加賀城雀達が樹海から現実に帰還した丁度二十分後、大橋市(旧坂出市)にある大赦本庁祭祀院副総裁室の扉がノックされた。
鷹揚な入室許可の声を受け壮年と思しき神官が入室してくる。
その身なりは奇妙である。狩衣を纏い頭に烏帽子を載せているのは普通だが、顔には大赦を表す植物の意匠が描かれた仮面を被っている。口も鼻も、目の位置さえ不明なのっぺりとした仮面だ。どこか不気味さを感じさせる出で立ちである。
「副総裁、先ほど当代の勇者様が選ばれ、バーテックスとの戦闘が行われました」
「おお、やはりそうか。僅かではあるが違和感を感じていたところだ。で、首尾の方はどうなっている?」
「それが……」
神官は迷ったような態度を見せ、口ごもる。
副総裁の桐生は、その自分の腹心の態度に疑念を抱いた。
なお、桐生も狩衣姿ではあるが仮面は被らず素顔をさらしている。書類仕事の最中だったからだろうか。
「どうした、司波? 何を迷っている? 何か重大な齟齬でも生じたか?」
「それが……、勇者様に選ばれたのが想定されていた讃州組ではなく、愛媛の越智組でして……」
「な、なんだと!?」
「バーテックスとの戦闘も越智市内で行われたようです……」
「それは本当なのか!?」
「はい。そのため現在、技術部および呪術部では善後策の策定を急いでいます」
「なんということだ!!」
桐生は立ち上がると壁に貼られている巨大な四国地図へと向かう。そして大赦本庁、讃州市(旧観音寺市)に立地する讃州中学、越智市(旧今治市)に立地する越智第三中学のそれぞれの場所を順に指さして確認していく。
「よりにもよって一番適性値の低いチームが当たるとは……。監視の目も、支援の手も一番薄い地区ではないか!!」
最悪に近い事象に思わず声を荒げる桐生。だが、すぐに気を取り直し司波を振り返る。
「で、越智支部の対応はどうなのだ? まずは学校側への説明をせねばなるまい?」
「は! そこはすぐに対応に動いているようです。支部長自ら、勇者様の学校へ出向いているそうです」
「そうか……。それはともかくとしてだ。こちら側の損害はどうなっている? バーテックスは一体だけだったのか?」
「バーテックスは
「勇者様には、どうなのだ?」
「四人全員、無傷で生還している模様です。また、バーテックスの殺害には成功した模様です」
「そうか……。敵が一体だけとはいえ、よくも十二星座級を倒せたものだ。讃州組以外が当たった場合、失敗する恐れも高確率であったのだからな」
ふむ、と顎を撫でる桐生。ようやく落ち着きを取り戻したようだ。
「まずは情報の整理が必要だな。整理でき次第、最高評議会を招集する。準備は頼むぞ、司波」
「は! それと、これは最高機密扱いにすべきかと思われるのですが、良い知らせもあります」
「なんだ?」
「お耳を……」
何事か、ぼそぼそと桐生に耳打ちをする司波。
桐生の表情が僅かに明るいものに変化した。
「ほう……そうか、そうか……。神樹様のお考えは分からんが、そういうことであればフォローも出来ようというものだ。司波、この件は我が方で確保するのだ。いいな……!」
「はい。既に手は打っております」
「ふむ。主導権はこちら側で握るぞ。せっかく狸
今度こそ桐生の口角はニヤリと上がった。
煌々とした青白い光に照らされた大部屋。
多くのPCと素人目には何に使うのか分からない機器類、書類がぎっしりと詰まったロッカー。それらの狭間で忙しなくキーボードを叩く十数名の職員。
大赦本庁の技術部システム開発室の執務室だ。
と、一人の職員が慌ただしく席を立ち上がるとプリンタから排出された紙の山を取り上げ、背の低いロッカーで仕切られた個室もどきの一角へと足早に立ち入る。
「
彼が資料の束を差し出した正面には一人の女性が机に肘をついたまま手を組み、その組まれた手の甲の上に顎を乗せたままPCのディスプレイを見つめていた。
「北畠主任、続けなさい」
職員の方へ視線を向けることなく、どこか物憂げに反応を返したその三十代半ばと見える女性の目の下には酷い隈が浮かんでいる。元は綺麗だったろう亜麻色の長髪も手入れが行き届いていないのか、艶が無く枝毛が散見される。
北畠主任研究員は言われたとおり、報告を続ける。
「やはり
「勇者システムも問題なく稼働しているわね?」
彼女は受け取った書類に目を通しながら尋ねる。
「はい。そちらも問題はありません」
「では、手配を。差し止めていた評議会の開始は一時間後の十八時丁度で。それから、呪術部へ彼女達のカウンセリングが必要になるからその準備をしておくよう伝えておきなさい」
「承知しました」
踵を返しキビキビとした動作で事後の手配に向かう部下の背中を見やりながら、彼女は口角を上げた。
『警戒の厳しかった讃州組のアプリに仕込めなかったのが、却って功を奏したか……。まさか、実戦で検証実験が出来るとはね』
SYSTEM ANRaPoD。コードネームとして略さなければ次の通りだ。
The SYSTEM for Accessing Notional Records And POssessed by Divine things.
