イズハは佐世保鎮守府に戻り、野田大佐に報告する。
「自分が想像していたよりも…いえ、未熟であることを痛感させられました」
落ち込んだ様子で、イズハが取り繕うこと無く報告する。
『そうか…。大体の話は聞いてるよ。あの満潮の心を開かせるなんて、凄いじゃないか』
野田大佐は、イズハを素直に褒めるが、イズハは表情を曇らせる。
『難しいだろう? 知るって言うのは』
「はい…」
『自分から手を差し伸べる事も大切なんだ。肝に銘じて置くようにね。暫くはゆっくり休むといい』
「はっ」
野田大佐は立ち上がり、空を仰ぐ。
(あの時…。気付いてあげてれば、結果は変わったかもしれないな)
野田は、あの時の事を鮮明に覚えていた。
語りたくもない、あの時の事を…。
「おかしい……」
佐世保鎮守府所属、木川三春はイズハがいない司令室でぼやく。
「何かあったのかい?」
佐世保鎮守府所属、三浦亮介が何かをぼやいている三春に尋ねる。
「イズハがおかしいのよ」
「というと?」
「うーん…、一昨日の事なんだけど…」
(変わり者っていや、変わり者だけどなぁ…)
と、佐世保鎮守府所属の京谷大は、心の中で思った。
一昨日ーー。
イズハが研修を終えて2日が経過し、三春がいつものように業務を行っていた。
「ひどい顔ね。研修疲れが抜けてないの?」
イズハの目の下には、真っ黒のクマが出来ており、誰がどうも見ても寝ていないと察することが出来る。
それを、三春は冗談混じりに指摘した。
「まぁ…ちょっとな」
イズハはコーヒーを入れて、三春に差し出す。
「ありがとう」
「ところで三春」
「何?」
「業務とかで、不服な事はあるか?」
「え? ないわよ…」
三春はコーヒーを啜り、資料を整理しながら答える。
「そうか。疲れとか溜まってないか?」
「停戦中だし…。業務なんて、舞鶴の頃に比べたら大したことないわよ」
「それもそうか…。邪魔したな」
イズハは、そう言ってコーヒーを片手に司令室を後にした。
三春は、コーヒーを啜り、一拍……。
(あれ…? 今、何か気を遣われた?)
三春は、驚きを顕にする。
普段、イズハから業務以外の事に関して滅多に聞かれる事がないからだ。
イズハから体調を心配されるような事を言われた事ももない。
普段であれば、
「おはよ」
三春が挨拶すれば、
「ん」
と、返すだけで、その後は各々の業務に没頭する。
2人きりの時に雑談はほとんどしない。
※※※※※
「って事があったのよね」
「なるほど…確かに妙だね。イズハは、困った事があれば言ってくれって言ってるから、自分から業務以外の事を聞くなんて珍しい」
亮介は考え込む。
「2人とも、普段雑談とかする?」
「行動を共にする事が多いから、それなりに雑談くらいはするかな」
「あ、俺はあんまし、してない」
三春は、椅子から立ち上がる。
「どこに行くんだい?」
「聞きに行ってくる」
三春は、司令室を後にする。
「イズハ、悩み事でもあるのかな?」
大は亮介に尋ねる。
「どうだろうね? 普段と違う事をしてれば、気になるといえば気になるけどね」
※※※※※
「入るわよー」
三春は、イズハの司令室に入る。
「三春司令。イズハ司令は居ませんよ?」
不知火が机を拭くのを止めて答える。
三春にとっては好都合である。
「不知火。ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「何でしょうか?」
「イズハって、何か悩み事でもあるの?」
三春が一昨日の出来事を説明する。
「そうですね…。いつもと変わらない気がするのですが…」
「というと?」
「6時前には司令室に来ていますし、その後は朝食を取って、喫煙所に行って煙草を吸って…、戻って来たら業務を行い、不知火とお話するくらいですからね」
三春は、一瞬固まったものの、質問を続ける。
「それで?」
「午後には艦娘達の演習を見に行って、夕食を済ませたら、資料を整理して…遅くても午前2時には寝ていますね」
「ちょっと待って…いつも一緒なの?」
「ええ。一応秘書艦ですから、司令の行動は把握してます」
秘書艦といえど、常に行動を共にしている艦娘は中々いないだろう。
「変わった事と言えば、煙草の吸う本数が5本になって…手帳に何かを書き込むようになりましたね」
「そ、そう。ありがとう」
イズハの身に一体何が!?
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