戦姫戦狼シンフォギア   作:イチゴ侍

1 / 2
ノイズは一匹残らずぶっ潰す!というセリフを不破さんに言わせたいがためだけに書き始めました笑

この主人公である不破さんはみんなの知る不破さんであるようでないので、また別の不破さんだと思ってください!


プロローグ
アタシの終わり、俺の始まり


 少女の歌には、血が流れている。

 

 そう誰かが呟いたのを思い出した。

 

 女が戦いの場に出る。男である彼らはただその場を見ているだけ……。

 そんなの我慢なるものではなかった。

 

 だが、

 

『あれが……特異災害対策機動部二課保有のFG式回天特機装束────"シンフォギア"』

 

 軽々と兵器を破壊していく"槍"と"剣"を携えた二人の少女を目の当たりにした彼は、これで人類が救われるという希望。

 そして「たった二人の少女に、今まで信じて振るってきた力を否定された」という絶望。

 その両方を突きつけられた気がした。

 

 天羽奏、風鳴翼。

 良くも悪くも彼────不破諌の人生を変え、そして────。

 

 

 

 -戦姫戦狼シンフォギア-

 

 

 都内某所にて、

 

「ふぁぁ……」

 

「おい、だらしないぞ」

 

 ここはスタジオの控え室。アーティスト達がメイクや着替えを済ませる場所。

 そこにいるのは、大人気アーティストの天羽奏。のはずなのだが、テーブルに足を乗せ無防備に欠伸をするガサツな女の子の姿だった。

 

 けど、言えば治す素直な子でもある。

 

 

「なんだよ固いこと言うなーって不破っち」

 

「その不名誉な呼び方やめろ」

 

「えー? 可愛いじゃん不破っち。なー、翼?」

 

「えっ!?」

 

 よほど油断していたのだろう。ゆっくりとお茶を啜っていた翼は、含んだものを吹き出しかけていた。

 

 そして口元を拭いてから一言、

 

 

「う、うん……いいと思う」

 

 そう言うとすぐさま顔を背けてしまう翼。

 

 

「……な、なぁ? 俺って翼に嫌われてるのか?」

 

「……うーん、まぁ不破っち顔だけはいいけどすぐ怒鳴るからなー。そりゃあ翼も怖がるか〜あっはは!」

 

 今がライブ前じゃなければ乱闘沙汰にする所だった。と思う不破だった。

 

 

「……誰のせいで怒鳴ってんのか分かってんのか。あと顔だけは、は余計だ!」

 

「顔は良いしなぁ〜、……うん、ちょいタイプだしあたしが付き合ってやろうか?」

 

「……ガキに興味はねぇよ」

 

 こういうと決まって不破は足を踏まれる。

 不破の足にじわじわと痛みが広がった。

 

 

「……ってぇーな」

 

「ガキ扱いすんな。たった二つの違いじゃねえか」

 

「俺からすればガキだよお前は」

 

「んだとこらぁ!」

 

「やるかァ?」

 

「ちょ、ちょっと……二人とも」

 

 翼の制止も聞かずに、奏と距離を縮め喧嘩腰で近づいていく。

 

 ……と、その時、携帯の着信音が鳴った。

 

 

「はい、不破d……」

 

『遅いっ!』

 

 突然の怒号に不破は勿論、近くにいた奏、翼共に驚いていた。

 

 

『開始までもう間もなくだぞッ! いつまで道草食ってんだ』

 

「す、すいません! すぐ行きます!」

 

 そう言うと不破は、現隊長からの電話を切った。

 後ろから小さな声で「怒られてやんの」などと言ってるがそれは全て、不破の耳に筒抜けだった。

 

 不破はすぐさま、控え室の扉を開けに足を動かした。

 

 

「仕事頑張れよー!」

 

「お前もな! ……っと、忘れてた」

 

 一旦立ちどまり、足を翼の方に向け進む。

 翼の前に立つと、警戒されてるのか顔を下に向け、なかなか顔を合わせてくれない。

 

 

「……まぁ、その……なんだ。いっつも俺と奏を止めようとしてくれてありがとな。ライブ……楽しんでこい」

 

 無意識にも翼の頭を撫でていた自分に心底驚いている不破。隣で見ていた奏もありえないものを見るかのような目で見ていた。

 

 初めて会った時から警戒されっぱなしだった不破だが、奏の後をちょこちょこ付いていく翼を見ているうちに、不破の中でどこか妹の様な存在になっていた。

 だからか、今回のライブは頑張って欲しいと思ったのだ。

 

