まさに8年前と2年前の今日。結月ゆかりと紲星あかりはこの世に生まれ落ちた。花よ!咲き乱れよ。鳥よ!歌え。生きとし生けるすべてのものたちよ。その全身全霊をもって祝福するがいい。彼女らの生誕の日を!
クオリティ? 間に合えばいいんだよ間に合えば!(暴論)
「はぁ……」
私は机に突っ伏しながらため息をついた。
その机の上には所狭しと並べられた自信作の料理。
顔を上げると、色取り取りの飾り付け。それは部屋全体に広がっており、そしてちょうど私の上あたり、そこには横断幕がある。
その内容は
『結月ゆかり・紲星あかり お誕生日おめでとう』
というもの。
そう、今日は私こと結月ゆかりと、後輩の紲星あかり二人の誕生日だ。
でも……
「はぁ……」
もう一度ため息をつく。そのことに反応するものは誰もいない。騒がしくて聞こえなかったわけじゃない。むしろわたしのため息が部屋全体に聞こえるかと錯覚するほど静かすぎる。
そんな静寂に嫌気がさし、前を見る。当然、そこには誰もいなかった。
そう、誰もいないのだ。祝ってくれるマキちゃんたちはおろか、本日の主役の一人でもあるあかりちゃんも誰も。ここには私しかいないのだ。
別に嫌われているとかそもそも最初から一人でやるつもりだったとかそういうのではない。今日来る予定だった皆が当日にそれぞれ用事が入って、全員来れなくなっただけだ。だから決して嫌われているわけではない。ないはず……。
「……ないよね?」
そもそも皆一斉に急用が入るなんてことあるのかなあ……? 大丈夫だよね? 嫌われてないよね?
あとあかりちゃんは連絡すらつかなかったんだけど。私からかけても繋がらないし、何か事件に巻き込まれてるんじゃ?
そんな考えばかりが浮かび上がり、だんだん不安になってきたそのとき、そんな不安を吹き飛ばすかのように、携帯電話が短く鳴った。
「誰だろう?」
送信者は……マキちゃん!? もしかして用事がなくなって今すぐ来るのかな!?
逸る気持ちを抑え、メールを開く。
【今日は前々から約束していたのに破ってごめん。誕生日おめでとう】
でもメールに書かれていたのは、そんな淡い期待を裏切るかのような、来れなかった謝罪と私の誕生日を祝う短い文だった。
……まあそうですよね。そんな都合がいいことが起こるわけないですよね……ってあれ? もう一つメールが?
「あかりちゃん!?」
よ、よかったぁ。てっきり食べ物につられて知らない人にホイホイついて行っちゃったのかと思ったよ。さて、内容は……?
【これから彼氏とデート行ってきます】
へー、あかりちゃん、これからデートなんだ……。誕生日にデートなんていいなあ……って
「かかかっかかっかkっかか彼氏ぃっ!?」
あの年がら年中食べ物のことばかり考えているあかりちゃんに!? だ、騙されてないよね!?
あっ、このメール画像が添付されてる。もしかして彼氏とのツーショット?
「……っ」
大丈夫かな? 開いた瞬間あかりちゃんが、その……え、えっちな目にあっている写真だったり、しないよね?
……しないよね!?
「……ええい、ままよっ!」
勢いに任せて画像を開く。もしアレな画像だったら即通報! さて、中身は……?
・笑顔でピースをするあかりちゃん
・あかりちゃんに抱き寄せられながらも無邪気な笑顔でピースする月読ショウタ君
・その後ろにはいかにも男女が愛し合う目的で入るホテルらしきものが―――――――
メールを閉じた。
……うん、あのー、そのー、み……見なかったことにしよう。
ってうわわ、携帯がものすごい震えてる! ご、ごめんなさい。でもアレはもう私にはどうしたらいいか……!
「ってあれ?」
メールがいっぱいきてる。差出人は……今日来れなかったVOICEROIDたち!? もしかしたら一人ぐらいは来れるひとが……!
