開始を知らせる照明弾が空高く撃ち上げられる。
「Panzer vor!」
みほの一声で、大洗の戦車9輌が一斉に動き出す。同様に黒森峰の戦車20輌も動き出し、観客席では歓声が上がる。
動き出した9輌の戦車は、1列横隊から矢印状のパンツァーカイルに隊列を変え、みほ達あんこうチームのⅣ号が矢印の頂点になるようにして進んだ。
ティーガー改のキューポラから上半身を覗かせた秋人は、言葉を付け加えた。
「ソ連やアメリカ、イギリスの戦車とはやった事あるが自軍の戦車とはやった事なかったな」
「そうね、それにドイツ戦車のスペックは私が誰よりも知り尽くしているわ。燃えるじゃない」
そんなことを話している。そんな中、あんこうではⅣ号の砲塔右側面の装填手用のハッチから秋山が顔を出し
「良かったですね、西住殿。仲間を助けた西住殿の行動は間違ってなかったんですよ!」
「・・・・今でも本当に正しかったかどうかは、わからないけど・・・・・でも、あの時わたしはチームメイトを助けたかったの仲間の誰かを犠牲にしたりせず、みんなで戦いきりたい・・・・・そう、思っていたんだと思う」
みほは、遠くを見つめながらそう言い清々しい顔になっており何が吹っ切れたようだった。
「沙織さん、各車に連絡を入れて」
「了解、みぽりん」
そう言って、沙織は通信機を操作して全戦車に通信を入れた。
「此方、あんこうチーム。現在私達は、207地点まで約2㎞の場所に居ます。今のところ、黒森峰の姿は見えません」
その言葉に、アヒルさんやレオポンと言った、秋人達以外の大洗メンバーは安堵の表情を浮かべた。
相手とは比較的離れており、開始早々戦闘になる可能性は低いとは言え、完全にゼロだとは言えないのだ。
「ですが皆さん、フラッグ車を守りつつ最後まで油断せず落ち着いて行動しましょう。以上、交信を終わります!」
「アレ?なんか話し方変わりました?」
「本当、余裕を感じます」
落ち着いており、何処と無く余裕を感じさせるような沙織の様子に気づいた優花里と華が声を上げると、沙織は嬉しそうに反応する。
「え?本当!?プロっぽい?」
そう言って、沙織は嬉しそうに体をくねらせた。だが………………
「全然プロっぽくない」
「ヒドイ!何でそんな事言うのっ!?」
麻子の一言で、あっさりと雰囲気がぶち壊されてしまう。
「だって、アマチュア無線だし」
そんな2人のやり取りに微笑んでいた、次の瞬間!
『『『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』』』
突然、真横から飛んできた3発の砲弾がⅣ号の近くに着弾する!
「何!?」
「もう来た!?」
「嘘ォ!?」
突然の事に、他のチームが焦りを見せる中、みほは双眼鏡を取り出して辺りを見回し、目についた森林地帯を睨み付けた。
「9時方向敵発見!」
其所では何と、既に到着していた黒森峰の戦車隊が居たのだ!Ⅳ号駆逐戦車ラングやパンター、ティーガーⅡ、ヤークトティーガーやエレファントがゆっくり前進しながら次々と砲弾を撃ち込んでくる!そんな中で、まほの乗るティーガーⅠも砲弾を撃ち出す。
Ⅳ号駆逐戦車は、Ⅳ号戦車の車体を流用した駆逐戦車。前面を守る装甲は、厚さ80mm。300馬力のエンジンは、平地で凡そ時速40km/hの最高速度をもたらす。重量は凡そ26t、搭載された初速の速い70口径75mm砲は当時連合軍のあらゆる戦車を破壊する力を持っていた。しかし、重量が車体前方に偏るノーズヘビー化により、操縦性は低下、「グデーリアン・エンテ」(グデーリアンのあひる)というあだ名がつけられている。
Ⅴ号戦車パンターはソ連のT-34の影響を受けた戦車で、主砲に強力な75mm砲を装備し砲弾を秒速850m以上で飛ばす事が可能。パンターの砲身は、5.5mと長くシャーマンの装甲なら最大で2000mの距離からでも貫ける。前面装甲は55度の傾斜のかかった80mmでこれは、145mmの装甲に匹敵する。幅広い履帯で転輪を囲っているので安定して機動性も優れている。速さは時速50km/hほど、移動の速度としては充分。更に、ティーガーほど重くないのも利点だった、重量は意外に45tと軽くコストも掛からない。パンターは、現代でもT-34と共に第二次世界大戦の最良の戦車と呼ばれている。パンターの初戦であるクルスクの戦いでD型が導入されたが、開発を急ぐあまり機械的トラブルに見舞われ戦闘による撃破された数よりより故障による動けなくなった数の方が多かった。その後、クルスクでの失敗によりパンターA型、G型へと改良された。パンターは終戦まで総生産数は約6000輌にも登る。
ヤークトパンターは、パンター戦車の車体を流用した駆逐戦車だ。主砲は、71口径88mm砲、前面装甲は55度の傾斜のかかった80mm、パンターA型の車体を流用している為、時速55km。量産開始の遅れ、空襲や物資不足による生産ベースの低下により合計生産台数は415輌と少数に留まった。生産されたヤークトパンターは、重駆逐戦車大隊に配備されその優れた総合性能から攻勢、守勢双方の戦局で高い戦闘能力を発揮しドイツ最高の駆逐戦車と評価された。