即ち、『概念的記録にアクセスし、神聖な何かに憑依されるためのシステム』。
西暦時代の初代勇者達が切り札として使用していた能力。それをさらにシステマイズした物だ。
彼女達がその使用に際し意識の集中が必要だったのに対し、タップ一つで、あるいは自動で起動可能にした物。
もちろん憑依させるのは精霊や妖怪などといった、あからさまに体内に瘴気が溜まりそうなものではない。
それは初代の勇者達そのもの。むしろ精神面にポジティブな影響があるのではなかろうか?
讃州組のアプリには仕込めなかったためドブに捨てたものだと思っていたのに、それが息を吹き返した。
笑いが止まらない。
『それにしても、神樹様のあの神託がこのような結果を生むとは……。あの神託に従い、アレを心ならずも横流しした甲斐があったというもの。だから予感はあった。でもまさか讃州組を差し置いて、このチームが選ばれるとはね。これも必然の運命というものかしら?』
彼女が見つめるディスプレイには、村上智花、真鍋菜摘、加賀城雀、獅子堂咲の四人の顔写真と簡単なプロフィールが四分割で表示されていた。
「なんにせよ、奴等と彼女には必ず『報い』を与えないと……」
その小さな呟きは誰に聞かれることもなく宙に消えた。
日も変わろうかという深夜。
最高評議会を終えた桐生は、自らの執務室の豪華な革張りの椅子に腰を沈めるなり大きくため息をついた。
「想定外の事態とは言え
「お疲れさまです。副総裁」
腹心の部下である司波辰成が淹れ立てのブラックコーヒーが入っているカップを机に置いた。
「すまんな。早速だが善後策をとらねばならん。今夜は休めんぞ……?」
「覚悟はしています。越智組が当たった以上、相当体制を整えないと……」
「なぜ、あのチームが当たったのか……神樹様のお考えは分からん。──────とにかくだ、バーテックスに勝利できたのも技術部が独断で仕込んでいたシステムのお陰だったようだからな! これを読んでみろ」
そう言って桐生は司波に会議資料を投げ寄越した。
司波は黙ってその紙束を取り上げると素早く目を走らせる。
「これは……、興味深いですね」
「結果さえ良ければ良いというものでもあるまい! 独断で仕込むとは技術部の奴等、一体何様のつもりなのか……。とにかくだ! プロジェクトAが瓦解の危機にある事には変わらん。ほとんどのオプションが使えなくなったのは確かだ。主戦場が越智市では
司波は桐生の剣幕に内心苦笑しながら、目を通し終わった資料を返す。と、同時にもう一枚の紙を渡す。
「ところで、御前様よりこのような依頼が来ていますが如何いたしましょう?」
今度は桐生がその依頼書に目を走らせた。
「ほう……。対応が早いな。流石だな、あの狸
「…………」
その依頼書の文面を穴が開きそうなほどに凝視しつつ何事か思案を始めた桐生を黙って見つめる司波。
数瞬の後、ギロリと睨まれた。
「よかろう。この者達は上里の婆に引き渡してやれ。ただし、だ。こちらが必要になった際には代わりとして
「は! しかし、良いのですか?」
「構わん。先に言ったように、オプションプランCですら無駄になるかもしれん状況だからな。それに、普段使いなら幾らでも代わりの巫女はいよう? それよりもだ。こちらの切り札をどう切るかが問題だ。時機を逸しては宝の持ち腐れどころか、人類の危機にも直結しかねん」
「どのように為さるおつもりですか?」
「オプションプランSは凍結に導き、代わりにオプションプランTとして発動させる事を誘導し評決させた。発動の時機は私に一任されている」
「では早速、その準備だけでも……」
「いや、婆の依頼で決断できた。婆の件と上手く絡ませろ。同時に着手だ」
「分かりました。では、早速手配を……」
副総裁室を退出した司波は足早に廊下を歩きながら、考えを巡らす。
