西住流現当主西住しほは複雑な表情で試合を見ていた。自身の娘二人がこの戦車道全国大会で戦っている、そのことに関してはなんら不安は抱いていない。しほが気になっているのは娘たちではなくむしろ――、
「また眉間にシワがよっているわよ。そんなんじゃ常夫さんから怖がられると思うのだけど」
しほが座っている観覧席にはまわりに人がほとんどいない。彼女から発せられているオーラのせいか、本人の険しい顔のせいかは定かではないが。そんな近寄りがたいしほに対して話しかける人物が現れる。島田流現当主の島田千代だ。
「……なにしにきたの? あなたが高校の大会に顔を出すだなんて珍しいこともあるものね」
「理由ならわかってるんじゃない?」
「なんの・・・・」
「日向秋人くん」
「……ああ、そういうことね」
納得したしほはそれだけを言ってまた試合が映し出されているモニターへと視線を移す。話題を振った千代は、勝手に納得して話題をぶつ切りに終わらせた親友を睨む。
「……なにか?」
「なにか? じゃないわよ。ホントに昔から変わらないわね。その仏頂面いい加減にどうにかしたら?」
「どうでもいい話をしに来たのなら帰りなさい。今日は大事な試合なのよ」
そう、大事な試合だ。できれば最後まできちんと見届けないといけない。
「それはどっちにとってのかしら? まほちゃん? それとも……」
千代が最後まで言い切る前にしほは言う。
「愚問だわ……、西住流にとってよ」
「……ホントにそういうところは変わらないわね。愚問ついでに聞くのだけど、しほも彼を婿養子にしようと思ってるんでしょ?どうして?」
「…………答える義理はないわ」
「……そう、あなたならそう答えるわね」
千代はその返答には特に気にせず会話を続ける。
「今回の試合に秋人くんを応援させてもらうわ」
だって、と千代は続ける。
「秋人くんには、この試合が終わったら娘の愛里寿の婿養子になってもらおうと思ってるの。まぁ、言いたいことはそれだけよ」
彼女なりの宣戦布告なのだろう。そういって千代は去っていった。先程言っていた千代の言葉を聞いて少しばかり驚くべき内容が含まれていたからだ。そしてしほは再び視線を戻し、モニターを見つめる。
「……あなたの戦車道、確かめさせてもらうわ」
ただ静かに、しほはそう呟いた。
そして、ポルシェティーガー撃破のアナウンスを聞いた秋人達は
「ポルシェ・ティーガーがやられちゃったか………けど、良く耐えたわね」
「決着が着くまでは持たなかったみたいだが、何輌かは撃破しただろうし、あんな角度で道を塞いだんだ。回収車が来るか、無理矢理退かすかしねぇと、黒森峰の連中は中には入れねぇだろうな」
「まあ、道を塞いでいる態勢が体勢だからな。こっからは見えねえが、無理矢理車体を捩じ込んでしまえば、一応は通れる程度の隙間………………なのか?」
レオポンチームの行動不能を知らせるアナウンスを聞いた、ミーナがそう言う。それに続いて、秋人と良が言った。
「レオポンから連絡来たよ」
「よーし、徹甲弾装填!」
レオポンから無線で連絡が来たので秋人達は早速準備に入る。
「よーし、出撃だ!お前ら!!」
『ヤー!』
そういって早速準備する。
一方、
「突撃!中央広場へ急げ!!」
残る戦力を一まとめにして逸見は中央広場、西住達姉妹の所へ向かおうとする。
「ッ!ポルシェティーガーが邪魔で通れません!!」
だが、その入り口には白旗をあげたポルシェティーガーが今もまだ陣取っている。『白旗のあがった戦車は攻撃してはならない』、つまり破壊不能の障害物が今度は入り口を陣取るという訳だ。
