最初は『選ばれなかった勇者候補チーム』の話を書こうと思っていたんですよ。
ところが、なぜかいつの間にかこんなことに……。主人公加賀城雀、爆誕! タグどおりの初っ端原作崩壊です。
更新頻度は少ないはずですので、続きは気長にお待ち下さい。
では、本編をどうぞ。
人の一番古い記憶って、どんなものなんだろう?
唐突に思う。
私の一番古い記憶は多分幼稚園に入り立ての頃のものだ。その記憶は霞が掛かったようにおぼろげであやふやなものだけど……。
幼稚園の中庭か……、近くの児童公園か……。遊具などで楽しげに遊んでいる同年代の子供たち。
その姿を見て、私は怖くて仕方がなかった。
どうしてブランコで遊べるんだろう?
何かの拍子で落ちたら痛いだろうに。
鎖が切れたらどうするんだろう?
座っている板が外れたら?
どうしてジャングルジムで遊べるんだろう?
手が滑ったら?
足を滑らせたら?
金属の棒に打ち付けたら痛いだろうに。
地面まで落ちて、もし当たり所が悪ければ死ぬかも。
どうして滑り台で遊べるんだろう?
間違って横から落ちたらどうするの?
間違って後ろから押されたら?
どうしてボール遊びが出来るんだろう?
受け損なって当たったら痛いんじゃ?
走り回っているうちにこけたら?
擦り剥くんじゃ?
怖い、怖い、怖い、怖い……………………
私は小さい頃から臆病だった。
高いビルや展望台で外を見るのが怖かった。
遊園地の絶叫系アトラクションに乗るのが怖かった。
風邪をひけば、この風邪が悪化して死ぬのではないかと怖かった。
病院に行けば行ったで、医者が怖かった。注射が怖かった。
いやいや、外で大人に話しかけられるのも、男の子に話しかけられるのも、そればかりか女の子にでさえ見た目に迫力がある子には怖さを感じていた。
『どうして私はこんなにも臆病なんだろう?』
私は『臆病すぎる自分』の事が好きじゃなかった。
二番目に古い記憶は幼稚園の年長さんでの出来事だ。これは明確に覚えている。っていうか、幼稚園でのエピソード記憶があまり無い私は、もしかしてアホなんじゃないだろうか……?
この記憶には前段がある。
私は今でもそうだが、周りの人たちからイジメられるのが怖くて、自分の所属している集団の中で権力のある人、人気のある人に取り入っていた。いわゆるカースト上位の人、ヒエラルキーの高い人にだ。
幼稚園でそれに該当していたのがさえちゃんだった。
さえちゃんは誰にでも人当たりが良く、幼稚園での人気者だった。優しい性格だったので、私は常に彼女の後ろをついて回っていたのだ。
そのさえちゃんが幼稚園の中庭にあるジャングルジムによじ上っていた。
「すずちゃんも上っておいでよ! 楽しいよ!」
満面の笑顔で私を誘ってくるさえちゃん。
でも私は顔をこわばらせてプルプルと横に振っていた。
『落ちたらどうするの? そんな怖い事、私にはムリムリムリ!!』
「気持ちいいよーっ! ほら、男の子たちがサッカーして、あっ……!!」
さえちゃんが男の子たちが走り回っているのを、ジャングルジム越しじゃなくて、もっとよく見ようと片手片足だけ残して身を乗り出した瞬間だった。ジャングルジムに引っかけていた彼女の左足が滑った。
彼女の落ちていく姿はスローモーションのようだった。
少し離れた所からその様子を見ていた私は、何も考えていなかったのだと思う。
気がつくと私はさえちゃんの下敷きになっていた。
なぜか仰向けで。
なぜか彼女を受け止めるように抱きしめて。
二人とも大声を上げて泣いた。幼稚園の先生たちは慌てて駆け寄ってきて、私たちを介抱してくれた。
二人ともたいしたケガはしてなくて、でもさえちゃんは後で先生たちに優しく注意を受けていた。
卒園も間近になった頃、さえちゃんがその時の事を私に話しかけてきた。
「すずちゃん。あの時はありがとうね。すずちゃんのおかげで大きなケガをしないで済んだよ」
