咲 オーラスの向こう側   作:影法師

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第六局

「あれ?今日は和とお姉ちゃんがいないんですね」

「そうねー。今日はまこのとこの手伝いに行ってもらってるのよ」

 

そういいながら私と学生議員長が雀卓に座り、小さく笑い合う。

そのままサシの勝負をしながら人を待つのも、また一興だなーなんて考えながら学生議員長を飛ばし、私は小さくため息を吐いた。

 

「いつになったら私は弱くなるんですかねー」

「私としてはこのまま貴女を先鋒にして全部飛ばしてもらうでも良いんだけどねー」

「あらあら。そんなことをしたら私は降りようとして振り込んでしまうかもしれないです」

 

そういいながら苦笑すれば、言うと思ったという表情で私を見つめる。

 

「わかってるわよ。だから貴女に先に見せたの」

「私としては補欠でも良いんですが……そうじゃいけないんですよね?」

「えぇ。まこがお店が忙しくて部活に出れない……そういってたわ」

「そうですか……私が生まれていなきゃ5人で出来ていたかもしれないですね……きっと、もっと強かったと思いますよ」

「貴女が入るより強いの?」

「何万局も見ていた人間が、弱いと思いますか?」

 

私がそういいながら首を傾げれば、彼女もそのとおりねと笑う。

あの眼鏡さんも別に弱くはない。寧ろ強い部類だと思うのだが……何故あんな風に逃げているのだろう。

 

「…そうね。もし貴女がまこにアドバイスをしようとするなら、なんてする?」

「何故“防御にしか”使わないのか、ですかね。例えば私だったら3か6巡目くらいに自分の手牌と相手の捨て牌みて残りの牌計算しますよ…それに」

「それに?」

 

大会のルールを見ながら、私は小さく笑みを浮かべる。

 

「この大会、守れる人間を一人持っておくのが一番強いと思います」

「へぇ?うちだと?」

「学生議会長と私、そして眼鏡さんです」

「あら?和だって逃げれるんじゃないかしら?」

「今の和にそれは期待してないですよ。もしするなら……そうですね。完全にデジタル打ちが出来るくらいになったら、でしょうか」

 

そういいながら私は小さく息を吐く。

…もし私がこの中からやるんだったら……そうだなぁ。

 

「先鋒元気少女、次鋒咲、中堅和、副将学生議員長って所でしょうか」

「あら、理由を教えてくれる?」

「……まずですが、先鋒次鋒中堅の三人はどうでも良いんです。何処で全力で稼いでもらうかどうかって所ですから」

「どこで?」

「例えば元気少女、和、咲だったら先行逃げ切りに、さっきの形だったらバランス型に、そして咲、和元気少女だったら…」

「薄い所を一気に稼ぐ…といった感じかしら」

「そうです。そして私と学生議員長は中堅までの得点を整理しながらどうやって立ち回るかを決めます」

 

そう。私達は中堅までで終わらせるという野暮な事をさせない。

副将を咲にして±0で守りもというのも考えたが、どう考えてもしっくりこない。寧ろ警戒されるだろう。

 

「学生議員長の悪待ちは攻めに使えますし、そもそも守りだって一級です。というか、普通に強いです」

「あら、嬉しい事を言うわね」

「“貴女がこの学校の麻雀部の部長だから”ですよ。唯麻雀が好きだからって理由で三年間続けられる程軟じゃないのはわかりますから」

 

私が笑いながら呟くと、彼女は何回か口を開こうとして……そして、目線を逸らした。

 

 

「……どうするの。それで、実は唯好きってだけで弱かったら」

「何か目標がある貴女が、弱いわけないじゃないですか」

「………っ!わかったわよ!やるわよ副将!」

「えぇ。久部長にやってもらうのが一番安心できますから」

「……いつか、刺されるわよ…」

 

何か呟きながら私の方を見て紙に名前を書いていく部長を見つつ、私は小さく笑みを浮かべる。

 

「それで!、もし私が失敗したら大将の貴女が責任取ってくれるのよね?」

「勿論。……ああそれと…」

「……?」

「ちょっと和、借りてもいいですか?」

 

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「…君が、和の友達か?」

「はい。いつも娘さんにお世話になっています。本日は“勉強会”をしようと思っていまして」

「……そうか」

「娘さんは東京の進学校に進めるくらい賢いんですよね。私の姉もそうで、実はお姉さんから“色々”教えてもらってるんです」

「…そうか。ゆっくりしていくといい」

 

という会話もあったものの、私達は金曜日と土日を使って麻雀を鍛える事となった。

 

「という事で勉強しましょうか」

「は、はい!」

「とりあえず実力を見たいのでサシ……いえ、ネトマでもしますか」

「わ、分かりました!」

 

そういいながらパソコンの前に新しく椅子を用意し、ゆっくりと私を隣に座らせた。

のどっちと書かれたアカウントと、いつも持っているのか自然に抱きしめていたペンギンの人形をを見ながら、私達は世間話を続ける。

 

「そういえばなんでオカルトがあり得ない―!とか言うんです?」

「…多分、父親の影響だと思います」

「お父さんの?」

「そうです。その…暗闇だとお化けとかいそうじゃないですか…」

「へー。和にもそんな可愛い時期があったんだねー」

「え!?そ、そんな?!」

 

何に対してのそんななのかはわからないが、私は話の続きを聞くべく耳を傾ける。

私が喋ることがないとわかったのかどこか頬を膨らませた和が、ゆっくりと話を再開した。

 

「それで、その時にお父さんが言ってくれたんです。そんなのはオカルト。あり得ないって」

「成程」

「だから麻雀もやめなさいって。麻雀は運の要素が強いって……」

「まぁ否定はしませんけ……のど」

 

名前を呼ぶことは、出来なかった。

それほどまでに鋭い視線が、捨てられた牌と手牌を五秒ほど見つめ……そして、

 

「……」

 

今までと同じ、けれどどこか違う打ち筋。

序盤だから?それとも洗牌されているから?小さく首を傾げながらも、私は小さく彼女の動きを見て……そして…

 

「……」

 

小さく、笑みを浮かべる。

…現実で打っていたとは違う、全てが正しい即断即決。判断であれば並みのプロは超えているし、速度だけなら私よりも速い。

…それが、どうしようもなく面白い。もっと、もっと見たくなった。

 

「……ふぅ。…?陰さん?」

「和」

「は、はい!」

「和の事、もっと好きになった」

「へ!?ちょちょ、何を言って……」

 

だから、と小さく呟いてから……私はゆっくりと笑みを浮かべた。

 

「もっと強くなる方法、知りたくない?」

 

-「和達にね?私の知り合いのプロをぶつけたの」

-「もし私の予想が正しければ、あの子は壁にぶつかってショックを受けると思う。そして、それを直す為の合宿だったんだけど……」

-「良いわよ。和は貴女に任せるわ。代わりに……私の予想以上の強さに仕立て上げなさいよ?」

 

「…強くなる、方法ですか?確かに現実の方だとミスが多いですが……」

「そうじゃありません」

「……?」

「もし、もし和がお父さんじゃなくて、オカルト()を信じてくれるなら……和は、もっと強くなれます」

「…陰さんを…」

「そう。だから、聞かせて下さい……もし、勝たなければいけない理由があって、麻雀に挑んでるのなら……」

 

-オカルト(宮永陰)を信じて。

 


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