IF√ 雀のチームが選ばれた!!   作:多聞町

3 / 6
引っ越し先がこの二次小説の舞台と同じ県であるとは……
これは神樹様からの「現地取材を容易にしたのだから、はよ書け」との御神託なのか?

ということで、長らくお待たせいたしました。待っていた人がいるかどうかは甚だ疑問ですが、連載再開です。
さて、この盾の勇者は果たして成り上がれるのでしょうか?

では、乙女座型(ヴァルゴ)との戦闘後半戦です。前2話よりは短めですが、本編をどうぞ。




第03話 盾の勇者は逃げ惑う

 智花の周りに三人が集まっていた。どの顔も困惑の表情だ。

 なにせ、急に勇者装束に変化が生じ、武装に至ってはまったく違うものになったのだから。

 

「このシステムなんちゃらっていうのは、何だよ? これのせいじゃないのか? 武器も衣装も変わったのは」

 

「そのシステムなんちゃらって、何ですか?」

 

 菜摘が上げた疑問の声に、更に咲が疑問を重ねる。

 

「スマホの画面、見なかったのか? 樹海化直前と同じ警報が鳴った後、画面に表示されただろ?」

 

「あー、アタシ、スマホを取り出す余裕が無かったもんで……」

 

「私は、警報が鳴っていた事すら気付きませんでした……」

 

 菜摘の反問に咲は頭を掻く。それもそうだろう。彼女はバーテックスと肉弾戦を演じていたのだ。むしろ警報に気付いていただけ大したものだ。

 雀はしょげ返る。頭に血が上っていて、警報にすら気付かなかったからだ。強烈な光に包まれて、初めて異変に気付いた位なのだから。

 下級生二人の反応を確認すると、菜摘は智花をジロッと睨む。納得のいっていない表情だ。

 

「で? どうなんだよ?」

 

「私もこのシステムの事は知らないわ。聞いてない……」

 

「そっか……。智花がそう言うんなら、そうなんだろうな…………」

 

 四人で顔を見合わせた。とにかく何も分からない。困惑の中、沈黙が場を支配した。

 

 

 

 

「それでも! 私達の手札はこれだけなの。たとえ武装が変わろうともバーテックスを止めないことには、明日が無くなってしまう。人類は滅んでしまうのよ」

 

「そうだな。とにかくフォーメーションを変えよう。獅子堂が前衛なのは変わりなし。智花は遠距離で援護。私は……この鞭ってどこまで有効なんだろ? それから……加賀城の盾って意味があるのか?」

 

 智花が沈黙を破り、菜摘がそれを受けて具体的な対応策を挙げようとした。

 その時だった。

 

「ぐぎゃー!! こっちに戻ってきてるぅぅうううう!!」

 

 雀が悲鳴を上げた。

 彼女の人差し指が指す方向を見ると、なぜかバーテックスが反転し神樹様に背を向けているどころか、彼女達四人を目指して進行してきている。

 

「しめた! 回り込む手間が省けた!!」

 

 菜摘が叫ぶのと、バーテックスが卵型爆弾を連射してきたのは同時だった。

 途端、何かに弾かれたように雀が前衛に飛び出す。

 彼女はその手にしていた直径一メートル近い大振りな円形盾を地面に叩きつけるように構えた。その中央部には錦木の意匠が彫られている。瞬間的に、その盾の大きさは直径にして二倍以上にも巨大化した。

 

 そこに次々と爆弾が着弾する。

 爆発の衝撃は波状に彼女達を襲った。そのはずだった。

 

「すげぇ! 衝撃が全然来ないぞ!」

 

「精霊バリアでも衝撃は防げなかったのに!」

 

「凄い、凄い、凄い! 凄いっすよ、雀先輩!!」

 

 菜摘も智花も咲も驚くほか無かった。雀の盾は爆発で生じる衝撃を全て防ぎきっていたのだから。

 