「ううん。私、何したかよく覚えてないし……」
実際、何をしたか覚えていない。少し離れた場所から彼女の様子を見ていたはずなのに、気がついたら彼女の下敷きになっていただけなのだから。
「でも、すずちゃんが助けてくれたんだよ。すごいよ、すずちゃんは! ──────私、すずちゃんみたいに勇気のある人になりたいなー。ねえ、なれるかな?」
でも、さえちゃんは私を励ますように語気を強め、そして最後に私に小首を傾げるように尋ねた。
「勇気……?」
「そうだよ。怖い事でも誰かのためになら頑張れちゃう事を言うんだって。パパが教えてくれたんだよ」
「私、勇気なんて無い……」
「そんな事無いよ。自分がケガしちゃうかもしれないのに、私の事助けてくれたんだもん。すずちゃんは勇気があるよ」
「そう、なのかな……?」
笑顔でそう言ってくる彼女に、私はなんだか言いくるめられているような感じがしていた。
だって、心の奥底では『そんな事ない』って声がずっと響いていたのだから。
でも、彼女は私の煮え切らないあやふやな態度に自分の思いが届いたのだと思ったのか、話題を変えてきた。
「私、今度引っ越しちゃうんだ。でも、すずちゃんとはずっと友達でいたいな」
「もう、会えなくなっちゃうの?」
「卒園したらね。だから、小学校は遠いところになるんだって。でも私たちはずっと友達だよ」
「うん」
別れの話の筈なのに、彼女はそれを固く信じているかのように終始笑顔のままだった。
そして私たちは、ずっと友達でいようねって指切りをした。
幼稚園児の約束なんて儚いものだ。卒園後、すぐに彼女とは音信不通になった。
だって、私は彼女の連絡先を知らないから。
彼女からも、電話も手紙も来なかった。
そういうものなのだろう。
でも、彼女の言葉は今でも私の心の中にしこりのように残っている。
『勇気』
私にそんなものがあるのだろうか?
あるとして、それが表に出てきて言動に反映される事はあるのだろうか?
ないとして、それを持てる日がやって来る事はあるのだろうか?
【いや、勇気を出さなければ良かったのだ…………。そうすれば、あんな思いをせずに済んだはずなのだ…………】
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
キーンコーンカーンコーン。
「おっ、チャイムが鳴ってしまったか。じゃあ、今日はここまで。今日習ったところは、よく復習しておくように! 中間テストに出るぞ。じゃあ、日直!」
「起立! 礼! 神樹様に拝」
一旦、教師に向けて頭を下げた後、東の方角、神樹様のある方向に向けて手を合わせ黙祷。
そして……
「ありがとうございました!」
「「「「ありがとうございました!」」」」
もう一度、教師側に礼をしつつ挨拶の声を上げた。
社会科の授業が終わった。これで、今日の授業はすべて終わり。今日は担任の都合で放課後のショートホームルームも無いので、クラス全員が開放感満載の様子だ。
『はああ~。やっぱり中二ともなると勉強も難しいな~。地理なんて覚えることが多くて大変だよ。でも、これでも西暦の昔よりはずいぶん少ないって、なに? 西暦の中学生はみんな天才揃いかっ……!?』
そんな益体も無いことを考えながら、教室の前から四番目、窓側の席に座っていた女子生徒──加賀城雀は気もそぞろに素早く荷物を鞄に詰めて、席を立とうとしていた。
すると、隣の席の女子生徒からおもむろに声が掛かる。
「そういやさー、加賀城の入ってる部活って村上先輩が部長だったよね……?」
「ヒッ……! そうですけど……、え、えっと、なんでございましょう……?」
先日二年生になってのクラス替えで初めて一緒のクラスになった子だった。
姉御肌っぽい性格で、女子にしては強面の顔立ちなので警戒していたところだった。
