【完結】まちカドまぞく/陽夏木ミカン攻略RTA   作:兼六園

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7巻が出ないので初投稿です


桜エンド/それはあり得た物語

 ──カツ、カツ、と湿った石畳の上を歩く人影が二つ。古い遺跡の中を、松明を片手に、青年と女性が迷いなく歩いていた。

 

「いやぁ~君のお陰で探索が楽チンで良いねぇ。あ、楓くん、眼の負担は大丈夫?」

「──ええ、大丈夫で……桜さんストップ。()()を踏まないで」

「およっ?」

 

 おもむろに女性──千代田桜の肩を押さえた青年、秋野楓は足元を指差した。

 他のモノと同じような地面だが、楓の()は違うモノを捉えている。

 

「……もしかして()()?」

「どの遺跡や洞窟にもありますね、これ」

 

 松明とは別の手に取った登山用の杖を違和感を覚えた部分に押し込むと、二人の眼前をバシュッと音を立てて無数の矢が横切った。

 

「わお」

「……、…………。はい、罠の場所はわかりました。俺がマークした所を追従してください」

「ああ、もう()()んだ。──何回当たった?」

「一歩ずつ確かめたので……12回?」

 

 そう言いながら、楓は足で靴の踵を弄ると、地面の罠が無い部分に一歩ずつ跳ぶ。すると、着地した部分に足跡の形の目印が残る。

 最後の一歩で反対側に着地して、楓は振り返ると桜に声を投げ掛けた。

 

「桜さん、来てください」

「はーい。よっ、とっ……ほっ」

 

 桜もまた楓と同じようにして、マークされた部分を踏んで跳躍する。そして楓の隣に着地すると、満足げに額の汗をぬぐった。

 

「ふぃ~、到着っ」

「あとは……特に無いですね、前回は最奥に到着した瞬間に踏まなかったトラップ全部起動して大変なことになりましたが」

「あれすごかったよね」

 

 テーマパークもかくやと言わんばかりの大騒ぎを脳裏に思い返しつつ、楓と桜は奥に進む。

 最奥の行き止まりに到着すると、二人の眼前には、上に物が置かれた台座があった。

 

「今回のお宝はなーにっかなー」

「結界に使えると良いんですがね」

 

 手を擦り合わせて品定めする桜に楓が言う。持ち上げる、持ち上げてから少し待つ、持ってから帰る、といった行動で罠が作動しないかを()て、それから彼女に頷いた。

 

「……取っても大丈夫そうです」

「ん、ありがとね楓くん」

「いえ、シャミ子の為ですから」

 

 楓は伊達眼鏡を上にずらして、目頭を指で揉みながら答える。隣で台座から飾られている物──ハニワのような置物を拾い上げて、桜はそれをまじまじと観察してからバッグに仕舞った。

 

「なんだかリリスさんみたい」

「年代物の置物──ですが、魔力は感じませんね。今回もハズレでしょうか」

「みたいだねぇ、まあグシオンにでも売り付ければいいかな。ここには代わりに…………このたまさくらちゃん人形を置いていこうっ」

「いいんですかね……」

 

 どん、と台座に置物の代わりに猫の人形を置く桜は楓に振り返ると、笑いかけて言った。

 

「よし。じゃ、帰ろっか」

「はい」

 

 

 

 帰り道も罠に気を付けて、楓と桜は遺跡を出る。とある国の山奥にあった遺跡を攻略して帰路の飛行機に乗りながら、楓は横でアイマスクを着けて睡眠を取る桜を見た。

 

 幼馴染の友人──吉田優子の父が、千代田桜その人にわけあって封印されてから10年。

 魔族に覚醒した優子あらためシャミ子と、桜の妹・桃を経由して桜と知り合った楓は、自身の父の進言もあって、『眼』の修行も兼ねたアーティファクト探しを手伝うことにしていた。

 

「…………」

「んむ……ぁぅ」

 

 呑気に寝ている桜の頬を指で突くと、そんな呻き声を出して眉をひそめるが、少ししてまた寝息を立てる。なんだかんだと長い付き合いになっていた桜とは行動を共にすることが多く、仕事や探検が終わって町に戻れば同棲もしていたが。

 

「なんとも言えないな」

 

 桜との今のような関係が続いて以来、自分の中に友人以上の感情が湧いている自覚はあるが──これをただの仕事仲間と呼ぶには近すぎるし、愛と呼ぼうにも、違うのではという考えが過る。

 

