文化祭の文化は馴れ合いの文化
文化祭は嫌いだ。
特に何か理由があるわけじゃないが、あの馴れ合いの塊のような雰囲気が心底嫌いでたまらない。
文化祭なんて名前だけで、実際は文化も技術もクソもないただの偏差値失墜万国博覧会だ。
そんな文化祭の季節が今年もやってきた。
最初から全く期待なんかしてないし、また去年と同じようにアホほど心の底からは興味も笑いも起きない仲間内だから笑えるようなものしか作らないのだろう。
ただこの2年6組はかなりみんなやる気があるようだ。
積極的な意見、そして考察を挟んだ討論は見ていて気持ちがいい。
俺は全く参加しないけど。
ただ、あの黒板の端っこに書いてある白雪姫にだけはなってほしくない。
どうか…頼むぞ…委員長…
「今年の文化祭でやる劇は白雪姫です!」
「…だってさ、どう思う?」
「半径10mぶっ壊したい」
ちなみに白雪姫になった理由は、この2年6組で1番可愛いとされている女子の苗字が白雪だからである。
つまりこの白雪姫には他の建設的な意見は何も含まれていない。
こういうパターンは大抵、低クオリティなものを製作し、醜態を晒し、しくしく泣きながら到底高校生が製作したとは思えないようなチーターマン同然の劇をやって終わりなのだ。
「開口一番物騒だな西谷…」
物騒なのはこのクラスの女子達の方だと思うがな!!!
「いいか泉、お前は何も分かっちゃいない」
「お前は現代に生きる高校生が白雪姫をそのまま劇にしてウケると思っているのか?」
うーんと唸りながら考える泉。
「そりゃ、仲間がやってたらアホらしくて面白いんじゃないかな?」
「確かにそう考える奴もいる、お前のようにな」
こういう時のために持っているメガネを取り出し、スタイリッシュに、イケてる感じに装着する。
「だが、そうじゃないんだ、そうじゃないんだよ原口」
「そのメガネどこから出したの?ねえどこから出したの?」
彼は、今とても目を見開いていて、気持ち悪いです。
「それはただの馴れ合いでしかないんだ、それは同級生からの支持しか受けない。つまり学校全体を震わせるような感情の波を与えることは不可能なんだよ」
「俺の質問は無視か?」
「メガネは口から出した」
「気持ち悪い収納方式だな」
文化祭はその高校に属している人間全て、そして地域の方々が皆等しくどこかで楽しめて当然のものであり、逆に楽しめるように貢献せず、意欲的に製作しないのであればそれには何の価値も存在しないからだ。
「…まあ、お前の言いたいことはわかった。確かにその通りだし、お前の意見は的確で素晴らしいものだと思うよ」
「分かってくれたか泉!それでこそ俺の友人だ!」
足を震わせ机をガタガタと揺らし興奮を抑える。
抑えられていないように感じると思うがこれは抑えているのだ。
以前は意見の同調が激しすぎてロッカーをとてつもない轟音と共に破壊の限りを尽くした。
「だが…それを実現するならお前が脚本を担当することになるぞ?」
「…」
「…」
「…やはり今の話はなかった方向で頼む」
「なんでそこで折れるんだよ!」
自分は人の考えたことに対して自論を展開し、他者からの共感を得ることは昔からやってきた。
しかし。
しかしなのだ。
俺は人をまとめるということだけがめっぽう弱い。
いや、正しく言えば大人数の前で自論を展開し、共感を得ようとすることに恐怖感を抱いているのだ。
そのため、昔から何かを決める時に自分の意見を言い出せず、余り物の係に配属されたり入りたくもない委員会に入ることになったり散々な目にあっている。
全ては私がそれを直そうとせずにここまで歩んできたことが間違いだ。
しかしどうしても、どうしてもこれは何故か直せないのだ。
「お前が昔からそういう奴なのは知ってる!だからこそ今、直すチャンスが巡ってきたとは思わないのか!?」
「だだだだだって、怖いじゃないですか…?共感してくれる人もいれば批判する人もいる訳でっでですですし…」
「いきなりキョドって相変わらずキモいぞお前」
「とととととりあえずさっきの話はナシで頼みます…」
脚本なんかごめんだな。
私の貴重な活動時間が失われるのは心底困る。
「おっと…残念だがそれは叶えてやれない願いだな…西谷…」
「なん…だと…?」
さっきまで黒板に白雪姫を書いていたはずの委員長がいるではないか。
最悪だ、本当に、心底、最悪だ。
これから起きる展開が目に見える。
「是非とも…」
やめてくれ。
「君に…」
頼むから。
「この白雪姫の…」
…。
「脚本…いや、監督をやってもらおうじゃないか!」
「…西谷」
周りが俺に目線を集中させる。
無責任な奴らめ、俺がちょっとクラス全員と上手くやっていけてるからってそんな目で俺を見るな。
「…」
「…やってくれるか?」
「…はい…」
今日は、人生で一番最悪な日だ。