IF√ 雀のチームが選ばれた!!   作:多聞町

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第06話 (おおゆみ)の勇者は疑問を抱く

 バサッバサッバサッ……

 

 

 その羽ばたきの音に我に返ると、雀は自分の隣で羽ばたきをしながらもふよふよと浮かんでいる自らの精霊(波山)に気付く。

 胸を精一杯張りつつ、顎を引きながら頭を反らしている。その無表情ながら、どこかドヤ顔にも見える目付きに尊大さを感じた。

 まるで射手座型(サジタリウス)を半壊に追い込んだのは自分だ、とでも言いたいように。

 

「いやいやいや、アンタがやった訳じゃないでしょ?」

 

 その態度に呆れて、半ば抗議のような言葉を掛ける。

 するとジト目っぽい感じの視線を返された。どこか、上から目線でバカにされたようにも感じる。

 

「いやいや、本当に……アンタが何をやったってんですか!?」

 

 抗議を重ねると、呆れたようにも感じられる態度を見せるやバサバサとどこかへ飛んでいく波山。

 

「ちょっとちょっと、どこへ行くんですか!? 私の精霊でしょ!?」

 

 慌てて波山を追いかけようとしてハッと気付く。

 首が錆び付いでもいるかのようにギギギギギと、ゆっくりと後ろを振り向いた。

 

 

 バーテックスが二体、迫って来ていた。蟹座型(キャンサー)蠍座型(スコーピオン)である。

 

「出たぁぁああああ!!」

 

 慌てて逃げ出す雀。

 だが、すぐに蟹座型(キャンサー)の反射板がその行く手を塞ぐ。

 雀はそれを見るやすぐに方向転換をするのだが、その走るスピードが落ちた一瞬を逃さず蠍座型(スコーピオン)の尾針による一撃が炸裂する。

 波山がどこかへ行ったせいか、精霊バリアは張られない。

 しかし、それでも雀の生存本能の方が一枚上手を行った。

 

 

 ギギン!! 

 

 

 雀は後ろを振り返らずに走りながらも、後ろ手に翳した楯を巧みに操り尾針の一撃を受け流す。受け止めるのではなく、受け流したのだ。そのため衝撃はほとんど発生しない。

 だから雀はスピードを極端に落とす事無く逃げ回れるのだ。

 

 

 反射板が行く手を塞ぐ。

 雀が方向転換する。

 その一瞬を逃さず尾針の攻撃が来る。

 それを楯で受け流しながら、さらに逃げる。

 

 

 この繰り返しが延々と続いていった。

 もちろん、雀は目から鼻から口から液体を振りまきながら絶叫する。

 

「トモ先輩ィィイイイ、たぁああすけてぇぇえええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か、獅子堂……?」

 

 蹲ったままの咲の背中に手を当て、身を(かが)めて心配する菜摘。

 その傍らで智花も心配そうに二人を見つめていた。

 

「う……ぐ…………はぁああ! 非道い目に遭った♪」

 

 最初は呻き声を上げた咲だったが、大きく伸びをしながら大声を出し、やたら元気よく立ち上がった。

 

「本当に大丈夫か?」

 

「いやぁ、精霊(オボラビ)がバリアを張って守ってくれたんで、大丈夫っすよ。でも、まあ、体を縮こまらせたまんま衝撃を受け続けたんで全身が……」

 

「全身が?」

 

「痛いのか?」

 

「……凝ったっす♪」

 

 その答えにずっこける智花と菜摘。

 その二人に視線を向け、タハハ……と笑いながら頭を掻く咲。さらにはコキッコキッと首を鳴らすと、今度は片手ずつ肩を回して凝りをほぐす。そして、先輩二人に向けて力強く宣言した。

 

「じゃあ、反撃といきましょう! 雀先輩を助けに行かないといけないっすからね」

 

「いえ、あっちは後回しよ。雀さんがくれたチャンスを逃しちゃダメ」

 

 だが、智花は首を横に振る。

 菜摘はその態度に驚きを見せた。

 

「智花!? 加賀城を見捨てるって言うのか?」

 