『愚かな事だ。いくら神樹様の助力があるとは言え、人が天の神に打ち勝てるはずもなかろうに……。だが、時間稼ぎはしなければならん。『神婚』の準備にはまだまだ時間が掛かるのだ』
プランSとプランT、それぞれの人身御供となるべき少女のプロフィールを脳内に浮かべる。
『どちらにせよ憐れなものだが、犠牲は必要なものなのだ。だが、その犠牲は出来るだけ少なくしなければならない』
新たに決意を固め、司波は呪術部の執務室へと足を運んでいった。
翌朝、大赦祭祀院総裁室。
総裁である上里咲夜が待ち受ける中、扉がノックされ神官衣に身を包んだ女性が入室してきた。どちらも素顔を晒したままである。だが、神官衣の女性の表情は感情が読めないほど、氷のように冷たいものだった。
「失礼いたします。安芸三鈴、お呼びにより参りました」
「ご足労だったな、安芸よ。まあ、座れ」
咲夜が自らが座る応接セットの対面を勧める。さらに軽く一礼をして腰を掛ける安芸。
「早速だが、当代の勇者様が選ばれた事は知っていよう?」
「はい。愛媛の越智市のグループが選ばれたそうですね」
「そこまで聞き及んでいたか……。ならば話は早い。おぬしには彼女達に合流してもらい、その力となって差し上げて欲しいのだ。併せて巫女の国土亜耶も派遣する。彼女の面倒も見てもらいたい」
その言葉に、安芸と呼ばれた女性神官は僅かに表情を変化させる。
「申し訳ありませんが、その儀、辞退させていただきたく存じます」
「ほう……。して、その理由は?」
咲夜も冷たい視線で安芸を見据えた。
「私は先代の勇者様達のサポートを任されていました。ですが、結果として失敗しております。このような者に、そのような御役目を振るのは間違っていると愚考いたしますが?」
「よくよく自らを過小評価するものよ。二年前、瀬戸大橋跡地の合戦において天の神の大侵攻を跳ね返し、人類を守り抜いたではないか。それを成した勇者様達をサポートしたのは他ならぬおぬしであろう……?」
「ですが、先代様達は事実上
「全滅とは言葉が過ぎるの。それに私の苦労など可愛いものよ。この程度を苦労などと言っておっては勇者様達に顔向けできんわ……」
頑なな安芸の態度に嘆息を示す咲夜。
「よいか。これは意向確認でも依頼でもない。命令だ。おぬし以外に人材がおらんのだ」
「…………」
「先代様達がおぬしを慕っておられたのは知っておるぞ。今代の勇者様達は軒並み勇者適性値が低い。先代様達以上に苦労が多かろう。誰かがサポートして差し上げねばならぬ」
「ご命令とあらば受けるほかはないでしょう。ですが、ご期待には沿いかねます」
「それ故の国土亜耶なのだ。
そこまで話すと咲夜は立ち上がり、安芸を見下ろす。
「三週間やる。その間に準備を整えよ。亜耶にも世間の常識を叩き込んでおけ。その上で、おぬしの為すべき最低限度は国土亜耶の生活その他のサポートなのだ。勇者様達の事は最悪、亜耶に任せきりでも良い。──────よいな?」
その言葉に、黙ったまま深く頭を下げる安芸。
だが、顔を上げるや咲夜の顔を見据える。そこにはもう既に冷たい表情は無く、かつて先代の勇者達と交流を持っていた、小学校教師と勇者の補佐役を兼務していた頃の熱い感情が見えていた。
「御前様、
「申してみよ」
「勇者システムと世界の真実を、彼女達に伝えたく……」
「ならぬ! ならぬぞ……」
「しかし、それを知らずに戦わせるのは余りに余りの事です。どうか……」
「特に散華と壁の外の真実は伝えてはならぬ。勇者様達が戦う事に臆するようになればどうなるのか、おぬしにも分かっておろう? 無論、勇者様であるならば飲み込んで戦っていただけるやもしれぬ。だが、そのような賭けを行うには余りにも事態が切迫しておるのだ。神樹様の寿命も近い。余計なリスクを背負う余裕は無いのだぞ……」
反論は出来なかった。
今度こそ一言も発さず深々と頭を下げ続ける安芸。彼女が咲夜の命令を受諾した瞬間だった。
