下手な小細工は弄さない、正面から打ち破り押し潰す、それが西住流。
「重戦車を盾に使うのね・・・・」
高台から黒森峰を砲撃するも、重戦車がそれを受け止めながら前に進み、後続の戦車がそれに続く。
重戦車故に坂道でのスピードは遅い。だが、ジリジリと確実に黒森峰の戦車が迫って来ている。
「このままだと包囲されるわね」
「…ですね」
ゆっくりと首を絞められているようなものだ。そもそも姉住さんの対応の早さから、大洗がここを要塞にする事は最初から読まれていたのだろう。そんな場所でこのまま戦い続けてもジリ貧で押し負けるだけだ。
ドイツ軍の戦車の中でも恐ろしく強力で手強い自走砲ヤークトティーガーだ迅速な行動と高い火力、そして貫くことが難しい堅い装甲。
「何か大きいのが出てきたよ・・・・」
「ヤークトティーガーですね・・・・」
大洗各車は、ヤークトティーガーに向かって砲撃する。
「どうする、私達も攻撃する?」
「いや、ヤークトティーガーは正面装甲が250mmだ。正面を狙うのは砲弾の無駄遣いだ」
秋人が指摘した様にヤークトティーガーのその分厚い装甲が大洗の砲弾を弾き返す。
「硬い・・・」
「ダメです!ヤークトティーガーにはこちらの砲では歯が立ちません!」
そして、お返しと言わんばかりに黒森峰から嵐の様な砲撃が丘の頂上に向けられ砲弾の雨が大洗の戦車隊に降り注ぐ
「な・・・・なんとか各車無事だよー」
土煙が立ち込めながらも砲撃が止み、煙が晴れた時撃破された大洗の車輌は居なかった。
「これが王者の戦いよ。このまま正面からねじ伏せてあげるわ!」
パワーバランスでいえばこれほどわかりやすいものはない。純粋に戦えば大洗に端から勝ち目などない。
「せっかくここまできたのに……このままだと撃ち負ける……!」
「さすが黒森峰……」
「マルタの大包囲戦のようだな……」
「あれは囲まれたマルタ騎士団がオスマン帝国を撃退したぞ!」
「だが……我々にそれができるか?」
大洗の面々に不安がよぎる。このままではやららてしまうのではないか、という不安が過ぎる。
一方で、会長率いるカメチームが戦場となっている場所から少し離れたところで戦況を観察していた。
「すごい砲撃戦……」
「真綿でじわじわ首を絞められているようだな」
「こっちもあそこを要塞にするって見越していたようだね~。……まぁ、当然か」
状況は刻一刻と動いている。現状の状況を判断し、みほは次の行動を決めた。
「パンター2輌に・・・・ラング1輌。17対8、これだけ潰せれば・・・・・。ここから撤退します!」
「でも、この包囲の中どうやって!?退路は塞がれちゃっています!」
相手は囲むようにじわじわと攻め込むと同時に退路もきちんと相手は断ってきていた。抜け目はない。
『西住ちゃん! 例のアレやる?』
「はい! おちょくり作戦始めてください!」
カメチームからの作戦コール。それにみほは迷わず答える。
「皆さん、カメさんチームが作戦を開始しました!しばらくこちらに注意を引きつけて下さい!相手に悟られないで!」
『了解よ!』
『『承知!』』
『ヤークトティーガーの足回りをバーストさせてやるーっ!』
『タイヤじゃないよー』
確かに抜け目はない。けど、抜け目がないのなら作ってしまえばいい。
「フン!悪あがきを!」
大洗の反撃に悪態をつくエリカ。
「準備いい?」
「はい」
「はいっ!」
「おちょくり開始~」
意気揚々と殺伐とした戦場へ向かう38⒯、その向かう途中、もくもく作戦の際に履帯が壊された黒森峰の戦車がやっとこさ戦場に復帰しようとしていたので、丁寧にもう一度壊す。これでもう少し復帰するのに時間がかかるだろう。
その頃、杏達の前を1輌のヤークトパンターが走っていた。そのヤークトパンターは、先程の杏からの待ち伏せ攻撃を喰らって本隊から置いていかれたものだった。
「ふぅ、何とか修理が間に合った~…………さて、早く本体と合流しなきゃ!」
キューポラから目の前に広がる戦場を見て安堵の溜め息をつくが、その後ろから聞き慣れない音が聞こえてくる。
「ん?何の戦車………………ってああ!?」
その視線の先に居た戦車は、先程自分の戦車の履帯を破壊した、大洗チームのヘッツァーだった。
「またあんな所から出てくるなんて………………7時の方向に例のヘッツァーよ!方向転換を急いで!」