これを排除するのは彼女達選手の役割ではない。
「回収車急いで!!」
「「ゆっくりで良いよ~」」
もう少しのところで先に進めないと言うもどかしさから声を荒げるエリカの声が聞こえていたのか、ナカジマとホシノが声をハモらせて言った。
「くっ!こうしている間にも、隊長が………!」
そして、後続隊が合流した
「副隊長!遅れました!」
「いいえ、速いも遅いも隊長合流するのは無理だわ………」
はぁとため息をつくエリカ。赤星小梅はキューボラを開けて確認する
「(ラングとパンター、エレファントとヤークトティーガーの4両撃破され………ん?待って………ティーガーは………?)エリカさん!ティーガーは?」
「っ!言われてみれば!」
小梅の言葉にエリカは目を見開く
「いやぁー、少し早かったかなぁ………でも、良いかな?」
「………あんたがポルシェ・ティーガーの車長ね。随分と手こずらせてくれたわね」
「お褒めの言葉として受け取っておくよ。………まぁ、本当のお楽しみはこれからさ」
「何を………」
そう言って、ナカジマはタコホーンに指を添えて通信を入れた。
「ああ、日向君?うん、私。ナカジマ……うん、舞台は整ったから、後は好き放題に暴れちゃって良いよ~」
そうして、秋人との通信が切れる。このやり取りから、秋人達が何処かに隠れている事に気づいたエリカ達一行だが、それに気づいた頃には、もう遅かった。その時、突然ラングの後部エンジンに直撃した後隣のパンターの側面に砲弾が着弾し炎と煙を上げ撃破判定のフラグ上がる。2輌を同時に撃破された。
「!何処から!?」
遠距離からの砲撃である。
「あれ!見て!」
黒森峰生徒が叫んだ先を見ると瓦礫となった建物の影に隠れた1輌の戦車。三色迷彩の車体を持ち、砲塔にはワシのパーソナルマークが描かれたティーガー改重戦車のキューポラから上半身を乗り出した1人の青年日向秋人。
「内臓がちぎれろクソ野郎」
と口汚く罵る秋人。
一方、
「見たか!?一発で2輌撃破したぞ!!あの戦車!」
「あんなの今まで見た事ねぇぞ!」
「一体何者なんだよ彼奴は!?」
観客席では、一発の砲弾で2輌の戦車を同時撃破すると言う離れ技を披露した秋人の様子がモニターの画面一杯に映し出され、それを見た観客達から驚きの声が次々と上げられていた。
「す・・・すごいお兄ちゃん、あんな事も出来たんだ」
普段は感情の起伏が大して無い愛里寿も、流石にこれには驚いたらしい。目を見開いてパチクリと瞬きしていた。時折、両手で目を擦って再びモニターへと視線を戻すが、目に飛び込んでくる状況は全く変わっていない。
「ほんと・・・・彼には驚かされるわ」
しほがいる観客席とは反対方向で試合を観ていた千代はつぶやく。千代が秋人のことをきちんと認識したのは愛里寿が彼に懐いてからだ。それまでは男で戦車道と言うただの物珍しい程度でしかなかった。
愛里寿が他人に懐くのは相当に珍しかったが、きっかけはそれでない。それは、テレビでやっていた全国大会で大洗とサンダースの試合を偶然見てからだ。それまでの愛里寿はそこまで戦車道に乗り気ではなかった。だが、月刊戦車道で彼の試合を見てそれ以降、愛里寿は戦車道を熱心にやるようになったように思える。たぶん、大好きなお兄ちゃんに追いつきたかったのだろう。千代的には男には近づいて欲しくなかったが、前に愛里寿が迷子になった際彼に助けてもらい、その時に彼に貰ったボコのぬいぐるみを肌身離さずずっと抱き締めている。なによりプラウダ戦の後秋人に頭を撫でてもらい嬉しそうにしている娘を見ていたらどうでもよくなってしまった。そして、プラウダ戦で見た彼の実力も申し分なかった、いや寧ろ想像以上だった、もし彼が正式に西住流に入れば島田流の脅威になるのは目に見えていた。それからだろう、秋人を本気で婿養子にしようと考えていたのは。それをだ。よりにもよって……。