それを確認し深くうなずいた咲夜は、天井へと視線を向け独り
「二年前の事、そして今回の事で、またぞろ権力の亡者どもが息を吹き返してきておる。人類の為ではあっても、勇者様達を消耗品と考えておる者達も、の。それを鑑みれば、越智市のグループが選ばれたのは考えようによっては不幸中の幸いかもしれん……。彼の地は村上財閥の勢力圏。少なくとも大赦内の権力争いに対しては中立。越智グループのリーダーはかの財閥の跡取り娘。ある程度は守ってもくれよう……」
「御前様は、勇者様達の事はどのようにお考えで……?」
その言葉に真意を読めず、安芸は咲夜に尋ねる。
だがその返答は安芸に、問うた事それ自体を後悔させるものだった。
「私か? 私は……いや、私も大の虫を生かす為に小の虫を殺す事を
「……!」
「人類の命運が懸かっておるのだ。出来る事は
冷たい目だった。
安芸はぞっとするものを感じ、再び目を伏せるのみであった。
安芸から視線を逸らす咲夜。
『たとえ、その小の虫が私や私の大切な者の命であったとしても、の……』
その言葉だけは、咲夜の口から漏れる事はなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
放課後、雑話同好会の部室で雀と咲が待っていると、智花と菜摘が連れ立って入室してきた。
「こんにちは、加賀城さん、獅子堂さん……」
「よう。加賀城も獅子堂も早かったな」
智花はまだ罪悪感に囚われているようで元気がない。菜摘も気遣っているようだ。
パイプ椅子を三脚横に並べ雀達三人が座るその前に智花が立つ。彼女の後ろにはホワイトボードがある。そこに説明書きをするつもりなのだろう。
だが彼女は開口一番、暗い表情でまたもや謝罪を繰り返し頭を下げてくる。
「最初にもう一度謝っておくわね。──────あなたたちを騙してこの同好会に誘ったこと、本当に悪いと思っているわ。ごめんなさい。命の危険があることに巻き込んだのだから、どれだけ恨まれても仕方がないけど……」
そこまで智花が話したところで菜摘から待ったがかかる。
「待てよ、智花。それについては昼休みにもさんざん話し合っただろ? 智花の事情もある程度は分かっているし、私は恨んでなんかないよ。大赦からの指示に、子どもの私たちが逆らえる訳なんかないんだから……。だから加賀城も獅子堂も智花のこと、許してやってくれないか?」
そして雀と咲を見やりながら、そう声を掛けてくる。
するとすぐに咲がにこやかに答えを返した。
「アタシも先輩のこと、恨んでなんかないっすよ。そりゃ、あんな化け物と戦っていかないといけない事、恐くないのか? って聞かれりゃ、恐いですけどね。でも、アタシ達が戦わないと四国が滅んじゃうんでしょ? じゃ、やるっきゃないじゃないですか。アタシだって家族や友達、大切な人達のこと守りたいって思いますもん」
そして三人の視線が雀に向けられる。
その集中する視線に雀は内心、パニックに陥っていた。
『なんて、なんて返せばいいのぉぉおおお!?』
昨日帰宅後、雀はずっと悩んでいた。
知らぬ間に危険な任務に組み込まれていたことに。
今後もずっと、バーテックスなる化け物相手に命の危険が伴う戦いをし続けなければならないことに。
そしてそれは、智花への恨み辛みへと変化していった。
『トモ先輩は私達に何も知らせずに、勝手に危険の中へ放り込もうとしていた。非道いよ。あんまりだよ……』
今まで信頼しきっていただけに反動は大きい。
『あんな化け物相手に戦えだなんて、命が幾つあっても足りないよ……。それに、トモ先輩のバックに居るのがよりにもよって大赦ぁ? そんなのに関わるだとか、政治だとか、四国の人たちを守るだとか、私には
だがそこまで考え抜いて、はたと気付く。