たしかバレーボール部に所属していたはずだ。
「なんで、敬語……? まあ、いいや。昨日、体育館でバスケ部と二年生同士トラブった時に仲裁してくれたんだよ。先輩の鶴の一声で収まっちゃってさー。ま、私もなんだけどね。おかげで助かったからさ。木下がお礼言ってたって言っといてよ。昨日、言いそびれちゃったんだよねー」
「は? はぁぁ……」
「お願いしたよ。じゃあねー。────―おーい、花井さん。部活、行こうぜー!」
面食らっている雀を置いてきぼりにし、手のひらをヒラヒラさせつつ行ってしまった。
「はぁぁ……。自分で言えばいいのに……」
「おい、加賀城。暇なら先生を手伝ってくれ!」
ため息をついていると、その姿が暇そうに見えたのか社会科の教師から声が掛かる。
見ると、地球儀やら丸めた大判の地図を抱え、悪戦苦闘していた。
「は~い……」
ついてないなあ、そう思いながら教師の手伝いに向かった。
社会科準備室で、荷物の整理まで手伝わされてしまった。
ショートホームルームが無くなったことがチャラになったどころか、足が出てしまった。
急いでもう誰も残っていない教室に戻ると、鞄をとって駆け出す。もちろん、教師や上級生に見つかるとお小言をもらう事になるので、周囲の警戒は怠らない。
渡り廊下を渡って三階から二階に駆け下り、左折をするとすぐそこだ。
家庭科室のそのすぐ向こうの家庭科準備室。そこが雀の安息の地、約束の地だ。
ガラッ……
引き戸を開けると三対の視線がこちらに向く。
嬉しくなって、ハイテンション気味に挨拶した。
「こんにちはーっ!!」
「こんにちは。加賀城さん」
濃いブラウンの髪色のおしとやかな感じの少女がまず挨拶を返してきた。
三年生でこの同好会の部長をしている村上智花だ。
「遅かったじゃないか、加賀城」
黒縁眼鏡の少女が遅れてきた事を軽く咎め立てる。だが、その顔は微笑んでいる。
やはり三年生の真鍋菜摘。智花とは小学生の頃からの友達だと聞いている。
「ちーっす! 雀先輩!」
灰色の短髪の少女が元気に声を掛けてくる。
先日入部したばかりの一年生。獅子堂咲だ。
「すいません。社会科の先生に準備室の整理を手伝わされちゃってー……」
鞄を脇に置きつつ、三人の元へ向かう。
机一つに、パイプ椅子が四脚。一つだけ空いている席に座った。
机の上にはティーカップ三つにクッキーが乗ったお皿。それとファッション雑誌が二冊。
「あ、今日は紅茶にクッキーですか」
「クッキーは菜摘の手作りよ」
「茶葉は智花の提供だからな。高級茶葉で美味しいぞ。加賀城には違いが分かるかな?」
「あははは……、私には分からないかも」
苦笑しながら、菜摘が入れてくれたカップを受け取る。
ふーふーと冷ましつつ、少し飲んでみた。
「美味しいけど……、やっぱり違いは分からないですねー」
「ほら、言ったとおりだろ?」
菜摘がどや顔を咲に向ける。
「あー、アタシでも分かったから、雀先輩でも分かると思ったんだけどなー」
咲はちょっと悔しそうな表情を見せた。
「そういえば、獅子堂さんは陸上部の方はいいの?」
思い出したように智花が尋ねる。咲は陸上部と掛け持ちだと聞いている。
「あ、こっち優先でいいって部長が言ってくれたんで。こっちののんびりした空気もアタシ、好きなんですよねー」
「ふふふ……。それは良かったわ……」
雀はそのやり取りを横目で眺めつつ、お皿の上のクッキーを一枚取って囓る。その仄かで上品な甘さが、砂糖もミルクも入れていないストレートティーの美味しさを上手く引き出していた。
愛媛県越智市。西暦の時代は今治と呼ばれていた地域。
その越智市立第三中学校に雀は通っていた。
そして、雀たちが所属する部活の名前は『雑話同好会』
雀も常日頃から変な部活だと訝しむ程度には、ヘンな部活だ。
活動内容は放課後、週に三、四回集まってダラダラと駄弁るだけ。
