大台なので初投稿です。
part20
単行本4巻に突入したゲームのRTAはーじまーるよー。ここからが本当の地獄だ……。
前回はシャミ子の過去と桜の居場所が判明したところで終わりましたね。今回は祭りの時期が迫ってきたところから始まります。
登校日の今日、楓くんはシャミ子と杏里ちゃんの三人で話しています。学校ではペットボトルのレモンティーしか飲めないのでちょっとテンション低めですね。
ここ暫くシャミ子の夏休みがどう森RTA並にハイスピードスローライフだったこともあり、杏里ちゃんと楓くんに気を遣われて今日は休め(コマンドー)と言われます。
父の形見(死んでない)の武器を手に入れたりまぞく仲間が増えたり夢に潜ったり宿敵が闇堕ちしたりと、確かに色々ありましたね。
まあこれからも大変な目に遭うんですが。
具体的な夏休みらしさなんてものは知らないシャミ子なので、とりあえずと喫茶店に向かい店長とリコくんに相談するようです。いつ出発する? 楓くんも同行させよう(ガバ要院)
杏里ちゃん?
……残念だが彼女はこの先の戦いには着いていけそうにない。もう解散なんです!(レ)
──単に家の手伝いがあるだけです。杏里ちゃんママも結構お若いけど、なんかスポーツとかやってたの?
シャミ子に付き合って中古ゲームの特売を見たり桃とミカン姉貴に会いに行ったりしますが、二人は魔力リハビリと称して筋トレしに行ったのでいません。魔力のリハビリで筋トレ……?
それはそれとして、楓くんとシャミ子は夏祭り商法として弁当の販売を手伝う破目になります。終わった辺りで店長から臨時のバイト代を渡されて祭りで遊んでくるよう言われますね。
(渡された封筒が)お太ォい! ……いやまて、これ万札じゃなくて千円札の束ですね。あと百円とか五百円がじゃらじゃら入ってる。
お祭りだからってそんな気の遣い方ある? ちょっと……ずれてるかな(ケツピン)
納涼祭に合わせてリコくんがシャミ子を着付けてくれるのですが、はい。ここで問題が発生します。楓くんはリコくんの幻術を見破れるのですが、葉っぱを化かした着物を着ているシャミ子の姿を見ればどうなるでしょうか?
……答え、葉っぱ一枚貼り付けた下着姿のシャミ子が画面に映る。
とんでもない速度で視点が上を向くのは楓くんが顔ごと目を逸らしたからでしょう。
こいつマジ? エロゲー主人公の癖にヒロインの露骨なテコ入れに対して態度が誠実すぎるだろ……。もしかしてEDなのか……?
シャミ子に先に外に出てるよう伝えた楓くんがリコくんに話してますね。
リコくんの力を見破る楓くんはシャミ子の痴女スタイルの事を話し、どうにかならないかと相談しています。悩むそぶりを見せたリコくんは楓くんの顔を手で覆ってなんかしてきました。
手を離したあとリコくんが手元の葉っぱを黒縁の伊達眼鏡に変えますが、楓くんから見たそれが葉っぱに見えるということはありません。
どうやら葉っぱを使って化かすのが得意なリコくんが、珍しく頑張って楓くんの目に幻術を掛けたらしいです。幻術か……また幻術なのか……!?
──なんだかわからんが、とにかくヨシ!
……後に変な要求されたら怖いので理由を聞いておきます。優子はんの件は流石に反省してるんよ~と言っていますが、まあ、本音でしょう。
悪気は無いんですよ。悪気は。
人を煽ってる自覚が無いだけで。
それでは納涼祭にいざ鎌倉。
外で待たせていたシャミ子と合流して向かいます。帯に乗った乙がデッッッッッ!
シャミ子にとっては初お祭りなのだろう状況で、しかも愛情度が2になっている。案の定腕に尻尾を巻き付けてくるし距離も近いですね。
…………やだぁ~りんご飴がサスケくんの写輪眼みたぁ~い♡(現実逃避)
時間経過でミカン姉貴と桃が迷子センターの通報でシャミ子を呼ぶので、それまでは……二人っきりだね! (瀕死の重症)
なぜミカン姉貴の攻略RTAなのにシャミ子とのデートと化して自ら地雷を踏み抜いているのか。なんで……なんでですかね……?
値段の割に微妙に美味しくないけど何故か祭補正で美味しく感じる屋台の料理を食べながらウロウロしていると、シャミ子がたこ焼きを口に持ってきます。食えと申すか。
……あーやめろ! 口に突っ込もうとするな……う、羽毛……!?
たこが入ってないやん! たこが入ってると思ったからたこ焼きを買ったの!
