『大洗突撃して来ます!』
「来させるな!撃てっ!」
そうして大洗の戦車は続々と下ってきて、エリカは攻撃を指示するがポルシェティーガーの装甲に弾かれ、そのまま立ち尽くす2輌のラングの間を通過していく。
極め付きに、最後部のルノーが煙幕を撒き散らしながら進んでいくため、大急ぎで方向転換して後ろを狙おうとしても煙幕で阻まれて砲撃は出来ず終いに終わる。
「いやっほー!」
「やりました!敵陣突破です!」
「やれやれ、スリル満点だな」
ポルシェティーガー操縦手であるツチヤとⅣ号装填手秋山は歓声を上げ、麻子は無表情ながらもそんなコメントを呟く。
『大洗戦車、全車両に逃げられました!』
「何やってるのよ、あんな弱小チームに!せめて1輌ぐらいはやりなさい!」
その頃黒森峰では、カモさんチームのルノーが張った煙幕で視界を遮られ、上手く動けずにいた。
段々と晴れつつある煙幕から遠ざかっていく大洗の戦車隊を見たパンターの車長が言うと、エリカはそんな声を上げる。
『落ち着け、体制を立て直して追え、此方も直ぐに向かう』
「私が行きます!」
エリカが叫ぶ中で、1人冷静なまほはそう言うが、エリカが先行すると言い出し、そのままティーガーⅡを向かわせる。
「どこへ向かう気なの?」
「面白くなってきたわね」
アリサは、大洗の行方が気になるのに対してケイは、ポップコーンを片手に大洗の行動にワクワクしながらモニターを見ていた。
『西住ちゃーん!うまくいったねーー!』
「カメさんチームのおかげです」
『この後は、次の川のポイントまでだよね?』
「ハイ!ちょっと離れますが南西の川ポイントCの地点に向かいます。また、カメさんチームには撹乱をお願いします」
『了解〜〜⭐︎』
とみほは、杏との通信を終える。すると、砲塔横の装填手用のハッチから顔を出していた優花里が黒森峰の追ってが来た事に気づいた。
「あ!西住殿、黒森峰の戦車が追って来ました!ここまでは西住殿と日向殿の読み通りですね」
「うん、各車縦隊でジグザグに走って下さい!敵の追撃を振り切りますっ!」
『『『『『了解!!』』』』』
みほは、ティーガーⅡの砲撃を避ける為に、全車両に縦隊でジグザグ走行する様指示する。
すると、他のチームがポルシェティーガーを追い抜く中でレオポンチームから煙幕とは全くの別物、純粋にポルシェティーガー本体から煙が発生している。つまり、壊れたらしい。ワイヤーで引っ張って登り坂進んだり、下り坂でスピード出したりと、思えば結構無茶な事もしたけど。
「レオポンが蒸せりだしたぞ!?」
「ちょっと宥めてくる」
と言って、ナカジマはキューポラから走行中のポルシェティーガーの外に出ている。その手には工具一式。
「はいはい、大丈夫でちゅよ~」
ナカジマは赤ちゃん言葉を使いながら工具を手にポルシェティガーの修理を始めた。それも走行中の戦車の上で。
「壊れた所を走りながら直している」
「流石、自動車部」
あんこうチームは、走行中でポルシェティーガーのエンジンを修理する自動車部に驚きと称賛する。
「逃がさないわ。目標1時フラッグ車!」
ティーガー改がフラッグ車であるⅣ号に照準を定めようとした時、突然ティーガーⅡが激しく揺れ出し、左に急激に曲がって行く。
「ちょっとどこ行く気なのよ!・・・・・・何やってんの!!!」
足回りの弱いティーガーⅡを振り回したせいか、足回りが壊れてその場で足止めを喰らう羽目になる。
「左動力系に異常!すみません、操縦不能です!」
エリカ達はティーガーⅡから降りてきて、壊れた部分の修理を始める。それを見ていたエリカは地団駄を踏みながら何か喚いている。必死になって修理するティーガーⅡの乗員達を背景に、大洗チーは次の作戦へと向けて行動を始めるのであった。
「プラウダ校対策だった重戦車運用が裏目に出た様ね」
「黒森峰の重戦車は足回りが壊れやすいのが欠点…それを狙ってたんですね」
ダージリンさんとオレンジペコの解説の通り。森の中の進軍から始まり、黒森峰側はずっと大洗をつけ回してきたのだ、足回りに負荷がかかるのは当然。