そこにはなんの存在意義も見出せない。
『でも、私にとっては渡りに舟だった……』
入学当時、雀は憂鬱だった。越智第三中学校は生徒の部活動への入部が必須の学校だったからだ。
ガチガチの部活動は上級生下級生の上下関係が厳しい。
そんなイメージが先行しており、雀は入学前から怯えていたのだった。
「私たちの同好会に入らない?」
そう智花が声を掛けてきたのはそんな時だった。
一瞬でピーンときた。
自分を守ってくれる人、庇護してくれる人、そうに違いないと幼少時から鍛えられた嗅覚がそう言っていた。
最高の後ろ盾を得られそうだと、一も二もなく了承した。
実際にそうだった。
彼女は見た目が学校一の美人であるだけでなく、いいところのお嬢様で、成績も学年で一、二を争っていた。校内女子生徒のヒエラルキーでほぼトップと言えた。ましてや三年生、最高学年となった今年度である。
彼女の主催する同好会の一員。その肩書きだけで、雀は人間関係のトラブルのその多くからその身を躱すことに成功していた。
夕方、空が夕焼けに染まる頃、大衆中華料理店『太白天』の扉がガラッと開いた。
どやどやと店の雰囲気には馴染まない女子中学生のグループが入店してくる。
「へい、らっしゃい! お、嬢ちゃんたちか。いつもありがとうな」
「ええ、お久し振りです。さあ、あなた達、何にする?」
中年と思しき店主が雀たちに声を掛けてきた。
四人掛けテーブルの席に着きながら、智花が挨拶を返しつつメニューを開く。
若い店員が水の入ったコップを四つ置いていった。
「やっぱりまだ食べるんだな、智花は……」
「ええ、とりあえずみんな飲み物はミカンジュースでいいわよね?」
菜摘のぼやきに取り合わずに注文を始める智花。皆、飲み物のチョイスには同意を返す。
「じゃあ、私はいつもの焼き豚卵飯、大盛りをお願いしますね」
「智花の胃袋はどうなんってんだよ……? おい、加賀城。いつもと同じでいいよな?」
「はい。焼き鳥ですよね?」
「うん。じゃあすいません、焼き鳥を二人で一人前で! ──────獅子堂はどうする?」
菜摘のイレギュラーな注文にも店主は笑顔で応じている。若い、と言うよりはまだ幼いと言ってもいい年頃の娘、それも複数が来店しているのが彼にとっても嬉しいのだろう。
「この前来た時、失敗しちゃったからな~。どうしよ?」
咲はメニューとにらめっこしている。十日ほど前、初めて智花たちに連れてきてもらった際に注文で失敗していたのだ。
彼女が唸っていると、店主が声を掛けてきた。
「嬢ちゃん。今度、新しくメニューに加えようと思っているのがあるんだけど、試食してくれるかい?」
「え? どんなメニューなの?」
「ああ、麺類なんだが……」
「あ、じゃあアタシ、それで! でも、麺は小盛りでお願いしますね」
「よっしゃ! 任せとけ!」
店主は若い店員に後を任せ、店の奥へと入っていった。
若い店員が、注文したメニューを持ってきた。
「獅子堂さん、お先に失礼するわね」
そう断って智花が焼き豚卵飯に箸を付ける。
雀と菜摘も同様に断って、皿の上の焼き鳥に箸を付けた。
ちなみに、この辺りの焼き鳥は串には刺さない。鉄板で焼いたものを皿に盛りつけ、タレを付けて頂くのが普通だ。なお、中華料理屋なのに焼き鳥も出してくるこの店は、かなり風変わりな店でもある。
「ん~。美味しい!」
智花は笑顔で食している。その食べる姿はとても上品だ。食事をする姿がこれほど美しいと感じる人に、雀は初めて出会ったような気がする。
一方、雀と菜摘は焼き鳥を一つ食べてはミカンジュースをちびちびと飲み、言葉を交わす。その姿はどこか、焼き鳥をあてに酒を飲む親父たちを彷彿させる。
「お待ちどお! チャンポンだよ」
店主が麺の入った丼を咲の前に置く。
その中味を見るなり、咲がその目を輝かせた。
