【完結】まちカドまぞく/陽夏木ミカン攻略RTA   作:兼六園

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変身まぞく

 シャミ子が焼肉の一件で失敗し、楓の悩みが増えた後日、二人は共通のメッセージを受け取り、廃工場に足を踏み入れていた。

 

「バトルフォームの試着にここをチョイスするということは、物騒な話なのか」

「楓くん、おそろですよOSORO!」

「そうだね」

 

 尻尾を荒ぶらせるシャミ子を言葉少なに窘めつつ、先に来ていた二人と合流する。

 

「二人とも、こっち」

「桃、ミカン。それでバトルフォームとはいったいなんなんだ?」

「それについては今から変身するんだけど……たぶん初見の楓とシャミ子はビックリすると思う。でも、ノーリアクションでお願い」

「えっ? ああ……はい……?」

 

 念を押す桃と横でストップウォッチを構えるミカンを交互に一瞥した楓とシャミ子を前に、桃は集中力を高めて行き──

 

「フレッシュピーチセカンドハーヴェスト! 

 ハ────トフルチャ──ジっ!!」

 

「なんて?」

 

 二人の素の疑問を余所に、そう唱えた桃の体と風景が光に包まれ、どこからともなく曲が聴こえてくる。ものの数秒で姿を変えた桃を見て、楓とシャミ子はそっと顔を見合わせた。

 

(ハート)あらたにここに見参! 

 フレッシュピーチセカンドフォーム!!」

 

 些か説明し難い格好の桃に目線を戻して、それから更に疑問符を増やす。

 

「……なんて……?」

「変身タイム5.03秒よ」

「5秒の壁が切れないか」

「あの、今の何ですか……?」

 

 ストップウォッチを見て悩ましげにする桃は、それからくるりと二人に向き直る。

 

「何か言った?」

「恐らくそれを言いたいのは俺たちだと思う」

「なにか不可思議な間というか、コーラス的なモノが流れませんでした!?」

「そこは引っ掛からなくていい」

「ちょっとは説明してあげたら?」

 

 一昔前の応援団めいた格好の桃を前にして困惑する二人に、ミカンが近付き話し掛ける。

 

「あれは光の力を体に降ろす巫女舞い。魔法少女(わたしたち)が変身するための儀式なの」

「そうなのか……」

「私達は変身バンクって呼んでいるわ」

 

 変身バンク……! とテンションを高めるシャミ子が、そのまま桃に向いて問いかけた。

 

「ところでハートフルチャージとはいったい」

「別にいいでしょ!? ハートフルチャージしないと光の力が降りてこないんだよ!」

「そうか。ハートフルチャージしないといけないなら、仕方ないな」

 

 からかうような声色の楓にむすっとした顔を向ける桃。すっと目線だけを逸らす楓の隣で、ミカンが更に続ける。

 

「あの時間は一種のトランス状態だから、意思に反して勝手に舞い散らかしちゃうのよ」

「……今までは一瞬で変身してなかったか?」

「あれは熟練の魔法少女の必須技能」

「敵の前でもたもたしてたら潰れ蜜柑になっちゃうのよ。それでも新人の子は着替えに時間掛かったり、うっかり全裸になっちゃうこともあるのよね~ちなみに昔のももも────

 

「────っ」

 

 トンっと首に感じた衝撃を最後に、ミカンは言いきる前に楓へともたれ掛かり気絶する。

 咄嗟に受け止めた楓が、ミカンを横向きに抱き上げて支えた。

 

「……このフォーム速度は出るな」

「……桃、あんまり乱暴してくれるな」

「余計なことを言うミカンが悪いんだよ」

 

 口を尖らせて反論する桃だったが、ちらりと楓の顔を見てからシャミ子に向けて言う。

 

「……この前の小倉爆弾の時はフォーム改造中で間に合わなかった。私はパワーはあってもスピードが無いから、シャミ子はテンション上げてるけど、わりと切実な問題だったんだよ」

 

「桃……」

 

「シャミ子はだいぶ戦えるようになってきてる。これからの私の役割は盾であり切り込み役。ということで、これが私の新フォーム……シャミ子とおそろっぽくしつつ機動力重視、しばらくはこれで修行しようかと──」

 

「まてぇ──い!!」

 

 ──突如として聞こえてきた怒声に、桃の言葉が遮られる。振り返るとそこには、ドラム缶の上で仁王立ちするリリスが居た。

 楓たちは気絶から復活したミカンを交えて、突然やって来たリリスの文句に耳を傾ける。

 

「ごせんぞ!?」

「うわ、リリスさん」

「なにが『うわっ』だ楓このやろう! このような楽しい場に余を呼ばずして誰を呼ぶ!」

「えっ、小倉……」

「マジレスやめろ!」

 

 ダンダンと地団駄を踏むリリスは、ふんっと鼻息を荒くして、それから桃の新フォームを睨むとその場の全員に向けて言った。

 

「貴様らにはこの戦闘フォームの問題点が分からぬのか? もっとよく見ろ!」

「も、問題点……!」

「……あー、まあ……」

「えっ楓くんはわかるんですか?」

「……ミカン、パス」

「そ、そうねぇ……」

 

 リリスと楓、ミカンは恐らく意見が一致している。それから代表して彼女が口を開き──

 

「──めっっっちゃダセェわね」

「だ、ださ……っ!?」

「鬼ダセェぞ」

「鬼……!?」

「どこがシャミ子とお揃いなのかわからない」

「…………」

 

 ──と、バッサリと切り捨てられた。

 本気で困惑している桃に、リリスとミカンは尚もバッサリと指摘する。

 

