エンストしてしまったM3を助けるべく1人ワイヤーを持って一年チームに向かったみほ。そのみほと一緒に一年生達を助けてほしいと武部から頼まれた秋人は
「助けに行くとしますか………………お前等、ちょっとの間留守を頼むぜ?」
「「「Ich verstehe」」」
ヘッドホンを外しキューポラの上に立った秋人は、数メートルある戦車同士の間を軽々と飛び越え、Ⅲ突からM3へ移ろうとしていたみほの隣に並び立つ。
「相変わらず無茶するな、みほさんは」
「秋人さん!?どうして………………」
いきなりやって来た秋人に、みほは驚愕の表情を浮かべる。
「武部さんに頼まれたんだよ。みほさんと一年生達を助けてほしいって、あの子達を見捨てる事が出来ないんだろ?」
「………………うん」
その問いに頷くみほを見て、秋人は微笑む。
「それなら助けよう。こうしている間にも黒森峰が迫ってくるからな」
秋人はそう言うと前方のM3と、車体後部に出てきている1年生グループを見る。
今2人が立っているⅢ突とM3との距離は、今までのよりも若干離れていた。
無理にでも飛び越えようとするみほを手で制すると、秋人はみほを横抱きに抱き上げる所謂お姫様抱っこをする。
「ッ!?」
突然抱き上げられた事に、みほは顔を真っ赤にする。
「あのまま飛び越えようとしても川に落ちるだけだ。ちょっとの間だが我慢してくれ」
そう言って、秋人はみほを抱き抱えたまま、M3へと飛び移る。
試合会場の誰もがそれに釘付けだった。歓声をあげ、あるいは微笑み、そしてある者は悔しそうに。
「カチューシャには、あんな事出来ないなぁ…と思ってるでしょ?」
「…違うわよッ!!」
ノンナに言われて怒鳴りながらむくれているカチューシャ、まぁノンナはからかい半分で言ってるんだろうが。
「西住ちゃ〜んも日向君、飛んでるねッ!!」
「みんなで勝つのが、西住さんの西住流なんですね!」
「ッ!!あぁ、もう急げ!!」
ヘッツァーの中でみほの行動に称賛する杏、感動し涙を浮かべる柚子、敵が迫っている中急かす桃。
「隊長!日向さん!」
目尻に涙を浮かべながら、声をかけてくる1年生グループ。秋人がみほに視線を移すと、みほは腰に巻き付けていたワイヤーをほどく。
「みんなでこれを引っ張りましょう」
『はい!!』
そうしてみんなでⅣ号の車体後部で纏めて置かれてあるワイヤーを引っ張る。
「よし、ワイヤーを戦車に」
「それは、左側は俺がやる。みほさんらを助けに来たのにみほさんに任せきりじゃ示しがつかん」
M3にワイヤーの纏まりが出来るとみほは八九式へ、最後にポルシェティーガーへと飛び移ると、車体後部のフックにワイヤーの先をくくりつける。秋人も三突、ルノーB1、ティーガー改、Ⅳ号と飛び移り同じ様にフック付きワイヤーをくくり付ける。
「沙織殿に手伝ってもらいたい事が!」
「エ?何!?」
Ⅳ号では、優花里が砲隊鏡を取り出して車体の上に立つ。
「私が砲隊鏡で敵車輌を観測しますので、沙織殿が各車に指示して西住殿の援護射撃をしましょう!」
「分かった!みんな、みぽりん達を援護して!」
『了解!』
「後方6時の方角より敵集団接近中!距離二五〇〇、もう直ぐ砲撃が始まります!!」
『隊長の邪魔はさせない!』
『隊長、かっこいいじゃないの!!風紀委員の名に懸けてここは通さないわよ!』
『今程、思ったことは無い。回転砲塔が羨ましいと!!』
『隊長を守るんだ!』
他のチームは砲塔を後ろに旋回させて、後方から迫って来る黒森峰の車輌に向かって砲撃を仕掛ける。砲撃の最中、ワイヤーをくくりつける作業を終えた秋人とみほがM3に戻って来た。
「よし、ワイヤーをつけて来たぞ」
「こっちも終わったよ」
すると、1年生グループが詰め寄ってきた。
「隊長!日向さん!」
「「え?/ん?」」
「ありがとうございました!」
「色々とご迷惑をお掛けします!」
と一年生達は、涙を浮かべながら2人に御礼を言った。
「エヘへ・・・・」
「気にするな。じゃあ、早く離脱するぞ」
「うん!」
「はい!」
そうして秋人は再びみほを抱き抱え、他の戦車を飛び越えていった。
一方、黒森峰では
「こんな所で攻撃?」
エリカが双眼鏡を除くとみほが動けなくなったM3を救出しようとしている所だった。
「ふん、相変わらず甘いわね…、その甘さが命取りなのよ(そんなあなただから、わたしは大嫌いなのよっ!)」
双眼鏡で大洗のやり取りを眺めながら逸見は各車に指示を送る。
「全車、前進用意!…丘を越えたら川に沈めてやるわ!!」
前進を始める黒森峰だが、その背後からエンジン音を響かせないように静かに迫る一両の戦車。
「後方7時敵、11号車、やれ」
だが西住まほはその気配を感じとり、ちらりと後ろを向くと指示を送る。
西住まほからの指示に発射された砲撃はヘッツァーの近くに着弾、直撃こそ無かったがこうなると奇襲は無理だろう。
「よ〜し・・・・・・うひゃあ~!さすがに三度目はないかぁ!!」
黒森峰側もこれまで散々状況をかき乱してきたヘッツァーには警戒している、こうなるとこれ以上の奇襲は難しいだろう。
その頃、Ⅳ号とポルシェティーガーとの間をワイヤーで繋ぎ、そのままM3を引っ張って川を渡っている大洗チームでは………………
「動いてよォ~!」
操縦手の桂里奈は、何とかしてM3を動かそうと、イグニッションを何度も押す。
すると、車内に小さな振動が起こり、次の瞬間には大きな音を起こした。
M3のエンジンが蘇ったのだ!
