1
舞鶴鎮守府との演習が終わった佐世保鎮守府では、新たな問題に直面していた。
「資材が心もとないな........」
イズハは頭を抱える。
恥ずかしながら、1週間はもたない。
「遠征はどうでしょうか?」
不知火が遠征を勧めるがイズハは首を横に振る。
遠征は、資材確保に欠かせない業務のひとつだ。
しかし、イズハは遠征を行おうとしない。
それは、佐世保鎮守府が統括する海域を把握し切れていないからだ。
そのために遠征を行うのだが、資材が尽きかけている状況で遠征失敗となれば、目も当てられない。
「では、申請してはどうでしょうか?」
「申請?」
「はい。資材申請すれば、いくらか大本営から調達できますよ」
「本当か!?」
イズハは期待する。
資材申請は、それなりの理由が必要で、多くの報告書を提出しなければならない。
他の鎮守府では、それが面倒で申請なんて滅多にしない。
シェルタ帝国では、名前を書けば補給班が弾薬や食糧を提供してくれる。
だが、イズハが所属していた部隊では、自給自足。
武器の使い回しだった。
報告書ならいくらでも書く。
「報告書をまとめるから、手伝ってくれ」
「分かりました」
イズハと不知火は、報告書をまとめて、大本営へと提出した。
「これで、ひとまず安心だな」
イズハは上着を脱いで、コーヒーを口にする。
すると、電話が鳴った。
不知火が電話に出る。
「こちら、佐世保鎮守府です........はい........」
不知火は受話器を抑える。
「司令」
「ん?」
2
「佐世保鎮守府に一体、何の御用でしょうか?」
イズハは、コーヒーをテーブルに置く。
先程の電話は、舞鶴鎮守府からの来訪者に関する電話だった。
「いいじゃない。先輩の手助けは必要でしょ?」
舞鶴鎮守府所属の木川三春は、差し出されたコーヒーを飲む。
「舞鶴で怒られたから、ここにいるんだけどね」
その横で三浦亮介が事情を説明する。
「ちょっと、何を勝手に言ってるのよ!」
「本当の事じゃないか」
三春は佐世保鎮守府に敗北した事を岡田中将から責められたのだ。
「あんな新設されたばかりの鎮守府に負けおって........!私の顔に泥を塗る気か!」
岡田は、机を叩く。
三春は聞く耳を持たない。
「佐世保鎮守府の提督は優秀でした。最近の提督達よりは遥かに上ですよ」
亮介が説明すると、岡田は舌打ちをして、深々と椅子に腰掛ける。
「優秀なら話は別だ。連合艦隊の言質を取ってこい。いいな!」
「分かりました」
「はーい........」
そう命じられて2人は佐世保鎮守府に来たのだという。
「支援?大日本帝国海軍は、各地方にある鎮守府が統括している海域を防衛するんじゃないのか?」
イズハは以前目を通した資料を元に話す。
「支援要請があって、鎮守府で非常事態があった時に招集するのよ」
「資材の共有も出来るし、君にも悪くない話だろ?」
何かあった時の援軍要員という訳だ。
各地方の鎮守府が行っており、承諾が必要なのだ。
イズハは何か裏があるのではと考えてしまう。
「そうだな........」
イズハは深く考え込む。
「後ろ盾も必要でしょ?」
「後ろ盾........か」
イズハには、頼れる上官がいない。
この申請を受ければ、何かあった時に頼る事が出来る。
滅多にないチャンスではある。
「謹んでお受けします」
イズハは承諾して、書類にサインする。
「これで終わり。帰ろう」
三春は書類を受け取る。
「よろしければ、泊まって行きませんか?長旅でお疲れでしょうし」
イズハが提案すると、三春と亮介は顔を見合わせる。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
三春はイズハの提案を受ける。
3
三春の代わりに亮介が電話を借りて岡田中将に連絡を取る。
「お疲れ様です」
「返答はどうだったんだ?」
「承諾してくれました。それで、イズハ提督から佐世保鎮守府に泊まって行くよう言われたんですが........」
「ああ、構わない。なんなら、そこで色々と意見を交換して来るといい」
「分かりました。明日には帰ります」
「すまないな。迷惑をかける」
岡田は高圧的であるが、決して馬鹿ではない。
むしろ、人を見る目はある。
しかし、その性格故、敵を作ることも多い。
岡田との連絡を済ませた亮介は食堂へと足を運ぶ。
「艦娘も少ないのに、よくここまで立て直したわね」
三春は素直にイズハを褒める。
「いえ。前任者のおかげです。でなければここまで立て直せませんでしたよ」
赤中がまとめた資料が無ければ、ここまで立て直すのは厳しかっただろう。
「赤中は、人思いで優しいし、真面目だからね」
亮介が口にする。
「知っているのか?」
「知ってるも何も、私達の同期じゃないか。覚えてないのかい?」
イズハは、言葉を詰まらせる。
この世界の住人ではないイズハにとって知りもしない事実だからだ。
「すまない........俺は覚えていない。ちょっと頭を打ってな。記憶がないんだ」
イズハがそう言うと、2人は驚いたようだ。
記憶がないと言っていた方が都合が良い。
2人を完全に信頼した訳ではないからだ。
覚醒者........。能力を保有している事は存在証明をするためには、理由として十分だが、都合の良い存在になりかねない。
知らず知らずのうちに、利用される可能性がある。
「そうだったのか」
亮介は戸惑った様子だったが、本当に知らなそうな雰囲気を感じ取り納得する。
それから、軽い談笑をして、夜が更けていった。
後ろ盾が必要なイズハは、連合艦隊を受け入れる。
誰にでも後ろめたい過去はある。