イズハ提督が着任しました。   作:DELUHI

35 / 42
満潮はイズハから、ある手紙を。
そこに書かれていたのは…


生きる意味

「失礼するぞ」

 

 イズハはドアをノックして、満潮の部屋に入ると、身構えていた。

 

「何しに来たの?」

 

「演習に戻って来てくれないか?」

 

「ふん! 死んでもお断りよ… 」

 

「……」

 

 イズハは足元に目をやると、写真立てが落ちていた。

 

 満潮が身構えた時に落下したものだ。

 

 その写真立てを拾い上げると、満潮は血相を変えて飛び掛り、イズハから奪う。

 

「触らないで!」

 

「その人が…三谷司令か」

 

「そうよ…あなたより、優秀な指揮官よ! 三谷司令はあなたより…」

 

「俺より優秀な指揮官だよな…」

 

「知ったふうな口を言わないで! 何も知らないくせに! 三谷司令の事も…わたしの事も!」

 

「ああ、知らないさ。だが、君の気持ちは痛いほど分かる…」

 

「何が分かるって言うのよ! わたしがどんな思いで…」

 

「俺だって…失った…。仲間も…妹だって…!」

 

 満潮は言葉を詰まらせる。

 

「わたしは…三谷司令と戦いたかった! なのに…わたしは…」

 

「君を残したのは、君を守りたかったからだ」

 

 イズハは、満潮を見つめる。

 

「どういう意味…?」

 

「大切な人だからこそ…残したんだ!」

 

 イズハは、満潮にくしゃくしゃになった封筒を手渡す。

 

 満潮へ。

 

 と、書かれた封筒だった。

 

「三谷司令の…字だ…」

 

 満潮は、封を切って手紙を読む。

 

【この手紙を読んでいるという事は、俺はこの世にいないだろう。腹を割って話すなら、今回の任務は生き残れるか分からなかった。出撃した皆もそれは、重々承知の上で参加してくれた。君は参加したいと言っていたけれど、俺や他の皆の意志で、君を残す事に決めた。君は、優秀だから劣っているからでは測れない。計り知れない何かが君にはある。君は、俺達の希望だ。だからこそ守りたかった】

 

 満潮の頬からは、涙が伝う。

 

「そんな…勝手なこと…… 」

 

 手紙をくしゃっと潰しながら、最後まで読む。

 

【俺の大切な人だから。今までありがとう】

 

 満潮は膝から崩れ落ち、泣き出してしまった。

 

「三谷司令…ぇ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 満潮の頭の中に、三谷司令と過ごした日々が流れ込んで来る。

 

 満潮。

 

 と呼ぶ声が、何度も何度も木霊する。

 

「どうするかは…君が決めるんだ」

 

 イズハは満潮を一人にして、部屋を後にした。

 

「わたしは…わたしは…!!」

 

 唇を噛み締めた。

 

 

「ウォン…」

 

 イズハは部屋の外で、軍帽を深く被る。

 

「イズハ君」

 

「どうした?」

 

「いえ……今度の作戦、必ず成功させましょうね」

 

 それが、ウォンという女性隊員を見た最後だった。

 

 ウォンがイズハを好きだったということは、後から知った。

 

 イズハは、ウォンがあの時、何を言おうとしていたのかは分からない。

 

 残された文面には、

 

「お慕いしておりました」

 

 と、綴られていた。

 

 イズハは、俯いたまま、廊下を歩いていると、以前掴みかかった提督達に絡まれる。

 

「昨日はよくもやってくれたな…」

 

「覚悟しろよ」

 

 報復だった。

 受けて当然だ。

 

 しかし、イズハは眼中に無かった。

 

 避ける事も可能である拳を顔面に受ける。

 

 イズハは簡単に尻もちをついた。

 

「こいつ…弱っ!」

 

「このまま…」

 

 もう一人の提督が拳を振り上げると、

 

「ふん。暇な提督も居たものね」

 

 目を腫らした満潮が声を発していた。

 

「なんだと…」

 

 提督の調子の良い声のトーンが下がる。

 

「見えないところで、悪口は言える癖に、本人を前にすると言えないわけ?」

 

 満潮の目は涙で腫れていたが、覚悟が宿っていた。

 それも、相手を萎縮させるほどの。

 

「出来損ないのくせに…」

 

 苦し紛れの一言に、満潮は笑い飛ばす。

 

「出来損ないで上等よ。その出来損ないに腰が引けてるって事は、それ以下よね」

 

 満潮は腕を組みながら、提督達を睨む。

 

「お、おい。面倒くさいから行こうぜ」

 

 そそくさと、その場から走り去った。

 

「満潮…?」

 

「早く行くわよ。演習の時間が勿体ないじゃない」

 

 満潮は、そっぽを向きながら、尻もちをついているイズハに手を差し出す。

 

「ああ…」

 

 イズハは満潮の手を握り立ち上がり、演習場へと向かうのだった。

 

 

 呉鎮守府研修最終日。

 

 イズハは壇上において、深々と頭を下げる。

 

「初日に…色々とすまなかった」

 

