アンチョビとの電話の後秋人はみほと共に黒森峰の陣営へと再び向かっていた。黒森峰は帰り支度をしている所秋人とみほが呼び止めまほ達黒森峰達に大洗の祝勝会に参加しないかと誘った。
「ふざけてるの!!」
「落ち着けエリカ」
「ですが隊長!よりにもよって私達を祝勝会に誘うなんて侮辱としか思えません!!」
案の定、大洗の祝勝会に誘ったらエリカが憤激した。
「えっと…祝勝会するの?」
「あぁ、角谷さんがもう話を進めてるらしい」
どうもみほも初耳らしく驚いている。
「気持ちはありがたいが…」
「…まぁ、気持ちはわからんでもないが」
「すまないみほ、祝勝会楽しむと良い」
「うん…、お姉ちゃん」
みほにもそれはわかっているのだろう。残念そうではあるが素直に頷いた。まほのその複雑な表情を見れば、姉の気持ちは充分に伝わるだろう。
「………」
大洗の陣営へと戻る二人を西住まほは眺めていた。彼女にしては珍しく、ぼーっとしている。
「あの…隊長、これで良かったんですか?」
「あぁ、これから決勝戦の反省会とお母様への報告もある」
「…反省会。すいません隊長、私達が不甲斐ないせいで」
「そんな顔をするなエリカ、負けはしたが準優勝も立派な戦績だ。それにこの敗北で黒森峰がより強くなればそれで良い」
「…はい」
西住まほはそう答えるが、逸見エリカは納得出来ていない。
自分が尊敬する西住まほ、この人を優勝させたかった。去年のあれは間違いだったんだと証明したかった。
「…あの、エリカさん」
「わかっているわよ、小梅」
隊長の為に何か出来る事はないか、考えると答えはすぐに出た…とても癪ではあるが。これはあの子の為でも、ましてやあの男の為ではない。隊長の為に自分に出来る事。
「それにしても隊長、あいつ…」
そう自分に言い聞かすと、逸見エリカは西住まほに声をかける。
「彼がどうかしたのか?」
「無神経と思いませんか?負けた私達を祝勝会に誘うなんて!!」
「…エリカ」
隊長の言いたい事はわかる。だが、その前に、この言葉を伝えなくてはならない。
「昨日の敵は今日の友、ですって。屁理屈だと思いませんか?」
「………」
その言葉に西住 まほは驚いた表情を見せたが、それも一瞬だった。
「エリカ、この後一つ予定を入れたいが…構わないだろうか」
「はい、もちろんです隊長」
「すまない」
まほは携帯を取り出すと電話をかける。相手はすぐに出てくれた。
『まほ?』
西住しほ、彼女の母親が電話に出る。
「お母様…一つお願いがあります」
少しだけ躊躇した。これはきっと、西住流に反する物になるのだから。
『なにかしら?』
「本日の試合の報告ですが、明日でも大丈夫ですか?」
『…構わないわ、私も今日は"ちょうど予定があった"所よ』
「…ありがとうございます」
短いやり取りで通話は切れる。西住まほにとっての小さな反抗は、あっさりと通った。
「…お母様」
きっと、お母様もわかっているのだろう。そうでないと予定がちょうど入る、なんて事はないのだから。
「みんな、素直じゃないですね」
「…なによ小梅、何が言いたいの?」
「いえ、なんでもありません」
そのやり取りを見つめていた小梅の言葉に、エリカが苦々しく答える。
「…なんだこれ?」
「…すごいね、もうほとんど準備できてる」
大洗の陣営へと戻るとそこはすっかり宴会の準備が出来てしまっていた。
「どうだ、これがアンツィオの機動力だ!恐れ入れー!!」
「今日は腕によりをかけて沢山作るッスよ!」
「お二人共、沢山食べて下さいね」
と高らかにそう言うアンチョビにペパロニとカルパッチョ。
「たくさん食べてって言われても、材料も昨晩の宴会に使ってそんなないんじゃないか?」
「そこはノープログレム!サンダースが全力で支援するから!!」
そこでケイ達サンダースの登場である。後ろにはトラックに積まれた山ほどの材料、物量としてもやりすぎである。
