第二防衛ラインでは、武蔵とレ級の熾烈な殴り合いが繰り広げられていた。
武蔵は掛けていた眼鏡が砕け散り、唇から血が。
レ級は右眼を潰され、不敵に笑っている。
他の艦娘達は、武蔵の殴り合いの邪魔をさせないため、前線でイ級達と交戦していた。
「ふん!」
武蔵の拳がレ級の腹に直撃。
レ級は血を吐きながらも、武蔵の顔面に拳を入れる。
「ナゼ........タオレナイ!」
「貴様には到底分からぬさ!!」
武蔵には退けない理由がある。
あの日の約束を果たすため。
少女のためにも。
3年前。
横須賀鎮守府。
武蔵は横須賀鎮守府のエースとして、日々奮闘していた。
世界最強と謳われる大和型二番艦として、横須賀鎮守府の顔だ。
武蔵を筆頭とする艦隊を指揮していたのが、島崎浩太郎(しまざき こうたろう)という若き海軍将校だった。
島崎浩太郎は、幹部候補として名を馳せる優秀な将校だった。
彼は結婚し、横須賀鎮守府を離れていたが、横須賀鎮守府総司令官の元へ妻と生まれたばかりの赤ん坊の3人で挨拶のために訪れた。
そして、事件は起きた。
正体不明の深海棲艦、レ級の出現である。
対応に遅れた横須賀鎮守府は、レ級に大損害を被ることとなる。
入渠中であった、武蔵も緊急出撃し、レ級と戦ったが、レ級の放った1発の砲弾が島崎達を巻き込んだ。
葬儀の際に、一人の幼い少女から蹴りを入れられる。
「兄さんを........返せ!!」
少女の目は憎しみで溢れていた。
「嘘つき!世界最強だって........兄さんが........言って........たのに........」
少女は蹴るのを止め、泣き出してしまった。
「浩太郎........いや、君の兄を護れなかったのは私の責任だ........」
武蔵は屈む。
「必ず........私があの深海棲艦を討つ........!」
武蔵は更に大泣きした少女を抱き締める。
武蔵はレ級の両腕に掴みかかると、レ級は武蔵の顎に膝蹴りを浴びせる。
脳が揺れる。
完全に無防備だ。
レ級がとどめを刺そうとする........。
「武蔵ぃーッ!!本当に最強なら、証明しなさいッッ!!」
三春の叫び声が無線で鳴り響く。
「ナ!?」
レ級の拳を武蔵は受け止める。
「今こそ........約束を果たす!」
武蔵が光り輝く。
レ級の拳を握り潰し、全力で頭突きを喰らわせた。
「ガハ........」
レ級の頭が陥没し、海面に突っ伏して、そのまま沈んでいく。
「レ級........轟沈!我々の勝利です!!」
通信士が叫ぶと、司令室は歓声で溢れかえるが、レーダーに主力と思われる深海棲艦が出現する。
「新たな反応........!正体不明の深海棲艦です!!」
寄り添いあっている2人の深海棲艦。
まるで姉妹のようだ。
現在の戦力で立ち向かっても勝てる見込みがない。
「さらに、反応!ヲ級3隻、イ級30隻です!」
最悪の状況だ。
イズハは、艦娘達の応急処置中、頼みの綱である武蔵は中破。
全戦力で望んでも、全滅は避けられない。
「ヲ級から、艦載機発艦!!」
すると、ヲ級から発艦された艦載機が全て撃ち落とされた。
「援軍です!所属は........大本営です!」
こうなる事を予期していたかのように、大本営から増援が派遣された。
大和型一番艦大和を主軸とした艦隊が馳せ参じる。
腕章には日本国旗が描かれていた。
大本営でも選りすぐりだけが、付けることを許された腕章である。
新たに出現した深海棲艦は、撤退した。
戦術的撤退だ。
こうして、舞鶴鎮守府防衛作戦は幕を閉じた。