 イズハが頭を下げるのを見て、満潮以外の艦娘はたじろぐ。

 

「何も出来なかったが、これだけは言わせてくれ」

 

 イズハは、最後になるであろう講義の場において、言葉を続ける。

 

「君達は艦娘である前に兵器だ。だが、艦娘は人間と同じだ」

 

 イズハは変える事ない自分の思いを伝える。

 

「兵器には換えがある。それは君達も同じだろう。嬉しさ、悲しさ、怒り、憎しみ…それぞれの感情が君達にはある」

 

 イズハは静かに言葉を続ける。

 

「それぞれが抱いて来た思い出は一つだ。思い出には換わりがない。それは、一人一人の換えはないという事だ。それだけは忘れないでくれ」

 

 イズハは、咳払いをして、艦娘達に敬礼する。

 

「また、機会があれば…その時には、俺も君達に負けないよう成長する。君達の健闘を祈る」

 

 艦娘達は立ち上がり、五月雨が号令をかける。

 

「イズハ少佐に敬礼!」

 

 それぞれが敬礼するが、満潮はそっぽを向いたまま敬礼する。

 

 イズハは敬礼を終えて、秋山が待つ司令室へと向かった。

 

※※※※※

「苦労をかけてしまったな…イズハ君」

 

「いえ。私もまだまだ未熟だと、思い知らされました。ありがとうございました」

 

「こちらで車を出そう。気を付けて行きたまえ」

 

「はっ!」

 

 イズハは敬礼をして、司令室を後にすると、誰かにぶつかった。

 

「失礼しました…」

 

 イズハと視線が合う。

 背筋が凍り付くほどの悪寒が走る。

 

 防衛本能が滲み出るような感覚に見舞われる。

 

 顔を見ると、黒髪で杖を付いている青年将校が優しく笑いかけた。

 隣にいる白髪の艦娘、響は微動だにしない。

 

「気にするな」

 

「はっ」

 

 イズハが敬礼し、立ち去った。

 

(さっきの人…目が見えてないのか? それにあの響…。響とは雰囲気が…考え過ぎか)

 

「失礼するよ」

 

 青年将校が、秋山の司令室に入ると、秋山は背筋を伸ばして直立する。

 

「そう、畏まらないで下さい。秋山さん」

 

「そんな…今は貴方の方が階級が上ですからね」

 

「ははは、相変わらずですね。あれが噂のイズハ少佐ですか」

 

 青年将校は、ソファーに腰掛け、妙高が差し出した紅茶を啜る。

 

「ええ。優秀な指揮官です」

 

 秋山がイズハを褒めると、青年将校は鼻で笑う。

 

「確かに、彼以外…誰にも心を開かなかった、満潮を立ち直らさせた事は評価しましょう…。あの目は、過去に囚われた者がどういう末路を辿るか、忘れたわけではないでしょう?」

 

 青年将校が薄らと瞼を開くと、秋山の額から汗が流れ落ちる。

 

「今にも消えそうな灯火を消すまいと進み続ける…。まるで…」

 

「その話は良いでしょうッ!! 貴方が語る必要はない!!」

 

 言葉を遮るように、秋山が机を叩き付ける。

 

「そうですね。私はこれで下がります。最後に一つだけ言っておきます。貴方も信用し過ぎない方がいいですよ」

 

「ええ。肝に命じておきます」

 

 青年将校は響とともに、司令室を後にする。

 

「秋山司令。大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが…」

 

 妙高が秋山の青ざめた表情を見て心配する。

 

「大丈夫だ…。全く…思い出したくはないものだ…」

 

 秋山は腰が抜けた状態で、椅子に座った。

 

 

※※※※※

(結局…何も出来なかったな…)

 

 イズハは自身の未熟さを痛感し、迎えが待つ車両へと向かっていた。

 

「イズハ少佐」

 

 イズハは呼び止められ、振り返る。

 

「満潮?」

 

 呼び止めたのは、満潮だった。

 

「あなたの顔を見なくて良いって、何か清々するわ」

 

 悪口を言われたくらいで、動じないイズハであるが、この瞬間ばかりは、胸に刺さるものがった。

 

「なんだ…わざわざ文句を言いに来たのか? まぁ…言われて当然か」

 

 イズハは満潮の言葉を受け止め、肩を落とす。

 

「ふん! …………」

 

 満潮はそっぽを向いて、何かをぼやく。

 

「何か言ったか?」

 

「別に? さっさと帰れば?」

 

「それもそうだな…」

 

 イズハは満潮に敬礼して、車両に乗り込む。

 

 車両が走り出すと同時に、はっきりと満潮が言う。

 

「どうも。……ありがと」

 

 満潮は微笑みながら、憎らしいくらいの青空を仰いだ。

 




イズハ視点で描かれる、SagaStory~シェルタ帝国~。
投稿しました!
お暇がありましたら、覗いて行ってください!
艦これの二次創作を読んでくれる皆様を見て、思う事は一つです!
読者がいてくださって、僕は幸せ者です!
これからも頑張ります!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。