「違うわ。雀さんの防御力を信頼しているの。それに射手座型(サジタリウス)の動きが止まってる。回復に全力を回さないといけないぐらい破壊されているのよ。せっかく雀さんがそこまでのダメージを与えてくれたのだから、まずはあちらにトドメを刺しましょう」

 

 だが智花の説明は納得のいくものだったようだ。

 三人は互いに頷きを返すと、全速力で射手座型(サジタリウス)を取り囲む配置へと着く。

 

「「「封印!!」」」

 

 三人が片手を突き出してそう叫ぶと、未だ半壊状態から立ち直っていない射手座型(サジタリウス)の下段の口から前回と同じく逆四角錐型の形状をした御魂が吐き出される。

 その御魂は最初はゆっくりと、だが急激に速度を上げて射手座型(サジタリウス)本体の周りで周回を始める。その速度はすぐに目にも止まらないものにまで上がった。

 

「速っ!?」

 

「これじゃ矢が当たらない!」

 

 咲と智花が驚きの叫びを上げた。

 しかし、菜摘が冷静な声を二人に掛ける。

 

「二人はそのまま封印を掛けてろ。私がやる!!」

 

 菜摘が鞭を振るう。

 一回目。失敗。タイミングが遅く空振りをした。

 二回目。失敗。御魂の周回方向前方から鞭を巻き付けようとしたが弾かれた。

 三回目。ドンピシャ!! 今度は横方向から巻き付けようとし、タイミングがバッチリと合った。

 

「よし、捕まえた! 智花!!」

 

 その声に合わせ、智花は左手で封印を掛けたままもう片方の手でクロスボウを連射する。

 菜摘が鞭を巻き付け動きがとれない御魂。そこに矢が次々と突き刺さる。

 そして五本目が突き刺さった時、御魂は眩い光を放ち爆発した。その爆発の閃光の中から数十もの様々な色とりどりの光の粒が天上へと昇っていく。

 残る射手座型(サジタリウス)の本体は急激に色を失い、砂となってサラサラと崩れ去っていった。

 

「よし! 次は加賀城の番だ!!」

 

「菜摘先輩。その言い方だと、なんだかまるで雀先輩をやっつけに行こうって言ってるように聞こえるっすよ……」

 

「! …………」

 

「クスッ……そうね。じゃあ、雀さんを助けに行くわよ!」

 

「お、おう!」

 

 射手座型(サジタリウス)を屠ったのを確認するや、雀を助けに行こうと気勢を上げる菜摘。だが咲から突っ込みを受けて顔を真っ赤にする。

 そこに苦笑気味に助け船を出す智花。

 菜摘は顔を赤くしたまま、やや力なく応えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドスドスドス、ドスッ!! 

 

「うひぃぃいいい!!」

 

 巧みに逃げ回る雀であったが、どうやらバーテックスには学習能力があったらしい。

 雀の四方を取り囲むように蟹座型(キャンサー)の反射板が地面に突き刺さった。

 逃げ場を失い、顔を青ざめさせながらキョロキョロと周りを見回す雀。

 

「ひぃぃいいい! 誰かぁああ、お助けをぉぉおおお!!」

 

 盾を上方に向けて構えながら助けを呼ぶ雀。

 だが無情にも蠍座型(スコーピオン)の尾針が真っ直ぐ上方から振り下ろされる。この位置関係では逸らして衝撃を防ぐ事も不可能だ。真っ向から盾で受け止めるしかない。

 

 

 その時!! 

 

 

 ガッ! バチバチバチッ!! 

 

 雀の周囲に、久々に精霊バリアが張られた。

 

波山(ばしゃん)~! アンタ、帰ってきてくれたんでしゅか~!? ありがとうごじゃいましゅう!!」

 

 そう、波山がいつの間にか雀の前面に戻ってきていたのだ。そしてバリアを張ってくれている。

 雀は涙とも鼻水ともつかない液体で顔をぐしゃぐしゃにしながら感謝の言葉を掛けた。

 

 

 そして続く蠍座型(スコーピオン)の二撃目!! 

 

 だがしかし、それは来なかった。

 

 

 ザシュン!! 