そこには黄金色の透き通ったスープの中に、野菜や海鮮、豚肉などをトッピングしたチャンポン麺があった。
「おっちゃん、これって……!」
「そう! 嬢ちゃんの故郷、八幡浜のチャンポンだ!」
いわゆる普通の白濁した豚骨ベースのスープのチャンポンではない、ご当地メニューだ。
鶏ガラやかつおだし、昆布だしをベースとしたあっさり系の透き通ったスープが特徴である。
「この前、注文されたチャンポンを出した時の嬢ちゃんの悲しそうな顔が忘れられなくてな。ちょっと試作してみたのさ」
「凄い、凄い、凄い!」
咲は待ちきれないように、すぐにズルズルと食べ始める。
「あの……、試作という事は、お代はお幾ら位になるんですか?」
「いや、どうせ他店との差別化の為にメニューに加えるつもりの試作なんだ。今日のお代は結構だよ」
智花の懸念にそう返す店主。
その答えに感激したのか、咲が大声を上げた。
「アタシ、このおっちゃんのお嫁さんになる! こんないい人、他にいないよ!」
「いや~、うち、かみさんがもういるんだけどなー」
店主が困ったように呻いた。
「じゃあ、さようなら。トモ先輩、菜摘さん、さきのん!」
「さようなら、加賀城さん」
「じゃあな、加賀城」
「お疲れ様っしたー、雀先輩!」
店の前で三人と別れ、帰宅の途に就く。
『ま、なんやかやあったけど、放課後は平和に過ごせたなー。終わりよければすべてよしだよ』
雀は上機嫌で自宅へと帰っていった。
陽も落ち残照が街を照らす中、智花と菜摘は仲良く肩を並べて帰っていた。既に咲とも別れた後だ。
「智花は家に帰った後もまた夕食があるんだろ?」
「ええ、そうよ。お父様やお母様の都合でいつも八時を回っちゃうけど、家族揃って頂くのがならわしよ」
「何回聞いても信じられないなあ……」
「そうかしら?」
菜摘は澄まして歩く智花を見やる。
いくら育ち盛りとはいえ、栄養過多であろう。余剰分の栄養はどこへ? と疑問に思うまでもなく、その視線は彼女の胸に吸い込まれる。
『でっか……』
下を向いても自分のお腹はおろか、足さえ見えないのではと思えるほど大きな二つの膨らみ。
翻って自分の胸を見ようと下を向く。
『わー、見通しがいいなー』
思わず心の中で棒読みしてしまう。
すっとんとん。お腹まで十二分に見る事が出来た。
圧倒的女子力の差に軽く絶望した。
菜摘がその目のハイライトを消している横で、智花は着信のあったスマホを取り出した。
その文面に心の中で舌打ちをする。
差出人:大赦
宛先 :村上智花
件名 :適合者査定調査定時…
村上班、数値報告
全員、適合値は極めて安定
神託による警戒期間内である事、努々忘れる事なきよう
心して敵襲に対し備えるべし
『適合値の文面、『候補者の平均値以下で』という注釈が抜けているわよ。叔父様からのリークで知っているんだから……』
そう。彼女の叔父は大赦という組織の上層部に食い込んでいるのだ。村上財閥の後ろ盾あればこそではあるのだが。
智花は、その叔父には幼少の頃から可愛がられていた。だからだろうか、叔父は目の中に入れても痛くないほど可愛がっていた姪に、ある程度の情報をリークしていたのだ。
『私たちのチームの適合値は全員が勇者候補生の平均値以下。加賀城さんに至ってはほぼ最下位と聞いているわ。だからこそ叔父様は仰ってた。心配しなくても大丈夫だ、智花たちが選ばれる事はまずあり得ない、と……』
だからこそ、その次に来る懸念事項こそが智花にとっての最大の懸念事項と言えた。
『あと一ヶ月もしないうちに勇者は決定するはず。となると同好会を続ける意味もなくなる。解散するしかないわね』
『雑話同好会』
それが作られた真の目的は、勇者候補生を集め監視し、いざという時のための連携を築くことだ。
ここ愛媛県越智市では智花が大赦からの指示を受け、その受け皿として同好会を立ち上げていた。
四国各地に同様なグループが複数あるとも聞いている。