 視線を窓の外に戻して、縁に肘を置いて手に頬を乗せると、楓は景色を眺める。

 ()()()()()とは違い、早い段階で『眼』の力が覚醒した楓は、本来起きる筈だった事態の殆どが起きなかった事の理由を知らない。

 

 

 

 千代田桃が暗くなった原因は無く、陽夏木ミカンの中のウガルルはとっくに受肉し、グシオンは死んでおらず、楓の両親は健在であり、町のまぞくは相も変わらず住人にスルーされている。

 

 ──これは、どこか遠くの世界線の、()()()()()()()()()()物語。

 

 

 

 

 

 ──せいいき桜ヶ丘の町に戻ってきた楓は、置物を売りに行った桜と離れて商店街を歩く。

 

 配達の冷蔵を手伝う雪女や、魚を買っている河童を横目に、端をズシズシと歩く巨大な燃える馬を乗りこなす首の無い騎士の会釈──頭は無いが──に返していると、八百屋で野菜と睨み合っている角と尻尾が生えた少女を見つけた。

 

「お、シャミ子」

「ん? ……あっ、楓くん」

「……楓? 帰ってきてたんだ」

「桃も居たのか。お買い物かい」

「うん」

 

 シャミ子が店前に並べられている野菜から楓に顔を移すと、朗らかな笑みを浮かべる。

 店内からひょこりと顔を覗かせた桃が、出てくるなりそう言われて表情を和らげた。

 

「おね…………姉は?」

「桜さんは遺跡で拾った物を売りに行ったよ。たぶん二束三文で買い叩かれてると思う」

「ふーん」

「そっちは……夕飯の買い出しかな」

 

 桃が腕に通して肩に提げているエコバッグを見て、楓は問い掛ける。こくりと頷いた桃の横に立つシャミ子が、呆れた表情で買い終えたらしい白菜をバッグに詰めながら言った。

 

「楓くん、いい加減、桃に他の好みを増やさせてくれませんか……」

「もしかしてまだうどんばっかり食べてるの?」

「それ以外も食べてるよ」

「そりゃ昼食は私のお弁当ですからね!」

「……休日は弁当じゃないし」

「筋トレ後のササミとプロテインはお昼ご飯とは呼ばないんですよ……!」

 

 尻尾でぺちんぺちんと桃の額を叩くシャミ子に言われて、桃はもみあげ辺りの髪を指で巻きながら言い訳をする。

 

「でもシャミ子のごはんはなんでも美味しいから……今日は違うのも食べたいな」

「……む、む……し、仕方ないですねぇ」

「また丸め込まれてる」

 

 苦笑を浮かべる楓はそのやり取りを見て、それからおもむろにシャミ子に声をかけた。

 

「──今回も、(マナ)の壺に納める代替品は見つからなかったよ。このままだと、ヨシュアさんを解放するのに10年は掛かりそうだ」

「楓くん……いえ、仕方ないですよ。おとーさんは封印されているけど家に居ることはわかっていますし、今すぐ解決しないといけないというわけでもありませんから」

 

 ──むしろ、無理はしていませんか? そう言ったシャミ子に、桃が言葉を続ける。

 

「というか、ヨシュアさんの封印は姉のやったことなんだから、楓が気負うのは違くない?」

「それはそうなんだが」

「そもそも、なんで完全部外者の楓が姉の仕事を手伝ってるんだっけ」

「…………う──ん? 元は父さんに『眼』の修行にもなるって言われてたんだけど……」

 

 言われてみれば、と楓は首を傾げる。

 

「確かに、国外の遺跡でアーティファクトを探したり、紛争地帯に介入して非殺傷魔法を撃つためのスポッターになったり、よく分からない魔法少女から鬼電されるのはおかしいとは思う」

「最後だけ変じゃありませんでした?」

「シャミ子、楓の話は全体的に変だったよ」

 

 噂をすれば、とばかりに早速と掛かってきた電話を片手間で拒否しつつ、楓はまあ……と言って困ったように口角を緩めて続けた。

 

「俺が好きでやってるだけだよ」

「…………へぇ~~~?」

「なんだい」

「いや、別に。楽しそうだなあって」

「嫌だったらここまでの長い付き合いにはならないと思うからねぇ…………ごめん電話来てるから先にばんだ荘に帰るね」

「あ、はい。お気をつけて~」

 

 はっはっは、と笑っていた楓は、何度目かの着信にため息をつきながら、シャミ子と桃から離れてようやく電話に出るのだった。

 

「…………はいもしもし。うん。わかったから、いい加減本人に直接言ってくれ」

 

 

 

 