ヤークトパンター車長の少女は操縦手にそう命じ、操縦手が大急ぎで方向転換しようとするものの、それも虚しく杏から砲撃を喰らい、再び行動不能に陥れられるのであった。
「うわああっ! 直したばっかりなのにぃ! このぉ、うちの履帯は重いんだぞ!!」
なんとも悲惨な声が聞こえた来たが、そんなこと露知らず会長は声高らかに叫ぶ。
「突撃~~!敵陣を掻き回せーっ!!」
「こんなすごそうな戦車ばかりのところに突撃するなんて、生きた心地がしない……」
「日向達じゃあるまいし………今更ながら無謀な作戦だな」
「ほら二人共、ビビんないビビんない。あえて突っ込んだ方が安全なんだってよ? 」
自分達を向けている黒森峰の戦車を前にして、柚子と桃の2人は若干の怯みを見せている。
「こう言うのって、敢えて突っ込んでいった方が安全なんだってよォ~?」
杏は何処からか持ち出した雑誌を片手に摘まんでみせた。
「それは後にしましょうか………………」
掴み所の無い会長に呆れながら、柚子はパンターとエレファントの間にヘッツァーを停めた。
「…え?何!?」
それを見ていた他のパンターの車長は、突然現れたヘッツァーに驚く。
「11号車、15号車! 脇に、脇にヘッツァーがいるぞ!!」
それに気付いたパンターの車長があわてて操縦手に足蹴りで指示を送る。その指示を受け、ヘッツァーの左隣に居たパンターは一旦後退して、走り出したヘッツァーを狙おうとするものの、直ぐ傍にエレファントが居た。
「くそ!同士討ちなるから撃たない!!」
その指示を受け、ヘッツァーの左隣に居たパンターは一旦後退して、走り出したヘッツァーを狙おうとするものの、直ぐ傍にエレファントが居た。
「あっ!ヘッツァーが来ました」
「敵陣が崩れます!」
「今です!微速前進一斉射!!!」
ヘッツァーの乱入した事で指揮系統が混乱して隊列が乱れた黒森峰にみほは攻撃を指示する。
「こちら17号車、自分がやります!!」
1輌のラングがヘッツァーを狙おうと方向転換するものの、
「やった!ラング1輌撃破!」
大洗チームからの砲撃を側面に受けて呆気なく撃破される。
「申し訳ありません! やられました!!」
「何やってるの!」
「私が……」
「待て! Ⅲ突がくるぞ!」
そう言い合っている間に、
「そらそらーーっ!」
大洗チームの戦車が少しずつ前進しながら砲撃を仕掛け、黒森峰チームはパニックに陥る。
その頃
「面白〜い、次から次へとよくこんな作戦考えるわね!」
観戦しているプラウダの3人ではノンナに肩車されたカチューシャがそう言った。興奮しながら言うカチューシャだが、肩車されている状態で動きすぎたのか、一瞬バランスを崩して落ちそうになるが、何とかノンナの頭にしがみつく。
「これで16対8ですね」
そんな事があっても、慣れているのか微動だにしないノンナはそう言った。
「ええ…………」
短く答え、クラーラはモニターに視線を戻した。モニターには、場を掻き乱されて撤退を始める黒森峰の戦車隊が映っていた。
「この場では、アキーシャの出番はあんま無かったわね…………ん?そう言えば大洗って、ヘッツァーなんか持ってたっけ?」
「決勝前に改造キットを購入し、38tに取り付けたそうです」
何処からそんな情報を手に入れたのか、ノンナがそう答えた。2人の会話を聞き流しながら、クラーラはモニターに映る秋人を見ていた。
(日向さん…………頑張って下さい……)
胸の前で手を組み、クラーラはそう願った。
一方のサンダースでは、
「あんなに混乱した黒森峰を見たのは、初めてです」
アリサは大洗の作戦に翻弄されている黒森峰を見て驚愕していた。
「黒森峰は隊列を組んで正確に攻撃する訓練は、積んでるけどその分突発的な事に対処出来ない」
「マニュアルが崩れてパニックになってる訳ですね」
ケイの言葉にアリサ納得し、改めてモニターを見る。
「右側がグチャグチャだよ!」
「右方向に突っ込みます!皆さん続いて下さい!」
大混乱となった黒森峰に見て、これを機とした西住みほが各車の指示を送り、高台の大洗の車両は一気に坂を降りる。
「レオポンさん、先行してください!ワシさんは後衛を!」
「あいよ!盾ならお任せってね!」
「心得た!」
先頭はポルシェティガー、登り坂ではスピード不足ではあるが下り坂なら問題なく進める。