『利用……? ちょっと待ってよ……。利用って、トモ先輩のことを利用しようとしていたのって私のことじゃない!? 学校での人間関係の荒波から守ってもらうために、先輩に寄生して利用してたのって私の方だよ! 先輩が部活に誘ってくれた時、なんにも考えずに下心丸出しで条件反射のように入部を決めたのは私じゃん!』
気付いてしまった。そう、気付いてしまったのだ。醜く浅ましい自分の本音に。
それに気付くと、それまでの智花に対する恨み辛みがお門違いであることが、自分でもいやになるほど鮮明になってしまった。
『何言ってんの、私……? この一年以上もの間、トモ先輩は私のことをずっと守ってきてくれたじゃない……? 先輩や同好会の名前を出すことで何度、ピンチから逃れられたと思ってんの? それにスマホを持ってなかった私に、先輩は愛用していたスマホだってくれたじゃない』
雀は恥じ入った。自分はなんて小汚くて矮小な人間なのだろうと。
恩人を自分の都合で利用してきたくせに、本当の事を話してくれなかったからと恨むなんて以ての
『こんな風にホントは悪くないはずのトモ先輩に責任を押し付けちゃうような考えになっちゃったのも私が臆病だからなんだろな……。イヤだな……。イヤだ、イヤだ、イヤだ! 私はなんでこんなに臆病なんだろう? そんな私が四国の人達を守る為に戦うだって? 冗談もいいところだよ……』
「私は……私は! トモ先輩を恨むなんて、そんな資格は無いんです!!」
三人の視線が集中して数瞬口ごもったものの、意を決したように立ち上がると雀はそう叫んでいた。
「へ?」
「資格が無い? 何言ってんだ、加賀城?」
「加賀城さん……」
その言葉に、咲と菜摘は鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情となり、智花は悲しげな視線を向ける。
「私はトモ先輩を恨んでいいような、そんな上等な人間じゃないんです! 逆に私の方が、私の方が……!」
そのまま脈絡の無いことを叫び出す雀。曰く、私が利用してたんですだとか、柔道部の誰それが絡んできただとか、卓球部の誰かとの話題に困っただとか、菜摘達三人にはいまいち意味不明としか思えない
雀自身は困った時に智花や同好会の存在が助けになり、自分がそれを利用していた事を伝えたいだけだったのだが、そこには論理も順序もへったくれも無かった。それ故、伝わらない。
「あー、分かった! 何が言いたいのかはよく分かんないけど、智花の事を責めるつもりがない事だけは分かったから!」
自分でも何を喋っているのか分からなくなるほど、頭の中がぐちゃぐちゃの雀。
そんな彼女の言動の肝心な部分だけを引っ張り出して、場を収めようとする菜摘であった。
兎にも角にも、そんなやり取りがあり雀が落ち着きを取り戻したところで、改めて智花が皆の前で、いつもの頼りがいのある姿を取り戻しつつ話し始めた。
「みんな、ありがとう。もう謝罪はこれっきりにする。でももちろん、みんなを騙していた事は忘れたりなんかしない。ちゃんと飲み込んで背負っていくつもりよ」
すっきりとした表情だった。
そんな表情のまま微笑むと、智花は感慨深く言葉を漏らす。
「私は本当に恵まれているわ。こんなに素晴らしい仲間に囲まれて……」
「仲間……? アタシは下級生で後輩だし、なんかそんな言われ方はヘンですよ……?」
「そんなことはないわよ。もちろん獅子堂さんも加賀城さんも私の後輩には違いないわ。でもね、こんな私でも受け入れてくれたんだし、それに、これからは一緒に力を合わせてバーテックスと戦っていかないといけない。なら、先輩後輩とか同じ部活の部員とかよりも、それ以上の『仲間』っていう括りの方が相応しいって思ったの」
『仲間』という言葉に引っかかりを見せる咲だったが、智花がその言葉に対する自分の真意を明かす。
それには皆、納得の表情だ。
「だから、これからも『神樹様の勇者』仲間としてよろしくね、雀さん、咲さん」
