執務室へと深海棲艦二隻を招き入れ、話を聞く事にした。
ただし、総司令官である有本が到着してからだ。
勝手な判断をする訳にはいかない。
「イツマデ待タセル気ダ?」
戦艦棲姫は退屈そうに、ソファーで足を伸ばす。
「今、大日本帝国海軍の総司令官が来る。それまで待ってくれ」
イズハがそう言うと、戦艦棲姫は足を組む。
「話ガ、マトマルナラ、待トウ」
すると、不知火が執務室へと入る。
「司令。有本総司令官がいらっしゃいました」
不知火が執務室の扉を開くと、有本と秘書艦の大和が入室する。
大和は身構えるが、有本は脱帽し、ソファーに腰掛ける。
「ワシは大日本帝国海軍総司令官の有本じゃ。話は部下から聞いたが、話とはなんじゃ?」
「単刀直入二言オウ。停戦協定ヲ結ビニ来タ」
「ほう?横須賀鎮守府といい、舞鶴鎮守府も襲撃しておいて…何を企んでいる?」
有本の目が据わる。
戦艦棲姫は溜め息を零し、隣に座っている深海棲艦に話し掛ける。
「重巡棲姫。ドウスル?」
「ダカラ、停戦ナンテ、無理ダト言ッタ」
重巡棲姫と呼ばれた深海棲艦は、顔を顰める。
イズハは、有本に耳打ちする。
「総司令。本当に敵意がないのではないでしょうか?」
「うむ…」
有本は思考を巡らせる。
深海棲艦が停戦を結ぶ事に何のメリットがあるのだろうか。
しかし、深海棲艦の侵略の目的が分からない今、それを見極める必要がある。
「停戦するとして、お前達に何の得がある?」
「得カ。静かに暮ラセルナラ、我々ニットッテハイイ」
「侵略の目的は?」
「侵略?貴様達ガ仕掛ケテ来タカラダ」
有本は考えを改める。
そもそも深海棲艦との戦いは、20年前に民間船が轟沈した事から始まった。
深海棲艦達は、自身が暮らす海域を侵略されたと勘違いした?
それとも…。
有本の頭に何か黒い影が過る。
「では、我々が停戦協定を結んだとして、お前たちが裏切るとも限らんだろう?」
「ソウナルヨナ。コレデドウダ?」
戦艦棲姫は、1枚の地図を有本に渡す。
「これは…?」
有本は目を疑った。
戦艦棲姫が渡したのは、深海棲艦達の潜伏先だった。
大日本帝国海軍にとって、喉から手が出るほど欲しい代物だ。
「裏切ッタ場合、ソコヲ攻撃スルトイイ」
「何故これを渡す?我々が今にもお前たちを葬りに行くぞ」
「ソレハナイナ」
「何故、そう言い切れる?」
「7年クライ前ダッタカ…」
戦艦棲姫は、致命傷を負った時に、一人の海兵に救われた。
「何故、助ケル?敵ダゾ?」
「怪我してるなら、敵味方も関係ないだろ」
青年は、戦艦棲姫の傷を包帯で縛り、手当する。
「確かに…深海棲艦は俺たちにとって、敵だろう…でもな」
青年は、手当を終えて、戦艦棲姫に言い放つ。
「手を差し伸べる事まで拒んだら、そこにあるのは憎しみだけしか残らない。どんな形でもいい。それが静かな…平和な海になるならそれでいいんだ」
「フッ…変ワッテルナ、オマエ」
「戦争が終わって生きていたら、どこかで会おうな」
その時の表情を戦艦棲姫は、忘れられなかった。
あの眩しいくらいの笑顔を。
青年は身に付けていたペンダントを戦艦棲姫に渡し、名も名乗らずに立ち去った。
戦艦棲姫はそれから、深海棲艦の戦力を二分し、戦い続けた。
深海棲艦の中には、戦いを望まない者もいた。
そして、轟沈した艦娘達の記憶を持った者もいるとの事だ。
戦艦棲姫は、無益に戦火を拡大する深海棲艦達と戦いを繰り広げた。
横須賀鎮守府と舞鶴鎮守府の襲撃の件は、それが原因だと言う。
その戦いも終わり、停戦協定を結びに来たという訳だった。
「ソレデ?停戦協定ノ件ハドウスル?」
「停戦協定を結ぼう」
有本が手を差し出すと、戦艦棲姫はその手を握る。
「ソウダ、コレヲ返シテ置イテクレ」
戦艦棲姫は、銀色の何の変哲もないペンダントを有本に渡し、海へと帰って行った。
有本はそのペンダントの持ち主が誰なのかすぐに分かった。
野田は、そのペンダントを見るなり、軍帽を深く被る。
「さてと。ワシも帰るとするかの」
有本は、今後の方針を伝えた後、大本営へと帰還する。
そして、大本営の近くにある、墓へと立ち寄った。
波切と書かれた墓の前で、脱帽しペンダントを供える。
「結果は違えど……お主の望みは叶ったのう」
有本は静かに手を合わせて拝む。
枯れ果てたはずの涙が流れ落ちた。
無事に停戦協定が。
第2章 開幕。