「スズハ........」
瓦礫の中、イズハの手を握ったまま動かなくなっていた。
視界を下に向けると、下半身がない。
変種type0に切り落とされていたのだ。
「俺は........」
次に浮かんだ光景は、親友の一人であるケイルが左腕を切り落とされている状態だった。
「悪ぃなイズハ........。俺はここまでだ........」
「何を言ってるんだ!まだ........」
「お前に会えて良かったぜ........」
力無く、息を引き取った。
涙は出ない。
イズハは、泣くことすらできなかった。
変種type0にただただ、憎しみだけを抱いて生きてきた。
自分の大切な存在を奪っていったシェルタ帝国そのものに。
「まさか........お前に........!」
裏切り者のシキヤ。
イズハと幼馴染みである。
イズハのブレードがシキヤの心臓を貫いている。
「ふっ........お前はそういう........奴だったな」
ブレードを引き抜くと、シキヤが二度と動くことはなかった。
そして、唯一無二の親友、フォード。
死ぬことすら許されず、ただ殺すだけの人体改造を施され、イズハの前に立ちはだかった。
イズハは、ナイフをフォードの首元に突き付ける。
「そうか........最後に見たのが........お前で良かったよ........」
イズハはフォードの息の根を止めた。
記憶が走馬灯のように頭に流れ込んで来る。
「また........俺は........!」
イズハは拳を握り締めた。
「く........ここまでか........」
長門は膝をついている。
レ級はマストを突き立てると、飛び退いた。
「て、提督........」
イズハから紫色のオーラが溢れ出ており、海面に浮かんでいる。
「俺が相手だ」
イズハはブレードを構えると、瞳の色が紫色に変化する。
「オマエニンゲン........カ?」
深海棲艦でさえ、イズハの事を人間と認識できないようだった。
イズハが消えたと思った瞬間、レ級の後方に回り込んでいた。
「ナニ!?」
レ級はイズハのブレードを受け止める。
目で捉える事ができなかったが、この反応。
深海棲艦の中でも化け物と謳われるだけの事はある。
重い一撃。
押し切られる前にレ級はマストを手放し、イズハに向けて、魚雷を放つ。
イズハがかわすと、不意をついたレ級に腹を貫かれる。
「ショセンハニンゲン........!?」
「提督!」
長門が叫ぶと、イズハの腹からは血が流れ落ちた。
海面に血が零れ辺りに広がっていく。
レ級は慌てて手を引き抜き飛び退く。
「ナンダオマエ八........!」
貫かれた腹が肉を形成し、傷口を塞ぐ。
「さぁな」
イズハは首の骨を鳴らす。
殺しても死なない人間。
レ級は生まれて初めて恐怖というものを感じた。
パンドラの弱点を知らないレ級に勝ち目はないだろう。
しかし、イズハはパンドラの力を完全に扱い切れていない。
イズハの歯がゆい思いに呼応するかのようにパンドラが反応する。
ドクン。
心臓が高鳴るとともに、使い方が頭に浮かび上がる。
正確には、元使用者の記憶だ。
イズハはブレードを振り上げると、ブレードに紫色のオーラが纏う。
そして、振り下ろした。
「波動の太刀」
パンドラ4型、波動の太刀。
振り下ろされた波動の太刀は、レ級の装甲を無視し、右腕を斬り落とした。
レ級の右腕は、青白い血が噴き上げ、苦痛の表情を浮かべる。
「トドメだ」
イズハは、レ級の首元目掛けて、ブレードを振り抜く。
「タスケ........」
イズハはレ級の首元でブレードを止めた。
この状況で、敵の降参を受け入れるのは、甘いと誰もが言うだろう。
しかし、イズハはブレードを降ろした。
「行け。二度と俺たちの前に現れるな」
レ級は右腕を抑えながら、海域から離脱した。
以前のイズハなら、命乞いをしようとも容赦なく葬っただろう。
前の世界とは違う。
深海棲艦にも感情はある。
敵である前に艦娘と同様、人として認識してしまったのだ。
レ級が浮かべていた涙。
苦痛なのか、死ぬことを恐れていたのかは分からない。
イズハは命乞いをして来た者達と比べてしまった。
ただのわがままだ。
だが、後悔はしていなかった。
二度と後悔はしない。
イズハはそう誓った。