マウスの登場に、大洗学園側は防戦一方に陥った。その装甲と重量の前に、大洗学園側の攻撃は一発も通らない。
「来ちゃった…マウス」
「地上最大の…超重戦車」
Ⅷ号戦車マウス、第二次世界大戦中にドイツで試作された超重戦車。
「退却してください!」
その次の瞬間には、マウスが発砲。放たれた砲弾がヘッツァーの直ぐ傍を掠めていき、彼女等の死角に着弾、コンクリートの一部を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「や~ら~れ~た~!」
あまりの衝撃で地面が揺れ、さらに着弾の余波でヘッツァーの車体が軽く浮き上がり、杏がそんな事を叫ぶ。
「やられてません!」
「ただ死角に着弾しただけです!」
「どっちにしろ、凄いパワーだねぇ~…………」
柚子と桃にツッコミを入れられながら、杏はそう言った。
「このっ…………デッカいからって良い気にならないでよ!こうしてやるわ!」
みどり子はそう叫びながら、主砲と副砲を撃つ。だが、マウスからすれば危険なものでもなく、涼しい顔で砲弾を弾く。そして、仕返しとばかりに主砲をブッ放してきたのだ。
マウスの主砲――128㎜――砲弾の直撃を受けたルノーは引っくり返り、そのまま行動不能を示す白旗が飛び出した。
大洗チームの戦車が退却を始める中、マウスは彼女等を追いながら主砲を撃つ。後退しながら反撃を試みるが、マウスの前面装甲は240㎜。どうやっても撃ち抜けるようなものではなかった。ポルシェティーガーの砲撃でさえ、まるで蚊がぶつかったかのような何とも無い顔で弾いてしまう。
「カモさんチーム、怪我はありませんか!?」
『そど子、無事です!』
『ゴモヨ、元気です!』
『パゾ美、大丈夫でーす』
『皆、ゴメンね!』
沙織からの通信に、カモさんチームのメンバーから返事が返される。
「おのれ!カモさんチームの仇!」
左衛門佐がそう言いながら引き金を引くものの、やはり効果は無く、逆に反撃されて横倒しになり、そのまま撃破されてしまう。
「2輌撃破された………………これで残り、6輌」
横倒しになったⅢ突の傍を通り過ぎようとするマウスを見ながら、みほはそう呟く。
その頃、市街地へ向かわせている2輌を除いて15輌も残っている黒森峰本隊が、パンツァーカイルの隊列を組み、市街地へと向かっているのであった。
「2輌撃破しました」
「あと6輌・・・・」
「こちらは15輌残っています」
「フラッグ車を潰さねば意味はない」
エリカの言葉にまほはそう言い返す。
「我等の…」
「歴史に…」
「今…」
「…幕が降りた」
白旗を上げるⅢ突の横をマウスが通りすぎる。
「何よ!あんな図体して何がマウスよ!?」
引っくり返されたルノーの中で、みどり子が叫ぶ。
「残念です」
「無念です」
みどり子に続き、ゴモヨとパゾ美もそう呟く。
「冷泉さん、後は頼んだわよ!約束は守るから!」
みどり子はタコホーンで麻子にそう叫び、それを聞いた麻子は目を輝かせた。
「さすがマウス…大洗学園は正念場ですね」
「正念場を乗り切るのは勇猛さじゃないわ」
オレンジペコの言葉にダージリンさんはモニターを眺めながら静かに呟いた。
「冷静な計算の上にたった…捨て身の精神よ」
「はい」
その頃大洗チームでは、どうにかしてマウスを叩こうと、メンバーは躍起になっていた。相手より機動力が高いのを駆使して逃げ回りつつ、隙が出来れば攻撃を仕掛ける。先程から、その繰り返しとなっていた。
「何をしてるんだ、早く叩き潰せ!図体だけがデカいウスノロだぞ!」
ヘッツァーの75㎜砲弾を装填しながら、桃が叫んだ。
「無闇に車体を狙っても意味はありません、砲身を狙ってください!」
みほがそんな指示を出している最中、マウスの後ろではⅢ号戦車が挑発するように蛇行運転をしていた。
「お前達の火力でマウスの装甲が抜けるものか~、あっはっはっはっ………………」
Ⅲ号戦車の車長が高笑いするものの、秋人の指示を受けた綾乃によって、ティーガー改の88㎜砲弾を砲身に叩き込まれ、そのまま撃破を示す白旗が飛び出す。
「虎の威を借る狐が、最速で死んどけ!」
双眼鏡で、Ⅲ号戦車の撃破を確認した秋人が口汚く罵る。
「私達も攻撃する?」
「いや、正面を狙うのは砲弾の無駄遣いだ。マウスの装甲の薄い箇所に砲弾を撃ち込む」
「そうするしかないか」
ティーガー改の車内でそんな会話が交わされている最中でも、マウスから放たれた砲弾がⅣ号の直ぐ前に着弾し、一行は再び後退する。
「市街地で決着をつけるなら、やっぱりマウスと戦うしかない。ぐずぐずしてると主力が追いついちゃう」
黒森峰の本隊とマウス、その両方を相手にする前に、ここでマウスは倒しておかなければならない。
「ま・・・まるで歯が立たないです・・・」
「マウスすごいですね!前も後ろもどこも抜けません!!」
「いくらなんでも反則だよっ!」
武部は自前で書き記していた戦車でーたと書かれたノートに目を通す、そこにはマウスについて書かれたページもあった。一回戦、サンダースとの試合が終わってから書き始めたこのノートも今では沢山のページができた。戦車について教えて欲しい、と彼に頼み、一緒に作ってきたノート。…みんなにはちょっぴり内緒だったり。
