奇跡はあるのだろうか。
5 奇跡
涙で目を腫らした不知火は、執務室へとやってきた。
一枚の紙をイズハに提出する。
解体申請だった。
「不知火........」
「私は........もう満足です........生きてくれ........その言葉で十分です........。だから、このまま終わらせてください........」
不知火は涙を流し、イズハに懇願する。
当然、イズハに止める権利はあるが、彼女を苦しめるだけだった。
苦渋の決断を迫られる。
「........」
すると、執務室の扉が勢いよく開く。
「イズハ........!急いで工廠に来て!!」
叢雲が息を切らしながら叫ぶ。
イズハは不知火を連れて、工廠へと向かった。
「えーと。ただいま?」
不知火は顔に手を当てて、涙を零す。
そこには、陽炎の姿があった。
「何があったんだ?」
イズハが尋ねる。
「大本営から送られてきた資料の通りにやったら........陽炎が........」
叢雲はイズハに資料を見せる。
イズハが資料を確認すると、そこには艦娘の建造方法が記されていた。
だが、建造方法が特殊だった。
資材の他に轟沈した艦娘の遺留品を混ぜて建造すると以前の記憶を持ったまま建造されるらしい。
「奇跡........か」
イズハは一息つく。
安心して、腰が抜けそうだった。
不知火は陽炎に抱きついて、大泣きする。
感動の再会だ。
「それにしても........」
イズハは資料を今一度確認すると、差出人は不明だった。
感謝してもしきれない。
イズハはそう思った。
???。
薄暗い一室で、軍刀を立て掛けた椅子に腰掛ける青年が深い溜め息をついていた。
「良いのかい?あの情報を提供して」
薄色の青髪を靡かせた少女が、青年に話し掛ける。
「構わないさ。まだ研究途中だしね」
「君の気まぐれにも困ったものだ」
少女は腕を組みながら、深い溜め息を吐く。
この青年は、佐世保鎮守府へ今回の情報を流した。
研究結果が欲しかったからだ。
成功したのは、奇跡に近いと判断する。
「別に構わないだろ?響」
青年がそう言うと、陽の光が窓から差し込み、少女の顔が映る。
響は呆れた表情だった。
最高軍事機密を気になったからという理由で、佐世保鎮守府に渡したのだ。
「さて。これからどうなるかな」
青年は深く椅子に腰掛けた。
佐世保鎮守府では、イズハが資料を元に建造していた。
しかし、戻って来た艦娘は、秋雲と青葉だけだった。
轟沈した艦娘は戻って来ない。
これが現実。
戻って来た艦娘達は奇跡に等しい。
イズハ達は、戻って来なかった艦娘達の石碑を立てて弔った。
ここから。
イズハが率いる佐世保鎮守府が始動する。
情報を提供した者は何者なのか。
奇跡はあった。
ここから、佐世保鎮守府が始動する。