咲 オーラスの向こう側 作:影法師
私は咲の膝の上に、のんびりと頭を預けていた。
私としてはさっさと帰って勉強したいのだが、お姉ちゃんである咲が離さなかったのと、その咲が本が読みたいという事でこうなっていた。
「…川のせせらぎが綺麗ですね」
「でも陰の方が綺麗だよ?」
「……それは月じゃないですか?」
思わず現実逃避をした言葉を拾われて、私は諦めて眼を閉じた。
そのまま本を読みつつ、私の事を丁寧に撫でてくれる咲を少しだけ褒めようとすると…。
「…咲…って、陰さん。どうして此処に居るんですか?」
咲の幼馴染のきゃ…きゅ…京太郎…?が居た。
自分で遊ぶ友達以外は名前を余り覚えられない私にとって、彼の名前を覚えるのは難しいのだ。
麻雀で例えるなら…初心者に点計算教えるくらいには。
「なんで私が呼び捨てで陰がさん付けなの?私、陰のお姉さんなんだけど?」
「双子で自分が姉って名乗らないのって少し珍しくないか?」
「…双子は二人が姉を取り合うのを期待してましたか?」
「……少しだけ」
それは漫画の読みすぎ…なんて言えてしまえば良いのだけど、私は特にいう気もなくそのまま眼を瞑る。
「…って、そうじゃないんだよ咲!今日のレディースランチがとても美味そうでさ!一緒に来てくれねぇか?」
「……陰が…」
「…?私はのんびり此処で川を眺めてるから…」
「…分かった。すぐに帰ってくるからね!」
そう言って走っていく咲を見て、私は思わずほくそ笑む。
最近どころか此処十数年浮いた話も聞かなかったお姉ちゃん達だ。これくらいは許されるだろう。
…私にも浮いた話、出るのかな。
「…」
しかし暇だ。
咲の為に川を眺めるなんて言った私だけど、実際川なんてとっくに見飽きている。
だからこそさっき通っていた可愛い女の子を薄めで見て…て……
「…あの」
「あ…その、先程膝枕させられていたので、もしかして体調が悪いのかと思いまして…だけど、保健室まで運ぶには時間がなかったから、せめて良くなるまで膝枕をしたらって思いまして…」
「えっと…私は体調悪くないので大丈夫です」
そういうと彼女は少し寂しそうにしてから、私の頭をどかしてくれた。
私は少し伸びをしつつ、彼女の姿を見て…声が出そうになった。
(…この人、さっき私が横目に見てた可愛い女の子じゃないですか!しかも同学年だったんですね…)
「…あの、このまま外ってのも駄目だと思いますし…私と一緒に行きませんか?」
「……いえ、咲…お姉ちゃんがすぐきますの…」
「一緒に、今すぐ行きましょう!」
…なんでこの人、こんなに強引なんだろう…?
そう思いながらも、私は彼女の腕の力に勝てず、ずるずると引きずられていくのでした。
☆☆☆
「…優希。部長はどうしました?」
「んー…?人数も集まらないから寝るって言ってたじぇ。そして私は学食でタコスを買いに行くのだぁ!」
「はい。行ってらっしゃい」
そう言って走っていく元気な女の子を眺めつつ、私はゆっくりと目の前にあるものを触る。
…やっぱり、麻雀牌だ。
私は幾つかの牌を混ぜてから取り、それを適当に並べる。
「…麻雀、やった事あるんですか?」
「うん。あんまり好きじゃないんだけどね…」
「………それは…どうしてですか?」
{1}{1}{1}{2}{3}{4}{5}{6}{7}{8}{9}{9}{9}
適当に引いた牌を彼女に見せる。
その牌は、沢山の索子牌が集まっていた。
「…偶然だと思いますよね…?だけど、私にとってはこれが普通なんです」
「……そんなオカルトありえません。偶々、全部偶々…もしくは嘘です」
「…全部本当ですよ」
この能力がなければ、私はきっと…楽しく麻雀をやれていたのだろう。
そう思いながらも、私は自分でバラバラにした牌を丁寧に並べ始めた。