「走り回っていれば、黒森峰側は燃料切れをおこす車両も出てくるかもしれないわね」
そもそもプラウダ高校が相手ならこの黒森峰の戦力も納得だが、相手が大洗となると過剰戦力感がある。
「黒森峰車輌後方視界より消失(ロスト)・・・・・」
「効果あったみたいね」
「あぁ、あっちの戦車はパンターでも重量が45.5t、ティーガーⅡに至っては69.8tもあるからな」
「ポルシェティーガーとうちのティーガー改を除けば倍以上あるもんね」
「エンジン出力も700馬力と大出力だが、その超重量で走り続ければ・・・・・・これでしばらくは時間が稼げるだろう」
秋人がペリスコープで、黒森峰の戦車隊が見えなくなるのを確認する。
『あんこうチーム、左折します。付いて来てください』
其処へ、みほからの通信が入ってくる。
「左折?曲がったって見えるのは川だな…………」
「もしかして西住さん、この川を渡るつもりかしら?」
「ミーナ、あんこうチームが左折する。俺らもその後に続け」
「了解」
左折して坂を下り始めたあんこうチームのⅣ号を追うようにして、ティーガー改も左折して坂を下り始める。
他のチームも後に続いて坂を下り、川の前で停車した。
「大分離しました!」
「この先はどのルートを?」
「この川を渡ります」
「川を渡る!?」
「上流にはレオポン、下流にはアヒルさんが居て下さい」
「成る程、軽い戦車が流されない様に渡るんですね」
軽い戦車が流されないようにするため、上流側にレオポン、下流側にアヒルさんチームを配置するように指示を出す。
そうして並び替えを終えると、ゆっくりと川に入る。
「停まると動けなくなるから気をつけて下さい」
『了解!!』
横からの流れに揺られながらも、一行は川を横断する。そして半分まで来た時、異変が生じた。ウサギさんチームのM3が、突如として動きを止めたのだ。
「え?アレ!?う、動かない!?エンジン停まちゃったよ!」
そう言って、桂里奈はアクセルペダルを何度も踏むが、M3はピクリとも動かない。それどころか、エンジン音も力を失っていき、その音が完全に消えると共に、先程までの小刻みな振動も止まる。それは、M3がエンストした事を現していた。
「止まれ!止まれ!ウサギさんチームの様子がおかしい!川の半分辺りから動きが止まった」
キューポラの小窓からM3の異変に気がついた秋人が直ぐに戦車を停止させる。他の戦車が少しずつ動いているのに対し、M3は全く動いていないのだ。M3に並びかけていた他の戦車が停車する。
『みぽりん! ウサギさんチームが!』
沙織さんに言われて慌ててウサギさんチームを見ると、戦車がグラグラと明らかに危ない感じに揺れていた。
「ウサギさんチームがエンスト!?」
ウサギさんチームの異変を伝えられたみほは、そう呟いて狼狽える。
「ギアを上げてみろ!!一旦バックに入れて揺り戻せ!」
『だっ、だめです!掛かりませんっ!』
秋人に言われた通りにしてみだが、エンジンは掛からない。
「全然エンジン掛からないよ!」
「このままだと、黒森峰が追い付いちゃう・・・・」
その頃ウサギさんチームでは、何とかしてM3のエンジンを再始動させようと躍起になっていたのだが、幾らレバーを動かしてもエンジンが再始動する兆しを見せないと言う状態に、桂里奈から悲鳴が上がる。
エンストすると言うまさかの事態は、1年生をパニックに陥れようとしていた。
現に、悲鳴を上げた桂里奈の両目には涙が溢れている。どうにもならない状態に怯えているのだろう。その様子を見た梓は何かを決心したのか、みほへと通信を入れる。
「私達は、大丈夫です!隊長たちは早くいってください!」
「後から追いかけます!」
少なくとも、今のところはエンジンが再び動く兆しが見られないと悟った梓は、このまま自分達を置いて、先に行くように言う。
そんな声が通信機から聞こえてくる中、みほは判断しかねていた。
