね。戦った相手みんなと仲良くなるなんて……」
「それは……みなさんが素敵な人だから」
「……そう。あなたにイギリスの諺を送るわ。『四本足の馬でさえ躓く』強さも勝利も永遠じゃないわ」
「はい!」
(確か『猿も木から落ちる』とか『河童の川流れ』みたいなことわざだったな)
ダージリンの格言に返事をするみほ、秋人は類似したことわざを連想する。
「あと彼に、近頃に聖グロリアーナに来てもらえるよういってもらえるかしら?」
「だ、ダージリンさん!!」
「なにかしら?」
みほが強めの口調でダージリンに声をかけている。ダージリンもそれを正面から受けていた。
「えと…その、ちゃんと…返して下さいね」
「…あら?」
…あら?思わずダージリンは声が漏れ反応をする。それほどみほには珍しい言葉だった。それとは別に返してとか、俺は借り物じゃないんだから。
「ふふっ、それはどうかしらね。決めるのは秋人さんではなくて?」
みほのこの言葉にも涼しい表情で返答するダージリン。
「あ、秋人さん・・・」
「な、なんだ。みほさん」
「さっきのは……?」
「ダージリンさんなりの冗談だろ。緊張ほぐすための」
秋人は、みほから目を背ける。
「………むぅ」
「いや、そんな目でこっち見られても…」
秋人に、詰め寄るみほ。何故か不満気な西住をなだめる。
「・・・・・秋人さん、以前言ってたよね。俺たちには居場所はないって、ちゃんとあるよ秋人さん達の帰る場所は、絶対なくなったりしないから」
「・・・・そうだな」
そうか、俺達にはこの時代にもう居場所がもうあったのだ。いよいよ、大洗チームと黒森峰チームによる決勝戦の開始が近く。