「うおーっ! 智花先輩に名前呼びしてもらっちゃった!! なんか、とっても嬉しいです!」
「そんなに喜んでもらえるなら、今後も名前呼びにするわね」
「やったー!!」
「そんなにはしゃぐなよ、獅子堂……」
「だって、智花先輩に名前呼びですよ? 名前呼び! 嬉しくてたまらないっす! そうだ!! 菜摘先輩もどうですか?」
「私? 私は……名字呼びのままだ! いまさら恥ずかしいだろ、名前呼びなんて!」
「いいじゃないっすか。ねえ、どうです、どうです?」
智花に下の名前で呼んでもらえたことに大はしゃぎする咲。尊敬していた先輩が距離を詰めてきてくれたことが、それほど嬉しいのだ。
ついでとばかりに菜摘にも名前呼びを誘うのだが、彼女は赤くした顔をぷいっと背けると否定する。
咲はそんな菜摘にじゃれつくのであった。
一方、雀は微妙な顔をする。名前呼びをされたことよりも、その直前の単語に嫌な予感をビンビンに感じたからだ。
「えっとー、『神樹様の勇者』ってなんですか?」
「昨日、話の中に出てこなかったかしら? 私達はバーテックスと戦う為に変身できるようになったでしょ? あれが『勇者』なのよ。大赦はいろいろな身体検査や調査を行って勇者の候補生はピックアップした。でも、最終的に選ぶのは神樹様。そして、変身した際の力の源も神樹様の力。だから私たちは『神樹様に選ばれ、神樹様の力を宿した、勇者』として今後も戦っていくのよ」
さあーっと雀の顔が青ざめる。
「勇者……? 神樹様の勇者? えっ、えっ、えっ……???」
それだけしか言えない。それだけしか言葉に出来なかった。
だが、心の中では絶叫している雀であった。
『私、臆病者ですよ!? 勇気なんかこれっぽっちもないんですよ!!? えっ、なに? 勇者? なんで……なんで、私なんかがそんなものに選ばれるんですかぁぁぁあああああ!!!???』
もちろん雀の胸中など誰にも伝わらない。
呆然としている雀を菜摘が強制的に座らせると、智花は昨日約束した勇者についての詳しい説明を始めるのであった。
大赦メンバーの名前。(桐生、司波辰成、上里咲夜、十六夜怜)
前作「鵜養貴也」から使い回しです。新しい名前を考えても私が混乱するだけですし、同じ立場の人間は同一人物ということで。もちろん様々な環境、条件が異なるので言動は微妙に変化していくことになるかもしれませんが。
憑依システムの名称。
大赦の標準的な和のテイストの命名でなく、東郷さんに真っ向から喧嘩を売っているような命名になっているのは、双葉さんの立ち位置が勇者たちとも大赦の主流とも異なる異端であることを暗示しています。
亜耶ちゃんと安芸先生。
両名とも勇者チームに合流確定。
なお上里のお婆ちゃんとの会話の流れ上、安芸先生の下の名前がないと非常に座りが悪かったので捏造しています。公式で判明次第差し替えようと思います。
ではでは、感想、評価、ここすき、などなど頂けると歓喜です。
作者のモチベーションを上げて馬車馬のように執筆させよう!
第三戦で増援に来るのは誰だ? 以下五名以外の場合は『活動報告』へ記入お願いします。
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1. 原作どおりだ、三好夏凛
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2. いやいやこうでしょ、楠芽吹
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3. 奇をてらって、弥勒夕海子
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4. 意外なことに、三ノ輪銀
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5. 原作主人公だ、結城友奈