梓の言う通り、このままM3のエンジンが再始動するのを待っても仕方が無い。その上、下手をすれば追い掛けてくる黒森峰の戦車隊が追い付いて、今の状況などお構いなしに一斉攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
そうとなれば、大洗の敗北は決定したも同然になるのだ。そうしている間にも時間は過ぎ、川の流れがM3を横倒しにしようとばかりに、M3の側面装甲にぶち当たる。
「あぶない!」
「このままじゃ横転しちゃう!」
「もたもたしていると黒森峰が来るぞ」
「でも、ウサギさんチームが流されでもしたら……」
様子を見ていた沙織が言うと、麻子も付け加える。
「後方!黒森峰らしき煙を確認!」
「ちっ、近づいて来ます!」
『隊長!!早く!行って下さい!!』
そうして、立ち往生している間に後方から土煙が上がっていた黒森峰の車輌が近づいて来ている。梓は、自分達に構わず行く様に嘆願する。
「………………ッ」
みほは車長席に座り、膝の上に両手を置き、小刻みに震わせていた。
脳裏を過るのは、去年の試合………………雨で氾濫している川に沿った道を進んでいる途中、前方から奇襲攻撃を仕掛けてきたプラウダからの砲撃で、足場を失ったⅢ号戦車が土手をずり落ち、そのまま川に落ちる場面。
そして聞こえてくる、その時のⅢ号戦車の乗員からの悲鳴。
トラウマがフラッシュバックし、みほは目を固く瞑る。
それを見た沙織は、少しの間考えるような仕草を見せると、みほに声を掛けた。
「行ってあげなよ、こっちは私達が見るから」
「沙織さん・・・・」
そう言われたみほは、目を見開いて親友の顔を見る。沙織は無言のまま、ゆっくりと頷いた。
『みほさんが俺達にした様にそれで救われた人達がいる。仲間が死んだら、全国大会も勝ち負けもないだろ』
『自分が正しいと思った事をしたならそれでいいんじゃないか』
ふと、戦車格納庫での秋人の言葉を思い出す。みほは意を決し、席から立ち上がると、優花里に声を掛けた。
「優花里さん!ワイヤーにロープを!!」
「はい!!」
みほからの指示を受けた優花里は目を潤ませ、嬉しそうに返事を返しすと、直ぐ様ワイヤーとロープを用意した。
「みんな!少しだけ待っていてください!」
『え!?何する気なのよ!』
そして、ロープを腰に巻き付けたみほは、Ⅳ号のエンジン部分に飛び乗って前方を見やる。M3に辿り着くには、横に居る秋人のティーガー改、ルノー、Ⅲ突に飛び移らなければならない。深く深呼吸すると、みほは少ないスペースで勢いをつけ、秋人のティーガー改へと飛び移ると、そのままルノーへと飛び移る。
通信手用のハッチから見ていた沙織は無線機を操作して、ある人物に呼び掛けた。
「日向さん、聞こえる?」
『あぁ、武部さん。聞こえてるぞ』
呼び掛けられたのは秋人だった。
「お願い、みぽりんを手伝ってあげて!みぽりんと一緒に、1年生の皆を助けて!」
今の沙織には、その一言しか言えない。
『・・・・了解』
そうして、通信は切られた。
「前進する事より、仲間を助ける事を選ぶとはな」
「みほさんはやっぱり、みほさんね」
西住みほを見送ったⅣ号戦車の中で、彼女達が微笑み合う。
「だからみんな…西住殿について行けるんです。そして私達は、ここまで来れたんです」
「そうだね」
「私…この試合、絶対勝ちたいです。みほさんの戦車道が間違っていない事を証明する為にも…絶対に勝ちたいです!!」
華が両手をギュッと握り、沙織も優花里も麻子も、みんなで頷き合う。
「無論、負けるつもりはない」
「その通りです!!」
「もちろんだよ!みんな!みぽりんを援護して!!」
沙織が他の戦車道チームにも無線で指示を送る。黒森峰の戦車は当然こちらを待ちはしない。
動けないM3リーをワイヤーで固定するにしても、どうしても時間はかかってしまうだろう。
その作業の間、黒森峰の戦車を足止めする為にも、大洗学園戦車道チームが一丸となり守らなくてはならないのだ。