「みんな、ウサギさんチーム動き出したよ!!もう大丈夫だって⭐︎」
「よかった」
「全車両、ウサギさんチームと歩調を合わせて移動してください」
みほはそう指示を出し、他のチームの車長達はキューポラからウサギさんチームのM3の様子を見ながら、其々の操縦手にアクセルの踏み具合を調節させる。
そして、向こう岸に辿り着いた頃には、M3はすっかり調子を取り戻す。
ワイヤーが回収され、大洗の戦車は次の目的地へと突き進んでいく。
「大洗の連中逃げてばかり!どこへ、向かう気!?」
「おそらく市街地・・・・」
双眼鏡を覗いてそう呟くエリカにまほは地図を見て、大洗チームの目指す場所を予測する。
「このまま南西Dポイントの橋にて、カメさんチームと合流します」
そうして、橋の前に来ていた大洗チームでは、先程まで単独行動を行っていたカメさんチームのヘッツァーが合流した。
「お待たせ〜」
「橋を渡ります」
「承りッ!」
先頭のⅣ号に続いて、八九式、M3リー、三突、ルノーB1、と重量の軽い戦車から先に行き最後から2番目に秋人達ティーガー改が橋を渡りきり、残るはポルシェティーガーただ1輌となる。
「橋?・・・・戦ってるより逃げてる方が多いんじゃないの?」
エリカは偵察に向かわせていたⅢ号からの通信でそう呟く。ポルシェティーガーが慎重に進んで行き、橋の真ん中辺りに差し掛かった、その時
「此処が腕の見せ所だぁ!」
ツチヤはそう言うと、何やら操作して操縦捍を前に倒す。すると、ポルシェティーガーのエンジン部分からジェットエンジンを小型化したような音が響き、次の瞬間には車体前部を軽く浮かせて急発進した。
ドスン!と音と立てて浮き上がった車体前部が橋に叩きつけられ、ポルシェティーガーが橋を渡りきった頃には、橋の真ん中が壊されていた。
それが、橋を渡る際の作戦である。
「橋が!?」
その頃の黒森峰チームでは、偵察に出したⅢ号戦車の車長から、大洗チームのレオポンが橋を破壊した事を知らされたエリカが驚いていた。
普通、橋を壊すなら渡りきってから主砲を撃ち込んで木っ端微塵にしてしまえば良い。
と言うか、それしか方法は無いと思われていた。だが、レオポンは加速する時の勢いと車重を利用して橋を破壊したのだ。
「分かった、橋は迂回して追う。お前は先回りしろ!!」
エリカはそう指示を出し、Ⅲ号戦車の車長から伝えられた事をまほへと話すのであった。
「橋を通過後・・・道沿いに北西へ移動、市街地に入って下さい。そこで黒森峰を迎え撃ちます!」
そう指示し、大洗チームは道沿いを通って市街地を目指した。
「何とか時間が稼げた、これで市街地戦に持ち込める」
Ⅳ号のキューポラから上半身を乗り出したみほは、見えてくる町を視界に捉えてそう言った。
グロリアーナとの練習試合のように、市街地戦で決着をつけるつもりなのだろう。
その時、建物の影から1輌のダークイエローの戦車がひょっこりと顔を出した。
「Ⅲ号だよ。H型かな?それともJ型かな?………………って、一目見ただけで戦車の車種分かっちゃう私ってどうなの………………?」
1人ツッコミを入れている沙織を置いて、一行は速度を上げた。
「Ⅲ号なら、突破出来ます。後続が来る前に撃破しましょう」
『『『『『『『『『はい!』』』』』』』』』
そう。Ⅲ号戦車は、火力や防護力は然程高くはないが、その分機動力が高いため、下手に回り込まれでもしたら撃破される可能性も否定出来ない。そのため、後続が居ない間に撃破する必要があった。
「……1両だけ?妙だな…偵察にしては堂々としている。足止めに使うにもⅢ号では突破される………何か隠し玉が居るのか?重戦車か?いやでもただの重戦車ならこんな市街地に伏せておく理由がない… 」
「それにしても、先から私達Ⅲ号に誘い込まれている様な感じね」
「あぁ絶対に罠だ、何を企んでいる?」
そんな思考を巡らせる秋人。市街地を逃げ回るⅢ号戦車を追い回す大洗チームの一行。
カモさんチームのルノーが先頭に出てⅢ号戦車を追う。そして、とある角を曲がると、十字路の先で此方に背を向けて停車しているⅢ号戦車の姿があった。
「よぉーし、追い詰めたわよ!」
みどり子がそう言って主砲を撃とうとした時、地面が小刻みに揺れ始め、十字路の横から三色迷彩柄の巨大な物体が姿を現した。
「壁、門?」
突然現れた物体に、みどり子は首を傾げる。そして、キュラキュラと音を立てながら、その物体の全貌が明らかになった。
「戦車ァ!?」
なんと十字路の横から現れた巨大な物体は壁でも門でもなく、戦車だったのだ!
「あ、あれは………………Ⅷ号戦車――マウス――です!」
Ⅳ号のハッチからその姿を見た優花里が声を上げる。現れたのは超重戦車マウスがバックしながら現れたのだ。
「す、凄い…………私、マウスが動いているところ、初めて見ました………………ッ!」
砲塔を動かそうとするものの、建物の壁に当たってしまい、もう少し下がろうとしているマウスを見て、優花里はそう言葉を続けた。