「アンツィオの料理も良いが、せっかくだしサンダースの料理も食べてくれ」
「バーベキューの準備もOK、ステーキにピザもあるわよ!!」
とアメリカ料理もズラリと並んでいる。勿論サイズもアメリカンサイズだ。
「いや、ピザならアンツィオにもあるんじゃないですか」
「違う違う、うちのはピッツァだ」
「アメリカのピザとイタリアのピッツァは別物ですからね」
「じゃあどっちが美味いか勝負ッスよ!!」
ここで、秋人の豆知識。イタリア発祥のものが「ピッツァ」、アメリカ発祥のものが「ピザ」になる。歴史が古いのはピッツァで、16世紀にフォカッチャ(イタリア料理で使われる平たいパン)のようなものにトマトソースやチーズなどをのせて誕生しました。アメリカで食べられるようになったのは19世紀で、イタリアの移民がアメリカに持ち込んだのが始まりとされている。
それがアメリカナイズされて現在のピザの形になったのだ。
その後、ピザのデリバリーがアメリカで普及し、その文化が日本にも浸透したため、日本では「ピザ」の方が馴染みがあるかもしれない。
ピッツァとピザは具体的に何が違うのかというと、焼き方も食べ方も違うのだ。
イタリア式のピッツァは石窯を使用して高温で焼き上げます。外はカリカリ、中はもちもちの生地を楽しむ。そして、食べるときは基本的に1人1枚です。ナイフとフォークを使用して優雅に頂く。
一方、アメリカ式のピザはオーブンやフライパンで焼き上げ、食べるときもピザカッターで切り分けて手で掴んで食べる。
生地は厚くてふわふわしており、具材もたくさん乗せるのだ。
すると、ダージリン達聖グロリアーナもやってきた。
「ご機嫌よ」
「あ、ダージリンさん」
「聖グロリアーナも宴会に参加するんですね」
「友人の勝利を祝うのは当然でしょう?優勝は強いか弱いかで決まるものではない、優勝するのにふさわしいかで決まる、おめでとうみほさん、秋人さん、あなた達の勝利よ」
「ダージリンさん…、はい!!」
「ただ…みほさん、こんな言葉を知っているかしら?友情は不変と言っても良いが、色と恋が絡めば別である」
「えっ…」
「なっ!!」
突然ダージリンの格言爆弾投入に西住は驚き動揺する。
「あ、あの!ダージリンさん、秋人さんは、その…」
「あら?変ね、私は彼の名前なんて一言も言っていませんわよ」
「あぅ…」
あっさりダージリンさんに一本取られるポンコツっぷりだ。
「でも、おかげで得るものはあったわ、それも2つもね」
「…なんですか、それ?」
「みほさんとは戦車道以外でもライバルとなるようね」
まだあわあわしてるみほを見ながらダージリンさんが呟く。
「一応聞いときますけど、もう一つは?」
「もちろん、あなたがちゃんと動揺してくれた事よ」
とそう言うダージリン、戦車道だけでなく秋人に想いを寄せている者として
「人を動揺させるのが収穫とか、趣味が悪いですよ」
「あら人聞きが悪い。あなたが動揺したのが嬉しいのよ」
「そう言えば今更ながら俺、ダージリンさんの本名すらまだ知らないんだか?」
実際スマホの連絡先に【ダージリンさん】と本名じゃなく紅茶名で登録してある。
「名前がそれほど重要かしら?バラと呼ばれる花も、他の名前で呼んでも甘い香りは変わらないものよ」
「シェイクスピアですね…」
と格言を言ってはぐらかされる。すると、
「ミホーシャにアキーシャ!!」
カチューシャが声をかけてきた。今回は珍しくノンナさんに肩車はしていない。ちなみにノンナとクラーラも後ろに居る。
「カチューシャさん」
「黒森峰を倒したのね。まっ…私達に勝ったんだし、それくらい当然よ!!」
『良い試合でした、おめでとうございます』
「クラーラはおめでとうございますと、私もカチューシャも同じ気持ちです」
「か、カチューシャは別に祝福なんてしてないわよ!当然の事なんだから!!」
とカチューシャは頬を赤らめてそっぽを向く。素直じゃないんだからと思った。