【おいしそうなずんだ餅ができました】
【チーターってムカつきますよね】
【これから散歩行ってくるで】
【チョコミン党、興味ない?】
【わたしのおとうと、しりませんか?】
「どうでもいい内容!?」
これひょっとして全員来ることできないかな!? あと最後はすごい心当たりあるけどすごく言いたくない!
「気づいたようですね」
「え!?」
唐突な声に思わず振り向く。そこにいたのは
「吉田君⁉︎」
うそっ!? 鷹の爪は作者がノータッチで分からないから出さないつもりだったはず!
あとどうやって入ってきたの? 怖いよ!
「よ、吉田君、今日の誕生日パーティーは世界征服の用事があって出れないって言ってなかった?」
「ああ、あれは嘘ですよ」
えっ!?
「嘘だったの?」
「ええ、そうですよ。それは他の皆もです」
「え……?」
皆用事があって出れないわけじゃなかった……? それってつまり……
私の誕生日を祝いたくなかったってこと?
「っ⁉︎」
足元がぐらつくような感覚に陥る。それほど、私の心は揺らいでいた。
「で、でも……なんでそんなことを?」
でもまだ本当かどうか分からない。そんな、優しい皆がそんなこと考えているなんて……。
ああ、でももしかしたら……
「サプライズとして出ようと思いまして」
「……え?」
さぷらいず? どらいぶ?
「だから悪いのは、あなたではありません。 君の気遣いを利用した……俺です」
「それは……いや、私が悪いんです」
最悪だ。皆を疑うなんて。そうだ、マキちゃんたちはそういう人たちだ。友達の幸せを心から祝福できる人。だからこそ好きなんだ。
「そう自分を卑下にしないでください」
ああでも良かった。私が嫌われているわけじゃ―――――――
「ですが……信用できないのは他のVOICEROIDです」
ないと、思っていたのに。
「彼女らはクリスマスを楽しもうとしています。
今のうちにクリスマスの準備をすることで……当日に全力で楽しもうとしています。
現に君の誕生日に誰も来てないじゃないですか?」
「いや……それは……皆忙しくて……」
指先がチリチリする。口の中はカラカラで、目の奥が熱い。
「違います……あいつらは口が上手いんです。奴らは絶対に君の誕生日に来ません……これからもです」
そういって吉田君が取り出したのは
「あ……」
私以外が楽しそうにパーティーの準備をしている写真だった。
「あ……あぁ……!」
どうして。なんで。私はそこにいないの? 友達と思っていたのは、私だけなの?
「憎いと思いませんが」
写真を持った吉田君が一歩近づく。
「クリスマスが」
わ、私は、クリスマスなんて、憎いと思うなんて、そんなこと……?
「…………え、なんで?」
そこはマキちゃんとかじゃないの?
「ということでシリアス面倒だし時間もないのでこれをつけてください」
そういって吉田君が取り出したのは、いかにも悪い奴がつけてそうなベルトだった。
「いや、シリアスにしたのは高橋君だし時間がないのは今日中に書き始めた作者のせいじゃ……」
「問答無用!」
「あっ」
『タカノツメネットニセツゾクシマス』
「ってことでこのクリスマスツリーを倒しますがいいですね!?」
そう言い残し、私は町のシンボルの巨大なクリスマスツリー(人工)を蹴り飛ばす。
その衝撃は凄まじく、頑丈そうなクリスマスツリー(人工)は跡形もなく消し飛んだ。えっ、怖。
……まあ倒れると被害大きかったし良かったのかな? 安全確認、ヨシ!
