抜け出せない深い深い復讐に。
1
三春はベッドで眠りについていたが、目を覚ましてしまう。
他の鎮守府という事もあり、熟睡出来ないようだった。
トイレを済ませて、部屋に戻ろうとすると、執務室から明かりが漏れていた。
そっと覗き込む。
資料を片手にノートに書き込んでいるイズハがいた。
「誰だ」
イズハの声で三春はドアを開ける。
「失礼しました。三春大尉でしたか........」
イズハは咳払いをして、資料に目を通す。
「まだ起きてるの?」
「ええ。まだまだ覚えなきゃいけなくて」
イズハは資料をしまい、コーヒーを入れる。
「一杯、いかがですか?」
「いただくわ」
三春の前にコーヒーを差し出す。
冷ましながら、ひと口飲む。
「三春大尉は、なぜ海軍に?」
「三春でいいわよ」
「しかし........」
「いいから!」
イズハは咳払いをする。
「三春は、なぜ海軍に?」
「兄の仇を取りたいのよ」
イズハはコーヒーを零しながら、三春の両肩を掴む。
「ちょ........」
「復讐なんて........そんなの絶対に駄目だ!」
イズハの表情に三春は、言葉を失ってしまう。
息を呑む。
「ど、どうしたのよ?」
「君は何もかも失いたいのか!?」
イズハだから言えることだ。
かつて自分も復讐に囚われ、全てを利用し犠牲にして来た。
それが自分の正義と信じて。
気付いた時には、何も残らなかった。
「わ、分かったわよ。今は仇なんて考えてないわよ」
冷静に戻ったイズハは、零したコーヒーを布巾で拭き取る。
「まるで、復讐に囚われてた言い方じゃない?」
三春の言葉でイズハは後悔する。
せっかく誤魔化した事が水の泡だ。
「い、いや........知り合いでそういう人がいたんだ」
イズハは誤魔化す。
「嘘ね。知人の話とは思えないんだけど........」
イズハは深いため息をついた。
もう、誤魔化せない。
「他の人には言わないで欲しい........」
イズハは自分の過去を話し始める。
変種という化け物と戦っていたこと。
復讐を果たすためにどんな事をして来たのか。
三春は驚きのあまり、言葉を完全に失い、聞き入ってしまった。
「信じられないだろうが事実なんだ。俺がして来た事は決して償えるわけじゃない........」
イズハは、拳を握り締める。
「そうね........。でも、生きていれば償いにはなる」
「え?」
「貴方に想いを託していった仲間のためにも生きるべきじゃないの?」
三春の言う通りだ。
今自分に出来ることは、佐世保鎮守府の艦娘達とともに、深海棲艦と戦う事だ。
「そうだな........。ありがとな」
イズハは、口では言えるものの、逃げたかっただけなのかもしれない。
自らの過ちを。
「じゃ、わたしは寝る」
三春は体を伸ばしながら、執務室を後にした。
そして、ベッドに潜り込む。
「復讐........か........」
三春は目を閉じた。
2
イズハは三春に話した事で、何かが吹っ切れた様子だ。
いつもより深く眠りについてしまった。
シェルタ帝国領土防衛戦。
「........はぁ........はぁ........嘘だ........」
イズハは息を切らしながら、目の前の光景を理解しようとしたが理解することを拒んでしまう。
手に持っていたハンドガンを向ける。
「なぜだ........どうしてお前が........!」
真っ白な髪に、身体中に浮き出た黒い血管。
変種type0と言われる究極生物がイズハに顔を向けて不適に笑う。
変種の究極体。
訓練学校で、イズハの妹であるスズハ。
親友だったケイルを奪った存在。
そして........。
イズハと2人で想いを寄せ合っていた存在。
「ゼロ........!」
イズハは誰よりも平和を願っていたゼロだからこそ、信じられるものではなかった。
「ごめんね........イズハ........約束........守れなかった........」
ゼロの目には涙が浮かんでいた。
「もう制御できない.....いんだ........だから........殺し........て........お願い........!!」
ゼロは手をイズハに向ける。
「俺は........俺は........!!」
「司令........!」
不知火の声でイズハは枕に忍ばせていたハンドガンを手に、不知火へと向けていた。
「はぁ........」
イズハの額に大量の汗。
青ざめた表情。
冷静に立ち返り、ハンドガンをしまう。
「すまなかった」
イズハが謝ると不知火は首を横に振る。
「司令........今日は休んで下さい」
不知火がそう言うと、イズハは体を起こす。
「大丈夫だ........」
しかし、ふらついて倒れてしまう。
「し、司令!」
不知火が駆け寄るが、無理矢理イズハは体を起こす。
「大丈夫........大丈夫だ」
イズハはふらついたまま、シャワー室へと向かった。
シャワーを頭から浴びて、感傷に浸る。
三春に復讐をするなと言っておきながら、未だに囚われている。
復讐という呪縛に。
己が背負った罪に。
「俺は........」
死んだ仲間は戻って来ない。
だからこそ、今できる事に集中すべきだ。
頭では分かっている。
しかし、何度も何度も目の前で死んでいった仲間が脳裏に焼き付いて離れない。
シャワーを浴び終えて、執務室へと戻る。
話し声が聞こえたため、足を止めた。
「イズハが?」
「はい........」
叢雲と不知火だ。
「仕方ないんじゃない?」
「で、でも........」
「気にしたところで、わたしらがどうこう出来るもんじゃないし、信じるしかないわよ」
イズハは叢雲の言葉を受けて、情けなくなってしまう。
あれだけの仕打ちを受けて来た艦娘達でさえ、こうして前を向いて戦ってくれている。
それなのに自分は過去に囚われ続けていると。
艦娘達は、信じて付いて来てくれている。
顔向け出来るもんじゃない。
イズハはため息をつく。
自分も前を向こう。
そう決意した。
扉を開けて、執務室へと入る。
「すまない。体調管理を出来ていなかったみたいだな」
イズハは頭を掻きながら、苦笑いを浮かべる。
「不知火の言う通り、今日は休むよ」
「........はい」
不知火は安心したようで、胸を撫で下ろす。
「そう言えば、木川大尉。帰ったみたいよ?」
「あ、忘れてた」
イズハはもてなした客を見送るのを忘れていた。
「全く。後でお詫びの電話くらい入れなさいよ」
「あ、ああ」
イズハは、今日の執務を終了し、ゆっくりと休息を取った。
イズハは艦娘達とともに、深海棲艦と戦う事を決めた。
そして、遂に深海棲艦が!?