咲 オーラスの向こう側 作:影法師
家に戻って来てから、私は自分の部屋で一人になった。
少しだけ考えを纏めつつも、それでも今日起きた出来事を思い出してしまう。
「…照お姉ちゃんが麻雀かぁ…」
毎日泣きながら私達に勝負を挑んできたあの照が麻雀をやっていた。
…それが少しだけ面白くて、私はつい微笑んでしまった。
それと同時に、携帯から音が鳴り出す。
照と咲は何故か携帯を持ってないから二人の可能性は放棄するが…それだとお母さんぐらいしか掛かってこない事になる。
「…って、本当にそうなんだ。もしもし?」
『……ねぇ。お母さん、本当にこれ電話出来て…』
『出来てるって言ってるでしょ?というか…ああもう。もしもし陰?』
「もしもし?どうしたの突然?」
急にお母さんが連絡する事はないし、私からすれば向こうで照の声が聞こえるのが不思議でしょうがないのだけど。
その問いに答えようとしたのか、お母さんの溜め息が聞こえた後に…
『照がね?陰に連絡を入れたいから携帯が欲しいって言って…』
「私に?一体どうして?」
『それは本人に聞いてほしいんだけど…という訳で照、変わるわよ?』
『ま、待って!まだ心の準備が出来てない…!』
「…何か忙しそうだし、また今度で…」
『それも待って!い、今!今出るから!』
そう言いながら何かを準備するようにドタドタと向こうの方で足音が聞こえる。
私達は溜め息を吐きながら、照が来るのを待っていた。
『…えっと、久しぶりだね。陰』
「そうだね。咲お姉ちゃんと会わなかった日以来かな?」
『あれは違くて…えっと…その…』
「……」
『兎も角あれは違くて、別に会いたくなかった訳じゃ…』
「その言葉を言うのは私に対してじゃなくて、咲お姉ちゃんに対してですよね?照さん」
『…うん。ごめんなさい』
「それで?今日はどのようなご用件で?」
しょんぼりとした声を聴きながらも、私はゆっくりと照に対して質問をする。
『…お姉ちゃん、約束を果たす為に頑張ってるよ』
「え?」
約束…何かありましたっけ?
記憶をフル回転させながらも、私はその事がバレない様にする為に相槌をする。
「…あ、ああ。そうですよね、はい。順調ですか?」
『うん。頑張って世界一位になる為に練習してるよ。その為に白糸台にも入ったし』
「白糸台…ああ、強豪校でしたっけ?」
『うん。陰はどうなの?やっぱり長野だと風越?それとも龍門渕?』
「…?清澄だけど」
『………』
「………」
『えっ!?高校になったら麻雀するって約束したよね!?』
「…したっけ?」
思わず声が漏れてしまい、私はしまったという表情をする。
勿論照がそれに気付かない筈もなく、私の携帯の方から意地悪な声が聞こえてきた。
『…へぇ。約束覚えてないんだ?じゃああの約束も覚えてないんだ?』
「…ど、どんな約束でしょう?」
『世界一位になったらお嫁さんになる。私に一度でも勝てたらお姉ちゃん達が満足するまでご奉仕するって』
「………っ?!ご奉仕!?」
昔の自分そんな事言ってたっけ?
そう思いながらも子供の頃を思い返せば…ああ、確かに言った気がする。
「…ご奉仕狙いだったの?」
『そんな訳ない。一緒に家族になる為にお嫁さんも狙ってる』
「………」
『清澄に麻雀部ってあるの?無いなら陰だけでも引っ越して…』
「…咲は?」
『…まだ、勇気が出ないから。今でも±0を崩す自信が…ない』
照がそう言うのと同時に、照の後ろから溜め息が聞こえる。
『…何、お母さん』
『照がそんな事で悩んでたんだなぁ…って。あんまり家族の事知らなかったって、そう思っただけよ』
「…」
『陰。そっちの寂しがりなお姉ちゃんは任せたわよ。私はこっちのお姉ちゃんを何とかするから』
「…分かりました」
『…お母さんって呼んでくれないの?』
「私にとってお母さんはどちらでも無いですから」
そう言って私は電話を切って、そしてベッドに寝転がる。
明日咲に麻雀をやるのか話をしようと、そう思いながら目を瞑った。