爆睡してたらミカンママの誕生日だったの忘れてたので執筆RTAです。
『誕生日おめでと~!』
そんな声が放課後の教室に重なる。11月3日は、陽夏木ミカンの誕生日であった。
机を固めた即席の台には菓子類とジュースが置かれ、いわゆる誕生日席に座らされたミカンは、若干恥ずかしそうな顔で祝福を受け入れる。
「ふふ、ありがとう皆」
シャミ子と桃、杏里、小倉、そして楓とリコに囲まれて、ミカンはそう言った。
早速と渡されたプレゼントの中で、杏里がスポーツウェアと焼肉券、小倉が香水らしい奇妙な小瓶、リコがオレンジ色のチャイナドレスを渡していた事に関しては楓はなにも言わないでおく。
それとは別に用意されていたオレンジ系統のグッズなんかが手渡され、最後に順番が回ってきた楓が、手の上の包みをミカンに渡した。
「楓くん、これは?」
「カモミールのティーパック」
「カモミール……のお茶ってあるのね」
「3日の誕生花を調べてたら、これを使ったハーブティーが売られてたんだよ」
へぇ~と言いながら包みの中のパックを眺めるミカンを横目に、その様子を見ていてふと湧いた疑問をシャミ子が楓に聞く。
「意外ですね、オレンジ系というか、果実系のプレゼントじゃないなんて」
「どうせ皆同じような色合いのプレゼントをするだろうなと思ったからね」
「な、なるほど……言われてみれば確かに」
ミカンと言えば柑橘系、というイメージが出来上がっていたシャミ子たちは、無意識に色を揃えていたのだ。ミカン自身がそれらを喜ぶのも原因の一端ではあるのだが。
「それにしたって、楓のプレゼントちょっと地味じゃなーい?」
「もう、杏里ったら」
「もっとこう……蜜柑畑をプレゼント! とかやったらいいんじゃない?」
「そこまでは求めてないわよ」
スケール……いや資金が……と呟く桃と楓に、小倉が冷静に指摘していた。からかい半分で提案した杏里もくつくつと笑っている。
「……別にプレゼントはティーパックだけとは言ってないだろう。ちゃんとあるよ」
「あら、どんなプレゼントなん?」
「うーん…………内緒」
「えー、いけずやなぁ」
教えて教えてとねだってくる珍しく伊達眼鏡を身に付けているリコを捌きつつ、楓はちらりとミカンを見る。視線に気づいたミカンは、少し考えてから席を立った。
「じゃあ、その……ウガルルのこともあるし、そろそろ私たち帰るわね」
「ん? ……あー、なるほどね」
「なぁに今のは」
「いやいや~、ねえ?」
「私に振られても困るよぉ」
にやにやと笑みを浮かべる杏里にじとっとした目を向けるミカン。ねえ? と聞かれた小倉が苦笑を浮かべ、その間にミカンは荷物をまとめて楓を連れて教室から出ていった。
──ミカンと楓は、帰る前にとある場所に寄る。そこは、いつぞやに想いを伝えあった広場だった。鞄の中から細長い入れ物を取り出した楓が、中身である──トパーズのネックレスを取り出すと、それをミカンの首に着けた。
「……これ、は」
「トパーズは11月の誕生石だから、ティーパックを買うついでに調べて買ったんだよ。
シャミ子の時と同じようなプレゼントになっちゃったけど……どうかな」
制服の上でキラリと光る小さな宝石が、鮮やかに黄色く輝いている。ミカンはふにゃりと頬を緩めて、楓に飛び付くように抱きついた。
「──楓くん」
「ミカン?」
「嬉しい。すごく、嬉しい」
「……そっか」
ミカンをぎゅう、と抱き締めると、ふわりと香る柑橘の匂いが鼻に届く。楓に抱き締められ、畳と太陽の匂いが漂う。額を合わせて、小さく笑い、二人は手を繋いでばんだ荘に帰った。
部屋でプレゼントの整理をしているミカンと興味津々のウガルルを居間に残して、楓は早速カモミールティーを淹れる。御茶請けのクッキーと共に台所から戻ってきて、ちゃぶ台に置くとカップを3つ用意して順に注いで行く。
「本当に青リンゴみたいな匂いなんだな」
「いい香りねぇ……」
「んが……あちっ」
「少し冷ましな?」
冷めるのを待ちながらクッキーをポリポリと齧るウガルルを横目に、ミカンはそういえばと楓に話題を振る。
「さっきスポーツウェアとチャイナドレス貰ったのだけど、楓くんはどっちが良い?」
「どっちが良い……?」
どっちが良いってなに……? と呟き、ミカンが座りながら裾を広げてプレゼントの二着を見せてくる。片や杏里が部活で使っているのと同じ半袖半ズボンのウェア、片やリコが使っているのと同じだが色が違うチャイナドレス。
「……選んで、何かあるのか?」
「──それ、聞いちゃうの?」
口許をウェアで隠して流し目を向けるミカン。その雰囲気から生唾を飲み込む楓を見て、それから薄く笑ってミカンは続けた。
「ふふ、冗談よ。スポーツウェアの方は桃の運動に付き合うときに使えるし、チャイナドレスも……何かに使えるかも?」
「そういえばリコが自分の趣味に合わせてチャイナドレスで接客してみたいって言ってたな……リコもそれがあって渡したんだろう」
二着の服をそれぞれ綺麗に畳んで傍らに積むミカンは、少し冷めたカモミールティーを口に含む。ハーブティーを飲むのは初めてだが、どことなく青リンゴに近い風味はクッキーと合う。
「安眠作用もあるのね……今日は良く眠れそう」
「そうだな。……こらウガルル、口にクッキー詰め込まないの」
「あぐあぐ」
カモミールティーで喉を潤し、クッキーを頬張る。そんなウガルルを微笑ましいものを見る顔で観察していたミカンが、クッキーに夢中な娘を尻目に、横に座る楓へと顔を向けた。
「──ありがとう、楓くん。大好きよ」
頬に優しく唇を押し当てて、花のように笑う。楓の体にしなだれかかるミカンを見て、ウガルルが二人に飛び掛かった。
「んが……オレもまぜロ!」
「きゃっ」
「うぉっ、と」
二人を支えて背中から畳に倒れた楓と、胸元に顔を乗せて体を預けるミカンとウガルル。
恋人と娘をまとめて抱き締めた楓は、静かに、深く息を吐いた。
「……これだけ幸せだと、反動が怖いよ」
「なぁに?」
「なんでもない」