「ひぃぃいいいい。みんなを守らないと、私が守ってもらえないから~」

 

 当の雀は、へっぴり腰で情けない悲鳴を上げていたのだが。

 

 

 

 

「よし! 加賀城は獅子堂を守れ! 私と智花で援護する!」

 

「大丈夫なの、菜摘?」

 

「なんとかしてみせる! 行くぞ!」

 

 菜摘の号令の元、三人の勇者は散開して、それぞれバーテックスを攻撃しようとする。

 一方、雀だけはきょとんとして一人その場に取り残されていた。

 

「あれ? 私はトモ先輩を助けようと……」

 

 そこがターニングポイント、いやバーテックスの神樹を無視するかのような異常行動の理由が推測可能となる分岐点だった。

 バーテックスが、なぜか雀を標的に定めて爆弾を連続して撃ち出してきたのだ。

 

「うぎゃーっ!! なんで私!?」

 

 慌てて逃げ出す雀。

 だが、バーテックスは執拗に彼女を狙って爆弾を撃ってくる。

 

「トモ先輩ィィイイイ、たぁああすけてぇぇえええ!!!」

 

 叫びながら逃げ惑う雀。だが、気配を読んだのか? はたまた直感か? 直撃弾に対してだけは盾を構えて衝撃を逃がしていた。

 そう、衝撃を逃がしていたのだ。

 精霊バリアは直撃を防ぐが、爆発の衝撃は殺せない。だが、雀はあろうことか盾を微妙にかつ巧みに操り、爆発の衝撃をすべて逃がしていたのだ。

 

 

 

 

 バーテックスが雀に気を取られているような行動を見せている中、咲はその隙を狙って跳躍し大鎌を振り上げる。

 

「くらえーっ!」

 

 ザクッとばかりに切っ先が突き刺さるが、それ以上どうしようもない。咲が鎌の扱いに慣れていないため、突き刺さったままにっちもさっちもいかなくなったのだ。

 咲は足をバーテックスの装甲に掛けると踏ん張って鎌を抜こうとする。

 そこへ、またもや白い布状物体が襲いかかる。

 

「させるかーっ!!」

 

 菜摘の鞭が咲に襲いかかる布状物体を絡め取った。

 あり得ない事に、その鞭は元々の二メートル弱の長さから数十メートルもの長さに伸びていた。

 途端、智花の時と同様、布状物体を振り回して菜摘を地面に叩きつけようとするバーテックス。

 

 だが、菜摘はすぐに鞭を緩めて脱出すると、今度はその鞭でバーテックスの装甲を叩く。

 すると、バーテックスの装甲は叩かれた部位の周辺が腐食したかのようにボロボロと崩れていく。もちろん、すぐに修復が掛かるのだが、崩れた範囲は菜摘の長銃や咲のパンチで破壊した時よりも大きい上、修復そのものにも時間が掛かっていた。

 

「これならいける!」

 

 菜摘がそう叫んだ瞬間、智花が放ったクロスボウの矢がバーテックスの頭部に当たる。

 当たった途端、その矢は爆発し菜摘が鞭で崩したのと同等の範囲を破壊していた。もちろん、バーテックスの修復も同程度に遅い。

 

 

 

 

 その間に咲はバーテックスの装甲に突き刺さった大鎌を抜き、脱出に成功していた。

 樹海の大地に降り立つ咲。

 そして、雀を追い回すバーテックスに対し智花と菜摘が追撃を掛けている間に、大鎌を何度か振り回し感触を確かめる。

 

「そうか! 刈り取るように振れば上手くいきそうだ!」

 

 直感的に大鎌の取り扱いを把握し、意を強くする咲。キッと空中を浮遊するバーテックスを睨み上げた。

 

「アタシがお前に引導を渡してやる!」

 

 

 

 

「助けて、助けて、助けてーっ! なんで私だけ追い回すのっ!?」

 

