舞鶴鎮守府防衛作戦から1週間後。
舞鶴鎮守府は、艦娘25隻を失うという損害を受けた。
作戦自体が悪かったのではないか、指揮に問題があったのではないか。
軍法会議では、様々な意見が飛び交った。
しかし、レ級一隻の撃退と轟沈させたという結果が残った。
上官に背いた三春と亮介は、降格処分と謹慎1ヶ月を言い渡された。
罰が温いと後ろ指を差す者もいたが、不測な事態に備えた的確な判断だったと、有本総司令官が評価した。
一方、佐世保鎮守府所属のイズハは........。
待機命令が出ていたのにも関わらず、レ級一隻を撃退した功労が認められ、昇進してしまった。
複数人の幹部は、納得がいかない様子ではあったものの、結果が揺るがないため、認めざるを得ない。
佐世保鎮守府に新たな人材が派遣される事となった。
「佐世保鎮守府、イズハ少佐です」
イズハが手を差し伸べると、黒の軍服に黒いマフラーを巻いた青年が頷いて握手をかわす。
「すまない。彼は話せなくてな」
秘書艦である那智が着任した提督を紹介する。
彼の名は、野田的矢(のだ まとや)。
28歳。
階級は大佐。
不慮の事故により、声を発する事が出来ないという。
イズハは話せないとなれば、色々と不便だと思っていたが、野田は言葉要らずの提督で、行動のみで存在価値を示してみせた。
野田の手腕には、イズハも学ばせられるものがあった。
「那智、これを野田大佐に」
イズハが資料を那智に手渡す。
「了解した。うむ、問題ない」
那智が目を通す。
「しかし........話せないとなると、色々と不便そうだな」
あれほど優秀な指揮官なのだ。
声を出せないとなれば、苦労しているに違いない。
イズハはそう思った。
「元々口数が少ないから、本人は苦労していないみたいだぞ?」
那智は野田の秘書艦だけの事はあって、次に何をすればいいのか理解出来るからこそ、会話の必要がないのだ。
「そうなのか........」
しかし、イズハは一瞬だけ那智が悲しそうな目をした気がしたため、深い事情があるようだと悟る。
イズハはそれ以上、質問するのを辞めた。
過去の詮索は失礼だろう。
そして、イズハにとって気まずい状況が起こる。
食堂に野田と2人きりなのだ。
思わず顔に手を当てて、心の中で嘆いていると、野田がメモを掲げる。
『 一緒にお昼どうだい?』
と、書かれていた。
イズハはメモを受け取る。
「ぜひ」
と、お誘いを了承する。
野田を知る良い機会だ。
『君は、大日本帝国海軍をどう思う?』
「最初の佐世保鎮守府もそうでしたが、まだまだ体制が甘いと思います」
忘れたくても忘れられない出来事だった。
着任早々、佐世保鎮守府存続の演習に身を投じたからだ。
有本総司令官の口ぶりだと、まだまだああいう連中を把握し切れていないと感じだ。
『艦娘をどう思う?』
「艦娘は兵器。ですが、私は一人の人間として彼女達と共に戦って行きたいと思います」
野田は笑みを浮かべたと思うと、次に渡された紙に表情を曇らせる。
『報告書を見たけど、レ級を倒したのは君だろ?』
イズハは誤魔化そうとしたがもう遅い。
野田と目が合っていた。
しまった........。
と、イズハは反省する。
「馬鹿馬鹿しい........。人間が深海棲艦を倒せると思いますか?」
イズハは咳払いをしながら、差し障りのない御託を並べる。
『隠さなくてもいい。君をどうこうしようって訳じゃない』
イズハは野田が見せてきた紙を見て、全て理解した。
この人は最初から知っている。
つまり、イズハが敵かどうかを試しているに過ぎないと。
「はぁ........どこから話したもんかな........」
イズハは頭をボリボリと掻く。
野田は一体何者なのか........。