 

 

 咲の大鎌の一撃が蠍座型(スコーピオン)の尾を半ばから斬り飛ばしていた。

 

「雀先輩、大丈夫っすか!?」

 

 そして、咲の心配の言葉が掛けられる。

 

「さきの~ん、助かったよ~!」

 

「大丈夫っすね! じゃあ、アタシはこいつを!!」

 

 咲は雀の無事を確認するや、大鎌を振り回しめったやたらに蠍座型(スコーピオン)に斬りつけていく。

 雀は這々の体で蟹座型(キャンサー)の反射板の囲みから抜け出した。すると、智花と菜摘の奮戦も目に入ってくる。

 菜摘が振るう鞭は蟹座型(キャンサー)の残る二枚の反射板をボロボロと腐食させていっていた。智花の放つクロスボウの矢は蟹座型(キャンサー)本体に十数本も突き刺さっており、蟹座型(キャンサー)を弱らせていっていた。

 

「うおりゃーっ!!」

 

 咲が発する雄叫びに振り向いた。

 咲の空中回し蹴りが連続して何度も尾を完全に失った蠍座型(スコーピオン)の胴体に叩き込まれる。たまらず蠍座型(スコーピオン)が吹っ飛び、蟹座型(キャンサー)にぶつかる。二体はグロッキー状態だ。

 

「今よ! 封印の儀!!」

 

 智花の叫びに四人同時に封印の儀を掛ける。

 蠍座型(スコーピオン)が抱えていた球体がドサッと落ちる。その上部には逆四角錐の御魂が浮かび上がった。

 一方、蟹座型(キャンサー)の方は頭部が前後に裂けるように開く。すると、そこから同様の形状の御魂が出現する。

 

「よしっ! アタシが!!」

 

 威勢よく飛び出す咲。彼女は大鎌の一撃を上段から蟹座型(キャンサー)の御魂に叩き込む。だが、御魂はその斬撃をヒョイッと躱す。続いて二撃目、三撃目、四撃目……。次々と咲の斬撃を軽やかに躱していく御魂。

 

「クソー! こいつ、絶妙に()けてきますよ!」

 

 悔しそうな声を上げる咲。

 だが、そこに智花のアドバイスが飛ぶ。

 

「咲さん。その御魂、平面的にしか()けていないわ。垂直じゃなくて水平の攻撃なら当たるはずよ!!」

 

「! 分かったっす!!」

 

 智花のアドバイスに従い、全力で水平の斬撃を飛ばす咲。

 

「喰らえぇぇええええ!!!」

 

 その一撃は避けようとする御魂の動きに喰らいついた。

 

 

 ザシュン!! 

 

 

 蟹座型(キャンサー)の御魂は上下に真っ二つになった次の瞬間爆発し、その閃光の中から色とりどりの数十もの光の粒が天上へと帰っていく。そして本体も砂となって崩れ去っていった。

 

 

 

 

 残るは蠍座型(スコーピオン)の御魂のみ。菜摘が鞭で叩こうとした瞬間。

 

「げ!?」

 

 御魂は二十個ほどにも分裂する。

 

「クソ! こいつ!!」

 

 菜摘は構わずに鞭で叩く。叩かれた御魂はすぐにグズグズに腐食したかのように崩れ去る。だが、一つ消えると又一つ増えるといった具合に、イタチごっこに陥った。

 

「ダメだ! 私の鞭じゃ潰しきれない!!」

 

「待って! 多分、菜摘が叩いているのは分身体だと思う。本体がどこかにいるはずよ!!」

 

 やはり智花がその洞察力を遺憾なく発揮し、アドバイスを送る。

 

「! なら、ここか!! 智花!!」

 

 菜摘が御魂の一体を鞭でぶっ叩く。と同時に智花の名を叫びながらアイコンタクトを交わす。

 

「分かったわ! ここ!!」

 

 菜摘が崩した分身体の御魂の奥に隠れていた御魂。菜摘が崩した分身体の御魂が復活する前に、そこに智花のクロスボウの矢が撃ち込まれる。

 その矢が突き刺さった瞬間、周りの分身体が全てかき消すように消えたかと思うと本体である御魂も爆発する。

 そしてやはりその閃光の中から色とりどりの数十もの光の粒が天上へと昇っていく。そして蠍座型(スコーピオン)の本体も砂となって崩れ去っていった。

 

