これは、舞鶴鎮守府襲撃事件の後の出来事である。
大本営総司令室において、野田と那智は有本総司令官から辞令を下された。
「野田提督を佐世保鎮守府に!?」
那智は驚きの声を上げる。
野田は話すことが出来ないが、優秀な指揮官であると誇りに思っているからだ。
「野田提督が話せない........からですか!大本営には必要ない........と!!」
『あの』事件の後で、大本営から遠ざけるばかりか、よりにもよって問題視されている佐世保鎮守府に送られるという事は左遷と言っているようなものだった。
那智は当然、反発する。
野田は那智の肩に手を置き、首を横に振る。
「提督........」
那智は、野田の屈託のない笑顔を観て、受け入れざるを得ない。
「有.....本.....総司....令官.....佐世保.....鎮守府.....へ.....着.....任し.....ます....」
潰れた声帯にもかかわらず、言葉を続ける。
野田は、咳き込みながらも有本に対して異動の申し入れを引き受けた。
「野田大佐。彼を頼む」
野田はコクリと頷いて、総司令室を後にする。
イズハは前の世界の事を織り交ぜながら野田に説明する。
自身が死なない化け物であることもだ。
野田は最初は驚いた様子だったが、イズハの真剣な眼差しに嘘ではないと悟る。
「........これが以上です」
『なるほど。敵ではないか』
イズハは深い溜め息をつく。
ここまで、心を鷲掴みにされた状態で話すのは久しぶりだったからだ。
やはり、只者ではない。
「それで、貴方は一体何者なんですか?」
イズハの問いに、野田は鼻で笑う。
『いずれ話す。今は佐世保鎮守府の軍備強化が先だ』
「分かりました........」
イズハはがっかりしたように、肩を落とす。
新体制となった佐世保鎮守府は、新たな艦娘達を迎え、軍備強化を確実に済ませて行くのだった。
「ふぅ........」
イズハは、上着を脱いで、執務室の椅子に腰掛ける。
「お疲れですね。司令」
イズハの手元に淹れたてのコーヒーを差し出す。
「ああ。ありがとう」
イズハは不知火からコーヒーを受け取り、一口すすると一息つく。
「ところで不知火、野田大佐ってどんな人なんだ?」
本人から聞けない以上、他から情報を集めるしかない。
信頼はしているものの、どうしても野田を信用できないからだ。
何か裏があるのではないかと勘ぐっている。
当の本人である野田は、イズハが想像しているよりも深く考えてはいない。
その事をイズハは知らないため、無理もないだろう。
「野田大佐ですか........。大本営に所属していたという事しか存じ上げません」
「だよな........」
「すみません........」
「気にするな。一体何者なんだろうな........」
考えれば考えるほど、野田の謎が深まるばかりだ。
とある鎮守府において。
「司令官。手紙が届いたよ」
「ありがとう、響。差出人は誰だい?」
青年は椅子に腰掛けたまま、響に差出人を尋ねる。
「佐世保鎮守府の野田大佐からだよ」
「野田さんから?読んでくれ」
青年は手紙の内容を聞き、深く椅子に腰掛ける。
「佐世保鎮守府の軍備強化は上々........。これなら安心だ」
新設されたばかりの佐世保鎮守府の軍備強化は大きな戦力となり得る。
青年は安心したように微笑む。
「軍備強化されたってことは........」
「『奴ら』も動き出すだろうね。後は待つだけだ」
青年が言う『奴ら』とは一体何なのか........。
佐世保鎮守府、再始動!