武中は、作戦開始から3日後、孤島に流れ着いているのを発見された。
奇跡的に生き延びた武中を待っていたのは、誹謗中傷と嘲笑の嵐だった。
横須賀鎮守府海域深海棲艦殲滅作戦の責任追及のために、軍法会議にかけられた。
「先程から申している通り、我々、護衛艦外ヶ丘は、第1艦隊の砲撃によって轟沈させられたのです!!」
武中は、左顔面を包帯で巻き、折れた右腕を吊るした状態で出席し、大日本帝国海軍の上層部が集まった、軍法会議の場で必死に訴えかける。
「そのような事実はない! 貴様、責任逃れもいい加減にしないか!!」
作戦を指揮していた中将が、武中を叱責する。
「責任逃れをしているのは、どちらか!」
武中が声を張り上げ、壇上を叩く。
武中が言っている事は紛れもない真実。
しかし、上層部は全くと言っていいほど、聞き入れてはくれなかった。
「貴様が指揮する護衛艦は、通信を遮断し、我々の作戦を妨害したのだ!」
「何を仰いますか! 我々、護衛艦外ヶ丘は、第4艦隊の通信途絶後、情報を得るために前進したのです! それを第1艦隊が砲撃して来たんですよッ!!」
武中の訴えは、届く事はなく、
「貴様の指揮能力が劣っていたのではないか? いたずらに艦を危険に晒し、兵を死なせたのだ!!」
と、無情な言葉が帰って来る。
絶えず、人格を否定する言葉が武中に浴びせられる。
武中はとうとう堪忍袋の緒が切れた。
軍法会議の場で、上層部の誰もが驚きを顕にした。
「ふざけんじゃねぇッッッ!!」
武中の怒号が軍法会議の場に響き渡り、静まり返る。
「貴様言葉を慎め…」
「うるせぇ…ッくそジジィッ!!!」
「なん…!?」
言葉を遮り。武中は今にも殺しにかかりそうな殺意を纏った視線を上層部へ向ける。
「俺達は深海棲艦を倒すために、命を懸けたんだ…それを…味方の砲撃で死なせたのは、てめぇらだッ!!」
武中は、吐血しながら怒鳴り散らす。
感情を剥き出しにしたまま。
「第4艦隊が全滅したのも、てめぇらの企みだろ!? あ!? てめぇらにとって俺達は何だ!? 俺達の命を何だと思ってやがる…!」
武中は更に声を張り上げる。
「ふんぞり返ってるためだけの椅子を守ってる訳じゃねぇんだぞ! クソ野郎共め!!」
武中は無惨にも散った仲間達を代表して、上層部へ侮辱の言葉をぶつける。
「我らに対する侮辱だぞッ!! 降格で済むと思うなッ!!」
「降格…? はっ、責任追及だろうが! 甘ったれた事言ってんじゃねぇぞ! 処刑でも何でもして貰おうじゃねぇか!!」
「貴様…ッ!!」
すると、中年の少将が手を挙げ、場を制す。
他の上層部の人間とは、明らかに違う雰囲気を漂わせている。
「ここで騒いでも死んだ同胞達の命が還って来るわけでもあるまい」
上層部達は、彼の言葉を聞いて急に大人しくなる。
「責任を彼に押し付けたしても、世間は我々の失態を責める。それは、我々も望むものでもない」
中年の少将の名は、
大本営屈指の名将である。
「武中君。君は実に優秀な指揮官の一人だ。積み重ねて来た君の栄光に免じて、君が望むなら、責任追及を不問とするが?」
高野上はそう提案する。
好き勝手言った軍法会議の場で、先程までの無礼を不問にすると言うのだ。
武中にとっては、千載一遇の好機。
「その必要はねぇよ…過去の栄光なんてどうだっていい…! こんなクソみたいな大日本帝国軍で俺は命を懸けるつもりはねぇ!!」
武中は、高野上を睨み付けると、他の幹部達が反発する。
「高野上殿が、与えて下さったチャンスをドブに捨てる気か貴様!!」
「立場をわきまえんか!!」
「知らねぇよ、そんなもんッ!!」
武中が悪態をつくも、高野上は微笑む。
「残念だ。では、判決を…」
高野上が下した判決は。
※※※※※
武中は、辞める事よりも重い罰を受けた。
軍属無期剥奪。
軍を辞める事を許されず、了承を得るまで指揮権限の剥奪。
定期的に支給される物資のみで生活。
施設から外出する事を禁じられた。
武中は、軍法会議において、軍服を脱ぎ捨てて後にした。
大本営の廊下を歩いていると、軍刀を携えた女性将校に呼び止められる。
「武中さん!」
「話しかけんじゃねぇ…」
「しかし…貴方の指揮は」
「同情なんていらねぇんだよッ!!」
武中は壁を殴り付ける。
「武中さん、今の上層部は何かがおかしい。貴方の力を貸して欲しいのです」
女性将校の影から、男性将校が姿を現す。
「下らねぇ…。相手するだけ無駄だ無駄。もう会うこともねぇだろうさ。あばよ」
武中は、吐き捨てるようにそう言い放ち、大本営を後にした。
後に、彼はこう呼ばれた。
部下殺しの提督…と。
こういう軍規はないですが、大目に見てください。
読んで頂いてありがとうございます!