 雀は目から、鼻から、口から、いろいろと液体を垂れ流しながら逃げ惑っていた。

 バーテックスはなぜか執拗に雀を追い回し、連続して爆弾による攻撃を加えていた。しかし、その攻撃は雀に対しなんら物理的効果を上げてはいなかった。雀の精霊バリアとその手で翳す大盾が、攻撃を完全にシャットアウトしていたからだ。

 もちろん、精神的には凄まじいプレッシャーを与えてはいるのだが。

 

 一方、智花と菜摘の攻撃は徐々にその効果を低下させていった。

 智花のクロスボウによる攻撃も菜摘の鞭による攻撃も、白い布状物体を防御に回されたため本体に届かなくなっていたからだ。

 

「くそっ! あの布が邪魔だっ!」

 

 菜摘は嘆きの叫びを上げながらも鞭による攻撃を続けていた。

 

「くっ! 二方向からの攻撃じゃ足りない!」

 

 智花はバーテックスを挟んで菜摘と逆方向から攻撃を加えていた。しかし、巧みな防御行動により二方向からの同時攻撃、時間差攻撃でさえ防がれていたのだった。

 

 その時! 

 

「アタシを忘れていたのが、お前の命取りだぁぁあああっ!!」

 

 全力全開でジャンプしていた咲が上空から奇襲攻撃を掛けた。

 跳躍の頂点で彼女が大鎌を振り上げると、その鎌の大きさは三倍ほどにも巨大化する。

 そのまま急降下攻撃! 

 それは、それまでに無かった上方からの攻撃。バーテックスの防御行動は一瞬、間に合わなかった。

 

 

 ザシュッ!!! 

 

 

 バーテックスの、人間で言うなら首に相当する部位が斬られていた。いや、刈り取られていた。

 

 

 ドスンッ!! 

 

 

 刈り取られ体と泣き別れになった、首に相当する部位が地上に落下する。

 

「みんな、封印よ! 相手を封じる、と言う気持ちを込めて、気合いを入れて手のひらをバーテックスに向けて着き出して!!」

 

 同時に智花が叫んだ。

 三人ともその叫びに驚き、智花に視線を集中する。

 

「封印!!」

 

 智花は左の手のひらをバーテックスに着き出し、そう叫んでいた。

 もちろん三人とも疑いもせずに、智花のその行動を真似る。

 

「「「封印!!」」」

 

 四人の勇者がバーテックスを『封印の儀』に掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『封印の儀』

 

 

 それは、バーテックスからその生命の源とでも言うべき核、『御魂(みたま)』を抜き出し露出させる儀式だ。

 露出した御魂を破壊すれば、バーテックスを殺す事が出来る。

 

 実際には『封印の儀』には正式な手順がある。

 まずは勇者達をバーテックスを取り囲むように配置する。

 次に勇者達が以下の祝詞(のりと)を読み上げ、神樹様の力を十分に引き出し、上乗せして封印を掛けるのだ。

 

 

 幽世大神(かくりよのおおかみ)

 憐給  (あわれみたまい)

 恵給  (めぐみたまい)

 幸魂  (さきみたま)

 奇魂  (くしみたま)

 守給  (まもりたまい)

 幸給  (さきはえたまえ)

 

 

 だが、勇者は既に神樹様との間に霊的経路(パス)が通じており、神樹様の力を直接借り受ける事が出来る。

 このため祝詞を上げなくとも封印を掛ける事が可能なのだ。

 ただし、相当の気合いを込めて封印を掛ける必要がある上、祝詞を読み上げた時に比べ各人のエネルギー消費量が格段に上がってしまう事になるのではあるが。

 

 智花はこれを利用し、複雑な手順をすっ飛ばして皆に封印を掛けさせたのだ。

 それには、悠長に祝詞を読み上げている余裕が無かった、というのが大きな理由だった。

 

 

 

 