「どうやっても私たちはぶつかりあう運命にあるようね、しほ」
反対側にいる、仏頂面の親友に向けるように千代はそうつぶやいたのだった。
ラングとパンターを同時撃破すると即座に砲弾を装填し次の標的ヤークトパンターに合わせ発射する。しかも、ラッキーな事にこの時ヤークトパンターは正面ではなく、側面装甲を晒しているため砲弾が直撃すると撃破判定のフラグが上がる。
「3輌目だ!」
「よし!これから俺等は、黒森峰の軍団に突撃を敢行する。相手の戦力は当然上だ、下手すりゃ怪我するかもしれねぇ…………覚悟は出来てるか?」
そう言われ、ミーナ達は互いに顔を見合わせる。少しの沈黙の後に頷き合い、秋人へと視線を戻した。
「勿論よ、秋人」
「怪我するかもしれねぇだァ?今更じゃねぇか。俺達は伊達にあの戦争を生き抜いてないぜ」
自分達の戦車の咆哮を聞いた2人が力強く言い、幸也と綾乃も頷く。それを聞いた秋人は満足そうに頷く。
「さて、それじゃ最終決戦と行きますか」
そう言うと秋人は視線を前に向け、目を瞑る。秋人は声を上げた。
「よーし!ミーナ戦車を出せ!」
「了解!」
秋人の掛け声にミーナは返事を返し、ティーガー改戦車が走り出す。隠れていた廃墟から出ると、黒森峰の戦車隊が出口を塞いでいるポルシェティーガーの前で足踏みしているのが見える。
「邪魔するぜぇぇぇぇ!!どうもー!招かれざる客でーす!ハッピーデスデー!!今日が皆さんの命日です!サプライズでーす!」
秋人は、そう言われてキューポラに設置してあるDShK38重機関銃をぶっ放す。その声と共に、ティーガー改が黒森峰の戦車隊に向かってくる。
「ッ!?副隊長!ティーガーが!」
「あの男ね。全車、攻撃開始!」
「隊長から戦うなって言われましたよね!?」
「今倒した方が確実に障害じゃなくなるでしょ。勝てばいいのよ。」
向かってくる戦車に気づいたパンターG型の車長がそう言った瞬間、ティーガー改からの砲撃を受け、撃破される。エリカは、すぐさま向かってくるティーガーに攻撃する様指示すると、小梅がまほから秋人と戦うなと言われていたことを言うが、今ここで倒す事を選択する。
「これで4輌目だ!」
88mmの砲口から白煙を上げるティーガー改のキューポラから上半身を乗り出した秋人がそう言った。
「くっ!調子に乗るんじゃないわよ………………全車、砲撃準備が整った車両から撃て!数の勝負なら、未だ此方が勝っている!!相手はたったの1輌よ!」
『『『『『『『りょ、了解!』』』』』』』
通信を受けたエリカが指示を出し、他の戦車も砲撃準備を始め、出来次第に直ぐ様撃ち始める。
「右手に別のティーガーⅡよ!」
ミーナがそう言うと、ティーガー改の砲塔は向かって来るティーガーⅡに向けられる。
「底面に榴弾を撃ち込む!遅延信管だ」
「装填!」
秋人がそう指示し、良は榴弾の信管を調整して装填する。そして、砲身を下げ、絶妙なタイミングに差し掛かると
「撃て!」
と秋人が言うと、ティーガー改の主砲が火を吹き榴弾が発射される。本来榴弾は、散開した兵士や軽車両、通常の建物などを広く攻撃するために使用される為、ティーガーⅡなどの重装甲には全く効果が無い。発射された榴弾はそのままコンクリートの道路を跳弾するとティーガーⅡの装甲の薄い底面に命中すると車体の下から大きく爆発を起こした。そして、撃破判定のフラグ上がる。重装甲を誇るティーガーⅡは、呆気なく撃破されてしまったのだ。