「ああ、私の夢が……私の抵抗虚しく倒れるはずだった木(人工)が……」
すみません町長。恨むなら今日の午後になってやっと書き始めた作者を恨んでください。
「この町をクリスマスの象徴にしてカップルを増やし、そのクリスマスを性夜の夜しか認識していないバカップルが性を楽しむためにラブホとかカラオケ部屋とかが満室になり、この町に住むカップルは大体は自分たちの部屋でヤればいいけど、都合がつかなかったり他の町から来たカップルはそういうことをする場所がなくて、でもエロいことしか考えてない脳内お花畑のやつは当然我慢できず、結局あちこちの公園の隅っことかの人目につかない場所でパコパコするのをひっそりと眺める壮大な夢がぁぁぁぁぁ……」
割と最低な夢だった! 子どもが聞いたら教育に悪いってものじゃないんだけど⁉︎
「あぁぁぁぁぁ……」
壮大な?夢があっけなく散ったのが信じられないのか、町長は力なく崩れ落ちた。
そもそもクリスマスツリーがあってもその夢が叶うとは思えないんだけど。
それと今日アスファルトが見えなくなるほどの大雪なんだけど大丈夫かな? 風邪ひかれても困るから起こしてあげよう。
「大丈夫ですぐぇっ!?」
駆け寄ろうとしたら脇腹に衝撃を受け、思わず倒れ込む。
立ち上がって辺りを見渡しても誰もいない。
いや……
「ねえ、知ってる?」
クリスマスツリーがあった大きい鉢の後ろから声が聞こえる。その声は凄い聞き覚えがある声で
「夢を持つとね、時々すっごい切なくなるけど、時々すっごい熱くなる……らしいよ」
その鉢の後ろからゆっくりと姿を現したのは、やっぱりあかりちゃんだった。
……ショウタ君はどうなったんだろう?
「私には夢がない」
前に世界中の美味しいものが食べたいって語っていたのはどなたでしたっけ?
「でもね、夢を守ることは出来る」
守れてないよ? そもそも守る価値もない夢だよ?
「変身!」
そういってあかりちゃんは赤く四角い鍵を掲げる。すると、鍵がまばゆく輝き始め、その鍵を中心に幾何学的な模様を描いた後、その中心から空に向かって赤い光が打ち出された。数秒で光は消え、夜空から光と共に赤い何かがあかりちゃんに降り注いだ。
「あかりちゃん!?」
直撃!? 後ろに着地するんじゃないの!?
大丈夫かな? 怪我してないかな? あ、光が晴れて……。
それを見た瞬間、私は目を見開いた。
あかりは立っていた。さっきと同じ格好で。
いや、正確には頭だけは変わっていた。
あかりちゃんはサンタ帽子を被っていたのだ。
「変化が、しょぼい……!」
あんな派手な演出しておいてサンタ帽子被っただけなんて、演出に負けちゃってるよ。完全敗北だよ。
「お前を止められるのはただ一人」
そこであかりちゃんは腕を組み、一回転。
「私な気がする!」
混ざってる! 前作と混ざってる!
「あっ、ショウタ君は食べちゃったよ」
「唐突に衝撃な真実告白しないで!」
それって物理じゃないよね! 性的だよね! いや性的でもアウトだね!
「大丈夫、なんたってこれは夢だからね」
「唐突なネタばらしは止めて!」
「はっ!」
顔を上げると、そこは夢とまったく同じ私とあかりちゃんのパーティー会場だった。
「夢……か」
どうやらいつの間にか寝ちゃったみたい。
それにしても今の夢、夢にしてはいやに現実味があったけど……。
「どうしたの、ゆかり先輩」
ほっぺを叩いて覚醒を促していると、あかりちゃんが台所から出てきた。どうやら私が心配できたみたい。それはいいんだけど……。
「あかりちゃん、ほっぺにクリームついてるよ?」
「え、私が食べたのはチキンだよ……タベテナイヨ」
……やっぱり、つまみ食いをしていたんだ……。
「あかりちゃん……」
あかりちゃんを叱ろうと席を立った瞬間、チャイムが鳴る。どうやら、買い出しから帰ってきたみたいだ。
しょうがない、お叱りは後で。
私は彼女らを迎え入れるため、玄関に向かった。
『ハッピバースデー! ゆかりちゃん、あかりちゃん!』
本当に二人ともお誕生日おめでとう。