 

「……なーるほどねぇ〜」

 

「……って、あ、こ、これは……その」

 

「……」

 

 奏の言葉でやっと体が思考に追いついたのか、翼の頭から手を離した。

 翼の反応は下を向いていて表情は分かりもしない。

 

 

「と、とにかくお前ら緊張で音外すなよ!」

 

「おう! 任せとけっ。もし外しても笑って誤魔化してやる」

 

「おいおい……それでも大人気アーティストかよ」

 

「あはは……────なぁ、不破っち」

 

 いよいよ向かう、という時に今度は、奏に止められる。

 

 

「ん? なんだよ」

 

「声が枯れるくらい歌うからさ……ドームの外まで届くくらい響かせてやるから、あたしの歌……聴いてくれよ」

 

 いつものように茶化す様な雰囲気ではなかった。まっすぐに不破を見つめる奏の瞳は、どこまでも透き通っていて、純粋に気持ちを伝える強い意志を感じる。

 

 

「ああ、お前の、お前達の……ツヴァイウィングの唱を聴いてやる。俺がお前らを守ってやるんだ! 安心して楽しんでこいッ! 」

 

「おう!」

 

「……ありがとう」

 

 しっかりと翼からも返事を貰い、不破はようやく控え室を出た。

 

 

 

 

 

 不破が去った控え室で奏が血を吐くとも知らず……。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……始まったか」

 

 会場内のボルテージが上がったと同時に、曲が始まった。

 

 ツヴァイウィングの代表曲である"逆光のフリューゲル"。

 サビに入ると共に、会場の天井が開き変化する様は外からでも見えた。

 

 

「なんだー? そんなに彼女が心配か?」

 

「か……っ!? 彼女じゃないですよ……」

 

「お? そうなのか、」

 

 不審な人物が来ないか見張っている言わば警備員として持ち場で見張っていた。そこに来たのは同業者の先輩だ。

 

 不破たちは特異災害──ノイズに対抗するために集められた特異災害対策機動部一課に属している。その仕事とは、ほとんどがノイズが暴れまくった現場の後処理や住民の避難などが主である。

 

 しかし、今回の任務は会場の警備。わざわざ部隊を総動員する必要などないはずなのだ。

 

 

「あーあ、俺もツヴァイウィングのライブ見たかったな……」

 

「そう言えばファンって言ってましたね」

 

「そうなんだよ……しっかしお前は良いよなーなんたってあの天羽奏や風鳴翼と普通に話せるんだからよぉ」

 

「ま、まぁ……」

 

 不破があの二人と接点が持てたのはほとんど奇跡に近いものだった。

 ただ不破が道に迷っていた奏に声をかけ、案内したそれだけの事。

 

 その当時は奏がアーティストだということを知らなかった不破は、特に気にもせず普通に接していた結果、今となっては軽く冗談の言い合える仲になれたのだ。

 

 

「よし、さっさと任務に戻りますかね。帰って娘に、父さんはツヴァイウィングを守ったんだぞって自慢してやらな」

 

「娘さんがいたんですか」

 

「ああ、まだ幼稚園入ったばっかだけどな」

 

「てか、奥さんいたんすね」

 

 失言だったか……。と思ったが後の祭り。

 

 

「おおん? それはどーいう意味だこのやろ!」

 

「い、いたいいたいいたい! すいませんすいませんってほんと!」

 

 ロックをかけられ危うく倒れる所だったが、何とか開放された。

 強靭に鍛え抜かれた先輩の筋肉は不破の息を止めるのには十分すぎる凶器だった。

 

 

「ふーすっきりした。お前もどっちか嫁さんにするなら早く決めちまえよー」

 

 そう言い残し持ち場へと戻る先輩。

 

 

「だーかーら! 違う!」

 

 その反論も虚しく、先輩には届かず空気と共に流れていった。

 会場では今ようやく1曲目が終わった頃だ。

 

 

『まだまだ行くぞぉ!』

 

 奏の一声に会場の熱気はさらに急上昇。この調子ならば自分たちの出番は無いだろう。

 そう不破は思った。

 

 

 

 

 

 いや────全員がそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ────きゃあああああ! 

