イズハは……。
俺は、指揮する予定の艦娘達が待つ教室へと向かった。
流石は横須賀鎮守府と肩を並べる鎮守府だ。
設備だけ見れば、佐世保鎮守府とは比べ物にならない。
在籍する提督達には、教鞭を取る場が与えられている。
時間割も定められていて、それぞれの艦隊の教室もある。
そうする事によって、提督達は日々、知識を多く蓄えなければならない。
なるほど…。
学ぶべき事は沢山あるな。
俺自身、経験だけは積んでるつもりだが、海戦経験なんてほとんどない。
いや、ないに等しいか。
研修とはいえ、やるべき事はやらせてもらう。
とは言ったものの…。
俺は用意された教室へと足を踏み入れるのだった。
教室へと足を踏み入れたイズハを待っていたのは、駆逐艦が5名。
五月雨、涼風、大潮、満潮、荒潮
だった。
佐世保鎮守府には、在籍していない艦娘であるため、事前に渡された資料に頼るしかない。
「佐世保鎮守府所属のイズハ少佐だ。一週間という短い期間ではあるが、よろしく」
イズハが軽い挨拶を済ませると一同は起立し、それぞれ挨拶する。
「五月雨っていいます! よろしくお願いします」
白露型6番艦、五月雨。
長い青髪で真っ直ぐな青色の瞳に、肩出しの白のセーラー服。
いかにも真面目そうな印象を受ける。
「ちわ! 涼風だよ!」
白露型10番艦、涼風。
長い深色の青髪を結ったおさげに青色の瞳、五月雨と同じセーラー服。
五月雨と同型艦というだけのことはあり、姉妹のようだ。
「駆逐艦、大潮です〜!」
朝潮型2番艦、大潮。
薄紫の髪を結ったショートツインテールに、スカートを半袖ワイシャツに固定している。
元気があって何よりだ。
「満潮よ。よろしく」
朝潮型3番艦、満潮。
栗色の髪をお団子にして結っており、大潮と同じ服装だ。
どことなく、霞の雰囲気に似た者がある。
「私、荒潮よ」
朝潮型4番艦、荒潮。
長い茶髪を靡かせ、大潮と同じ服装。
妙に大人びた感じだ。
「改めてよろしく。では、早速講義を始めたいところだがいくつか質問させてくれ」
イズハがいくつかの質問を問いかける。
資料で彼女達については把握しているが、資料なんてものは、あくまで判断材料にしかならない。
ひいきという訳では無いが、そういった目線で評価されている場合があるため、イズハは自身の目で確かめる必要があった。
イズハの頭の中では、どのような訓練をするか、ある程度の構想は出来上がっている。
実際に話さなければ分からないこともある、構想を改める必要があるのだ。
イズハは今後に必要な質問を始める。
戦術、役割等。
「戦場を経験した者はいるか?」
イズハの言葉に、艦娘達は顔を見合わせ、誰も手を挙げない。
挙げる訳がない。
資料の通りであれば、誰も戦場を経験していないのだ。
現在、呉鎮守府では駆逐艦の育成に力を入れている。
停戦になった事で、演習しか経験していない。
「もし、戦場に出たならば、君達はどの程度までやれると思う?」
「や、やってみなくては分からないですけど、役に立つために訓練しています! 最後までやり抜けます!」
五月雨は、自信なさげではあったが、はっきりと言い切った。
その言葉に他の艦娘達も頷く。
「例え、1人になったとしてもか?」
「え?」
「君達がもし、戦場で1人に取り残されたとしても出来るか?」
「聞き捨てならないわね。呉鎮守府は、横須賀鎮守府に並ぶ実力があるわ。そもそも1人にならないし、深海棲艦だって倒せるのよ」
満潮がイズハを睨み付ける。
イズハには呉鎮守府を馬鹿にした訳ではなかったのだが、満潮にとっては例え話でも、侮辱されていると感じていた。
「では満潮。もし、倒せない深海棲艦がいたらどうする?」
「戦術的撤退。やりようならいくらでもあるわ!」
満潮が机を叩き、さらにイズハを睨み付ける。
「さっきから何が言いたいわけ? 演習だってこなしてる。訓練通りにやれば、負けることはない」
「そうだな。満潮の言う通りだ」
イズハが肯定すると、満潮はそっぽを向く。
「訓練通りにやれればな」
その言葉に満潮が反応する。
「だいたい分かった。君達の事が」
イズハは写しを取っていた資料、講義資料などを綺麗に折りたたむ。
「これは必要ないな」
イズハは溜め息を漏らす。
「あ、あの…講義やらないんですか?」
五月雨がイズハに質問する。
「ん? やらないよ。今日はこれで終わりだ」
「はぁ!? あんた提督でしょ!? 講義も出来ないわけ?」
満潮が反発すると、イズハは資料を手元にある鞄にしまう。
イズハは、まだまだ知識が浅い。
しかし、それを補うだけの経験がある。
あくまで必要最低限の講義くらいは出来る。
「はっきり言おう、君達は講義を受ける資格はない」
イズハの言葉に満潮が反論しようとするが遮られる。
「演習? 講義? 今の君達の心意気では、何をやったって無駄だ。訓練なんて、戦場で生き残るための基礎知識に過ぎないからな」
イズハは言葉を続ける。
「君達を無能とまで言うつもりはないが、戦場を経験した事もない奴が戦場を語るな」
戦場はまさに生と死の瀬戸際だ。
現状に満足し立ち止まっている、今の艦娘達の心意気では、窮地に追い込まれた後、何も対処できないのは、はっきりと目に見えている。
当たり前の事だが、演習は戦場とは違う。
予想外の出来事が起こりうる。
有り得ない話ではない。
しかし、彼女達はその違いが全くと言っていいほど分かっていない。
「明日、午前8時より演習を行う。時間厳守だ。日頃訓練をしているなら、それ相応の成果が出るはずだな?」
イズハが満潮に目をやる。
「いいわ、やってやろうじゃない!!」
イズハは教室を後にして、研修生に用意された執務室へと足を運び、佐世保鎮守府に電話をかける。
「三春か? 俺だ。明日、連れて来て欲しい奴がいる」
波乱の呉鎮守府研修開始ーー。