しかし、理想とは裏腹に、現実が待っている。
演習当日。
五月雨、涼風、大潮、満潮、荒潮が演習場で整列していた。
「では、演習を始める。君達の日頃の成果を存分に発揮してもらいたい。作戦は任せる」
イズハがそう指示すると、満潮が声を張り上げる。
「言わなくても、そのつもりよ!!」
「そうか。では演習を開始する」
イズハは三春に頼んでいた演習相手の元へ行く。
「これは演習だ。分かってるな?」
演習相手は、フルフェイスのマスクを被り、コクリと頷く。
それぞれが演習場へ着水する。
五月雨、涼風、大潮、満潮、荒潮の5名は、相手を視認して驚く。
たった一人だからだ。
「ふざけた真似を…。徹底的にやってやる!」
満潮は意気込む。
演習開始のブザーが鳴り響く。
結果は目に見えていた。
開始数分足らずで、残り二隻となってしまった。
五月雨と満潮だ。
「砲撃が効かない!?」
満潮は絶えず砲撃しているつもりだが、全くと言っていいほど、損害を与えている気がしない。
「満潮ちゃん、下がって!」
旗艦である五月雨が、指示するも、満潮はさらに接近する。
「この距離なら……」
視界が遮られた。
顔面を鷲掴みにされ、海面に叩き付けられる。
満潮は中破であるものの、戦闘続行は不可能だ。
最後の抵抗を見せた五月雨も、あっさりと撃破される。
演習が終了する。
演習を終え、5人を集める。
「さて、この中で存分に訓練成果が出た者は?」
イズハが問い掛けるも、誰一人として、手を挙げる者はいない。
「これが今の君達の実力と言うわけだ。君達の演習相手は」
イズハがフルフェイスのマスクを被った演習相手に視線を移すと、フルフェイスを外す。
そこには、青白い肌が顕になった戦艦レ級が姿を現した。
5人は即座に身構える。
停戦中とはいえ、敵だった存在。
身構えるのも当然だ。
「深海棲艦…!!」
満潮が砲塔を構えようとするが、イズハは手で制する。
「彼女は敵じゃない。武器を降ろせ」
イズハが命じるが、満潮は砲塔を向ける。
「こいつは敵なのよ!」
「降ろせ」
イズハが低い声で、満潮を睨み付けると、満潮は臆したように砲塔を降ろす。
「彼女は深海棲艦ではあるが、俺たちの敵じゃない。そもそも敵であるなら、この演習で君達は轟沈している」
イズハは、言葉を続ける。
「今回、君達が戦ったのは、戦艦レ級だ。この中で勝てると思った者は?」
「そんなの勝てる訳ないじゃないッ!!」
満潮が怒鳴ると、イズハは鼻で笑う。
「深海棲艦を倒せる…だったか? これが現実だ」
満潮は揚げ足を取られ、手に装備していた砲塔を投げ捨てて、その場から立ち去ってしまった。
言ったことに対して、揚げ足を取られてしまえば、誰だって腹を立てる。
「満潮ちゃ…」
五月雨が追いかけようとしたが、イズハが遮る。
「放っておけ」
「そんな…酷すぎます!!」
五月雨は怒りの目をイズハに向けると、イズハは頭を掻く。
そして、深い溜め息を零す。
「……分かった」
イズハは反省した。
1週間という短い期間で、彼女達を成長させなければならない。
心を鬼にして冷酷に接していたが、逆効果だったからだ。
慣れないことをするものじゃないと、心からそう思った。
※※※
満潮は部屋に戻るなり、足元にあったゴミ箱を蹴り飛ばす。
八つ当たりと、イズハへ対する怒りだった。
呉鎮守府を見下された挙げ句、揚げ足まで取られたのだ。
心地よいものではない。
実績があると、秋山から知らせれていたため、少なからず期待はしていたものの、イズハの態度に心底うんざりした。
「わたしだって……!」
イズハに言われた事を思うと、怒りが込み上げて来る。
唇を噛み締めると、涙が零れ落ちていた。
コンコン。
というドアをノックする音が聞こえて、満潮は涙を擦る。
ドアが開くと、イズハが入室する。
「何しに来たのよ…!」
満潮が、机の上に置いていた缶箱をイズハに投げ付ける。
当てるつもりはなかった。
しかし、缶箱はイズハの鼻に直撃する。
鼻からは血が流れる。
当たり所が悪かった。
「すまなかった。……ただそれだけだ」
イズハは頭を下げて、部屋を後にした。
「な、何なのよ…」
満潮は机に置いていた写真立てに目をやる。
そこには、照れ臭そうにそっぽを向いている満潮と、満面の笑みを浮かべている提督の姿があった。
「三谷司令官…」
知らずうちの失敗ほど、恐ろしいものはない。