「大き過ぎてこんなんじゃ戦車が乗っかりそうな戦車だよ!!」
「あっ…」
武部のその言葉にみほは前方のマウス、その回転する砲塔へと目をやった。
「ありがとう沙織さん!!」
「…へっ?」
『みほさん!』
「秋人さん!」
秋人とみほの無線が同時に鳴る。みほの判断が早いようだ。
『マウスに何時迄も時間を割く訳にはいかない、早いとこ片づけるぞ』
「うん、あんまりもたもたもたできない。お姉ちゃんが来ちゃう」
秋人とみほは作戦の概要を話し合い、そしてみほは無線を繋げる。
「カメさん、アヒルさん、少々無茶な作戦ですが今から指示通りに動いて下さい!!」
『わかりました』
『なんでもするよー!!』
返ってくる返事に少しだけ罪悪感も出てしまう。これからする事が危険な作戦であるのは、みほ自身が一番わかっている事だから。
「ちょっと負担をかけてしまいますが…」
『今さらなんだ!いいからさっさと言えー!!』
河嶋のその言葉に感謝をしつつ、みほはマウス討伐に向けての作戦を説明す
る。
マンションに挟まれた狭い道路を移動しているマウスは大きな交差点に差し掛かると、一旦停車する。
「西住殿、マウスが来ました!」
「黒森峰との市街戦に持ち込むには・・・・ここでマウスを撃破しないといけません!ですが・・・・マウスはこちらの通常攻撃では・・・・歯が立ちません・・・・なので・・・・」
みほがそう言うと同時に大洗の全戦車も動き出すのだが、その中でも、ヘッツァーが先陣を切るような速さで突っ込んできていた。
「まさか、こんなにも滅茶苦茶な作戦だったとは………………」
「やるしかないよ、桃ちゃん!」
および腰になって呟く桃に、柚子が力強く言い放つ。
「うひょ~、燃えるねぇ~!それじゃあ行こうか!」
杏はそう言って、ヘッツァーの砲身を下げる。柚子はアクセルをさらに強く踏み込み、そのままマウスに体当たりを喰らわせた。
「あ〜〜〜マウスとヘッツァーが正面衝突・・・・」
『パワー最大!』
『ハイっ!』
「ウサギさん、レオポンさん今です!」
『がってん!』
『承知!』
みほ指示でマウスの横にM3とポルシェティーガーが停まった。
「撃てるモンなら………………」
「撃ってみやがれ!おりゃあ!」
M3の機銃弾がマウスの装甲スカートを叩き、ポルシェティーガーから放たれた88㎜砲弾が、追い討ちを掛けるようにぶち当たる。マウスの砲塔を回転させて2輌に狙いを定める。
「来た来た!」
「にっげろ~!」
砲塔の回転が止まると同時に撤退を始め、2輌はマウスからの砲撃を回避する。
「アヒルさんっ!」
其処へ、アヒルさんチームの八九式が全速力で突進していた。
「さぁ行くよ!」
「「「はい!」」」
磯部の掛け声に、他の3人が返事を返す。
「「「「そぉーれっ!!」」」」
そして、何と八九式はヘッツァーを踏み越えて、マウスの車体上面に乗り上げたのだ!そして、八九式はヌルヌルと車体上面を動き回り、横を向いたままの砲塔の隣に引っ付く。
「良し、ブロック完了しました!」
砲塔を戻そうとする動きを遮っているのを確認した典子はそう言った。
「了解!頑張って何とか踏み留まってくれ!ミーナ!」
「任せて!」
秋人はそう言うと、ミーナに指示を出してIティーガー改を発進させる。
「アヒルチーム、なんとか踏みとどまってくれ」
マウスの車体上面に八九式が乗かって砲塔を旋回できないマウス、
「おいどけ!軽戦車!」
「いやです、それに八九式は軽戦車じゃないし」
「中戦車だし」
マウスの車長が叫ぶが、斜めになった車体に、中戦車とは言え戦車の重さと車体が伸し掛かり、砲塔を正面に向ける事が出来なくなる。
「クソ!振り落としてやる!!」
そうして、マウスは八九式を落とそうと、八九式はその場に留まろうとして、互いに押し合う。そうしている内にも、マウスの車重に加えて八九式の車体がのし掛かるヘッツァーからは、押し潰されてあちこちが壊れていくような音が鳴り響く。
「なにをやってるんだーー!?」
「車内ってコーティング守られてるんじゃ……」
「マウスは例外なのかも」
例外もなにも、特殊コーティングは戦車の砲弾に対してであってこんなことを想定して作られているわけではないので、必然的に今の杏達は挽肉にされそうな状態なのだ。
『日向急げーっ!』
「わかっている!」
と桃が急かす。これは下手するとトラウマレベルの物である。いろんな意味で時間はかけられない。
「もう駄目だあぁーー!! もう持ちこたえられない!!」
「根性で押せ!」
「はい!」
「気持ちはわかるけど意味ないですから!」
上と下で大騒ぎである。けどそれもすぐに収まるだろう。ティーガー改の左側の履帯は動きを止め、ドリフトのような挙動を描きながらマウスの背後に迫る。
「次弾装填完了!」
「マウスの後ろに回り込め!綾乃、後部のスリットを狙え!!」
「ヤー!」
「撃て!」
その一言で、綾乃は引き金を引き、放たれた88mm砲弾は秋人の指示通り、マウスのスリットに叩き込まれる。激しい爆発音と共に黒煙が噴き上がり、撃破を示す白旗が飛び出す。