あの日の事を…。
「ちょっと…また待機ってどういうことよ!」
納得のいかない様子で、机を強く叩き、苦笑いを浮かべている青年提督に詰め寄る。
「待機だって、立派な任務だぞ?」
彼の名は、三谷架(みやかける)。
1週間後には、海軍士官学校を卒業する。
なぜ、候補生である彼が前線の指揮を任せられているのかというと、実戦経験を積ませるためだ。
既に何人かの候補生は、実戦で結果を残している。
こうして選ばれたのも、将来を期待されているからである。
「それに今回の任務は、今までよりも厳しいものになる。もしかしたら失敗だってするかもしれない…」
「三谷司令が指揮するなら…負けるはずがないっ!!」
三谷は頭を掻きながら、満潮に真剣な表情で話す。
「俺だって完璧な司令官じゃない…。もしもがあるのが戦場なんだ」
「でも…」
満潮は悔しがりながら、下唇を噛み締める。
三谷指令の言っていることが、決して間違ではない。
しかし、満潮にとっては必要されていないのではないかと、自分はこの艦隊に必要ないのではないかと。
不安で仕方がなかった。
わがままを突き通しても、今回の作戦には参加したいのだ。
今回の作戦は、少数精鋭で遂行される、横須賀海域に滞在する深海棲艦の各個撃破である。
そして、三谷が率いる横須賀鎮守府第三機動艦隊は作戦の要でもあり、そこの海域には、訓練中であった満潮達を屠った深海棲艦がいる。
いても立ってもいられるわけがない。
「満潮。ここを…、皆を頼む。信頼してる君だからこそ、
頼みたいんだ」
三谷指令の真剣な眼差しを見て、満潮は頷くことしか出来なかった。
何もかもぶっきらぼうで、素直になれない自分に、面と向かって言ってくれるからこそ、信頼できる。
自分をちゃんと見てくれていると。
「そんな心配そうな顔をするな。必ず戻って来るから」
それが三谷指令を見た最後の姿だった。
嘘つき……。
※※※※※※※
「は……」
寝室ではなく、医務室のベッドだった。
「気が付いたか?」
「何で…わたし…」
「自室で倒れていたそうだ」
イズハは、本を閉じて、ハンカチを差し出す。
「とりあえず、これで涙を拭くといい」
イズハにそう言われて、満潮は自分の頬から流れ落ちていた涙に気付く。
「いらない!」
満潮は、イズハから差し出されたハンカチをはたき落とした。
嫌いな存在から渡されるハンカチで涙なぞ拭きたくないのだ。
「そうか…」
「わたしに優しくしないで!!」
満潮は、流れ出る涙を袖で拭いながら、恨めしいほど睨みを効かせる。
イズハは何も言わずに、静かに部屋を後にした。
イズハは悔いる。
自分自身の行いを。