──単なる
リコくんに相談しなかったら葉っぱ貼り付けた下着姿の痴女トリオと歩かなきゃいけなかったので、あの子は今回のMVPですね。
……そもそも普通に着付けをすればよかったのでは? ボブは訝しんだ。
二人と合流すると、楓くんの伊達眼鏡に驚いていますね。まさか三人が痴女に見えるから眼鏡してるとはケツが裂けても言えないので気分転換とかイメチェンとか適当に言っときます。
ミカン姉貴的には伊達眼鏡は好評のようです。ミカン姉貴の浴衣も可愛いね♡認知して♡(ウガルル認知提案おじさん)
そんなミカン姉貴とやんややんやしていると、気付けばシャミ子と桃が居ません。
桃が気を回したのかミカン姉貴と二人にしてくれたようです。やるやん(HND△)
このあと更に時間経過するとよりしろリリスが財布持ってこいオラァン! と放送してきます。それまでは自由行動なので、とりあえず歩き回りましょう。
ノリのいいお姉さんタイプのミカン姉貴は、おふざけ半分で楓くんと腕を組んで歩きます。
これでまだ付き合ってないとか杏里ちゃんに対して申し訳ないと思わないの?
……それでは今partは残り時間までイベントを垂れ流して終了です。オラッ! ミカかえ過剰供給で胸焼けしろッ! こっちはシャミかえのせいで胃酸が逆流しとるんじゃ!
◆
「あの、楓くん。どうして上を向いているんですか?」
「今下を向いたら死んでしまう」
「なんですかそれ……」
シャミ子がリコに着付けをしてもらったようで、数分して奥から戻ってくる。
だがシャミ子は、胸元に葉を一枚貼り付けただけの下着姿で戻ってきたのだ。
反射的に喫茶店の天井を見上げたが、一瞬とはいえ下着を見てしまった。
昔熱を出して寝込んでいたシャミ子を清子さんの代わりに看病したことが何度かあり、その際汗を拭いたりで下着以上のものを見た覚えはあるが、それとこれとは状況が全く違う。
あの葉は以前、スーパーでリコと会ったときに見たものと同じだった。リコに視線を送ると、合点がいったようににやりと笑う。
「……シャミ子、リコと話があるから先に外で待っててくれるか」
「それはいいのですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫デス」
不思議そうに眉をひそめるシャミ子が外に行ってから、自分はリコに向き合った。
「あれはリコの仕業か」
「ん~、なんのこと?」
「……シャミ子が浴衣を着ていると思っているのはただの葉っぱだろう」
「あら、せやったなぁ。楓はんはウチの幻術見破れるんやったわ」
懐から取り出した葉を手元で玩ぶリコは、尻尾を左右に揺らしながら何かを考える。
思い付いたことがあるのか、ずいっと近付いてきて、こちらの腰に尻尾を回しながら見上げてきた。妙に気に入られている自覚はあるが、これはからかっているつもりなのだろう。
「ちょっと目をつむってほしいんやわ」
「……変なことは、しないでくれよ」
「そんなんしいひん。顔触らせてもらうで」
ひたりと冷たい両の手のひらが顔に押し当てられる。覆うように広げた手の内、親指でまぶたを撫でられると、そこを中心に顔が暖かくなるのがわかった。
ホットアイマスクを使ったような感覚がしたと思えば、リコは手を離して口角を緩ませる。
「これで大丈夫やと思うで~。ほな楓はん、試しにこれ使うてみて?」
「これは?」
「葉っぱを化かした眼鏡。これを掛ければ普通に見えるはずやで」
渡されたそれは、どう見ても普通の黒縁の伊達眼鏡だった。触った感触や重さも本物と言われれば信じてしまえるだろう。
言われた通りに掛けると…………何が変わったかはわからない。お世辞にも善人とは呼べない性格のリコがここまでするとは──とは思う。ここまでされたら、聞かざるを得ない。
「リコ、されるがままで聞きそびれたけど、どうしてここまでしてくれるんだ?」
「お詫びやよ、優子はんの件は本当に申し訳ないと思ってるの。それにウチの幻術を素で見破れる人は初めて見たわぁ」
からからと笑うリコ。しかし言葉の端に見える感情は本物で、シャミ子の例の一件で申し訳なさを覚えているのは事実らしい。
一貫して飄々とした態度を保っていたリコがその時だけはどういうわけか小さな子供に見えて、無意識にシャミ子にするように頭に手を置いた。
「ありがとう、リコ。この眼鏡はいつまで持つのか教えてくれるか」
「ん、それはウチが元に戻さない限りはずっと眼鏡のままやで。楓はんくらいしか見破れへんし、掛けてたらエエよ。似合っててかっこええもん」
シャミ子を待たせている事もあって、会話をそこで切り外に向かう。扉を開ける直前、振り返ると、リコが尻尾を揺らして笑っている。
「気ぃつけてな~」
意を決して扉を開くとシャミ子が立っている。眼鏡を通して見る様は、先程の下着姿などではなく──綺麗な浴衣姿だった。
「楓くん、なんですその眼鏡は」
「色々あったんだよ」
「そ、そうですか……」