 

 

 

「よっしゃ、勝ったぞ!」

 

「やりましたね!」

 

「よかった~。今回も生き残れた~」

 

「みんな、お疲れ様。ケガはない?」

 

 四人は駆け寄ると、それぞれの気持ちのこもった第一声を発し合う。

 菜摘と咲は喜びに顔を綻ばせ、雀は安堵の息をつき、智花はみんなを労った。

 

 そして、そんな勇者四人を包み込むように辺りに真っ白な光が発すると、樹海化は解けていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 大赦本庁技術部。

 慌ただしく職員が行き交う対策本部室で、部長の加賀美は部下の切れぎれの報告を聞きつつ巨大なモニターを見ていた。今まさに三体のバーテックスと勇者たちの戦闘が映し出されているモニターを。

 

「加賀美、どうなっている!?」

 

 怒声に近い声掛けに視線を向けると、祭祀院副総裁の桐生が入室してきたところだった。

 技術部は大赦の俗の部分を担う事務総局内の一部署だ。聖の部分を担う祭祀院とは別ラインである。だが、別系統とは言え最上位と言ってもいい役職に付いている人物の入室に姿勢を正して立ち上がる。

 

「これは副総裁。いえ、副総裁がわざわざここまで出向かれるほどの事態にはなっておりませんが?」

 

「司波が出ていてな。整理された情報がリアルタイムで上がってこんのだ。状況はどうなっている?」

 

 既に事態は収束した後である。それは桐生も分かっているだろうことを踏まえ、それでも技術部まで足を運んできた理由を遠回しに尋ねるような物言いをしてみた。

 案の定、あの優秀極まりない腹心が本庁内にいないようだ。そのため、副総裁の元に上がる情報が錯綜しているのだろう。

 

「バーテックスは三体とも御魂もろとも撃滅されています。また勇者様は一人も欠けること無く、無傷で生還されております。ただ、越智市周辺では土砂崩れ、交通事故等、かなりの数で発生しています。幸い死者は出ていないようですが……」

 

「相手は二年前、三ノ輪様を死に至らしめたあのユニットと聞いているぞ。それも本当なのか?」

 

「はい。確かに蠍座型(スコーピオン)蟹座型(キャンサー)射手座型(サジタリウス)の三体でした。ですが、勇者様たちの奮戦で事なきを得ています」

 

 桐生を落ち着かせようと簡潔に、だが出来るだけ網羅的に状況を報告する。

 だが、桐生の剣幕は収まらない。

 

「そんな事を訊いているのではない! 昨日の今日で先代の勇者様を死に至らしめたユニットを寄越したのだ。明日にでも、瀬戸大橋跡地の合戦のあの大侵攻が再現されるかもしれぬではないか!!」

 

 その桐生の大声に対策本部室内が水を打ったように静まり返る。慌ただしく行き交っていた職員、その全員が足を止めて桐生と加賀美の方を振り返っていた。

 彼らの顔は全員が大赦の意匠を描いた仮面に隠されている。だが、その仮面を取り去ってみれば分かっただろう。揃いも揃って全員の顔が青ざめていたことが。

 

 

 

 

「ご安心ください、副総裁。先程、神樹様より神託が下りました。少なくとも当面、一ヶ月ほどはバーテックスの侵攻は止むとのことです」

 

 大赦の仮面で顔を隠した神官装束の女性が進み出る。システム開発室の野城(やしろ)双葉上席研究員だ。

 桐生は彼女の胸のネームプレートを一瞥すると鼻を鳴らした。

 

「ふん、貴様が野城(やしろ)か。あのANRaPoD(アンラポッド)を無断で仕込んだ研究員だな?」

 

「半年前、副総裁の反対で採用を見送られたシステムです」

 

「反対したのは私だけではなかったがな。そもそも讃州組さえ選ばれておればあのようなシステム、必要なかったものを……」

 

「お言葉ですが、現に必要な事態になっております。やはり最悪の事態に備えることこそが肝要かと……?」

 