 

 悲鳴とともに爆発音が響いた。不破は即座に会場の状況を確認するべく上空を飛行中のヘリに連絡を取った。

 

 

「おい! 何が起きた!」

 

 中には奏や翼がいる。不破は居てもたってもいれず、通信相手が先輩であろうがなかろうが構わずに問いただす。

 

『会場中央ステージが突然爆発! 会場内は混乱状態で────あ、あああ……!』

 

「おい……おい!」

 

 そこで通信が途絶えた。

 ────同時に上空で何かが爆発した。

 

 

 そして誰かが叫んだ。

 

 

「ノイズだァァァァァ!」

 

 

 

 *

 

 

 ────なんだこれは。

 

 

「はやくどけてくれッ!」

 

「いやだっ……死にたくない……死にたくない!」

 

 

 ────俺は何を見ている。

 

 

「子どもがっ! 子どもだけでもっ!」

「邪魔だッ! 俺を助けろッ!」

 

 

 ────ここはライブ会場だ。

 

 

「ああああ────ッ!」

 

「いやああ────ぁ……」

 

 ────なんで人が……()()()()()()()()()

 

 不破は絶句しながらも助かる命を無駄にしないために、出口に向かって必死に声を上げた。

 

 

「不破……」

 

「隊長! このままだと避難が追いつかない! 指示を……」

 

「無理だ……」

 

「は?」

 

「終わりだ」

 

 不破には隊長の言った言葉が理解できなかった。自分たちの今やるべきことは人命の救助、避難誘導のはず。それを無理、終わりと片付けたこの男に不破は激怒した。

 

 

「……あんたそれでも隊長か……」

 

「……」

 

「それでも隊長かよッ! お前はッ!」

 

「……」

 

「ああ、わかったよ。もういい。俺が……一つでも多くの命を救ってやる」

 

 その場に崩れ落ちるものを放って、不破は事前に聞かされていた会場内に通じる通路を通って中に入っていった。

 

 そこは先程まで輝いていた景色とは打って変わって、ノイズで溢れかえった会場内だった。

 舞い散る炭。

 これはノイズの炭素分解で舞った炭だ。

 

 

 ────♪ 

 

 

 会場中央で聴こえるのは歌。

 それは人に希望を与えるものに在らず、雑音を駆逐する歌。

 一振りの槍を構え次々とノイズを消し去る奏。

 そして剣を携え、一筋の一閃の如くノイズを殲滅していく翼。

 

 瞬く間に消えていくノイズを後目に、不破はノイズから逃げ惑う客たちを少しずつ誘導した。

 

 

「向こうに非常出口がある! 集団で固まらず落ち着いて向かってくれ!」

 

 集団で動けばそれだけノイズに勘づかれる危険性が隣合っている。

 ノイズの予測不可能な行動に注意を払い、次々と観客を逃がしていく。が、それでも全員を助けられるわけではなかった。

 

 周りが見えずに他人を押しのけるが、ノイズに見つかり炭へと変えられていく人々。

 不破は、ただ見ていることしか出来なかった。

 

 

 ────自分に力さえあれば。

 

 爪がくい込むほど拳を握り、血がじんわりと浮き出てくる。

 不破は、自分の無力さを痛感した。それでも自分には自分にしか出来ないことがあると、強く鼓舞し、人名の救助に全力をかけた。

 

 

『不破!』

 

「その声……!」

 

 通信機から聞こえたのは、騒動の前に語り合った先輩だった。

 

 

『今、会場内から出てきた観客達を保護している! お前が中から支援してるんだろ? やるじゃねぇか!』

 

「……それでも、見捨てた命も数知れない」

 

『後ろは振り向くな、前だけ見ろ! 今のお前に救えるものを探せ!』

 

「……ッ! はい!」

 

 そこで通信は途絶えた。不破は辺りを見渡し、逃げ遅れた人がいないか必死に探した。

 

 

 

 が、その同時刻、ノイズを圧倒していた片翼の槍に限界が訪れた。

 そこに不破は、違和感を感じた。

 

 

「(おかしい……数分前の動きとはキレが段違いだ)」

 

 

 いつも見てきた天羽奏の力を全く感じない。

 決して奏が弱いのでは無く、ましてや槍が弱いわけでもない。根本的に奏の槍との適合率が低下しているのだ。

 息の揃わないデュオほど迫力の無いものは無い。その現象が、今まさに起きている。

 

 そして彼女が何かを庇っていることに気がついた。

 瓦礫に囲まれ、不破の位置からでは視認出来ない死角に、誰かがいる。

 

 

「ッ! クソが……」

 

 危険を顧みず、走り出す不破。

 ノイズの大半は翼に群がり、奏に集中砲火を浴びせている。奏の負担を和らげるためにも、と駆ける不破だった。

 