ほぉーと言いながら眼鏡をじろじろ見てくるシャミ子の隣を歩き、納涼祭の行われる商店街まで向かう。人の往来する数が増え、どんちゃん騒ぎと称するに相応しい喧騒が聞こえる。
財布に移した店長から貰った臨時のバイト代からりんご飴を買って食べ歩く自分の空いてる腕に、不意にシャミ子の尻尾が絡み付いた。
「シャミ子、急に尻尾を巻き付けるのは驚くからやめてくれ」
「え? …………あ、いや、これは……ほら、迷子になるとアレじゃないですか!」
「……まあそうだな、この歳で迷子はシャレにならないくらい恥ずかしい」
そうですそうです! と言うシャミ子はたこ焼きを買って食べている。
屋台や人混みを見ては目を輝かせるシャミ子を見て、そういえばと思い出す。
今までずっと、体が弱くて金銭的余裕も無くて、この子にとってはこれがお祭り初体験なのだろう。何故この子ばかりがこんな目に遭わなければならないのだ。これからは、沢山の思い出を、皆で作れたらと思わずにはいられない。
──楽しいのはわかったからたこ焼きを押し付けてくるのはやめろ。
よりによってタコが入っていないハズレを食わされた直後、商店街に置かれたスピーカーから迷子のお知らせが放送される。
多魔市からお越しのシャドウミストレス優子ちゃん……いったい誰の事なんだ……。横にいる該当者に目を向けると、露骨に驚いていた。
迷子扱いで若干怒っているシャミ子だが、桃とミカンの配下という響きが気持ちよかったらしい。納涼祭の本部に訪れると、二人もまたシャミ子のように浴衣を着ていた。
「……楓、なんで眼鏡してるの?」
「あぁ、まあ、ファッション?」
喫茶店の方に行ったらリコの術で着させられたらしい浴衣を身に纏う桃たちのそれが葉にしか見えないから、と言えるわけがない。
「わざわざ度の入ってない眼鏡なんて掛ける意味ある? 何か変わるものなの?」
「桃……貴女そう言うところよ」
ミカンに窘められ心底不思議そうにしている桃だが、こっちはこっちで困っているのだから勘弁してほしい。シャミ子がいつの間にか買っていたわたあめを押し付けられてる桃を尻目に、普段とは違う髪型で露出も控え目なミカンを見る。
「眼鏡で雰囲気って結構変わるのね。こっちの方がもっとかっこいいわよ、楓くん」
「どうも。ミカンも、綺麗だと思う」
「ふふ、そうでしょ?」
気恥ずかしくて断言しなかったが、本当に綺麗だった。ありがとうと言って笑うミカンは、ふと辺りを見回す。
「あら、桃とシャミ子は?」
「……居ないな」
「もう! せっかく合流したのに……」
いつの間にか、二人が居なくなっていた。呆れたようにため息をついたミカンが、自分の方に手を出してくる。
「折角のお祭りなんだから、こっちも楽しみましょう?」
「……そう、だな」
おずおずと、出された手に自分の手を伸ばす。握ったそれは暖かく、並んで歩くミカンは仄かに柑橘類の香りがした。
暫く歩いて、突然ミカンが腕を組んで距離を縮めてくる。驚いてミカンの顔を見ると、商店街を照らす暖色系の照明をぼんやりと眺めていた。
「──普段ならこんなこと、しないし出来ないのよ? でも不思議なの。こうして貴方に近付いても、あまり緊張しない」
「ミカン?」
「多分お祭りで周りが騒がしいから、逆にそのお陰なのかもしれないわね」
射的を楽しむ子供。屋台の料理を食べるカップル。座るスペースで酒を飲む大人。ミカンの呪いは、最悪これら全てをめちゃくちゃに出来る。
でもミカンはそんなことはしないし、自分もさせるつもりはない。
「……もう少ししたら楓くんたちの高校に転入するけど、もし呪いで迷惑を掛けたらと思うと……たまに思うのよ。来ない方がよかったのかもって」
「そう思うのも、仕方がないさ」
「ええ、そうね。まあでも、ここに来なかったらシャミ子と楓くんに出会えなかったんだもの。悪いことばかりじゃないわね」
──ミカンの呪いへの怯えといつかまた誰かを傷付けるかもしれない恐怖は、消えることはないだろう。自分に出来ることは……ミカンを呪いと一緒に受け入れること。
力の無い人間に出来る事が、信じることだけではないと信じている。
「──迷惑なら、俺だけに掛ければいい」
「……えっ?」
「君の呪いを、何時解決できるかわからない。ならそれまでは、俺がミカンの負担を受け止めるよ」
「……楓くん……っ」
ミカンの袖を掴む力が強まる。
自分が、この子の力になれるなら──この思いを伝えるのが遅くなっても構わない。
ミカンにも、拠り所が必要なんだ。
シャミ子のやることを手伝いながら、呪いを治す方法を探して、ミカンの負担を和らげる。やることがいっぺんに増えたな──と思いながら、ミカンと並んで商店街を歩いて行く。
かき氷の蜜柑シロップの存在に驚いて、しんみりとした空気が一瞬で吹き飛んだのは別の話。
ヒロインの楓くんへの友愛度
・シャミ子
友/7
愛/2
・ちよもも
友/6
愛/1
・ミカン姉貴
友/7
愛/2
・リコくん
友/3
愛/0