早朝の佐世保鎮守府において、イズハは煙草を吸い終え、食堂へ向かうと賑やかな声が響き渡る。
「大所帯になったな........」
佐世保鎮守府が軍備強化され、艦娘が増えた。
賑やかになるのも仕方ない。
暁、電、雷、響、叢雲、秋雲、青葉、皐月、陽炎、不知火、時雨、夕立、阿武隈、時津風、雪風、浜風、黒潮、天龍、龍田、高雄、熊野、鈴谷、那智、あきつ丸、伊401、まるゆ、加賀、瑞鶴、翔鶴、龍驤、祥鳳、長門、陸奥、夕張
総勢34名。
本当に大所帯になったものだ。
「あら、今日は遅いのね」
割烹着姿の叢雲がイズハの食事を盛り付ける。
「おはよう。今日の配膳当番は駆逐艦か........」
「不服かしら?」
「とんでもない。味わって食べるさ」
「それならいいのよ」
軽い冗談を済ませて、トレーに乗せた食事を運び一番奥の席に着く。
提督や艦娘の中でも提督代理を務める艦娘が座る席である。
イズハの食事だけは、全てが大盛りだ。
最初は嫌がらせかと思ったが、指揮官たる者精をつけるべし。
と、叢雲なりの気遣いであると知り、イズハは毎朝大盛りの朝ごはんを食している。
しかし、元々朝ごはんを滅多に食べないイズハにとっては、早朝のトレーニングでもある。
食トレだ。
「司令官殿は、今日も大盛りでありますな........」
黒の軍帽を被り、黒の軍服に身を包む色白の少女は、イズハのトレーを覗き込む。
少女の名前は特種船丙型 揚陸艦あきつ丸。
主に艦娘達の訓練を任せている。
「艦隊を指揮する指揮官だからな。これくらい食わんとな」
長門型1番艦戦艦長門。
提督代理を任せており、主に駆逐艦の訓練を担当している。
(毎朝大盛りを食べる俺の身になってくれよ........)
と、イズハは心の中で思った。
「でも、食べ過ぎは良くないんじゃない?」
長門型2番艦戦艦 陸奥。
長門と同じく、提督代理を任せており、資材の管理を担当している。
(陸奥の言う通りだ。食いすぎは良くないよな)
「大丈夫です。司令は他の司令とは違ってふんぞり返ってるだけではないので」
不知火は割烹着姿のまま、誇らしげな表情を浮かべる。
(不知火........そこは陸奥に便乗してくれよ........。何故、誇らしげにするんだ?)
イズハは落胆する。
その光景を見て、野田は笑みを零す。
佐世保鎮守府は艦娘と提督の仲が良いからだ。
それにしても、人が多いな。
雑談で盛り上がる者もいれば、黙って食事を済ませている者もいる。
賑やかな事はいい事だが........。
「班を作るのはどうだろうか?」
野田の秘書艦である那智がイズハに提案を持ちかける。
「毎朝、こうも大人数では、炊事担当も大変だろう」
那智の言う通りだ。
「そうするべきなんだろうが........」
(班を作るのが得策........。日も浅いし、変な人間関係を構築されてもな)
イズハが危惧している事は、班編成をする事によって連携が乱れる事だ。
学校のように下らないイジメ等に発展すれば、実力があったとしても命を落とすきっかけになりかねない。
(とは言っても、俺が面倒なだけなんだが........)
「お味噌汁のおかわり出来たのです!」
電が大きな鍋を運んで来る。
「こっちにも頼む」
長門が手を挙げる。
「はいなのです!」
電は大きな鍋を持ち直して、イズハ達の席に持って行く。
(班を決めるとしたら........。)
イズハは視界を奪われる。
「あわわわわわ!!」
電の慌てふためく声。
「誰か雑巾を持って来てくれ!」
と、長門の指示が飛び交う。
何が起きたのかと言うと、電は大きな鍋を持って来たのだが、つまづいて大きな鍋は宙を舞った。
奇跡的に考え事をしているイズハの頭に被さったのだった。
煮え立った味噌汁。
白の軍服は味噌汁が染み込み茶色に。
鍋を取り、普通なら大激怒。
だが、イズハは清々しいくらいの笑顔を浮かべていた。
(よし。班を作るか)
イズハはそう固く決心した。
イズハは、味噌汁を被ってしまったため、シャワーを浴びるため、脱衣所において軍服を脱ぐ。
(さて、班を決めるにしても、どう編成しようか)
イズハは、ドアの陰から何やら気配を捉え、ナイフを放つ。
「うわッ!?か、カメラが……!」
イズハはドアを開けると、項垂れている桃色の髪を後ろで結っている少女がカメラを片手に涙を浮かべている。
青葉
「何も壊すことないじゃないですか!!」
「あ、ああ。すまん」
(あれ?何で俺が謝ってんだ?)