 地上に落ちたバーテックスの頭部がバクンと開き、内部から各辺三メートル前後の逆四角錐の物体が出現した。

 それは浮遊しながらゆっくりと前進してくる。

 全体が鈍く光っており、一部が透けて見える内部には明るい光の玉が浮いている。バーテックス本体よりも無機物感が強かった。

 

「なんすか、あれは?」

 

「あれは御魂(みたま)よ。バーテックスの核に当たる部分なの。あれを破壊すればバーテックスを殺す事が出来るのよ」

 

「この地面に現れた漢数字はなんだ? 結構な勢いで数値が減っていってるけど?」

 

「それは私達のエネルギー残量を示しているのよ。封印を掛けている間はエネルギー消費が莫大になるの。その数値が零《れい》になると私達のエネルギー残量もゼロという事になって、封印は解け、バーテックスの侵攻が再開されて人類は滅ぶ。そういう事なの」

 

 その智花の説明に全員が目を剥く。

 地面に表示されている数字は既に零六四.零零を表示しており、さらに急速に減少していっている。概ね一秒に一.零零の割合だ。

 

「時間が無いじゃないか!」

 

「封印には最低二人が必要よ! 二人が封印を掛けたまま、残り二人で攻撃を!」

 

「じゃ、獅子堂と智花がやれ! 私の鞭じゃ効きそうにも無い!」

 

 その菜摘の叫びに合わせ、咲が封印の構えを解きジャンプすると共に智花もクロスボウを構え連射する。

 だが、智花の撃ち出す矢は御魂の表面に傷を付ける事すら叶わず、悉く弾かれた。

 

 一方、咲は逆四角錐の頂部である水平面に降り立つと大鎌を振り上げ、何度も斬り付けた。

 だが、恐ろしく硬い。やはり傷一つ付かない。

 

「くそっ! どうすりゃいいんだ!?」

 

「…………!」

 

「このっ、このっ! 斬れろーっ!!」

 

 二人の攻撃は御魂に対し何の効果も上げていない。

 菜摘が片手で頭を掻き毟り、智花は黙って御魂を睨み付けながら矢を放ち続け、咲は焦ったように大鎌の刃をその堅い表面に何度も叩きつけた。

 

 

 

 

 数値が零四零を切った。

 周囲の樹海が徐々に変色していく。

 

「トモ先輩ぃ、なんか周りが赤黒くなっていってるんですけどぉ……?」

 

「神樹様への負担が大きくなりすぎているのよ! 時間が掛かると現実世界に悪影響が出るの!」

 

 雀の怯えたような問いに、矢を放ちつつ叫びながら答える智花。

 その答えは、皆の心に更に焦りを生んだ。

 

 

 

 

 数値が零三零を切った。

 皆の心に絶望が湧き起こる。

 智花と交代した菜摘が鞭で何度も御魂を叩く。だが、やはり何の効果も現れなかった。

 咲は諦める素振りさえ見せず、大鎌を何度も叩きつけていた。

 

 

 

 

 数値が零一五を切った。

 その瞬間、最後の抵抗を見せるかのように御魂からレーザーのような細い光線が雀に向かって放たれた。

 

 ビッ! 

 

「ぎゃぁああ!」

 

 咄嗟に盾を構える雀。

 その行動に封印が解け、御魂はバーテックスの頭部の中へと戻っていく挙動を示した。

 

 だが、雀が盾を構えて光線を弾いた瞬間。盾を構えたその勢いのまま、もう一枚の盾が雀の構えた盾から飛び出し、回転しながら大きな弧を描いて御魂へと飛んでゆく。

 そして、それは回転飛行を続けながら周囲に四枚の刃を展開した。

 

「なに? あれ!?」

 

 智花から放たれる疑問の叫び。

 危険を感じた咲が御魂からジャンプし離脱する。

 刃を周囲に展開したままの盾は、今まさにバーテックスの頭部に吸い込まれようとしていた御魂にぶつかった。

 

 

 ザシュン!! 