「ま、まぁでも、良くやった方ね。このカチューシャが誉めてあげるんだから」
「はい、ありがとうございます!カチューシャさん」
「そんな訳だから、ご褒美にカチューシャが作ったピロージナエ・カルトーシカを食べさせてあげるわ、喜びなさい!!」
とカチューシャは、皿に盛られたピロージナエ・カルトーシカを差し出した。
「これ、以前のお茶会のケーキだな」
「…ん?えと、カチューシャさんが作ったんですか?」
「そうよ、あまりの美味しさに頬っぺたが落ちちゃっても知らないんだから」
「意外だな、カチューシャケーキ作れたんだな」
実際、本当に意外だった。カチューシャは基本他力本願だと思っていたので自ら率先してやるとは思わなかった。
「…どうやら、シベリアに送られたいようね?」
「ニーナとアリーナにアルバイトをさせ作らせた物ですが、カチューシャもきちんとお手伝いしていました」
「ちょっとノンナ!余計な事は言わなくていいの!!いいから食べてみなさい!!」
「えと…いただきます」
「そう言う事なら、有り難くいただきます」
とみほと秋人はピロージナエ・カルトーシカを口へと運ぶ。
「あっ…美味い」
とおいしいと感想を述べると
「…やった」
「え?」
「な、なんでもないわ!どう?美味しいでしょ」
「えぇ、まぁ…美味いよ」
「これはプラウダでしか食べられないわよ?プラウダに来てカチューシャの家来になるんなら、毎日食べさせてあげても良いけど」
カチューシャが、遠回しに秋人をプラウダに来て自分のものに成りなさいと言うと
『日向さんがプラウダに来てくれれば嬉しいです』
「私も日向さんがプラウダに来てくれれば嬉しいです」
『プラウダに来る時は友人として是非とも自分におもてなしさせて欲しいです』
「いや、大洗の生徒でないしプラウダは女子校だから男の俺が入学出来るわけないだろ。大洗の廃校も回避出来たし」
『とても残念です』
「もちろん私も残念ですね」
「…プラウダにはもう来ないの?」
とカチューシャは、秋人が来ないと寂しそうな表情で訴えかけて来る。その表情を見て秋人は、心にグサっと罪悪感を感じる。
「遊びに行くくらいなら…お邪魔しますが」
「そ、そう?しょうがないわね!いつでも遊びに来なさい、約束よ!!」
「…はい」
そう言うとカチューシャは、先の表情から打って変わって満面の笑みに代わる。
サンダースの大量の材料をアンツィオが料理し、もちろんサンダースもアメリカンな料理を出し、それに対抗するかのように躍起になったカチューシャさん率いるプラウダがロシア料理を出す。そして聖グロリアーナは主に飲み物を担当している。イギリス料理は、多分口に合わないと思う。そんな秋人は
「………」
サンダースのバーベキューセットで肉を焼いていた。各隊長達も祝勝会の準備で俺たちもその手伝いに追われている。しかも周りを見渡せば女子ばかり、そんな空間で俺ら男子には居心地が悪い。
「秋人、ここに居たか」
声をかけられて視線を向ける。
「…まほさん」
「遅れはしたが、私達も祝勝会に参加させて貰えないか?」
「それは、全然構わないぞ、そもそも、黒森峰の反省会をかねているからな。別に俺に聞かなくてもみほさんにでも聞けばいいんじゃないか?姉妹だし」
「いや、君と話したくてな」
「でも…そっちは大丈夫なんですか?」
「あぁ、何も問題はない」
「姉が妹の勝利を祝うだけだ、問題は何も無い。だろう?」
「・・・・・・確かに理由としてで充分だと思いますよ」
「もちろんこちらも手ぶらという訳にはいかない。手土産を持ってきている、祝勝会で出してくれ」
「そんな気を使わなくても…」
「いや、他の学園艦もいろいろ用意しているようだ。ここで何もしなければ、それこそ黒森峰の名が落ちるというものだ、エリカ」
「はい」
まほに言われてエリカ台車でゴロゴロと何やら持ってきた。それは、ビールダースだった。
