そして、その日の夜遅く。秋人の副官兼参謀のミーナは、この日の出来事ががあったばかりだから、なかなか寝付く事が出来なくて・・・・。何気なく外へと足を向けていた。
「あっ・・・・」
そこで、意外な人の姿を見つけ、ミーナは足を止める。
「・・・・ミーナも眠れない様だな」
「うん・・・・未来にタイムスリップなんて事があったから。もしかして、秋人も?」
「確かに今日の事が心に引っかかってはいるが・・・・あの頃は昼夜を問わず戦闘があったからな。普通に目が覚めているんだ」
「あ・・・そうだよね・・・」
独ソ戦の間、昼間にも秋人と一緒にいる事が多かったので、変に錯覚してしまった様だった。やがて秋人は、天上で静かに瞬く星空を仰いだ。
「目の前で戦友が次々と死んでいく中で、俺だけが生き残ってしまった。戦友、そして部下も・・・俺が側に居たにも関わらず死なせてしまった。もっと俺が強ければ、皆は死なずに済んだのかもしれない・・・・」
そう話す秋人の苦悩は、目の前で大切な戦友を亡くしたときの気持ちそのものだった。
「確かに私達は、生き残った。でも、それはまだ生きたいって・・・・やりたい事があるって気持ちが強いから・・・そう思う自分もいるんだよ・・・」
「ありがとう、ミーナ。俺達は、この先戦車で戦い続けるだろう。俺は、もう仲間が死んでいくのを見たくはない。ミーナ達は、嫌がるかもしれないが・・・・俺は・・・・ドイツ軍人としてこの学園のために戦い続ける」
秋人を止めたいのに、止められなくて・・・・。きっといつまで経っても、この答えは出ないのだろう。ならば、私ができることは・・・。
「さあ、もう中に戻ったらどうだ?」
「私・・・・もう少しだけ、一緒にいてもいい?そして・・・秋人のする事を見届けさせて・・・・」
「・・・いいよ。ミーナの気が済むまで」
微笑んで応える秋人に、私は頷いて応えるのだった。この先戦車を続けるなら、私は秋人の全てを見届けよう。そう、心に誓うのだった。
翌日、レンガ倉庫の前には戦車道履修生や生徒会にⅣ号戦車D型をはじめ、38(t)戦車C型・八九式中戦車甲型・Ⅲ号突撃砲F型・M3中戦車"リー"が並んでいた。
「八九式中戦車甲型・38(t)軽戦車・M3中戦車リー・Ⅲ号突撃砲F型・Ⅳ号中戦車D型。どう振り分けますか?」
「見つけたもんが見つけた戦車に乗ればいいんじゃない?」
「そんな事でいいんですか?」
と適当な事を言う角谷に、小山はそれでいいのかとツッコミを入れる。
「38(t)は、我々がお前達はⅣ号で」
「え、あ。はい」
と河嶋から乗る戦車を決められて返事をするみほ。
「では、Ⅳ号Aチーム、八九式Bチーム、Ⅲ突Cチーム、M3Dチーム、38(t)Eチーム、明日はいよいよ教官がお見えになる粗相のない様綺麗にするんだぞ」
「どんな人かな?」
Ⅳ号(西住みほ・武部沙織・五十鈴華・秋山優香里)、八九式(磯辺典子・近藤妙子・河西忍・佐々木あけび)、Ⅲ突(カエサル・エルヴィン・左衛門佐・おりょう)、M3(澤梓・山郷あゆみ・丸山紗季・阪口桂利奈・宇津木優季・大野あやの)、38(t)(角谷杏・河嶋桃・小山柚子)と言った感じにチーム分けが発表されて戦車道の教官が来るまでに戦車を洗車する様河嶋から言われ、沙織は戦車道の教官がどんな人かとワクワクする。そんな時、角谷が履修生の方に振り返り。
「それからみんなに、朗報があるんだ〜」
『朗報?』
「今回助っ人としてこの大洗女子学園戦車道特別チームとして此処に配属することになる者達が今日此処に来る」
「どんな人達なんですか?」
「その子達は、とある複雑な事情を抱えている子でね〜。この大洗女子学園の力に成ってくれる筈だから」
「そんなに強い人達なんですか?」
「強いよ〜。幾多の戦車戦を何度も経験して戦ってきたベテランだから〜」
「「「おおぉー!」」」
「すごい、その人達が加わってくれるなら百人力だ」
角谷が、皆んなにそう言うと心当たりのあるみほ達は、小声でヒソヒソと耳打ちをする。
(ねぇ、その助っ人って・・・・)
(まさか・・・)
(もしかして・・・)
(日向さん達の事なんじゃ・・・)
その頃秋人達は、森の中でティーガーに乗り腕時計を確認する。
「そろそろグランドに行くか、エンジン点火!!」
「了解!いい子ね。頼むわよ」
そして、ミーナはティーガーのエンジンを始動させる。凄まじい独特のエンジン音が唸りを上げる。T-34から砲撃で多少は損傷を負ったがエンジンは何ら問題なく燃料を加えれば再び動かす事ができた。
「エンジンの調子は如何だ?」
「いい音よ。ご機嫌に吠えてるわ」
「よし、行くか」
「ええ」
「よしゃあ!俺らの晴れ舞台だぜ!!」
「まさかまたこうやってみんなと戦車に乗る事になるとはねぇ」
「これもまた運命なのかもしれないね」
とみんながそれぞれの思いを言い、
「よし、それじゃあ・・・・」
『パンツァーフォー!!』
5人が同時にそう言うと同時にティーガー戦車はグランドに向かって前進して行く。
「あ!来たみたいだね〜」
そして森から純白の塗装され通信用マストには、ナチスのシンボルハーケンクロイツが描かれたドイツ国防軍の旗を掲げたティーガー戦車が現れ履修生の方に正面を向けて距離役10m前後のところで停車する。
「大きくて強そうな戦車だね」
「どんな人が乗っているのかな?」
とワクワクしながら見ているとティーガー戦車の砲塔と車体にあるハッチが開き、そこからドイツ軍のM36野戦服の軍服を着た5人の男女が出て来て降りて来た。
「ねぇ、あれって軍服?」
「あー!私知ってる特撮とかで悪の大幹部が着ている服だ」
「あれは、ドイツ軍の36年型野戦服だな?」
「それに、男の人が混じっているよ?」
と秋人達の着ている軍服に歴女の一人で欧州戦史に詳しいエルヴィンが驚き、一年生のチームの澤梓が戦車に女子の他に男子も混ざっているの驚く。そんな彼女らを余所に秋人達は整列し、一人ずつ一歩前に出て自己紹介をする。
「guten Tag、ドイツ国防陸軍第2ウクライナ方面軍南方軍集団第57装甲軍団装甲擲弾兵師団『グロースドイチェラント』グロースドイッチュラント戦車連隊第3戦車大隊大隊長日向秋人少佐だ」
「同じく第3戦車大隊所属紅月ミーナ階級は中尉よ」
「俺は、佐山良階級は少尉だぜ」
「僕は、成瀬幸也階級少尉だよ」
「私は、香坂綾乃階級少尉だ」
と秋人、ミーナ、良、幸也、綾乃の階級が高い順に挨拶をする。