『同好会を解散するとして……、菜摘は器用だから、どんな部活に横滑りしようと問題は無いはず。菜摘のことだから私も誘うだろうし、まあ、この子と一緒ならどうにでもなるでしょう。懸念すべき性格も、だいぶ丸くなったことだしね。それに私の方は勇者候補から外れれば、財閥の跡取りとしての勉強が本格化するから部活なんてやってる時間は無いでしょうし、幽霊部員になるのが関の山ね』
まだ、なにやらブツブツ呟きながら歩く菜摘を見やりながら考える。
『獅子堂さんも陸上部に専念すればいいだけだから問題は無し。──────問題は加賀城さんね。彼女、どうも私に頼りきりなのよね。依存というようなものでもないし、そもそもするべき事はちゃんとする子だけど、何事にも逃げ腰なのよね。同好会を解散するなんて言えば、必ず泣きついてくるはずだわ。だからこそ、獅子堂さんにもそうだけど、出来るだけそれなりの距離を置いてきたつもりなんだけど……』
「智花、どうしたんだ?」
思考に沈んでいると急に声を掛けられた。菜摘の方へと視線を向ける。
「ううん。なんでもないわよ」
「なんでもないはないわ。智花がそんな顔してる時は、いつも何か悩み事だろ? 大赦関連か? ここんとこ、頻繁に支部の方に顔出ししてるみたいだし」
当たらずといえども遠からずだ。智花は思わず菜摘の顔を凝視する。
「困っていることがあったらさ、なんでも相談してくれよ。そうでなくても私は智花に返しきれないほど借りがあるんだからさ」
そう言ってニコッとする菜摘。だが、その目は真剣そのものだ。
「私は、何があっても智花の支えになるよ。何があってもついていく」
「菜摘……、ありがとう」
この『親友』は私のことに限ってだが、たまに鋭くなる。敵わないなー、そう智花は思った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日の午後。
雀のクラス、二年三組の五時限目の授業は数学だ。
「連立方程式~? わけ分かんないよ~? 後でトモ先輩に教えてもらおうかな~?」
教師の説明を真剣に聞いていてもよく理解できない雀。いつものごとく智花に泣きつこうかと考えていた。
ふいに大きく警報音が鳴り響く。
教師も生徒もその音の発生源を求めてキョロキョロし始めた。
「え!? あれ? 私の? おっかしいなあ。授業の前に電源切った筈なのに……」
「携帯? 加賀城さんね。授業中は電源を切っておきなさい」
警報音の発生源が自分のスマホだったことに戸惑う雀。
数学の女性教師が注意をしてくる。
鞄の中からスマホを取り出す。
『雑話同好会』に入部した時、智花にもらったスマホだ。ちょっと傷ついているのがまさに玉に瑕だが、智花のお古だと聞いていたので、それが却って嬉しく宝物のようにも思っているものだ。
電源を切ろうとディスプレイを見た瞬間、その表示に雀の思考がフリーズした。
『樹海化警報』と大きく表示されていた。
その赤い文字は激しく明滅している。
そのすぐ下には『FORESTIZE WARNING』という雀には読めないアルファベット表示。
画面の最下部には次の文面が流れていた。
『人類保護のため出動してください。バーテックスが壁を通過しました』
「なに、これ!?」
次の瞬間、警報音が止む。
「あ、良かった~。止まりました、せんせ…………あれ?」
全てが静止していた。
女性教師は腰に手を当て、雀を注意しに来る途中だったのだろうか。歩いている途中の姿勢で固まっていた。
生徒たちも、それぞれシャーペンを走らせたり、警報音に驚いた表情だったり、自分の荷物を探っていたり、とにかくそれぞれの行動の途中の姿勢で固まっている。
人だけではない。壁に掛かっている時計も秒針が時を刻む途中で、机から転がり落ちた消しゴムは床に着いていない空中にとどまった状態で、とにかくあり得ない状態で止まっている。
