【完結】まちカドまぞく/陽夏木ミカン攻略RTA   作:兼六園

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『俺はね、楓。お前の中にある魔族の血が薄くて良かったと思っているんだ』

 

『翼なんて無くたって、今の人類なら何処へでも行けてしまうからね』

 

『俺の眷属になった母さんは半魔族みたいなモノだけど、お前は違う』

 

『楓は人として生きて、ちょっとだけ誰かの助けをして生きていけばいい』

 

『大丈夫、俺たちに何があっても、お前だけは凄い大魔族……俺の一族の同期? いや、先輩……のところで保護してもらえるからな』

 

『……どんな選択をしてもこうなるんだから、この力は、あまりにも残酷すぎるよ』

 

『それでも、これが一番最善なんだ。こうしないと、楓が力を受け継ぐまでの時間を稼げないし、お前があの子達に出会えない』

 

『──楓、俺はね……どこまでも見通せる眼なんて、欲しくなかったよ』

 

 

 

 

 

「さぁ~て前回のあらすじは~、楓くんが私の分身と一緒に結界の中に落ちてきて、自分がまぞくの末裔だと気づきましたとさっ」

「……誰に言ってるんだ?」

(そっち)ではないねぇ」

 

 虚空に向けて妙なことを口走るグシオンに眉をひそめる楓は、彼女との会話を続ける。

 

「目に関する神話のまぞくと言われても、俺にその手の知識は無いのだが……一応の参考までに、この会話は何度目なんだ?」

「だいたい200回超えてからは数えてないかなぁ。だって、きみはここに来るまでに死ぬ回数のほうが多いんだもの」

「……違う可能性の俺というのは、そんなにも居るのか」

 

 居るよぉ? と言って、グシオンは楓を見てあっけらかんと返した。

 

「例えば吉田良子ちゃんが魔族に覚醒する世界もあったしぃ、きみが陽夏木ミカンちゃん以外の誰かと恋人関係になる世界もあるよ?」

「……それは、お前とも、か?」

「まっさかあ、私は原作(このせかい)で君たちがなんやかんやし始める前に退場してるからねぇ」

 

 退場……と呟いて、楓は思案する。それからグシオンに、気になったことを問い掛けた。

 

「この町のまぞくは、殺されたのか?」

「ノーコメント」

「……お前は何を隠しているんだ?」

「ノーコメント」

「グシオン」

 

 淡々と返すグシオンに、さしもの楓の声にも熱がこもる。かぶりを振った彼女は、窘めるような平坦な声色で楓へと口を開く。

 

「『答えられない』が答え、だよ。過去の出来事を知る場はここではないし、未来を知ろうとするという行動そのものが可能性を歪ませる」

 

「……そうなのか」

 

「今の私に未来を知る術は無いけれど、私から事細かに過去何が起きたかを知ってしまうと、問題を片付けられるあの子達の、ひいては小倉しおんの死亡率が跳ね上がり、ついでに君も死ぬ」

 

 眼鏡の奥の淀んだ瞳に射抜かれ、楓は無意識に後ずさる。その直後、楓の目は真上で発生する空間の歪みを視認した。

 

「誰だ……まさかシャミ子?」

「そうだねぇ、君が気絶している間に、私と白兵戦になる前の小倉しおんが外と連絡を取っているからねぇ。確実にシャミ子ちゃんと桃ちゃんが救出部隊としてここにやって来るよぉ」

「……不味くないか?」

「不味いねえ」

 

 他人事のようにニコニコと笑みを崩さないグシオンに、楓はくらりと眩暈する。

 それからパキパキと空間が割れ、グシオンの言葉の通りに、闇堕ちフォームの桃と危機管理フォームのシャミ子が落ちてきていた。

 

「──おっ、と」

「ぷぎゅ」

「大丈夫か?」

「か、楓くん……」

 

 楓が咄嗟に受け止めると、腕の中でシャミ子が落下の衝撃に目を回していた。

 その隣に着地した桃が、楓の無事を確認してホッと胸を撫で下ろす。

 

「よかった、無事で」

「…………まあ、なんとかな」

「……?」

 

 シャミ子を地面に下ろす楓に、桃はふと違和感を覚えるが、意識を切り替えて見回す。

 

「小倉も無事みたいだね」

「うん、助かったよぉ」

「それで、ここはなんなの?」

「ここはねぇ、運命の残骸の溜まり場……かな。結界が防いだ危険な可能性を溜め込んでるんだけど、それが重なり合いすぎてこうなった」

 

 時空が歪み、ある種の無限回廊のようになっている世界を見回して、それから三人に話す。

 

「例えばほら、シャミ子ちゃんちの洗濯機が最新式になってるでしょぉ?」

「え、うわっ本当だ! 見たことない形の洗濯機になってます!」

「こういったモノを魔力で消して回れば、この世界も元に戻る。本当は結界ごと捨てるべきなんだけど、重すぎて無理だった……」

「それは……これを見れば言わんとしていることは理解できるが」

 

 ちらりと、辺りをキョロキョロと見ているシャミ子の──胸元に付いたアクセサリーを視界に納めて、楓はおもむろにグシオンに耳打ちする。

 

「……グシオン、シャミ子の胸にあるのはミカンの誘導ビーコンだ。

 盗聴機能もあるから、会話には気を付けろ……といっても、もう知っているか」

「まあねぇ」

「なら話は早いか……念のため、意識しておけよ。小倉は桃とミカンを名字で呼ぶ」

「りょうか~い」

 

 緩い返事をされて毒気が抜けつつも、楓は、なんとなくグシオンに質問した。

 

「……小倉は何処に仕舞われてるんだ?」

「あー、屋上の収納スペース」

「……そうか……」

 

 深いため息をつきながらも、楓は踵を返してシャミ子たちの間違い探しの手伝いに向かう。

 

「……子供の成長を見守るのって難しいよねぇ。お互い、()()()()()と苦労するんだなぁ」

 

 楓の背中に、グシオンは、誰かを幻視する。

 その背中には翼が生えていないのだと、まぶたを細めて感慨深そうにしていた。

 

 

 

 

 

『いいか、楓、お前はこれから色んなモノを忘れる。俺と母さんとの思いでを忘れる。これだけはどうやっても避けられない』

 

『お前の中の、俺の血が薄いことだけが、アイツに対するカウンターになるんだ』

 

『だけど、だけどな、楓……俺たちはお前に、人を恨むような奴に育ってほしくない』

 

『だから、魂に刻み込んでおけよ。絶対に……アイツを恨むような男にはなるな』

 

『いつか必ず、あのボロ屋の結界の中で眼鏡の変人が助けてくれるから……だからっ』

 

『…………お別れだ』

 

 

 

 

 

『夜分遅くにお邪魔します! 秋野さん……いや、ホルスの末裔は貴方ですね?』

 

『大丈夫! 貴方がた夫婦・ホルスの末裔とその眷属が居たことは誰も認識しません』

 

『誰も悲しまない。誰も覚えていない。そう、誰も『かわいそう』にはならな──』

 

『……子供? どうして……』

 

『──あれ? おかしいなぁ、ここの家は夫婦の二人暮らしって名簿に書いてあったのに』

 

『まあ、名簿に載ってないなら殺せないけど……ほら、狙えば庇った。親だもんね』




あらゆる時間軸におけるあらゆる可能性の楓くんは、3割の確率で幼少期に親と纏めて殺されるし、5割の確率で紅玉襲来までに死ぬし、2割の確率で結界の中に行けても、自分がまぞくの末裔だと気付けるかは五分五分です。
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