「嘘でしょ跳弾!?ティーガーⅡがあんなあっさりと、しかも3倍の戦力があるのに、こんなにも追い詰められるなんて…………!」
ティーガー1輌に嵐の如く暴れ回り、向かってくる戦車を車種問わず片っ端から撃破していく光景を目の当たりにしたエリカは、そのエゲツない光景に戦いていた。
全国大会1回戦における対戦校抽選会の日、戦車喫茶『ルクレール』にて自分が喧嘩を売った者が率いるチームが今、自分の目の前で、その猛威を振るっている。砲撃を受け、はたまた横から激突されて横倒しにされたり、弾き飛ばされる僚機からは、援護を求める声や悲鳴が絶えず響き渡る。
「もう、5輌も撃破されているとは………………どうやら私は、トンでもない相手に喧嘩を売ってしまったようね…………ッ!?」
その時エリカは、自分がとんでもない人物に喧嘩を売った事を思い知ったが、しかしそんなのは後の祭りだった。
「そう、簡単に喰らわないわよ!」
次々に飛んでくる砲弾を見ながらミーナは言うと、操縦捍を操作してスタントカーの如く360度回転させながら砲弾を避けて再び突進する。
「なっ!?」
「パンターより機動力が劣ってるティーガーで、あんな挙動を………………ッ!?」
「それに、あのティーガー………速度が段違いに速い………ッ!」
常識外れな挙動に戸惑っている中でも、秋人達ティーガー改の猛攻は続く。こちらに向かってくるパンターにティーガー改のの砲手である綾乃が引き金を引き、1輌のパンターの履帯や転輪を粉々に吹き飛ばし、破壊された履帯が吹き飛んで道に散乱する。履帯を破壊されたパンターはその場で回転し始め、秋人達に背中を見せる形で止まった。ラングはすぐさまこちらに照準を合わせようとしたが秋人達が先に放った事で砲撃を受け、あっさりと撃破される。そして、履帯を破壊されたパンターの砲塔がこちらに向かって旋回していた。ティーガー改は、パンターの背後目と鼻の先で停車すると砲身をゆっくり下げる。
「撃て!」
秋人達は、パンターの砲塔と車体の間の溝に向かって砲撃をした。砲撃を受けたパンターは連続爆発を引き起こし、
『ッ!?』
その爆発の衝撃は至近距離にいた秋人達のティーガー改にも伝わってきた。
その頃、モニターで秋人と黒森峰の激闘を見ていた観客席では
『黒森峰、パンター、ヤークトパンター、Ⅳ号駆逐戦車ラング、ティーガーⅡ合計7輌走行不能!』
そうアナウンスが流れ、映像前の観客達の度肝を抜いた。たった1輌の戦車に黒森峰の戦車隊は手も足も出ずに次々と撃破されていったのだ。
「ふぅ……………やっぱりアキーシャは強いわね。」
「えぇ。あの数分で黒森峰の半分以上の戦力を削ってますからね。」
観客席では、プラウダのカチューシャとノンナがそう言う。二人は、準決勝のプラウダ戦で秋人との直接対決を経験したからあまり驚愕はしていない。
「まさか、ここまでなんて………どうして、1輌の戦車が倒せないの」
突撃して来るなんて想像すらしなかったわよ!?しかもたった1輌に7輌も撃破されてるし!
『エリカさん………後は私とエリカさんだけです。エリカさん!このままじゃここで全滅します!』
「えぇ、分かってるわ。小梅はティーガーを。私は………隊長の元へ行くわ、時間を少しでも稼いで」
『………分かりました!』
(数が減らされてもフラッグ車さへ倒せば・・・・)
秋人の奇襲攻撃で9輌いた黒森峰の戦車はエリカと小梅を残して全滅させられた。エリカは小梅に秋人の相手をする様指示し、自分はまほの元に行くと言う。