 桐生の見下した態度に、双葉は混ぜ返して揶揄する。その口調もどこか反抗的だ。

 

「まあいい……神託の件だったな。貴様にだけ下りたのか?」

 

「いえ。主だった巫女には下りているかと」

 

 その言葉に桐生は思案を巡らす表情をした。そして、すぐに立ち去ろうとする。だが、思い直したように双葉を見返すと心底軽蔑しきった態度で言葉を吐き捨てた。

 

「兎に角だ。この程度のことで功績を上げただなどと思うなよ。お前達の一族の復権など有り得ないのだからな」

 

 桐生はそう言い捨てると、足早に対策本部室を出ていった。

 自らの執務室へ向かう彼の胸中では次の言葉が渦巻いていた。

 

『まったく……弥勒と言い野城(やしろ)と言い、復権のためには目の色を変えおって。桐生家がかつて奴らと関わっていたなどと、怖気が走るわ!』

 

 

 

 

 双葉は桐生が部屋を出ていったのを見送ると気持ちを落ち着ける。あのような事にかかずらってる場合ではないのだ。近くの席に座り、さらに勇者たちの戦いを解析しようとキーボードを叩き始めた。

 すると、背後から声が掛かる。

 

野城(やしろ)上席。ちょっと、よろしいですか?」

 

 振り向くとやはり仮面で顔を隠している北畠主任研究員が恐る恐るといった感じで尋ねてきていた。

 一応、ネームプレートを確認せずとも声で直接の上司や部下は見分けられる。

 

「いいわよ。なに?」

 

「ちょっと、このデータを見てください」

 

 彼は紙束を差し出してきた。そこに書かれているのはアルファベットと数値の羅列だけである。素人目にはその内容は全く分からないだろう。辛うじて内容が見て取れそうなアルファベットも短縮形や頭文字の組み合わせなので、やはり素人には意味を類推できない。

 だが、当然のことながら双葉には読み解ける。

 

「勇者の与ダメージ量と被ダメージ量? 瞬間最大値に秒間平均値、三十秒平均値。これがどうしたの?」

 

「幾つかマーカーで印を付けました。そこを見比べてください」

 

 彼の言う通り、ピンクと青の蛍光マーカーで見るべき箇所がマーキングされていた。

 資料を捲っては戻し、捲っては戻ししながら読み込んでいく。

 

「昨日のものは一瞬だったので機器の誤差か何かかと疑われたんですが……。本日のデータで確信が持てました。ANRaPoD(アンラポッド)起動後の加賀城雀の攻撃力は、他の勇者よりも図抜けて高いということが……」

 

「確かに。画像から受ける印象以上に数値が高い。どういうことかしら……?」

 

 疑問形で返したものの双葉には心当たりがあった。それを確認するために資料を横に置くやPCを操作し、雀が写っている画像を処理していく。

 

「彼女だけ、図抜けてANRaPoD(アンラポッド)に対する適合性が高かったということでしょうか?」

 

 北畠の推論など、もちろん耳に入らない。

 モニターの画像を凝視する双葉。

 どういった仕掛けになっているのか、スマホを眺めている雀を斜め後ろから俯瞰する映像がモニターに写っていた。その画像が高度な処理を受けどんどん拡大される。やがて、スマホの画面表示内容がその小さな文字の一つ一つまで明確に分かる程度まで拡大された。

 そこにはSYSTEM ANRaPoD(アンラポッド)の起動警告画面が表示されていた。

 

『そう……やっぱりそうなのね。讃州組を、いえ、『結城友奈』を差し置いてまで、この越智市のグループが選ばれた理由。ロシアンルーレットに当たったこの子こそが選ばれたのね……』

 

 確信を得た双葉は目を細めると、粘つくような暗い笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 二日後の放課後。雀たちは、越智三中からほど近い大衆中華料理店『太白天』で食事を摂っていた。

 いつものように智花は大盛りの焼き豚卵飯を、菜摘と雀は焼き鳥を──ただし今日はそれぞれ一人前ずつであるが──、そして咲は新メニューの八幡浜ちゃんぽんの普通盛りを。いつもよりちょっと多めなのはストレス解消の意味合いがあるのかもしれない。