 

 

 御魂は真っ二つに裂け、次の瞬間眩い光を放ち爆発する。

 そして、その爆発の閃光の中から数十もの様々な色とりどりの光の粒が天上へと昇っていった。

 

 一方、転がっていたバーテックス本体は御魂を構成していたと思しき光の粒が天上へと昇っていった後、急速に色彩を失い灰色になったかと思いきや、砂となってサラサラと崩れ去っていったのだった。

 

 

 

 

「はえ?」

 

 その顛末に雀は目を点にして呆けていた。

 

「やったな、加賀城!」

 

「凄いっすよ、雀先輩! アタシの鎌は弾かれるばっかりだったのに……」

 

「! ! はぁ……」

 

 満面の笑みで駆け寄ってきた菜摘と咲に背中を叩かれても、呆けた返事しか出てこない。

 そして智花は……

 

『加賀城さんの最後の攻撃。あれは何……? それにSYSTEM(しすてむ) ANRaPoD(あんらぽっど)だったかしら? あのシステムも何? 聞いていないことが多すぎるわ……』

 

 今回の戦闘での疑問点に思考を走らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴ……

 

 

 突如、樹海の地面が揺れ動く。

 

「「「!?」」」

 

 智花以外の三人が驚く中、辺りが真っ白に輝き、次の瞬間、景色が変わっていた。

 薄暮の様であった樹海の空、それが一瞬にして青空へと変わっていた。

 

「あれ? 戻った?」

 

「ここ、立入禁止のはずの学校の屋上だぞ」

 

 咲の疑問の声に、周りを見渡した菜摘が自分達のいる場所を言い当てる。

 越智第三中学の校舎の屋上であった。塔屋と神樹様を祀る小さな祠の他には何も無い。

 

「え? えっとー、お、終わったんですかね?」

 

 雀も再起動し、そんな声を上げていた。

 

「みんな、見て……」

 

 智花の声がした。三人そちらを振り向くと、街並みを背に彼女が大きく手を広げていた。その姿は、彼女の美貌も相まって神々しい聖母の様にさえ見えた。

 

 

 この街で一番背が高い建物は、今彼女達がいる越智三中の四階建ての校舎だ。だから、その屋上に立っている彼女達には街並みが一望できた。

 越智市の中心街から見て四キロメートルほど北方に存在する、雀達が住んでいる波止浜の街。

 南北をなだらかな山地に挟まれた小さな平野部に緑が点在する街並みが広がっていた。

 その街並みの向こう側、東の端を右から左へ、つまりは南から北へ背の高い高架道路が横切っている。その高架道路の流れに合わせて視線を左へ向ければ、赤白に塗られた腕を高く掲げたジブクレーンの群れ。そのクレーン群の向こうには少し霞がかって来島海峡大橋の灰白色の主塔が三本屹立していた。さらにその向こうには神樹様に造られた結界の壁がその偉容を見せている。

 周りからは都会の喧噪とまではいかないものの、人々の暮らしの息づかいとも言える生活音や自動車の走行音が聞こえてくる。それだけでなく鳥の囀りさえも。

 

 

「私達が守ったのよ。この景色も、この景色の中で暮らしている人達も……」

 

 智花は涙を浮かべている。

 

「智花……」

 

 菜摘はそんな智花にゆっくりと近づくと抱き締めた。

 途端に、堰を切ったように智花の涙声が響いた。

 

「みんなが生きて帰れて良かった。本当に良かった……。ごめんなさい、ごめんなさい。本当にごめんなさい。私はあなた達を騙して……」

 

「いいんだ……いいんだよ、智花。お前だって、私達に話せなくて苦しんでたんだろ……?」

 

「っ! 菜摘ぃぃいいい!!」

 

 今度こそ智花は大声で泣き始めた。

 

 

 雀と咲は顔を見合わせ戸惑っていた。先輩二人のそんな姿を初めて見たからだ。

 特に智花が泣いている姿には少なからずショックを受けていた。いつもの頼りがいのある先輩の姿ではなく、自らの罪の重さに潰れそうになっている一人の儚げな少女の姿に過ぎなかったからだ。