 が、その往く道を空を飛行していたノイズの突撃が塞いだ。

 

 

「邪魔すんじゃねぇ……!」

 

 攻撃を間一髪で避けた不破。

 しかし攻撃はそれだけで終わることは無い。次々と降ってくるノイズの嵐を避けるため、瓦礫を次々と盾に使い進み続ける。

 

 だが、そこで盾代わりの瓦礫が無くなった。

 

 

「マジ……かよ」

 

 丸裸となった不破。ジリジリと近づくノイズ達を前に足掻くための策を必死に探る。が、この現状はあまりにも絶望的だった。

 

 逃げる際に負っていた傷が体を蝕み、その場から動けない。

 

 

「ここまで……か」

 

 不破には諦めることしか出来なかった。自分に出来たのはせいぜい観客の避難だけだ。それ以上を望んだところで自分には力が無い。無力である現実を全身で感じとった不破は、静かにその目を閉じた────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────Gatrandis babel ziggurat edenal

 

 ────Emustolronzen fine el baral zizzl

 

 

 悲しい唄が聴こえた。

 傷を負った戦姫は、槍を掲げ、そのフレーズを口にする。

 

 

 

 "絶唱"

 

 

 

 それは一瞬にして会場全体を覆い、ノイズを塵一つ残すこと無く殲滅した。

 

 

 全てを諦めた不破が次に目を開けた時、そこには何も無かった。

 鳴り渡る雑音も無く、人々の逃げ惑う声も無い。だが、不破にはしっかりと聞こえた。

 

 

「────奏ッ! 奏……ッ!」

 

 泣き叫ぶ翼の声に導かれ、ボロボロの足を無理やり動かし傍に寄る。

 するとそこには、焦点の合わない目を開け、血を流す奏の姿があった。

 

 

「……奏」

 

 不破が一声かけると、翼が反応した。

 

 

「不破さん……奏が、奏が……ッ!」

 

「……」

 

「お願い……」

 

 その続きを聞かなくても不破には伝わっていた。翼はただ一言"奏を助けて"そう言いたいのだということを。

 だけど翼にも、そして不破にも分かっていた。

 

 奏はもう長くないことを。

 

 

「────どこだ……翼、不破……っち────まっくらで、お前らの顔も……見えやしない……」

 

「奏……!」

 

「────悪いな……もう一緒に歌えないみたいだ……」

 

「どうして……どうしてそんなことを言うの……奏はいじわるだ」

 

「────だったら翼は、弱虫で、泣き虫だ……」

 

「それでもかまわないっ! ……だから、ずっと一緒に歌ってほしいッ!」

 

 必死に縋る翼。だが、奏の限界はもうすぐそこまで来ていた。

 

 

「奏、お前……このまま行く気か」

 

「……」

 

「……なぁ、なんか言えよ。お前らしくねぇだろ」

 

「……」

 

 最後まで自分らしくあろうと不破は気丈に振舞う。ほんの少しして、奏が口を開いた。

 

 

「────約束……してくれねぇか」

 

「……ッ! ああ! なんでもいえ! なんだって約束してやるッ!」

 

 

 

 

 

「────じゃあ、さ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしていくつもの月日が経った。

 

 

「隊長! 周辺住民の避難は既に完了しています!」

 

「できるだけ市街地からノイズを引き離せ!」

 

 数台の戦車と共にノイズの軍勢に立ち向かう彼らは、特異災害対策機動部一課の軍隊だ。

 

 しかし、ノイズの性質上、戦車の砲弾などは無意味に等しく、ノイズはその体質を自在に変えることで、物理的干渉を可能にすることも不可能にすることもできる。それゆえ、通常の兵器では時間稼ぎにもならない。

 

 今も数十発の砲弾が大型ノイズを捉えて撃たれるが、その体をすり抜け爆発した。

 

 

「やはり……通常兵器では無理なのかッ!」

 

 

「────さっさと部隊を下がらせろッ」

 

 

『バレット!』

 

『オーソライズ』

 

 突如として鳴り渡る電子音。

 その正体を電子音は高らかに宣言する。

 

 

『Kamen Rider.Kamen Rider.』

 

 

 "変身ッ"

 

 

『ショットライズ』

 

『シューティングウルフ!』

 

 月覗く夜に鳴り渡る狼の遠吠え。

 それは無力ゆえか? 

 ────否、強さの証明である。

 

『The elevation increases as the bullet is fired.』

 

 

 

 

 




続けるかどうか分からないのです笑

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。