広い部屋に大人数で集まれるという理由から、楓の部屋で良子の誕生日を祝う事になって数時間。楓とミカン作のフルーツケーキを食べながら、当の本人である良子は楓の膝に収まっていた。
良子を楓に任せて先に帰ったシャミ子と着いていった桃、仕事があるからと店に戻ったリコや杏里を見送り、今は3人が部屋にいる。
「お味はどうかな、良ちゃん」
「ん、凄く美味しいよ。わざわざ作ってくれてありがとう。お兄、ミカンさん」
「いいのよ、ふふ」
ニコニコと笑みを浮かべるミカンは、良子からのお礼を受け取り、からかうような目線を楓に向けて目尻を緩める。
「なにかな」
「いいえ~? 随分と仲がいいみたいで、ちょっと怪しい~なんて考えてないわよ」
「疑ってるんじゃないか……」
良子の座椅子代わりに使われている楓は複雑そうに眉をひそめる。件の良子は、ミカンをちらちらと見てはケーキを頬張りながらむすっとした表情を楓の足の間で作っていた。
「──あらあら」
「なんだ?」
「……よしっ、それじゃあ私もそろそろお
「そうか、じゃあ玄関まで送るよ」
「ん。またね、良ちゃん」
「あっ……はい、また」
席を立って上着を腕に持ち、
楓の膝から降りた良子は、何かを察したように頷いて見送った。
扉の閉まる音と鍵を掛ける音が聞こえ、戻ってきた楓が座った隣にストンと腰を下ろした良子は、伸ばした手で楓の手を掴む。
「良ちゃん?」
「……ん」
指で手のひらを揉み、指を絡ませ、顔に持って行くと頬を擦り寄せる。
猫のような甘え方に頬を緩めるが、その脳裏に以前言われた言葉を思い出す。
『お兄が好きです』
あれから誕生日を迎え、良子は13歳。約束の16歳まであと3年だが、距離感が変わるわけでもなく、さりとて恥ずかしがるわけでもなく。
「お兄、おにい……」
弄ばれている手から伝わる頬の熱。フルーツケーキに混じった少女の香り。
マスクのように覆う楓の手の隙間から潤んだ眼差しで見上げてきて、一言。
「……プレゼントに、お兄が欲しい、って言ったら……怒る?」
「──いや、まあ……怒りはしないけど」
「だよね。お兄、誰にでも優しいし……」
「ちょっと言葉にトゲがあるよね良ちゃん」
むすっとした顔をして、それからふっと小さく笑みを作り、楓に笑い掛ける。
「あと3年で良の告白に答えてくれるって、分かってるよ。……その前に手を出させて既成事実を作ろうとか思ってないから安心して」
「思ってたんだね……」
呆れたような顔を向けて、楓は複雑そうに笑う。それから少し考え、楓はおもむろに良子の握る手を引くと、その手で髪を分けてから──額に軽く、一瞬だけ唇を付けた。
「──ぇ」
「いつも頑張ってる子にご褒美、という事で。これがプレゼントじゃ、嫌かな」
「ぁ……ううん。凄く、嬉しい……!」
良子は楓の胸に顔をうずめるように飛び付き、両手を背中に回して確りと抱きつく。
返すように抱き締めて、楓は良子の耳元に口を近づけて、囁くようにして言った。
「誕生日おめでとう、良子」
「──ありがとう。お兄」
まぞく6巻まで更新を止めると言ったが……スマン、ありゃウソだった(コロネ)