 

 ──ばんだ荘一階の一室に帰宅した楓は、既に桜が帰ってきているのを、脱ぎ散らかされた靴と居間からの気配で察していた。

 

「ただいま戻りました……桜さん?」

「──あ~い、お帰り~楓く~~ん」

「…………なにやってるんですか」

 

 居間に顔を覗かせた楓は、テーブルに突っ伏しながら両手でパソコンのキーボードを叩いている桜の姿を見つけて、静かに困惑する。

 

「これねぇ、目と頭を休めながら作業できるから見た目に反して意外と楽なんだよっ」

「さいですか。あ、例の置物は幾らで売れたんですか? グシオン……今は偽名(おぐら)でしたっけ、あの人に売ったんでしょう?」

「うーん。あれねぇ、魔力は無いけど年代物ってことで、5万で売れたよ~」

「安い……」

 

 桜と父の古くからの知り合いである智慧のまぞく──小倉しおん(グシオン)は、今はシャミ子の魔力修行のために学生を騙って同級生を演じている。

 楓は、桜の『うわキッツ』という容赦の無い言葉に対して、『それはお互い様だよぉ……?』と返していたのを覚えていた。

 

「ああそうだ、そろそろあの()()()に連絡先教えてあげてくださいよ。毎日10回は電話が来るのめちゃくちゃ鬱陶しいんですけど」

「ごめん無理、なんか交換した日には死ぬほど電話かけてきそう」

「現にされてますからね」

 

 はぁ、と何度目かのため息をついて、楓はかぶりを振って切り換える。

 

「まあいいや。じゃあ、夕飯の準備をしますけど、お風呂に入りますか?」

「…………あとででいい」

「わかりました」

 

 眠気があるのか舌足らずの声で返答する桜を見て、楓は今までの経験から『これは寝るな』と判断して、献立を味噌汁からカレーに切り替えた。外国で手に入る謎の肉や謎の野菜をカレールーでまとめて煮込んでいた記憶を想起して、げんなりとした表情を浮かべながら。

 

 

 

 

 

 ──火を消して蓋をした楓が台所から戻ると、案の定桜は突っ伏した姿勢のまま眠っていた。

 

「……こりゃ食事は明日だな。俺の分だけよそってカレーもあのまま寝かせてしまおう」

 

 軽く肩を揺すっても無反応の桜を前にして、先に布団を出して広げてから、抱き上げた桜をそこに寝かせる。すると、桜が呻くように寝言を呟いているのを、楓の耳が拾い上げた。

 

「…………う──ん……あんこ、やくしょ……ほうこく書……結界の……点検も、しなきゃ……」

 

 多忙に追われてスケジュールが詰まっているがゆえに、桜は気軽に休むことはできない。国外での活動を含めた全てが、桜の仕事である。

 

「……んにゃ……かえでくぅん……ありがとねぇ」

「──いつもお疲れ様、桜さん」

 

 ──この町を作り、暗黒役所を作り、魔法少女として各地に向かいつつ、シャミ子の父親を助けるための代替品探しに奔走する。ぶっ通しで働き詰めでいて、疲れないはずがないのだ。

 

「俺に出来ることはそう無いけど……最強の魔法少女が、こうも無防備になるということは──信用されているってことでいいんだよな」

 

 髪留めやリボンをほどいて、櫛を通すようにそっと撫でながら楓は言う。

 

「…………ふむ。今がチャンス」

 

 完全に寝入っているのを確認すると、楓は腕を伸ばして手探りでテーブルの携帯を手繰り寄せて、カメラを起動してパシャリと撮る。

 シャッター音を聞いても起きない桜を尻目に、台所に向かいながら、楓は携帯を弄って、桜の寝顔写真付きのメールを送っていた。

 

「これでしばらくは、()()も大人しくなるだろう。……さっさと飯食って寝よう」

 

 それから楓は、桜の睡眠の邪魔にならないように、台所で皿に盛ったカレーを平らげる。

 次はどの国のどこに向かうことになるのだろうかと、ぼんやりとそんな事を考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──楓くん! 誰何(あいつ)に私の寝顔写真を送ってるってホルスさんから聞いたんだけど!!?」

「…………おっと」

 

 後日、父の密告で色々とバレて怒られたのは、また別のお話。




原作ブレイクなRTAはーじまーるよー。桜さんとホルス(秋野パパ)が原作始まる前に誰何をボコボコにしてタイマーストップ。おわり

まぞくRTA時空のガチの最適解はこれです。盛大に何も始まらないのでボツ

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