「取って付けたフリルとかいらんだろ。各パーツの色も噛み合ってないぞ」

「腰のマントも長さが微妙じゃない?」

「腕の丈感も余には理解できん」

「膝のアップリケみたいな保護パーツも変よ」

「首の忍者マフラーはどういう気持ちで着けたのだ? 裸の方がマシだな、ハートあらたに参上できとらんではないか」

 

 ボロクソに言われた桃は、静かに背後に回りリリスを締め上げていた。

 

「ぐえーっ!?」

「そこまで言うこと無くない……?」

「桃、言いたいことは二人が言ってくれたから俺は何も言えないんだ」

「…………シャミ子はどう思う?」

「え゛っ……いやあ、その……ろ、ローラースケートは違うかなって」

「──!?」

 

 まさかシャミ子にもそう言われるとは思ってもいなかったのだろう、桃の顔が驚愕に歪んで更に困惑を極める。

 

「なんで……? ローラースケート早く動けるよ? 機能的でしょ……?」

「滑ってるぞ、ローラースケートだけに」

「というかこの姿も私なりに色々考えて……」

「よぅし、余が機能をより上げつつかっちょいいフォームにしてやろう」

「話聞いてます?」

「なあにシャミ子のフォームを監修した余を信じろ、期待しておけ」

 

 リリスの言葉に、桃が露骨にぎょっとした顔をしてシャミ子とリリスを見返す。

 

「私が露出まぞくの格好!? 絶対無理!」

「……むり…………」

「あっ、いや、その、私が着るのが駄目という意味であってシャミ子が悪い訳じゃ……」

「えーいつべこべ言うな、とっとと脱げ!」

「えっ、ちょっ──!?」

 

 有無を言わさず、リリスが桃の謎服をひっぺがす。ばっと顔を逸らした楓の顔に、背伸びをしたミカンが手を伸ばして視界を遮った。

 

「絶対見ちゃダメよ」

「見ませんが……」

「本当かしら?」

 

 楓は器用にも眼鏡と顔の間に指を滑り込ませたミカンの嫉妬混じりの行動に弁明しつつ、リリスの監修でおそらく衣服の布面積を減らされているのだろう桃に同情する。

 

 彼には預かり知らぬ事だが、横で同じように顔を隠すシャミ子は指の隙間からバッチリと脱がされて行く桃を確認していた。

 

「──あとはここに謎ベルト! テカテカ質感! 黒猫耳! ハートのタトゥー! 

 これで完成つよつよハートフルデビル桃フォーム! はいテコ入れ完了!」

 

「……ミカン、見ても大丈夫なやつ?」

「ダメなやつよ」

「そっかあ……」

 

「──いい加減にせんかーっ!!」

 

 楓からすればリリスの解説からおおよその格好は想像がつくが、言えば余計な嫉妬を買うため黙っておく。そして、好き勝手にされて遂に本気でキレた桃が魔力を吹き荒れさせ闇堕ちした。

 

「真面目にやろうよ……フォーム選びは遊びでやってるんじゃないんだよ……」

 

 そのままリリスを振り回しかねない桃を落ち着けるが、荒れた様子は戻らない。

 

「あんな格好で戦うなら死んだ方がマシだよ! シャミ子はヘソしか見ないし! というかローラースケートが滑ってるってなに!?」

 

「す、すまん……」

「すみません、つい……」

「でもスラッとしてて可愛かったわよ?」

「俺は何も見えなかったんだけど」

「楓くんには刺激が強いわ」

「そっかあ……」

 

 終いには闇堕ちのまま消えようとする桃を引っ張って帰ることになったのだが、特に新フォームが受け入れられるということは無かった。

 

 ばんだ荘に戻ってきた面子のうち楓とミカンが部屋に戻り、残った全員が吉田家に入り天井裏の小倉に相談を持ち掛ける。

 上での話をメッセージで確認したミカンは、お茶を淹れている楓にそのままを伝えた。

 

「桃の戦闘フォーム、闇堕ちの姿をそのまま使う案に落ち着いたみたい」

「それはよかった……のかはさておき、まあ……あの格好はな、いかんだろう」

「あれは流石にダセェからよかったのよ」

 

 そう言ってから湯気の立つお茶に口をつけて、ミカンは笑みを浮かべる。

 

「ね、桃のテコ入れフォーム、見たかった?」

「……どんな返答なら満足するんだ?」

「そうね……『お前が着てくれるなら』とか」

子供(ウガルル)の教育に悪いだろうからやめよう」

 

 それもそうね、とミカンは笑う。上の部屋でハートフルチャージをねだるシャミ子が角を掴まれ怒られているとは、露程も知らないまま。

 

 

 

 

 

 ──そして、自室に戻った千代田桃は、昼の光景を思い出していた。

 それは、セカンドハーヴェストフォームでミカンの背後に回って気絶させた時のこと。

 

「……あのときの楓は、明らかに妙だ」

 

 ソファに座り、膝の上で眠るメタ子の返答もない独り言。桃はハーヴェストフォームの速度がかなりあることを自分の身で理解した。

 だからこそ、ミカンの後ろに回り込んだ桃を確かに()()()()()()楓と目が合った事が、どう考えてもおかしいのである。

 

「楓は普通の人間のはず……なのにどうして」

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()

 

「つい最近までその兆しが無かったから、魔力を持ち始めたのは最近。もし仮に楓がまぞくの血を引いていたのなら……もしかして……あのときアイツに……っ!!」

 

 自分の発言に、桃は口を押さえて絶句する。まるで点と点が繋がるように──過去の因縁が絡み付く。両親の話を一度もしない楓の顔を思い浮かべ、ほぼ確定の推測が脳裏を掠めた。

 

 

「────楓……」

 

 ぽふ、と、体を丸めてメタ子の背中に顔をうずめる。そうして桃は一人、幼子のように罪悪感から体を震わせて、夜を明かして行く。

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