「黒森峰では有名なノンアルコールビールだ、祝勝会で開けると良いだろう。本当なら一文字のぐるぐるか太平燕のスープがあれば良かったんだが…急だったから用意出来なかった」
「逆にこれだけのノンアルコールビール、よく用意できましたね」
「あぁ、黒森峰女学園が優勝したお祝いに飲むように送ってくれた物だ」
「………えと、今なんて?」
「黒森峰女学園が優勝した時の為に送ってくれたんだが、我々には不要になったからな。皆で飲むと良い」
「…おい」
エリカを見る。あっ…こいつ露骨に目を反らしやがった。
「そ、その…すいません、日向さん」
赤星がそう言うなら仕方ない、考えてみればまほも善意による行為なんだ。
「日向さん、お肉焼いてるんですね?」
肉を皿に移して丁寧に塩胡椒を振りかけて味付けする。
「赤星さん、味見してくれ」
「え?あ、ありがとうございます…」
なるべく紳士的にかつ大胆に最高の一皿を赤星に渡した。
「…なんでこんな奴に負けたの、私」
「はい、出た。負け惜しみー!!」
そう言うエリカに、秋人は負け惜しみと言ってやると険しい顔になったが、直ぐに冷静になる。エリカは、よく言えば芯が強い、悪く言えば短気でキレやすい。そう考えれば少しは成長した方だ。
「てか、なんであなたが肉焼いてるのよ?仮にも祝われる側でしょ?」
「良いんだよ、好きでやっている様なもんだから」
「…まぁ良いわ。それでは隊長、私はこれで戻ります」
「エリカ、良いのか?」
「…はい、私は馴れ合うつもりはありません」
「エリカさん…」
祝勝会に出るつもりは無いとエリカは背中を向ける。
「…肉も大体焼けたな、次はハンバーグでも焼くか」
「え?ハンバーグ!?」
ハンバーグと言う単語にクルリと反応するエリカ。
「ハンバーグもあるのか?」
「あぁ、サンダースが優勝祝いにひき肉を用意してくれたみたいで」
「エリカさん、ハンバーグですよ!ハンバーグ!!」
「う、うるさいわよ小梅!だからなんなの?私は別にハンバーグなんて子供っぽいもの好きでも嫌いでもないわ!!」
とか言いながら戻ってくる辺り、こいつも可愛らしい所があるもんだ。
「…カレー」
まほがそんな二人の様子を見ながら、ちょいちょいと俺の服を引っ張って小さく何か呟いた。
「…ん?」
「カレーは無いのだろうか?あると…その、嬉しいんだが」
「・・・・聞いておく」
エリカと赤星には聞こえないような小さな言葉に少しだけ頬を赤らめる。
戦車道最強流派西住流も、黒森峰も、好きな食べ物には敵わない。こういう時の彼女達は普通の女子高生なのだろう。
「よーし!みんな、グラスは持ったかー!!」
祝勝会、テーブルを囲んでズラリと並ぶ各高校に向けて会長が音頭をとる。
大洗学園、聖グロリアーナ、サンダース、アンツィオ、プラウダ、黒森峰。
もちろん隊長達だけじゃない。料理を用意してくれ、会場の準備をしてくれた各高校の生徒が大勢だ。
「「「「「イェーイ!!」」」」」
とみんなグラスを掲げる。
「ほら、エリカさんも、イェーイ、ですよ?」
「嫌よ、私はやんないわよ」
エリカは、このノリに乗っかるつもりはない様だ。
「干し芋は持ったかー!!」
「「「「「「………」」」」」」
続けてしーんとなる会場内。
「あ、あの…会長」
「それじゃあ乾杯の前に…隊長」
「え?はい…」
突然呼ばれて驚いているみほに杏にっこりと微笑む。あの笑顔の時は大抵なにか良からぬ事を企んでいる時だ。
「何か言え」
「えぇ!?」
と杏から何か言えと言われたみほは驚き
「えと…、その、あの……」
案の定みほもしどろもどろだ。そんな彼女を会場の全員が見つめているのでみほは視線をあちらへこちらへ。決勝戦のみほご嘘のようなおどおどっぷりである。
「パ、パンツァー…フォー!!」
「「「「「「おーーーーーーーー!!」」」」」」
とみほの号令と共に皆がグラスを掲げる。