そこに書かれていたのは…
「失礼するぞ」
イズハはドアをノックして、満潮の部屋に入ると、身構えていた。
「何しに来たの?」
「演習に戻って来てくれないか?」
「ふん! 死んでもお断りよ… 」
「……」
イズハは足元に目をやると、写真立てが落ちていた。
満潮が身構えた時に落下したものだ。
その写真立てを拾い上げると、満潮は血相を変えて飛び掛り、イズハから奪う。
「触らないで!」
「その人が…三谷司令か」
「そうよ…あなたより、優秀な指揮官よ! 三谷司令はあなたより…」
「俺より優秀な指揮官だよな…」
「知ったふうな口を言わないで! 何も知らないくせに! 三谷司令の事も…わたしの事も!」
「ああ、知らないさ。だが、君の気持ちは痛いほど分かる…」
「何が分かるって言うのよ! わたしがどんな思いで…」
「俺だって…失った…。仲間も…妹だって…!」
満潮は言葉を詰まらせる。
「わたしは…三谷司令と戦いたかった! なのに…わたしは…」
「君を残したのは、君を守りたかったからだ」
イズハは、満潮を見つめる。
「どういう意味…?」
「大切な人だからこそ…残したんだ!」
イズハは、満潮にくしゃくしゃになった封筒を手渡す。
満潮へ。
と、書かれた封筒だった。
「三谷司令の…字だ…」
満潮は、封を切って手紙を読む。
【この手紙を読んでいるという事は、俺はこの世にいないだろう。腹を割って話すなら、今回の任務は生き残れるか分からなかった。出撃した皆もそれは、重々承知の上で参加してくれた。君は参加したいと言っていたけれど、俺や他の皆の意志で、君を残す事に決めた。君は、優秀だから劣っているからでは測れない。計り知れない何かが君にはある。君は、俺達の希望だ。だからこそ守りたかった】
満潮の頬からは、涙が伝う。
「そんな…勝手なこと…… 」
手紙をくしゃっと潰しながら、最後まで読む。
【俺の大切な人だから。今までありがとう】
満潮は膝から崩れ落ち、泣き出してしまった。
「三谷司令…ぇ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
満潮の頭の中に、三谷司令と過ごした日々が流れ込んで来る。
満潮。
と呼ぶ声が、何度も何度も木霊する。
「どうするかは…君が決めるんだ」
イズハは満潮を一人にして、部屋を後にした。
「わたしは…わたしは…!!」
唇を噛み締めた。
「ウォン…」
イズハは部屋の外で、軍帽を深く被る。
「イズハ君」
「どうした?」
「いえ……今度の作戦、必ず成功させましょうね」
それが、ウォンという女性隊員を見た最後だった。
ウォンがイズハを好きだったということは、後から知った。
イズハは、ウォンがあの時、何を言おうとしていたのかは分からない。
残された文面には、
「お慕いしておりました」
と、綴られていた。
イズハは、俯いたまま、廊下を歩いていると、以前掴みかかった提督達に絡まれる。
「昨日はよくもやってくれたな…」
「覚悟しろよ」
報復だった。
受けて当然だ。
しかし、イズハは眼中に無かった。
避ける事も可能である拳を顔面に受ける。
イズハは簡単に尻もちをついた。
「こいつ…弱っ!」
「このまま…」
もう一人の提督が拳を振り上げると、
「ふん。暇な提督も居たものね」
目を腫らした満潮が声を発していた。
「なんだと…」
提督の調子の良い声のトーンが下がる。
「見えないところで、悪口は言える癖に、本人を前にすると言えないわけ?」
満潮の目は涙で腫れていたが、覚悟が宿っていた。
それも、相手を萎縮させるほどの。
「出来損ないのくせに…」
苦し紛れの一言に、満潮は笑い飛ばす。
「出来損ないで上等よ。その出来損ないに腰が引けてるって事は、それ以下よね」
満潮は腕を組みながら、提督達を睨む。
「お、おい。面倒くさいから行こうぜ」
そそくさと、その場から走り去った。
「満潮…?」
「早く行くわよ。演習の時間が勿体ないじゃない」
満潮は、そっぽを向きながら、尻もちをついているイズハに手を差し出す。
「ああ…」
イズハは満潮の手を握り立ち上がり、演習場へと向かうのだった。
呉鎮守府研修最終日。
イズハは壇上において、深々と頭を下げる。
「初日に…色々とすまなかった」
