武中は睡魔に…。
宿毛湾泊地ーー。
宿毛湾泊地を任された、武中正義は、執務室でぐったりとした様子で定期的に行なわれるリモート会議に出席する。
リモート会議の話題は、舞鶴鎮守府防衛戦のことで持ち切りだ。
完全に徹夜明けの武中は、上の空だ。
迫り来る睡魔に勝てる訳もなく、目を開けたまま熟睡するという荒業で話を聞いたフリをしていた。
画面外で秘書艦である瑞鶴がリモート会議の内容を控えているのが、唯一の救いと言えよう。
各鎮守府が抱える支部長達が、口々に意見を述べる。
「今回の防衛戦は、もっとやりようがあったのではないか?」
「我々の支部も助力して良かったのだがな」
「新設されたばかりの佐世保鎮守府がこうも結果を出すとは、新提督も中々に優秀ですな」
「戦力的に見れば、他の鎮守府よりも劣っている。手柄を横取りしたに過ぎんよ。それに、元帥殿が気にかけている事もある。優遇されて当然だろう」
舞鶴鎮守府防衛戦の話から、矛先が佐世保鎮守府へと向けられる。
着任したばかりの提督に先立って手柄を上げられたとなれば、佐世保鎮守府以外の鎮守府を支えている支部長達とって、面白くない結果だ。
(防衛戦が成功したんだし…、何のためのリモート会議なんだか…)
瑞鶴は呆れたような表情で、内容を控えるのを止めた。
愚痴を零すだけのリモート会議なぞ、記録に残す価値すらないと判断した。
武中が睡魔で意識が朦朧していて、良かったと心から思う。
「くっだらねぇ会議なんて、とっとと終わりにしようぜ?」
武中がそう口にすると、支部長達は一斉に口を噤む。
(起きてたのね…)
瑞鶴は、スっとした気分になる。
「防衛戦に参加してねぇ奴らが揃いも揃って馬鹿言ってんじゃねぇよ」
「ま、まぁ、防衛戦は終わった事だ。今後の体制について話し合おうじゃないか」
支部長の一人が話を切り替える。
武中から怒号が飛ぶと、画面越しのハウリングが凄まじい。
支部長の判断は正しかった。
現に、武中は腹に力込めていたのだ。
そもそも、愚痴なんて零さなければいい話という事である。
今後の体制について、意見を交わしたが、結局現状維持に行き着いた。
リモート会議が本当に意味があるのかと、つくづく思う、武中だった。
※※※※※
「くっだらねぇ、話で終わったな。リモート会議なんて廃止にしちまえ」
武中は執務室の椅子に足を上げて、ふんぞり返る。
文句の一つでも言いたくなる。
「決まりなんだから、仕方ないでしょ?」
瑞鶴は、肩を竦めながら答える。
「そう言えば、駆逐艦が配備されるって聞いた?」
「ああ? 駆逐艦だと?」
瑞鶴に言われ、驚くのも無理はない。
武中が配属された宿毛湾泊地は、航空戦力を重視した基地だ。
5年経った今になって、新たな戦力を増強の話が出る意味が分からないのだ。
「私も驚いたけど、舞鶴鎮守府襲撃もあった事だし、仕方ないんじゃない?」
「それは…そうだけどよ」
武中が珍しく表情を曇らせる。
「どうしたの?」
「ちょっと…な」
「もしかして、まだあの時の事を気にしてるの?」
武中は眉を引くつかせる。
「びっくりさせるものだと、思ってれば気が楽じゃない?」
「それもそうだけどよ…」
瑞鶴が言っている、あの時の事とは、瑞鶴と武中が初めて会った日の事である。
武中は、部下殺しの異名を持つ提督。
そして、鋭い眼光に鍛え抜かれた肉体。
暴力なんて当たり前と言わんばかりの風貌。
瑞鶴や他の艦娘は、当時、息を呑んだ。
悪口や虐めを気にしない武中であるが、初対面の印象について、少し傷付いたのだ。
「第一、貴方が本当に恐ろしい人だったら、気軽に話さないでしょ?」
「瑞鶴……」
武中は、鼻で笑う。
「それもそうだな…気にするだけ、馬鹿ってもんだな!」
外見の割に、気にするところ気にする。