 

「で、みんなはどうだったの? カウンセリングの結果」

 

「私も智花と同じく、精神面に憑依の悪影響が出ているってさ。まあ、やっぱり体調までは影響が出てないようだけど」

 

「アタシもまったく同じですね」

 

 智花の問い掛けに菜摘と咲が答える。

 

 

 彼女達は二日前、三体のバーテックスとの戦闘後すぐに大赦越智支部へと連れて行かれた。そこでSYSTEM ANRaPoD(アンラポッド)の説明を受けると共にカウンセリングを受けさせられたのだった。そして、その結果を今日、電話連絡で受けたところだ。

 驚いた。

 SYSTEM ANRaPoD(アンラポッド)とは、神樹様に蓄積されている概念的記録にアクセスし、そこで得られた過去の勇者の力を雀たち現勇者に上乗せさせるものだと説明を受けたからだ。

 そして、カウンセリング。過去の勇者は当然、ただの人間である。だが、神樹様の概念的記録として既に人ならざる存在になってしまっているのだ。その力を、いわば憑依状態に持ってくる訳である。大赦としては安全側の措置を行いたいが為に、雀たちに憑依の悪影響がないか調べる必要があったのだ。

 その結果は、想定の範囲内とはいえ悪いものであった。

 雀たちは教えてもらっていないことなのであるが、その昔、西暦時代の初代勇者は切り札として一般的には妖怪として知られる強大な存在を憑依させていた。その結果、体に瘴気が溜まり、精神面にも肉体面にも致命的に近い悪影響が出ていた。

 雀たちの場合、そこまでではなかった。かつて初代勇者に検出された瘴気も検出されてはいない。だが、神霊的に強大な存在を憑依させることで魂が、あるいは霊的に疲労が生じるのだろう。精神面に悪影響が出ていた。曰く、イライラする。曰く、クヨクヨする。曰く、普段の生活が注意散漫になる。──────今はその程度だが。

 

 

 

 

「加賀城はどうだったんだ?」

 

 菜摘が、智花の問い掛けに返事のなかった雀に改めて問い掛ける。

 それを受けた雀の表情は微妙なものだった。

 

「それが……なんだか、よく分からないって言われました」

 

「「「?」」」

 

 雀を除く三人の顔に疑問の表情が浮かぶ。

 

「私って臆病者じゃないですか……。普段からビクビク、オドオドしちゃってて。で、普段の私のことも正直に包み隠さず答えてたんですけど、なんか、普段との有意差? ってのが見えないって言われました。もしかしたら影響が小さいのかも、とも……」

 

 その答えに菜摘と咲が笑い出す。特に菜摘は隣り合った席だった雀の背中をバンバン叩き出す。

 

「そうかそうか。大赦のカウンセラーでも分からないくらい小さな影響なのか。良かったじゃん。まあ、攻撃に掛けてた時間も私達の中じゃ一番短かったしな。良かったよ。一人でも悪影響の少ない奴がいて」

 

「ホントっすよねえ。雀先輩が軽症でなによりっす。アハハハ……」

 

 二人は嬉しそうだ。その反応に雀はどういった顔をしていいのか分からない、といった表情をしている。

 だが、智花は笑えなかった。

 

『おかしい……。雀さんは私達の中で、ダントツで攻撃力も防御力も上がっていた。防御力は雀さんの資質に依るところが大きいとも見えるけど、それでも攻撃力だけは違う。みんなの攻撃が僅かにも通らなかった乙女座型(ヴァルゴ)の御魂を一撃で破壊した。射手座型(サジタリウス)の槍だって。それにその本体も一撃で行動不能に追い込んでいた。それなのにどうして影響が小さいって判定されるの?』

 

 他にもおかしな点は散見された。

 

『それに雀さんの武装よ。精霊バリアがあるのに、その機能に重複するような盾。それにその盾は武器にも変形した。周囲に刃が出てきたり、槍に変形したり。そんな特殊なギミックを有する武装を操る勇者が過去にいたっていうの……? 私達の武装は、私にせよ、菜摘にせよ、咲さんにせよ単機能なのに……』

 