イズハが頭を下げるのを見て、満潮以外の艦娘はたじろぐ。
「何も出来なかったが、これだけは言わせてくれ」
イズハは、最後になるであろう講義の場において、言葉を続ける。
「君達は艦娘である前に兵器だ。だが、艦娘は人間と同じだ」
イズハは変える事ない自分の思いを伝える。
「兵器には換えがある。それは君達も同じだろう。嬉しさ、悲しさ、怒り、憎しみ…それぞれの感情が君達にはある」
イズハは静かに言葉を続ける。
「それぞれが抱いて来た思い出は一つだ。思い出には換わりがない。それは、一人一人の換えはないという事だ。それだけは忘れないでくれ」
イズハは、咳払いをして、艦娘達に敬礼する。
「また、機会があれば…その時には、俺も君達に負けないよう成長する。君達の健闘を祈る」
艦娘達は立ち上がり、五月雨が号令をかける。
「イズハ少佐に敬礼!」
それぞれが敬礼するが、満潮はそっぽを向いたまま敬礼する。
イズハは敬礼を終えて、秋山が待つ司令室へと向かった。
※※※※※
「苦労をかけてしまったな…イズハ君」
「いえ。私もまだまだ未熟だと、思い知らされました。ありがとうございました」
「こちらで車を出そう。気を付けて行きたまえ」
「はっ!」
イズハは敬礼をして、司令室を後にすると、誰かにぶつかった。
「失礼しました…」
イズハと視線が合う。
背筋が凍り付くほどの悪寒が走る。
防衛本能が滲み出るような感覚に見舞われる。
顔を見ると、黒髪で杖を付いている青年将校が優しく笑いかけた。
隣にいる白髪の艦娘、響は微動だにしない。
「気にするな」
「はっ」
イズハが敬礼し、立ち去った。
(さっきの人…目が見えてないのか? それにあの響…。響とは雰囲気が…考え過ぎか)
「失礼するよ」
青年将校が、秋山の司令室に入ると、秋山は背筋を伸ばして直立する。
「そう、畏まらないで下さい。秋山さん」
「そんな…今は貴方の方が階級が上ですからね」
「ははは、相変わらずですね。あれが噂のイズハ少佐ですか」
青年将校は、ソファーに腰掛け、妙高が差し出した紅茶を啜る。
「ええ。優秀な指揮官です」
秋山がイズハを褒めると、青年将校は鼻で笑う。
「確かに、彼以外…誰にも心を開かなかった、満潮を立ち直らさせた事は評価しましょう…。あの目は、過去に囚われた者がどういう末路を辿るか、忘れたわけではないでしょう?」
青年将校が薄らと瞼を開くと、秋山の額から汗が流れ落ちる。
「今にも消えそうな灯火を消すまいと進み続ける…。まるで…」
「その話は良いでしょうッ!! 貴方が語る必要はない!!」
言葉を遮るように、秋山が机を叩き付ける。
「そうですね。私はこれで下がります。最後に一つだけ言っておきます。貴方も信用し過ぎない方がいいですよ」
「ええ。肝に命じておきます」
青年将校は響とともに、司令室を後にする。
「秋山司令。大丈夫ですか? 顔色が優れないようですが…」
妙高が秋山の青ざめた表情を見て心配する。
「大丈夫だ…。全く…思い出したくはないものだ…」
秋山は腰が抜けた状態で、椅子に座った。
※※※※※
(結局…何も出来なかったな…)
イズハは自身の未熟さを痛感し、迎えが待つ車両へと向かっていた。
「イズハ少佐」
イズハは呼び止められ、振り返る。
「満潮?」
呼び止めたのは、満潮だった。
「あなたの顔を見なくて良いって、何か清々するわ」
悪口を言われたくらいで、動じないイズハであるが、この瞬間ばかりは、胸に刺さるものがった。
「なんだ…わざわざ文句を言いに来たのか? まぁ…言われて当然か」
イズハは満潮の言葉を受け止め、肩を落とす。
「ふん! …………」
満潮はそっぽを向いて、何かをぼやく。
「何か言ったか?」
「別に? さっさと帰れば?」
「それもそうだな…」
イズハは満潮に敬礼して、車両に乗り込む。
車両が走り出すと同時に、はっきりと満潮が言う。
「どうも。……ありがと」
満潮は微笑みながら、憎らしいくらいの青空を仰いだ。
イズハ視点で描かれる、SagaStory~シェルタ帝国~。
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艦これの二次創作を読んでくれる皆様を見て、思う事は一つです!
読者がいてくださって、僕は幸せ者です!
これからも頑張ります!