 暫くの間、屋上では智花の泣き声だけが響いていた。

 

 

 

 

 ようやく智花が泣き止み、小さくしゃくりあげるだけになった頃、チャイムが鳴り響いた。

 

「あれ? 学校、まだやってたんすか?」

 

「え? 今、何時限目? たしか五時限目の授業を受けている最中にあの場所へ行かされて……」

 

 咲と雀が疑問の声を上げる。

 すると指で涙を拭いながらひどい鼻声の智花が説明を始める。

 

「今、五時限目が終わったところよ」

 

「「ええ!?」」

 

「樹海は神樹様が世界を守るために現実世界に上書きした結界の中だって説明したわよね? あの世界が起動している最中は現実世界の時間は止まったまま守られているの」

 

「え? ということは、まさか私達が戦ってたってことは誰も知らないってことか?」

 

 智花の説明の真の意味をすばやく理解した菜摘が聞き返す。

 

「そうよ。私達の戦いは誰も知らない。神樹様以外はね」

 

「じゃあ大赦は?」

 

「樹海化が解けて私達が現実世界に戻ってきた直後に、勇者アプリが自動で戦闘のログを送信しているわ。今頃、支部の人が学校へ説明のために向かってきている頃だと思う」

 

「私達はどうなるんですか?」

 

 雀は、今後の自分達の立場について尋ねる。胸の内で警報が鳴り響いていた。

 

「とりあえず今日は授業をサボったんじゃないことは証明してくれると思う。私達は勇者に選ばれた以上、今後も戦い続けることになる。多分『神樹様の御役目』といったような言葉でぼかして、今後も私達が一瞬で姿を消してしまうことの説明をしてくれるんだと思うわ」

 

 そして智花はもう一度、雀達三人を順に見ていく。そして、一応安堵の表情を見せると念を押してきた。

 

「怪我をしている人はいないわよね? ──────じゃあ、ごめんなさい。私も支部の人と合流して学校側に説明しないといけないから……。先に行くわね。勇者についての詳しい説明は明日、必ずするから」

 

 申し訳無さそうな表情でそう言ってくる。

 

「それから、勇者アプリのヘルプ機能にある説明書も読んでおいて。多分、分からない用語とかたくさんあると思うけど、それも明日説明するから予習だけしておいてね」

 

 それだけ言いおいて、智花は塔屋の扉を開けると行ってしまった。

 

 

 残された菜摘、雀、咲の三人は顔を見合わせる。このまま教室に戻るべきだろうか……? 

 そして雀の胸中では嵐が吹き荒れていた。

 

『えっ、えっ、えっ!? これからも戦わなくちゃいけないの……? あんな化け物相手に? 嘘でしょ? 私、死んじゃうよ? 誰か……誰か、助けてぇぇぇええええ!!!』

 

 

 




エタったと思われたでしょう?
私自身も確かにこれはエタったと思いました。
特に「芙蓉友奈」で神樹の結界の壁が来島海峡大橋を分断するように走っていることが分かった瞬間、この「すちえ」の前半プロットがものの見事に崩壊した時は。
いや、大島や大三島に行くはずだったんですけどね。
いいんです。修正プロットで代替案をぶっこみましたので。

さて、次回は大赦側の動きが中心になりそうです。

なかなか執筆時間が取れない上にあちらこちらと確認しながら書いているので、不定期更新になりますが。
せめて月一くらいは更新したいですねえ。

第三戦で増援に来るのは誰だ? 以下五名以外の場合は『活動報告』へ記入お願いします。

  • 1. 原作どおりだ、三好夏凛
  • 2. いやいやこうでしょ、楠芽吹
  • 3. 奇をてらって、弥勒夕海子
  • 4. 意外なことに、三ノ輪銀
  • 5. 原作主人公だ、結城友奈
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。