 考え事をしながらも箸は進む。既に丼の中身は三分の一程度にまで減っている。

 

『特に問題なのは『ANRaPoD(アンラポッド)』と『満開』との位置付けだわ。どちらも勇者の力を引き上げるもの。雀さんの盾と同じだわ。機能が重複している。どういった棲み分けになっているの?』

 

『満開』については昨日、三人に説明した。

 満開。

 勇者がバーテックスとの戦闘の中で大きなダメージを受けたり与えたりした場合、勇者装束のどこか──個人個人で位置は異なる──に付いている花弁状のゲージが色付き溜まっていく。五つあるゲージの全てが色付くと、その勇者の意思に従って『満開』という機能を使えるようになるのだ。

 その機能を使うと大幅に戦闘力が上がり、封印の儀を使わなくとも御魂を破壊できる可能性すら生じるのだそうだ。ただし一定時間が過ぎると『満開』は解け、ゲージも0に戻る。すると引き上げられていた戦闘力も元に戻る……のではなく、元の戦闘力に近いところまで落ちることは確かだが、それでも元の戦闘力よりは上回ったものになるのだそうだ。

 要するに、一回『満開』を経るごとにレベルが1上がり、ステータスもその分上乗せされるということだ。

 

『支部長さんにも尋ねたけど、また本庁に確認しておきます、としか答えはなかった。叔父様も同様だった。でも叔父様からは、どうやら『満開』は先代勇者の頃から採用されていたのに対し、『ANRaPoD(アンラポッド)』の採用はつい最近、急遽決まったようだと言われたわ。どういうことなのかしら? 最近、勇者アプリのアップデートはしていないのに……。とにかく『満開』と比べても変なシステムという印象しかない……』

 

 ついに最後の一口を口に運ぶ。

 考え事をしていてよく味わえなかったな、と少し残念に思う。この店の焼き豚卵飯は智花にとって小学生の頃からのソウルフードなのだから。

 

『それに、バーテックスが四体とも異常に雀さんを敵視していたことも疑問よね。どうして彼女だけが特に狙われていたのか……』

 

 お茶をすすりながら、そんなことにも気が向く。

 だから、自然に雀の様子を窺うことになった。

 すると、菜摘、雀、咲のじゃれ合う笑い声が聞こえてきた。それにも気づかずに考え事をしていたのか、と愕然としながらも、他の客の迷惑になっていないかどうか周囲を窺う。時間帯が早いので、他には二、三人しか客はおらず、別に雀たちに迷惑顔を向けてはいないようだ。

 今、三人は雀のスマホを使って動画を見ているようだ。

 こんな風に智花が考え事に耽っている際、放っておいてくれるのは菜摘の気遣いだろう。菜摘に感謝の視線を向ける。

 と、その三人の姿に唐突に一年前のことを思い出す。勇者アプリを仕込む為の端末──スマホを自分、菜摘、雀の三人で分け合った時のことだ。

 

『そういえば、雀さんに渡したスマホ──────』

 

 そこまで考えた時、智花のスマホから着信音が響いた。

 考え事を中断してスマホを取り出す。

 届いていたメッセージに目を通した。

 

「智花、どこからの着信だ?」

 

 菜摘が何気ない様子で問い掛けてきた。

 智花は居ずまいを正して答える。

 

「大赦からよ。三週間後、増援が来るんですって。勇者と巫女様、一人ずつね」

 

 その答えに菜摘も雀も咲も、鳩が豆鉄砲を食ったような表情で固まった。

 

 

 




新年も既に二月ですね。大変遅れましたが、更新です。

あれれー、おっかしいぞー。大赦がある程度とは言え、親切にも情報を勇者に流していますね。
どうした、大赦? お前たちはそんなに親身にはなってくれなかったはずでは?

銀ちゃんが……。(このお話は原作救済ではないのです。それは前作である程度やりましたし)
越智組は原作讃州組と異なりバーテックス関連の過去の因縁がありませんので、過去の事象は大赦の描写を通じて明かしていくスタイル。今後もそうとは限りませんが。

さて、やっと起承転結の『起』の部分が終了。
このお話、増援が来てからが本番ですから。まだまだ先は長いぞ。

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