ヤークトティーガーは、ティーガーⅡの車体を流用した自走砲だ。重量凡そ70t、最大装甲250mm、射出速度の速い55口径128mm砲は3km先のシャーマンやT-34を貫く力があった。しかし、そんな強力な火力と防御を持つヤークトティーガーの重量は70t、信頼性と燃費も劣悪だった。また、その大重量故に、足回りは頻繁に故障を起こし1日に30km移動出来れば上々2日で90km移動した事が記録されている。ヤークトティーガーは、鉄壁を誇ったが燃料切れや故障で動けなくなって爆破処理される運命を辿った。
フェルディナント/エレファント重駆逐戦車は、ヘンシェル社との競争に敗れたポルシェ社案のティーガーの車体を流用した駆逐戦車。重量65t、前面装甲200m、主砲は71口径88mm砲を搭載。開発当初、設計者のポルシェ博士の名前を取り『フェルディナント』と名付けられ、後に改修が施された同時期にヒトラー総統より名称が変更されクルスクの戦いでドイツ兵が『エレファント』と愛称していた事からこの名が正式名称になった。エレファントの初戦は、最大の戦車戦クルスクの戦いで実戦投入によって露見した機動性、視認性、対歩兵能力の欠如といった。そして、フェルディナントのその多くが対戦車地雷や機械的問題で行動不能になり回収戦車の欠如と大重量で大半が回収不可とみなされ乗員の手で爆破処理された。しかし、対戦車戦闘においては大戦後期においてもほぼ無敵と言える強さを誇り、予備部品不足も相まって稼働車両を少しずつ減らしながらも東部戦線各地で数多くのソ連車両を撃破。最期は残存していた3輌がベルリン攻防戦に投入されその全てが撃破、鹵獲されて2年余りの戦いに幕を閉じた。
ティーガーⅠは、重量56t、前面装甲100mm、主砲は88mm高射砲を転用した56口径88mm戦車砲を搭載1500m先のT-34を撃破する事が出来る。1942年4月20日のヒトラーの誕生日にティーガーⅠの試作戦車が完成。連合軍の兵士達は『ティーガー恐怖症』に成る程恐れられた戦車なのだ。しかし、車体が非常に重く、56tもあり機動力は最悪の部類で重いティーガーは橋や泥濘の走行には向かず一度嵌ると中々抜け出せないのだ。また、製造コストが高く完成までに時間が掛かるのだ。大戦の総生産数は1300輌程なのに対して、T-34やシャーマンは5万輌以上、ティーガーはいつどこの戦場にもあった訳ではなく、常に不足いた為ティーガーⅠは、グロースドイチェラント師団、第一降下装甲師団、武装親衛隊SS機甲師団などのエリート部隊に優先的に配備された。
そして、ティーガーⅠの兄弟ティーガーⅡ。このドイツ最大の戦車は通称『キングタイガー』又は『ロイヤルタイガー』。重量70t、前面装甲180mm、主砲は71口径88mm砲で、連合軍の重戦車を3000m先からでも貫ける。しかし、ティーガーⅡは装甲が分厚くなり益々重くなった為、ティーガーⅠに比べると構造上の欠陥が大幅に増えたのだ。装甲も砲塔もかなりの重さがあり、これを動かすには相当のエンジン馬力が必要になるのだが、それがなかったのだ。ティーガーⅡは、ベルギーの細い道で動けなくなったり、壁に衝突して炎上したりと無惨な最後を迎えた。細い道の多いベルギーで戦うには不向きな戦車だった。機動性に欠ける為、他の部隊の進むスピードに追いつけず、足手纏いになっていた。そして、ティーガーⅡの限界も露呈した、戦後のアメリカの中での評価はもっぱら『製造意図が分からない』だった。優れた戦車に備わっているべき要素は、機動力・火力・防御力の3つなのだが、ティーガーⅡの開発時機動力は犠牲にされたのだ。現代のアメリカのM1A2エイブラハムやイギリスのチャレンジャー2が参考にしているのはもっと軽く速度の速いドイツ戦車パンターなのだ。しかし、ティーガーⅡは燃料不足や故障などで爆破処理が殆ど敵の攻撃で撃破されたのは僅か数台ほどで、大戦中にティーガーⅡの正面装甲が貫徹された記録は存在しない。
「いきなり何!?」
「前が見えないじゃない!」
「森の中をショートカットして来たのか!?」
そんな事実に、他のメンバーがパニックに陥る。流石に、落ち着いて行動するように言われた直後に容赦無い攻撃を受ければ、誰でもこうなるものだ。
「流石、自軍の戦車なだけあるなぁ。火力がエグい」
ティーガー改のキューポラから顔のみを覗かせ、秋人は着弾によって巻き上げられる土や石の雨を浴びないようにしながら呟いた。
「うぉ、情け容赦のねぇ攻撃だなぁ…………………」
「避け甲斐がありそうな砲撃の嵐だねぇ!」
「ミーナの気持ちも分かるが、こりゃあマジで半端ない」
ミーナはそう言いながらも、顔は余裕そうにしていた。恐らく、黒森峰の操縦手達よりも何枚も上手なのであろう操縦桿捌きで砲撃の嵐を無傷で進んでいく。
「いきなり猛烈ですねッ!」
「凄すぎる!!」
「これが西住流!!電撃戦さながらってところですかっ!」
「………………ッ!」
Ⅳ号の車内でも、容赦無い攻撃にパニックになるのを通り越して感動しているような雰囲気すら漂っている。
『全車落ち着いて、蛇行しながら前方の森を目指せ!』
俺の通信が聞こえた全車両が、蛇行しつつスピードを上げる。
「各車両、秋人さんの指示通り出来るだけジグザクに動いて前方の森に入ってください!」
自分達の進行方向に森林地帯を見つけたみほは、すかさず指示を飛ばす。
指示を受けた他のチームの戦車は、みほの指示通りにジグザクに動いて進む。