雀の与り知らぬ所ではあるが、校舎の外では風に舞う木の葉も、それを巻き上げた風さえもが静止していた。
「なに……、これ…………? なんぞ、これ────っ!!!?」
雀の絶叫が教室に木霊した。
一年一組の教室からは咲が飛び出してきた。その勢いのまま、すぐに走り出す。
彼女の状況も雀と全く同じだった。
『なんなんだよこれ!? 智花先輩たちは無事か? 無事だったら……!』
本能的に智花の存在を頼りにした。
そしてその本能に従い、咲は三年生の教室へ向けてひた走った。
三年一組の教室では智花と菜摘が立ち尽くしていた。
彼女たちの状況も雀と全く同じだ。
スマホから警報音が鳴り響いたと思いきや、時間が止まったように全てが静止していた。
「まさか……、まさか…………、ウソでしょ!? まさか、私たちが選ばれたなんて……」
「これ、なんだよ!? どうなってんだよ、智花!?」
それぞれ、異なる理由で狼狽する二人。
海の向こうが光り輝いた。
四国と本州を分け隔てる巨大な壁。特大の根や蔓が絡まって出来ているその壁が光ると、そこから巨大な植物の根や蔓が四国側へと無数に伸びていく。その伸びてくる根や蔓自体も発光している。
急速に四国側へと近付いていく。
それに合わせるかのように大地が激しく震えた。そう、まさに地震である。
その巨大な根や蔓が四国の大地に触れた瞬間、辺りが真っ白に光った。
その光を、咲は走っている廊下ですぐそばの教室越しに、雀、智花、菜摘の三名はそれぞれの教室で窓越しに直接浴びる。
全てが白色に塗り込められ、四人は悲鳴を上げた。
これは神世紀三〇〇年四月、香川県は讃州中学の勇者部四人の少女たちではなく、愛媛県は越智第三中学の雑話同好会四人の少女たちが『神樹様の勇者』に選ばれた、そんな別の世界線の物語だ。
雑話同好会 : 放課後に駄弁るだけの存在意義不明な同好会。本作の設定上、学校への申請書には『人のコミュニケーションの基本ツールである『会話』について分析、考察する』と書かれているとかなんとか。う~ん、『くめゆ』原作に具体名があればなー。
愛媛県越智市 : 中学生が午後の授業をサボることで観音寺の中学の放課後に間に合うという地理的制約条件と、なんと言っても西の大橋がある事から決定です。しまなみ海道の橋梁群が描写されるかどうかは不明ですが。なお、『越智』は旧郡名から取っています。
ところで、本当に続くのか? このお話。
さて、原作3話で増援に来るのは夏凛ちゃんでしたが、本作にはどの人が相応しいと思いますか? 皆さんのご意見を拝聴したいです。(なお、本編の出場選手は決定しています。ただ、スコア差によってはIF√のIF√が発生するかも)
選択によって『わすゆ』以下原作登場人物たちの運命まで変わります!? さて、あなたなら誰を推しますか?
なお、本作に直結する『のわゆ』は原作どおりの悲劇安定です。そのはずです。
第三戦で増援に来るのは誰だ? 以下五名以外の場合は『活動報告』へ記入お願いします。
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1. 原作どおりだ、三好夏凛
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2. いやいやこうでしょ、楠芽吹
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3. 奇をてらって、弥勒夕海子
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4. 意外なことに、三ノ輪銀
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5. 原作主人公だ、結城友奈