彼女の名前は、青葉型 1番艦 重巡洋艦 青葉。
いつも、カメラを持ち歩いていて、噂話に目がない。
新聞記事として、勝手に掲示板に載せるため、色々な鎮守府や支部をたら回されて、佐世保鎮守府へと着任した。
「カメラは弁償する。全く、盗撮とはいただけないな」
イズハは青葉に対して、注意を促す。
「盗撮とは人聞きが悪いこと仰らないで下さいよ〜。これを見てください!」
青葉は懐から数十枚の写真。
艦娘達のあられもない姿ばかり。
当然イズハは、
「没収だ」
そう言って、青葉から写真を取り上げる。
これを高値で取り引きする輩がいないとは限らないからだ。
艦隊を預かる指揮官として、当然といえば当然だ。
「そんな殺生な〜!」
「この写真に映る艦娘達から聴取して、君を軍法会議にかけてもいいんだな?」
イズハだからこそ、このやり取りで済んでいるが、他の鎮守府であれば、笑って済ませられない事である。
「分かりました……」
青葉は落ち込んだ様子で、脱衣場を後にする。
「全く…」
イズハはシャワーを浴び終えた後、執務室に戻り、本日の業務を片付ける。
「青葉か…」
イズハは青葉が撮った写真を一枚一枚確認する。
その写真には、和気あいあいとしている艦娘達の姿やあられもない姿が写っていた。
イズハは目を瞑る。
「イズハ二等兵、こっち見てください!」
女性隊員の声にイズハが振り向くと、シャッター音が鳴る。
「ほら、フォード少尉も!」
イズハの隣にいた親友のフォードも写真を撮られる。
「アーレント一等兵、また君か」
フォードは呆れたようにして、頭を抱える。
女性隊員の名は、アーレント一等兵。
情報に特化した隊員で、いつも首からカメラを下げている。
「全く、俺たちの写真を取ってどうするんだ?」
イズハが問いかける。
「さぁ?どうでしょうね〜」
アーレントは、含みのある言い方をして、とぼける。
「まぁ、ほどほどにな……」
それが、アーレントを見た最後の日だった。
彼女は、知るべきではない真実まで辿り着いてしまい、口封じのために殺害された。
どうしても、アーレントと青葉を重ねてしまうのだ。
イズハが考え事をしていると、執務室の扉が開く。
「司令、野田提督がお呼びです」
不知火がイズハに声をかける。
「分かった、今行く。そうだ不知火、提出ようの資料に目を通しておいてくれ」
「分かりました」
イズハはそう言い残し、野田の元へと向かった。
イズハは完成した資料を手に取ると、写真が散らばる。
「写真?」
不知火は一枚の写真を手に取ると、不知火の寝顔の写真だった。
だらしなく、頬を緩ませて眠っている。
不知火は恥ずかしさが込み上げて来て、顔を手で覆う。
「司令の……バカ」
イズハは野田とともに、班決めで頭を悩ませていた。
艦娘達の班を決める事は、野田も賛同している。
「艦娘達に聞いて、決めるのはどうでしょうか?」
『それだと、仲の良い子達で固まってしまわないだろうか?』
「そうですね……。艦娘達はそれぞれ資料では知っていますが、内面までは把握し切れていませんからね」
イズハの言う通り、艦娘は冷酷無比な兵器などではない。
一人の人間として見ていることを考慮すれば、提督達の意見だけで、勝手に決めるわけにもいかない。
かと言って、互いの秘書艦に聞いたとして、性格を考えれば、有力な意見を得ること事が出来るとは限らない。
「内情に詳しい……艦娘……」
イズハと野田は顔を見合わせる。
一人だけいた。
「お呼びでしょうか?司令官!」
青葉が執務室に馳せ参じる。
「青葉、君は艦娘の内情に詳しいだろ?」
「ええ、まぁ、一応?」
イズハは班を決めるたての算段を伝える。
青葉は条件付きでその要求に応じる。
写真を売らせてほしいことと、新聞を掲示板に定期的に掲示する権限だ。
「じゃあ、頼んだぞ」
イズハは青葉の要求を呑む。
青葉は駆け足で執務室を後にした。
『いいのかい?今は戦時中だ。仮に艦娘が轟沈すれば、写真は辛いものになりかねないよ?』
野田の言う通りだ。
写真は思い出として残る。
思い出を大切にするのは構わない。
しかし、それがいずれしがらみとなって、自身に降り掛かる可能性はある。
「良いんですよ。確かに大佐の言う通りかもしれませんが、彼女達が存在していた理由にはなるでしょう。いずれ、この戦争が終われば、彼女達も陽のあたる場所へと行くじゃないですか」
イズハは艦娘達の今後まで考えていた。
それが、提督として、彼女達、艦娘にしてあげられる唯一の償いだ。
野田はクスリと笑う。
(やっぱり、君は面白いな)
イズハは執務室に戻ると、顔面を真っ赤にしている不知火に寝顔の写真を突きつけられる。
「司令、どういう事か説明していただけますか?」
「不知火……、それはそのー……」
イズハは誤解を解くために、2時間ほど時間を有するのだった。
イズハ、大ピンチ!?